王家の懺悔
謁見の場で起こった断罪から2日後、自室軟禁となっていたアーノルドの部屋に国王陛下と王妃殿下が隠密で来ていた。
「アーノルド、お前の沙汰が決まった。奥秘を知るお前が生かされると思うか?」
一瞬身体がぶるりと震えた。それは覚悟していた質問だった。
「いいえ、私の沙汰はなんでしょうか」
今更ながら心底セリーヌの覚悟の強さを思い知る。
「・・・・・・」
重い沈黙から再び父上が話始める。
「・・・お前に死を以てと言いたいが、それをラファエロ王太子とセリーヌ王太子妃が望まなかった。この12年間の不義理な元婚約者になんと情けのある言葉ではないか」
私は愕然としていた。てっきり死がすぐ近くにあると思っていたから。
母上から今回の反省を聞いた。
「私達は今回、セリーヌから婚約者の時に奥秘を学ぶのは見直して欲しいと言われたの。確かに婚約破棄が死を意味するなんて馬鹿げていると思い知らされたわ。慣例に囚われすぎていたと反省をしたのよ。あなたのような婚約者に生命を託すなんて可哀想な事をさせてしまったから」
私は絶句して俯くことしか出来なかった。
「アーノルド。お前の婚約期間は12年間だった。言い換えれば12年間一人の少女の大切な時間を奪ったのだ・・・10年・・・お前は10年間、外れの塔で耐え忍び過ごすのだ。・・・そしてお前には薬で奥秘が話せぬよう声を潰す。そして後々の内紛争いを避けるために子も儲けられないようにするし奥秘を書き漏らさぬよう利き腕の指も潰す」
私はそれで生きていたいとは到底思えなかった。
「それならば私に死を!・・・」
父上がすかさず怒鳴りつける。
「お前は12年間もセリーヌを苦しめたのだ!それに比べてお前はそんな事も耐えられぬのか!お前を育てきれなかった朕達にも責任の一端があるのも事実!だから10年なのだ・・・この10年のうちに朕は国王としての務めを果たし帝王学を学んでいないラファエロ王太子を育てる事に専念する。そしてこの座を譲った後、朕達とお前は王家が持つ最奥の領地で死ぬまで・・・この王国の行く末を見守るのだ」
「愚かにも私や陛下はあなたが婚約者のセリーヌを軽んじている事に気が付かなかった。セリーヌが謙虚に全ての学びを網羅して完璧にあなたの婚約者として振る舞っていたから。私達は安心しきっていたの。あなたは許されるべきでは無かった。それなのにセリーヌ王太子妃はそこまでの処罰は望まれていなかった。けれども・・・それでは示しがつかないでしょ?・・・あなたに処置が下された後・・・外れにある塔に籠り10年後、私達と共に旅立つのです。私達は10年・・・あなたに会いません。それがあなたを心から愛した私たちの処罰でもあるの。そして国王と王妃の座を退いた後、私達もあなたも二度と王家に名を連ねることはないわ。10年後・・・また会いましょう・・・それまで静かに過ごしなさい」
母上が目に涙を溜めて渾身の気持ちを抑えながら震えた声で話をしている。
私より父上が・・・
私より母上が・・・
なんてお窶れになっているのだ・・・
決して私を甘やかした訳でもない。いつも公平な判断をされ必要な事を教えてくれて私を愛し信頼してくださったお二人なのに・・・
私はどこから驕り
どこから道を誤り
どこから・・・
どこから・・・・・・
父上と母上は生涯賢王・賢妃として貴族や民達から崇められる立場だったのに!
私がその立場を奪ってしまうのか!!
父上と母上まで巻き込んでしまった不肖息子の私に嫌だと言う事など許される訳が無かった。
「はい・・・仰せのままに・・・本当に・・・申し訳ございませんでした。どうか・・・父上も母上も・・・どうか・・・どうかお元気でお過ごしください」
崩れた泣き顔で私の精一杯の気持ちを込めた謝罪の言葉。
本当はセリーヌにも言うべき言葉だったのに・・・
もうそれは一生叶わないーー
沈みきった空気・・・
最後、まるで言い忘れた事を告げるように父上が言った。
「ドビッシ公爵家は先程この王国から消えた。皆処刑だ。ドビッシ公爵家の領地や全ての財産は王家で管理し、後に産まれるであろうラファエロ王太子夫妻の王太子以降の子達に譲られる。これ以上の報告はお前には不要だろう」
「・・・はい・・・」
偽者だったミッシェルが死んだ・・・
そうか死んだのか・・・
そして偽者を見抜けなかった私は声を失い指を失い子も儲けられない人として偽物のようなモノになってしまう。
確かに私に相応しい罰だーー
もう愚かな真似はできないだろう。そもそもするつもりも毛頭無い。
どうして今になってセリーヌの眼差しや所作・・・声や仕草まで瞼にハッキリと浮かぶのだろう?
謝れなかった事が悔やまれる・・・
生かされたのなら・・・私は死ぬまでセリーヌに詫びながら生きていかなくてはならないと思った・・・
10年・・・長いのだろうか?はたまた短いのだろうか?
この塔から出られないだけで質素でも食事も与えられ手に取る本もある。
贅沢など勿論出来ないが有難いことに最低限の人らしい生活をして生きていけるのだ。助けられながら。
ありがたい・・・
ありがたい・・・
こんな事を思った事など一度もなかった。
10年後、父上と母上に再会するまでゆっくりと考えよう。
私が生かされた理由を・・・
私が出来る贖罪を・・・
そして王家より遠く離れた地で私ができる事を見つけてみようと。
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