国王夫妻が本気で怒るとどうなるか
私は謁見の間に呼ばれ初めて他の貴族達と同じ場所に立っていた。
今、私1人が父上母上に対峙している。
いつもなら私が座る、玉座から一段下がっただけの次席は当然空席であった。
私は父上である国王陛下と母上である王妃殿下を見上げて心許ない気持ちをグッと堪える。
「アーノルド、これを読め」
父上から直接ではなく宰相から《ドビッシ公爵家の報告書》と書かれたものを渡される。
私は素早く目を通していき特段怪しい事もない事に安心していた。
だがミッシェルについて書かれたところを読むにつれ手の震えと背中を伝う冷汗が止まらなくなっていた。
「なんだ・・・これは・・・」
【調査対象公爵令嬢ミッシェルについて】
娘と称するミッシェルはドビッシ公爵家のご息女では無いと判明した。
また、領地静養が偽装であった事も発覚しその偽りは王家や他の貴族に対して信じがたい侮蔑であるといえるだろう。
詐称であると証明した理由は以下通りである。
ひとつ:代々に渡り全ての公爵家の家系を調べたが、あの髪色とあの瞳は決して生まれる事がないと判明した。
また懸案とされた特効薬についてだが、効果で仮に髪色が変わる事があったとしても瞳の色が変わることはあり得ないと医術委から報告があった。
よってミッシェル嬢はドビッシ公爵の実娘では無いと断定する。
(ミッシェルが公爵家の娘ではないだと?)
父上が熱の篭らない声で聞いて来た。
「読んだか?はてお前は公爵家なら爵位が上だと申したか?もはや公爵家どころかどこの馬の骨とも分からぬ娘だ」
私は何も反論出来なかった。だがそれならここ何日も考えていた事を父上に訴えた。
「父上!それなら、どうかもう一度セリーヌと婚約させてください!そうすればセリーヌは死なずに済むのですよね?」
ここで初めて母上が悲痛な声をあげた。
「何を申すかと思えば・・・お前は侯爵家とセリーヌをどれだけ貶めれば気が済むのですか?お前より遥かに優れた者達だと言うのに!」
父上から諦め混じりの冷徹な声が響く。
「お前という奴は・・・アーノルド・・・駄目だ。お前に王太子の座を渡す訳にはいかぬ・・・お前は責めを負うべきなのだ。分かるな?」
(責めを負う?・・・は、廃嫡・・・なのか?)
「あ・・・わ、私は・・・・・・」
自分の中に次に繋がる言葉が出てこない。父上と母上から私への親愛の情が消えているのをまざまざと肌で感じる。ただそれが恐ろしくて堪らなかった。
「国王陛下、ドビッシ公爵家の皆様が到着しました」
私は宰相の声で辛うじてなんとか立っていられた。
ドビッシ公爵達はスタスタと国王陛下の前に立ち礼をする。
いち早く顔を上げたミッシェルが私を見つめて微笑んでいた。
(偽物・・・私はアレの何処に心を満たされていたのだ・・・)
ドビッシ公爵は満面の笑みで、公爵夫人とケビンはソワソワとミッシェルは恥ずかしそうにはにかんで国王陛下の言葉を待っている。
「ドビッシ公爵。朕に先ず、何か言う事があるのではないか?」
困惑を隠せないでいる公爵は
「はて?国王陛下より本日はめでたいお言葉を賜わるとばかり思っておりましたので」
「そうか・・・朕は確かにドビッシ公爵家へ最後の機会を与えたのだが。誠に残念だよ」
「国王陛下、仰っている意味が分かりません!我が公爵家は陛下の忠臣であります!なぜそのような疑念をお持ちなのか」
父上の視線はドビッシ公爵夫人へ注がれた。
「公爵夫人、其方がミッシェル嬢を産んだのか?」
公爵夫人は当たり前の事をなんで聞くのかと言わんばかりの態度だった。
「親愛なる国王陛下、ミッシェルは正真正銘私の子でございます!」
「ほう、では浮気でもしたのか?公爵家の代々に渡る血筋全てを辿っても赤い瞳の色を持った者は居なかった。例え病気の特効薬だとして髪色の変色はあれど瞳の色までは変える事が出来ないそうだ。さぁ、言い訳を聞こうか」
「いや、あのう・・・これは」
公爵夫人の肩がガタガタと震えている。
王妃殿下が更に追い討ちをかける。
「ドビッシ公爵夫人、あなたは学術院の時からやたらとウィストン侯爵夫人のレアに敵対心を持っていたわね。ウィストン侯爵家の息子は第一補佐官になり娘セリーヌは王太子の婚約者にまでなってしまった。それなのに自身の子はあなたと同じように何一つ敵う事がないからと・・・そんなに不服だったのかしら?まさかこんなに卑怯な手を使ってまで・・・なんたる卑劣極まりない事を」
ドビッシ公爵夫人は苛立ちを隠す事なく畏れ多くも王妃殿下を睨め付けた。
「貴族が養女を迎えるなど当たり前の事ですわ!ミッシェルは私の遠い親戚筋から迎えたのです!何より婚約者がおりながら勝手に婚約破棄した殿下に非はないのでしょうか?」
ビシッ!
国王陛下の持つ宝杖が真っ二つに割れた。
「ドビッシ公爵夫人。其方はどれだけ嘘を重ねれば気が済むのだ!王家が徹底的にミッシェル嬢を調べ上げたのだ!其方の親戚筋にも赤い眼の者は誰一人居なかった!娼館で働く娘を連れて来たことも把握しておるわ!」
ドビッシ公爵家の者達の顔は凍りつき固まった。
冷酷の色を隠さない王妃殿下が続く。
「おかしいと思いません?何故アーノルドが其方達と同じ場所で待機しているのか・・・アーノルドはたった今、廃嫡となりましたの・・・道理の通らない者は王家にいる事は叶いませんから」
突然ミッシェルが一人扉に向かって走って逃げようとした。
騎士がミッシェルを取り押さえる。
ミッシェルは首を嫌々と振った。
「私は何も悪く無いわ!ドビッシのおばさんが私にアーノルド殿下を誘惑しろって言ったの!そうしたら王妃になれるって言ったのよ!ちょっと離してよ!私は家に帰るんだから!離して!私はあの人達と関係無いわ!」
国王陛下と王妃殿下は暗澹たる気持ちになっていた。
「アーノルド、お前が選んだ女はあんな奴なのだよ。簡単に騙されおって・・・」
セリーヌを捨てた価値など無かった。ハッキリと分かった。
それは私にもそんな価値が無かったのだと証明されてしまった。
アーノルドは今度こそハッキリと自分が王太子としてゆくゆくは国王としての道が完全に閉ざされた事を思い知らされた。
そして、ウィストン侯爵家が登城したと知らせが入ったのだった。
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