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最終話―盾使いの英雄譚

 リオとグランザーム、二人の戦いが終わってから、一ヶ月が経過した。人々が平和を謳歌するなか、大地にはとある変化が起きていた。


 魔王を倒し、大地を救った英雄リオを皇帝として全ての国が一つに纏まろうという動きがあった。どの国がリオを迎え入れるか、決まらなかったのだ。


 アーティメル、ユグラシャード、ロモロノス、グリアノラン、旧ケリオン、ヤウリナ、シャーテル諸国連合、レンドン共和国……エルヴェリア大陸全土の国が、一つとなる。


「僕は政治のことは何も分からないので、これまで通り皆さんが統治してください。その方が、みんな混乱しなくて済むと思いますから」


 議論の末、リオの一声により各国の王や皇帝たちが彼の名代として各地域を治める、という形に纏まった。こうして、大陸を統一する国家……『神聖ヴェルドラージュ帝国』が誕生したのだ。


「ふあ……あ。今日も平和だなぁ。ゆっくりお昼寝出来るのって、素晴らしいね、ねえ様」


「うむ。妾もそう思うぞ、リオ。ほれ、もっと妾の膝を堪能するがよい。長い戦いが終わったのだ、今は休養せよ。……それにしても、姉上たちがいないというのも慣れぬものだな」


 ある日の昼下がり、リオとアイージャは屋敷の一室にてくつろいでいた。屋敷には、他の魔神たちの姿はない。みな、それぞれの新たな道を進んでいるのだ。


――待ってろよな、リオ。すぐに花嫁修業を終えて帰ってくるぜ。生まれ変わったアタイを、楽しみにしてろよ。リオに相応しい花嫁になってやるからな!――


 カレンは一旦冒険者としての活動を休止し、故郷ヤウリナへ戻った。リオの花嫁として相応しい家事能力を養い、祝言の準備をするために。


――さて、私は少し大地を旅して回るよ。リオくんが成し遂げた功績を、後の世に伝え広めるためにね。大丈夫、すぐ戻ってくるからさ。リオくんに会えないのは寂しいからね――


 ダンスレイルは吟遊詩人(バード)となり、リオの偉業の数々を唄いながら世界を巡る旅に出た。愛する者が成し遂げた数多の伝説が、忘れられてしまわないように。


――リオくん、約束……忘れてないよね? さあ、拙者と一緒に、立派な忍者になれるよう特訓しよう! まずは分身の術からマスター出来るように頑張ろうね――


 今なお一級の冒険者として華々しい活躍を重ねつつ、クイナはリオと交わした約束を果たす。暇な時間を作っては、二人で仲良く忍者になるための修業を行っている。


――んじゃ、オレは一旦実家に帰るわ。そろそろ、本格的に領主になるための勉強をしないといけねえしな。オレが領主になったらよ、リオをパーティーに招待するぜ。楽しみにしてな――


 カレンやクイナとは違い、ダンテは冒険者を引退して父エドワードの元へ戻った。父の跡継ぎとして、ラッゾ領を統治するための勉強を始めたのだ。


――おとーとくん、今度のコンサート絶対に来てね! 可愛いフリフリの服来て、張り切って歌って踊るから! 来てくれなかったら、泣いちゃうよー? ……なんてね!――


 レケレスは、誰も予想しなかった道へ進んだ。なんと、プレシアとコンビを組み、アイドルユニットを結成したのである。すでに多くのファンを獲得し、新たな歌姫として活躍していた。


――師匠、わたくしはまた修業の旅に出ますわ。まだまだ、わたくしは未熟ですから。……魔界の魔物たちも、だいぶ溢れ出てきてしまいましたしね――


 エリザベートはバンコ家の家督を継ぐための試練も兼ねて、大地に現れ始めた魔界の魔物たちを討伐する旅に出た。たまに屋敷に来ては、楽しそうに討伐報告をリオにしている。


――我が君、わたくしは一度グリアノランのカラクリ学院に留学しようと思います。もっと知識と技術を磨き、我が君の従者として恥ずかしくないスキルを身に付けるために――


 アイージャと共にリオの元に残るかと思われたファティマは、決意を胸に学院へ入学した。毎日送られてくる手紙には、充実した日々の出来事がたっぷりと記され、リオを飽きさせない。


――すでに第一線を退いた身だが……私の知識や経験が必要とされているならば、こんなにも喜ばしいことはない。我が身朽ちるその時まで、奉公させてもらうとしよう――


 竜の血により命を繋いだエルカリオスは、神聖ヴェルドラージュ帝国の軍事教官として招かれ、日々辣腕を振るっていた。教え導く者として、これ以上ない幸せだと、彼は語ったという。


「……ねえ様は何かやらないの?」


「妾か? 今のところは何も予定はない。姉上やレケレスたちの後追いをしてもつまらぬからの。それよりも……


「わっ!」


「今はこうして……そなたと一緒に、平和を謳歌していたいのだよ」


 リオを膝枕していたアイージャは、身を屈めてぎゅっと愛する者を抱き締めた。魔界での戦いを生き抜き、誰一人として欠けることなく、こうして生きている。


 その事実が、アイージャにはたまらなく嬉しかった。リオも同じ気持ちなようで、嬉しそうにしっぽが左右に揺れている。


「ところでリオよ、例の……ほれ、観察記録官(ライブラリアン)になるとかいう話はどうなったのだ?」


「んーとね、正式な所属じゃなくて客員って形になったんだ。いろいろややこしいみたい」


 少し前、全てが終わったら観察記録官(ライブラリアン)にならないかとメルナーデに誘われたリオは、彼女に会いにフォルネシア機構へ行った。そこで話し合いが行われたが……。


「リオくん、残念だけど神々はあなたが正式な機構の職員になることを承認しなかったわ。代わりに、客員として観察記録官(ライブラリアン)たちのお手伝いをしてもらうことになったの。これからよろしくね」


「はい! メルナーデさん、よろしくお願いします!」


 こんなやり取りがあった。どうやら、魔神は創世六神と大地の民の中間に位置する存在であるらしく、神々の領域に踏み込むことは許されなかったようだ。


 とはいえ、ある程度譲歩はしてもらえたため、リオとメルナーデも特段文句はなかった。


「ふーむ、ではリオはこのまま大地におる、というわけじゃな?」


「うん。時々お手伝いに行くだけだからね」


「そうか。なら安全したわ」


 リオの言葉に、アイージャは安堵の笑みを浮かべる。観察記録官(ライブラリアン)になったリオが、自分の元を去ってしまうのではないかと不安を抱いていたのだ。


「……む、もうこんな時間か。そろそろ聖礎に向かわねばな。今日はどんな土産話があるのか楽しみだの、リオ」


「うん。こういう時に、界門の盾があると便利だね」


 週に一度、魔神たちは聖礎エルトナシュアに集う。それぞれの過ごす日々の出来事を語らい、より絆を深めるために。二人がエルトナシュアに着くと、もうみんな待っていた。


「おせーぞぉ、リオ、アイージャ。アタイらはもうとっくに来てるぜ」


「今から迎えに行こうと思っていたところだよ。すれ違いにならなくてよかった」


 界門の盾をくぐり抜け、大聖堂に向かうとカレンとダンスレイルが二人を出迎える。そして、カレンたちの後ろから、クイナとレケレスがひょっこり顔を覗かせた。


「やっほ、リオくん。この七日間、元気にしてたー?」


「うん、僕もねえ様も元気……わっ!」


 リオが答えている途中で、レケレスが飛びかかってくる。抱き着かれた状態で、リオは地面に倒れてしまった。


「おとーとくーん! 久しぶりー! えへへ、やっぱりおとーとくんはあったかいね。ぎゅーってしてるとすっごい幸せ!」


「ミス・レケレス、我が君が怪我をしたらどうするのですか。離れてください。そしてわたくしと代わってください」


「……お前、最近本音っつーか欲望を隠さなくなってきたよな。いいことなんだか、オレにゃ分からねえや」


 レケレスを引き剥がしつつ、ちゃっかりリオに抱き着くファティマを見て、ダンテは呆れ果てながら肩を竦める。そんな彼らを見ながら、エリザベートはクスクス笑う。


「ふふ、相変わらずですわね。こうしてみんなで集まるだけで、笑顔が溢れる……とても素敵ですわ」


「ああ。ミョルドとグリオニールも、草葉の陰で喜んでいるだろう。我らは、全てを成し遂げたのだから」


 穏やかな笑みを浮かべながら、エルカリオスはそう口にする。力と想いを託し、消えていったかつての弟たちを偲び、ゆっくりと祈りを捧げた。


「ねえねえ、いつもここに集まるけどさ、たまには別のところに行こうよ。新しい首都が完成したって言うし、行ってみたいな」


「おっ、いいぜ。確か、天空都市リヴドラスだっけか。アタイも気になってたんだよな。美味い飯があるって」


「ふむ……まあ、たまにはいいだろう。では、行こうか」


 リオの提案を受け、魔神たちは神聖ヴェルドラージュ帝国の首都として造られた、天空の都へ向かう。一人、また一人と大聖堂を出ていくなか、リオは最後まで残っていた。


 大聖堂の床を見つめ、リオは祈りを捧げる。最後の戦いから十日ほど経った後、グレイガの遺体を回収し、グランザームの亡骸と共に大聖堂の地下の納骨堂へ埋葬したのだ。


「おーい、リオー! 早く来いよ、置いてっちまうぞー!」


「今行くよー!」


 カレンに呼び掛けられ、リオは急ぎ足で大聖堂の外へ向かう。そんな彼の背中を、新しく造り直された魔神の始祖ベルドールとその恋人、ラグランジュの像が見つめていた。



◇―――――――――――――――――――――◇



 魔神と魔王による、一つの神話が幕を閉じた。しかし、物語はまだ終わらない。リオたちが生きている限り、新たな物語が生まれ、紡がれていくだろう。


 天空の都へ向かう道中、リオは仲間たち一人ひとりを順番に見つめる。苦楽を共にしてきた、魂の絆で結ばれた者たち。そんな彼らとの、新たな日々が始まるのだ。


「ねえ、みんな」


「ん? どうした、リオ」


「僕、みんなのこと……大好きだよ! いつまでも、ずっと一緒にいようね!」


 朗らかな笑みを浮かべながら、リオはそう口にした。アイージャたちも微笑みを浮かべ、頷き返す。平和を取り戻した大地で――魔神たちは、新たな日常を生きてる。


 彼らの物語は、永遠に続いていくのだ。果てしない、未来へ向かって。

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― 新着の感想 ―
[一言] 終わってしまったか(ーдー)何気に書籍化しないか期待してたが無理だったか(-.-)ノ⌒-~ 本編終わっても番外編出すものあるがそこら辺は以下ほどの物か( :゜皿゜) でもまあ完結お疲れさん…
[一言] 終わったんだな……。では、改めて。 今まで、お疲れ様でした。アディオス……。
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