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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
補陀落渡海編。
22/161

ロボ子さん、変形する。

挿絵(By みてみん)

ロボ子さん、変形する。

 言うまでもなく。


 ロボ子さんは、モデル雪月改(ゆきづき・かい)二号機。

 高性能のアンドロイドである。

 しかし、今のロボ子さんはアンドロイドというよりも、変形ロボさんとかガンダムさんとか呼ぶ方が相応しい。ほんのちょっと前にはガトリングガンを出せず、恥ずかしさでフリーズしてしまったロボ子さんであるのに。



 ロボ子さんの体から次々と巨大な兵装が現れ、組み立てられいく。

 はじめは近接防御用の機関砲。それも二門。

 さらに長大なレーザー砲。

 それは留まるところを知らない。

「なにおまえ、あんなのまでロボ子さんに内蔵しちゃったの?」

「変だよねえ。なんでかわからないけど、入っちゃったんだよねえ」

 庭石に座ってケラケラ笑っているアホ二人である。

「ロボ子ちゃんの筐体と躯体と動力を数倍にパワーアップしておいたから、あれ全部撃っても平気だぜ。間違いなく、地球最強のアンドロイドさ」

 得意そうな上に、ムチャクチャ嬉しそうな宗近(むねちか)さんである。

「いやあ、ロボ子ちゃんの中身、隅から隅まで覗いちゃった。良かったわー。エロかったわー」

 ドドドド!

 二〇㎜機関砲が宗近さんのすぐ横を薙いでいったが、この変態の笑顔は消えない。いちおう、虎徹(こてつ)さんがロボ子さんの代わりに宗近さんの後頭部を一発はっておいた。

「つかよ、今、組み立て始めてるの、VLS(垂直発射システム)じゃねえか?」

 虎徹さんが言った。

「馬鹿いうなよ。どうすれば、そんなのがロボ子ちゃんの体に入るのさ」

 笑いながら宗近さんが言った。

 だが確かに、それはロボ子さんの体の数百倍はあるVLSに見える。しかも八門二基。

「……」

 そろそろ、宗近さんが無口になってきた。

「あれもない、これもないと補陀落渡海(ふだらくとかい)さんが怒り出すわけだわ。ところで、宗近さん。補陀落渡海さんは主砲第一砲台も存在しないと怒ってましたけども」

「あのな、虎徹さん。あれは二〇センチ連装砲、六〇トンだぞ……?」

 虎徹さんは黙ってロボ子さんを指差した。

 ゴクリとひとつ息を飲み込み、宗近さんはロボ子さんへと視線を向けた。

 ロボ子さんの頭上で、その二〇センチ連装砲そっくりなものが組み立てられはじめている。なにがそっくりって、その巨大さがである。

「なあ、おまえ、いったいなにしてくれたの?」

「わかんない……」

 真っ青な顔で宗近さんが言った。

 城家(じょうけ)専務さんと(ともえ)さんは、腰を抜かしたまま呆然とフルウェポン状態のロボ子さんを見上げている。



「あいつらなにやってるんだ? イリュージョンか?」

 ロボ子さんのフルウェポンへの変形を、山の森の中から双眼鏡で眺めている男がいる。あの印象の薄い男、警視庁公安の男だ。

 探していた宇宙船を見つけたと思ったら、飛んで行ってしまった。

 脱力し、なにもかもが馬鹿らしくなり、ひと晩たってやっとそろそろ帰るかという気になったところでこの騒ぎだ。

「……」

 背後の気配に、男は振り返りながらP230JPを抜いた。

『宇宙船さんですね?』

 銃を向けられた人影は、両手を肩の高さに挙げた。

「アンドロイド?」

『そうです。あなたの要請で派遣されました。あなたの指示に従うよう命令されています』

「遅い。それとおれを宇宙船と呼ぶな。悪趣味だ」

『申し訳ございません』

「もう遅いんだよ。誤認だからとキャンセルしたはずだ。だいたいおれは、一個小隊を出せと言ったんだ。それになんだ、おまえさんのそのファンタジーな姿は」

 そのアンドロイドさんは、剣と槍を装備した中世ファンタジー世界の勇者さんの姿をしているのだ。

『武装せよとのご要望だからと聞かされました』

 無表情が習慣になっているこの男が、さすがに目を剥いた。

「笑えねえよ、どこで笑えばいいんだ。おまえら民間は悪趣味すぎて、上品なおれにはついていけねえよ!」

 男は銃をしまって歩き始めた。

『あの』

「好きにしろ。帰ったら、おまえのマスターに、宇宙船さまが覚悟しておけといっていたと伝えろ、ブリキ野郎」

 男はそのまま去って行った。

 残されたのはファンタジーな勇者さんひとり――だけでは実のところなかった。

 ひょこひょこと灌木や木の陰から小柄な人影が現れ、それは全部で二〇機ほどになった。お伽話に出てきそうなこびとさんのコスプレ……なのかもしれないが、その極悪な顔と手にした斧や棍棒で、小柄な山賊一家さんにしか見えない。

『印象の薄い男だの』

 山賊さんが言った。

『影が薄いだな』

『髪も薄いだな』

『きっと幸も薄いだな』

『で、帰ってええだか?』

『ここまで来て、手ぶらでだか?』

『ここまでって、ここはどこだべ?』

『第二世代、どうなってるだ』

 ちなみに「第二世代」とは、印象の薄い男と話していた勇者さんである。

『宇宙船を、あ、これはさっきの宇宙船氏じゃなくて本物の宇宙船らしいのだが、それを制圧するためだと半笑いの部長に聞かされたのだがな。宇宙船なんてどこにもない。困ったな』

『けっ、リーダー気取りのくせに相変わらず役にたたねえだな、第二世代は』

『第二世代なんて、かっこばっかだ』

『だからわしら第一世代と一緒にテーマパークに売られていくだよ。せつないな、現実は。なあ、自分は有能なつもりの第二世代』

『なあ、結局厄介者扱いの第二世代』

『あ、崩れ落ちた、第二世代』

『第二世代は打たれ弱いだな』

『フリーズすりゃあすむと思っちょる。嘆かわしいだ。ワシらがバリバリやってたころはなあ』

『ああ、またじいさまの昔ばなしが始まっただ』

『これ始まるとバッテリー切れるまで続くんだわ』

『さて、どうすべえ』

『ひとつ、この村を占領するとしようべ』

『いきなり超展開だな!』

『まあ、考えてみるだ。ここにはワシら戦闘ロボが二〇機おる』

『おる』

『おる』

『あれこれ命令してくる人間はおらん』

『おらんな』

『おらんな』

『思い出すだ。人間がやりたがらない汚くて危険な仕事ばかりさせられ、働かされ、働かされ、最後はテーマパーク送りだ。ここら辺で、ワシらも自分の事を考えてもいいだろうべ』

『はあ』

『はあ』

『あの村を見ろ。ワシらに手頃だとは思わんか。ワシらアンドロイドがアンドロイドとして生きられる、ワシらの独立国をつくるだ』

『めんどくせ』

『めんどくせ』

『なにより、おめえのその中二病がめんどくせ』

『おい、中二病はほっとくだ。見ろ、あの村。美少女アンドロイドだらけだぞ!』

『なにっ!』

『マジか!』

『あっ、ほんとうだ。あの村にはなぜか女性型アンドロイドがいっぱいいる。第二世代のぼくのズームアイは、君たちのものよりはるかに高性能だ。見える、見えるぞ!』

『うお、第二世代が元気に復活しただ』

『女が絡むとこれだ』

『日立製作所のフローラⅡ、わが三菱重工のRH202。ウエスギ製作所の如月(きさらぎ)に雪月改もいる。みんなすごい美人だ、RHは置いといて』

『マジか! RHは置いといて』

『なにっ、雪月改だと! RHは置いといて』

 全員、ズームアイを限界にあげて村を観察しはじめた。

『うお、あの眼帯をした雪月改、めんこい!』

『眼帯どころか、顔半分を包帯で覆っている雪月改もいるぞ。来る、すごい来る!』

『なんだおめえ、綾波属性か』

『どういうわけなのか、デンドロビウムのような雪月改もおるな』

『おるな』

『おるな』

『さて。こうしてわしらのリビドーは高まったわけだが』

 斧や棍棒を手に、邪悪な笑いを浮かべる山賊さんたちである。

『いくぞ、ワシらの桃源郷に!』

『ワシらの嫁のもとに! RHは置いといて』

『うおおおお!』

『うおおおお!』

『うおおおお! って。あれ、これはなんの音?』


 きゅるきゅるきゅる。


 山賊さんと勇者さんは空を見上げた。

 次の瞬間、彼らは吹っ飛ばされていた。



「補陀落渡海主砲。弾着、今!」

「二号機さん、迎角修正」

 双眼鏡を手に号令するのは、清麿(きよまろ)さんだ。

『がってんです、三号機のマスターさん!』

「主砲第二射、てーッ!」

『がってん!』

 どぉん!!

 どぉん!!

 二号機さん頭上の二〇センチ連装砲が火を噴いた。

「なにが嫁だ、なにがリビドーだ」

 清麿さんの双眸に憎悪が燃え上がっている。

「一号機さん、貴重な情報をありがとう。私の天使に群がろうとする害虫は見えないうちに処分する。二号機さん、引き続きミサイル垂直発射システム一番二番用意。全ランチ開け。誘導パターンは動体追尾。サルボ!」

『サルボってなんでありますか、砲雷長!』

「ミサイルを全部撃てばよいのだ、二号機さん」

『がってん!』



『ぎゃー! なんなの、なんなの、この攻撃ーー!?』

『実は隠れ自衛隊駐屯地だっただかーー!?』

『ていうか、ワシら悪巧みしただけで、まだなんもしていないだーー!』

『ワシは言ってやったもんじゃ。ワシらがアンドロイドであんたらが人間だと思っていたが違うようじゃわい、と。魂があるのはワシらアンドロイドの方で、あんたらはただの歯車じゃ(くわっ!)とな!』

『じいさま、まだ昔話してただかーー!』



 そして白旗がかかげられた。

 自由への希求とリビドーに溢れたアンドロイドの叛乱は、一〇分かからずに鎮圧されたのである。


 始まりもしないうちに。




挿絵(By みてみん)

極悪顔のファンシーロボず。

■登場人物紹介・アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉(大尉相当)

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。


城家長茂。(じょうけ ながしげ)

地球人。タイラ精密工業技術開発担当専務執行役員。せんむ。

板額さんを開発した。クールキャラを気取っているが、クールになりきれない。


宇宙船氏。

地球人。警視庁公安の警察官。

ゼロ出身のエリートだが、宇宙船にこだわったために「宇宙船」とあだ名をつけられてしまった。本名も設定されていたが、作者にも忘れられてしまう。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんが「ロボ子ちゃん」

それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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