オマジナイ
入学まで、いつもの様に日向ちゃんと遊んで、たまに友達と遊びに行ったりと、嫌なことを忘れて楽しんでいた。
日向ちゃん尊し。
そして入学式。
退屈な式が終わり、教室へ行きショートホームルーム。
同じクラスには、小学校の時に仲が良かった友人がおり一安心。軽い自己紹介をして、これからの予定やらなんやらの話をきいて解散。
うちで待っているであろう日向ちゃん元へ急がねば! 今日も、卒業式の様に一緒に2家族でお食事をするのだ。
「それじゃ、お先に」
「玲奈ちゃん、またね~」
友人に別れを告げて、急ぎ足で昇降口に向かう。
うちのクラスが早かったのか、まだ他の生徒の姿が見当たらない。
さて、日向ちゃんに早く会うために、軽く走って帰りますか。
そう思い昇降口から出ようとしたら―――――――
「「「「高木!」」」」
何やら、聞き覚えのある複数の声に呼び止められた。
振り返ると、軽く肩で息をしている4人の男子の姿。
あらやだ、振られた野郎の方々ではないですか。
残念ながら彼らのあだ名は、今の所これで固定だ。
「「「「僕(俺)はまだ諦めないから(な)!」」」」
何でこんなにも、私に執着するのかが分からない。
しかし、その諦めない心に敬意を評して、
「ごめんなさい!」
頭を下げて、すぐさま90度ターンを決めてそのままGO!
ちなみに、このやりとりを遅れてやって来たクラスメイト達が見ており、初日から学校を賑わせるニュースになっていることを、この時の私は知らない。
今度は4人同時に粘着宣言をされるという珍事件が起きたが、何事もなく家に着くことができた。
走ったことで乱れた息を、整えてから玄関の扉を開ける。
「「「「「おかえりなさい」」」」」
ちょうど待っていたかの様に、出迎えてくれる両親と日向ちゃん家族。
「ただいま!」
出迎えてくれた日向ちゃんも制服姿だった。
どうやら、先程まで保育園に行ってきていたらしい。
お店に予約をしているとのことで、時間も無く折角なのだからと制服のまま食べに行くことに。食べに行くのはステーキのお店らしく、新品の制服が汚れないかが心配だ。
場所は歩いて10分少々の所にあるお店で、何度か行ったことあるが個人経営で美味しくて評判の所。
私は、日向ちゃんのプニプニすべすべお手々を握って、2人で仲良く向かう。
こんな日がいつまでも続けばいいなと、そう思わずにはいられない。
お店に到着して、今度は入学式のお話を日向ちゃんからせがまれて話す私。
「やっぱり、何かと式の校長先生のお話は長くてねぇ。あくびを噛み締めるのが大変だった」
「こうちょう先生のお話は、こもり歌なんですか?」
「「「「「っぶ」」」」」
日向ちゃんの何気ない言葉に、全員で吹き出してしまった。
「そっそうね、ある意味子守唄かもしれないわね」
「日向ちゃんは、なかなかセンスがあるな」
といううちのお母さんとお父さん。
ひとしきり笑って、落ち着いてきた所に日向ちゃんのお母さんが話しかけてきた。
「そう言えば、玲奈ちゃんは新しいクラスメイトとは上手くやっていけそう?」
「んーーー。まだ初日なので分からないですが、小学校の時の友達が同じクラスに居るので、寂しい思いはしないで済みそうです」
「なら良かったわ。でも、玲奈ちゃんならきっと直ぐに友達が出来るわよ。なんてたって、4人から告白されるぐらいですもの。クラスの男子が黙ってないわよ」
「……はぁ~~~~~~」
日向ちゃんのお母さんに言われて、つい、昇降口での珍事件を思い出して、溜息を吐いてしまう。
明日も顔を合わせるのだと思うと、なんとも言えない気持ちになってくる。
「どうしたんだい玲奈ちゃん」
突如ため息を付く私を心配してくれる日向ちゃんのお父さん。
「実は、その4人から―――――――」
とまたもや告白紛いな事を4人同時にされたと言ったら、親達に笑われてしまった。
こちらにしてみたら、笑い事ではないのに。
「む~~~~~!」
そして何故だか、日向ちゃんには睨まれる始末……トホホ。
あの4人、許さないからね!
やり場のないこの想いを、心の中でフラれメンズにぶつけておく事にした。
美味しいステーキを食べ終えて、また日向ちゃんと手を繋いで帰る。しかし、こっちを向いてくれないマイエンジェル。
私、何かしたのだろうか…………。
いつの日か、こんな風に少しずつ離れていってしまうのだろうか。
そう思うと、心が締め付けられる様だ。
分かってる。所詮は、叶わぬはずのない恋。
手を握っているはずなのに、この小さな手は遠くに行ってしまいそうだ。
親達の楽しそうな話し声をBGMにして帰宅。
家の前についたら、ようやく日向ちゃんが私の方を向いてくれた。
それだけ嬉しくなってしまうのだから、我ながら現金なものだ。
「れいなおねえちゃん。わたしたいモノがあるので、ひなたのお部屋にきてもらっていいですか?」
とお願いされてしまった。
もちろん二つ返事で行かせてもらいますとも!
ルンルン気分で日向ちゃんに手を引かれ、彼女の部屋に。階段を上り、廊下を少し歩いて扉を開ければ、ひなたと可愛らしい立札が掛かっているお部屋に到着。
扉の向こうには、可愛らしいくまのぬいぐるみが1個と沢山の本が本棚に並べられている。
結構、日向ちゃんは読書家なのだ。
ベットに誘導させられて、端の方へ腰を掛ける。 日向ちゃんはベットの上に登り目線を合わせてきた。
「ひなたおねえちゃん、ご入学おめでとうございます」
頭を下げて、綺麗なお辞儀を披露する日向ちゃん。
本当に、幼いのによくできた子だ。
自分の事のように鼻が高い。
こちらも、それに倣ってお辞儀を返す。
「ありがとうございます」
「今回はですね。特別なプレゼントを用意したので、目をつぶっていてもらってもいいですか?」
となんとも可愛らしいお願いをされてしまった。
あのスイートピー以外にも特別なプレゼントがあるなんて、日向ちゃんラバーとしては胸を高鳴らせて目を瞑る以外の選択肢はない。
「はい」
目を瞑り、合図をする。
一体何をくれるのだろう。
少しドキドキしながら待つ。
「えっとですね。前にれいなおねえちゃんは、ひなたに大好きだよって言ってくれました」
確かにそんなような事を言ったけど、ちょっといい方が違うような。
でも、私が日向ちゃんが大好きな事に変わりはない。
「でも、れいなおねえちゃんはモテモテで、いつかひなたから離れて行ってしまうのではないかと、とても不安になったのです」
いやいや、居なくならないよ!
むしろ私が、日向ちゃんが何処かに行ってしまうのではないと心配な日々を送ってるよ!!!
しかし、日向ちゃんもそう思っていてくれるなんて、嬉しく思う。
「だから、これはオマジナイです」
ッチュ
「ッ!?」
突如唇に触れた柔らかい感触に、目を開けてしまう。
すると、目の前には、柔らかいマシュマロの様な感触が離れて行くのと同時に、目を瞑り離れていく愛おしいお顔が。
「ひっひっひっひな……ひなたちゃ…………」
え、え? ナニ、コレ? ドックリ?
ドッキリ大成功、という立札を持った人が出てくるとかそいうオチ?!
私の心臓がドキドキと破裂しそうなほど鼓動している。
だ、だってキッキッキスをぉぉぉ!
今起こったことに、パニックを起こしている私に、照れながら日向ちゃんは言う。
「プレゼントは、ひなたの初めてキスです。どうでしたか?」
え、どうでしたか?
そんなのは決まっている。
もちろん、
「最高デス!!!!!!!!」
日向ちゃんからキスされた、という事実に顔が、いや体が一瞬で熱くなるのが分かる。
あまりの興奮に……あれぇ目の前がグルグルと――――――――
気が付けば、頭を撫でられている感触がする。
愛おしく、それでいて優しい手つきで撫でられており、とても気持ちがいい。
このまま寝てしまいたい。
って、むしろ今まで寝ていたじゃん、と自分にツッコミを入れて目を開ける。
「んん……」
「あ、れいなおねえちゃん、おきましたか」
目を開けると目の前には、天使の微笑みを浮かべた日向ちゃんの顔があった。
どうやら私は、日向ちゃんに膝枕をされているようだ。
日向ちゃん天使過ぎませんか?
「えっと、あっと……ごめんね? 重たかったでしょ、今退くからね」
「だいじょうぶです。これぐらい、なんともないのです」
慌てて起き上がろうとすると、日向ちゃんに肩を抑えて止められてしまった。
そうすると採れたての果実の様にプリプリな唇が目の前に。
間近で動く可愛らしい唇に目線が、行ってしまう。
あの柔らかいモノが……私の……唇に……。
「日向ちゃん、さっきのは…………」
さっきのはどういう事? なんでキスをしたの? と色々と聞きたいことがあったが、何から言えばいいのか分からない。
今は、先ほどのキスの感触ががフラッシュバックして、頭が茹で上がりそうだ。
心臓も五月蝿いくらいで、飛びさしそう。
「れいなおねえちゃん」
「ひゃい!」
突然呼ばれて、声が裏返ってしまった。
「ひなた、気がついたんです」
「気がついた?」
何に気がついたのだろう。
もしかして遊んでいる時に、スキンシップとして体を触りまくっていることだろうか。
アレは日向ちゃんも喜んでいたしセーフのはず。
「れいなおねえちゃんが告白されるたびに、他の誰かに取られたくないってきもちが強くなるんです」
「……え」
まさか日向ちゃんがそんな事を思っているとは、露ほどにも考えていなかった。
だって、この気持ちは、一生叶わないモノだと思っていのたのだから。
ドクンッドクンッドクンッと私の心臓は期待に高鳴っている。
「れいなおねえちゃんと一緒にいると、いつも楽しくてこころがポカポカして、ずっと一緒にいたいっておもうんです」
「……うん」
「でも、綺麗で優しくていい匂いがするれいなおねえちゃんを、いろんな人がひなたから奪おうとするんです。だから、ひなただけのモノにしたくてオマジナイをしました」
「私も、日向ちゃんがいつか私の元を離れて行ってしまうんじゃないかって、そんな事を考えては、その度に胸が苦しくなってた。私も、ずっと、ずぅーーーと日向ちゃんと一緒に居たい」
「それならなら、ひなたにも、
オマジナイを……くれませんか?」
そう言って目を瞑る日向ちゃん。
私は体を起こして、その頬に手を添える。
まるで吸い寄せられるかの様に、今度は私から、そっとオマジナイをした。
↓カクヨム(元の文)より、手直しを重ねました。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883245197/episodes/1177354054883245203
最初より良くなっているはず・・・・!(願望
続編・・・要望があったら書こうかな(ちらっ
追伸:2017年12月3日 もう1度、推敲しました。




