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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
1月はあこがれの国編。
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ロボ子さん、テンション上がる。

挿絵(By みてみん)

『あの、マスター』

 並んで時代劇の再放送を見ているときに、ロボ子さんは聞いてみた。

『えっち星とは、まだ量子通信で繋がっているんですか?』

「繋がってるよ」

 と、虎徹(こてつ)さん。

「ワープ航路で書類や手紙とか運べるようになったわけだけど、今んとこ一年で一往復しかできないしね。ただ、こっちはちっとも技術革新が進んでなくて、五〇年前と変わらない符丁のやりとりだけど」

『まだマスターが通信してるんですか?』

「いや、通信士官たちが戻ってきて、今は彼らが担当してる。おれよりはまともなやりとりができてるんじゃねーの」

『あの、じゃあですね』

「うん?」

『「長曽禰(ながそね)ロボ子を君は見たか」って送れますか。板額(はんがく)さん宛に』

 虎徹さんは大笑いした。

「なんだそれ、映画のタイトルかい? まあ、無理だな。まず、固有名詞は送れない。特定の相手を指名することはできない。それに、その内容だと送信準備に数時間かかるね。重大な案件でないと通信士に頼みにくいな」

『そうですか』

「なに、どうしたの。板額さんに会いたいの?」

『いえ、忘れてください』

 ロボ子さん本人は忘れることなどできない。

 あの不思議な体験を。

 虎徹さんの『夏への扉』の話に影響されて、この不思議な現象は白猫のはんぺんが起こしているのだとばかり思っていたロボ子さんだったが、えっち星にいるはずの板額さんと会ってしまったことでわからなくなった。

 その時、はんぺんは囲炉裏端で眠っていたのだから。

 そもそも自分は、ほんとうに三六光年を越えたのだろうか。


 ところで、年明けから連続的に襲ってきた「この冬最強の寒波」は、ようやく息切れしてくれたらしい。

 一週間続いた大雪は、やっと小康状態になった。

 ときどきは陽も当たり、除雪も進み、国道以外の道も通れるようになった。

 とはいっても、長曽禰家から自転車を出そうとすると国道まで担いでいかないといけないのだが。

 とにかく買い物に行けるのはうれしい。

 テンションが上がる。

 テンションが上がっているのは、閉ざしていた雨戸を開けることができるようになったのも大きい。雪国の暗い冬の空しか見ることしかできなくても、雨戸に閉ざされている生活よりははるかにマシだ。

『さて、行きますッ!』

 ロボ子さん、ペダルを漕ぎ始めた。

 今日は久々に肉料理を作ろう。

 コーヒーに入れる牛乳も、漬け物や乾き物以外のおつまみも。

 この頃、虎徹さんや宗近(むねちか)さんはパークのレストランで食事を摂ることが多くなったが、秘書型アンドロイドと言い張りつつやはり家事補助アンドロイドである雪月改(ゆきづき・かい)として、それではプライドがうずくのだ。

『あ、二号機さん』

 地元のスーパーに、三号機さんの姿もあった。

『ずっと連絡くれませんでしたね。どうせ、いっしょに買い物に行こうと誘われるのが面倒くさかったのでしょう。意地っ張りです』

『えへへ、お見通しです』

 ロボ子さんは頭をかいた。

『もう言いませんから電話してください。この頃は誰も家に来なくなって、さみしいです』

『編集さんやファンの皆さんも?』

『この雪ではしょうがないのです。マスターはむしろ喜んでますけど。それにしても野菜も面倒くさいほど高い上に、あまりいいのがありませんね』

「私は野菜なんてなくてもいいんだが」

『わあっ、マスター!』

『わあっ、驚いた!』

 突然、背後から清麿(きよまろ)さんが口を挟んできて、ロボ子さんと三号機さんは飛び上がって驚いてしまった。

『車で待っているんじゃなかったのですか、マスター』

「二号機さんが入っていくのが見えたのだ。美少女二人が買い物をしてる姿を見たかったのだ。この豚肉やばくね!この大根、受けるんだけど!とか、さぞかしきゃっきゃうふふしているかと思えば、いたって普通なのだな」

 真面目な顔で言わないでください。

「登場人物の少女の口調が変だったり古かったりすると、読者から馬鹿にされるのだ」

 かといって、ロボ子さんと三号機さんの会話を参考にしたら、とんでもないことになると思います。

「野菜は彩りだけでいいぞ、私の天使。あとは野菜ジュースとサプリで補えばいいのだ」

『現実問題として、そうなります』

 三号機さんが言った。

『一号機さんから聞きましたが、街の方のスーパーでも野菜不足だそうです』

 そういえば、虎徹さんや宗近さんは黙っているが、パークのレストランでも野菜の確保に困って野菜の量を減らしているようだ。

 ロボ子さんでもそれくらい知っている。

 園長秘書の情報力をなめて貰っては困るのだ。


 この大雪は、あらゆることに影響を与えている。


「ああ、もっと雪が降らないかな……」

 だのに清麿さんは、びっくりするほど高値がついた大根を片手にそんなことを言い出すのだ。

『やっとこの間の雪が溶けてきたばかりですよ』

 と、ロボ子さん。

「私が望むのはこんなものじゃない。もっと雪に閉じ込められたいのだ。救いのない閉塞感が欲しいのだ。そうだ、ここだけじゃない。日本中が雪に閉じ込められればいい。そうでなくてはならない。ああ、すばらしい! どうだ、ぐっとこないか、私の天使! ぞくぞくしてこないか、私の天使! わは……」

 清麿さん、そこまで言ってへなへなと崩れ落ちた。

 三号機さんが無慈悲な脳天チョップを叩きこんだのだ。

『高笑いをはじめる予兆があったので、阻止です』

『耽美系だと思ってた三号機さんの家も意外とワイルドです』

『マスターを車に放り込んで来ます。面倒くさいです』

 三号機さん、長身の清麿さんを軽々とお姫様だっこして行ってしまった。

 お客さんも店員さんも呆気にとられている。

 へえ、こんな閉塞感にぐっとくる人もいるのか。

 ロボ子さんは苦笑いをひとつこぼして豚肉をかごに放り込んだ。


 一度の買い物では足りない。

 ロボ子さんは何度も自転車を走らせた。

 補陀落渡海(ふだらくとかい)はキラキラと雪映えに輝いている。

 遠くから聞こえてくる野太いミリタリー・ケイデンスは、雪かきや雪下ろしのボランティアにいそしむ同田貫(どうだぬき)組の宙兵隊たちの声だ。

 この大雪のボランティアで、同田貫組の評判はうなぎ登りだそうで。

 ロボ子さんも、ちょっぴり下品な歌をなぞってみる。

 うふふ……。

 これで冷蔵庫はぱんぱんだ。

 あのでかい図体のふたり相手でも、一週間は持つ。


 テンションあがる。


 夕ご飯は生姜焼き。

 漬け物と干物で充分だと言っていたはずの虎徹さんと宗近さんが、食事室で嬉しそうな声を上げた。やはり我慢してくれていたのだ。

 次に大雪が降ったとしたら、虎徹さんに止められても叱られても買い物に出ないといけないね。

 もちろん自転車じゃあぶないし、歩いてね。

 往復二時間もあれば大丈夫なはずね。

 でも、この間のような大雪はそんなにあるものじゃないそうだし、今年はもう大丈夫かな。


 ご飯のあとは囲炉裏端で三人でトランプ。

 かごには、いっぱいのみかん。

 寝ていたはんぺんがアクビをした。

 あの不思議な体験は――と、ロボ子さんは思った。

 あの夜の海も、板額さんも、雪に閉じ込められたこの家から飛び出してどこかに行きたいよう!という願望が見せた、ただの夢。

 そうなのかな。

 どうなんだろうね、はんぺんさん。


「うえ、また雪かよ」

 うとうとしていたらしい。

 宗近さんの声に目が覚めた。

 夜のニュース。お天気コーナーのアナウンサーが、またしてもあの呪詛の言葉を告げた。

「この週末、今期最強の寒波が日本列島に襲いかかる模様です」

 ロボ子さん、はじめて迎えた冬は呪われている。


 また雨戸は閉ざされ、ロボ子さんは冷蔵庫とにらめっこ。

 遠く清麿さんの高笑いが聞こえてくる。

 しんしんと降る雪はやまない。


■登場人物紹介・アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


ファンシーロボず。

第一世代と第二世代の旧型戦闘アンドロイド。よそのテーマパークで余生を送るはずが、なぜか宇宙船争奪戦に巻き込まれ、ロボ子さんに吹き飛ばされ、村に居座った。現在はパークの従業員。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんが「ロボ子ちゃん」

それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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