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296話―今、最後の幕が上がる

 カアスが倒されたことにより、リオたちは城の奥……グランザームが待つ玉座の間へと続く広間へと転送された。幸いにも、怪我の程度の差こそあれど九人全員が生還出来た。


「あら、皆様無事でしたのね。よかったですわ、誰かが欠けていたらショックでしたから」


「ほんとだよねぇ。……そっちも大変だったみたいだね」


 一旦傷を癒すべく、休憩がてらリオたちはそれぞれ何があったのか情報交換を行う。チームCの面々も、リオたちと同じく罠にかけられたらしい。


 幸いにも、彼らにかけられた罠、トゲ付き巨大ローラーを三人がかりで破壊し事なきを得たという。何にせよ、こうして誰も欠けることなく済んで全員がホッとしていた。


 ――その時。


『喜ばしいことだ。一人として命を落とすことなく、余の元へとたどり着いたのだから。流石、魔神たちだ。実に素晴らしいと言うより他ない』


「この声は……グランザーム!」


 最後の敵、魔王グランザームの声が部屋の中に響く。それと同時に、部屋の奥へと続く階段が床からせり上がり、天井付近にある扉への足場となる。


 この先で、最後の敵が待っている。その事実が、リオたちの気持ちを引き締めさせた。一斉に立ち上がり、階段目指して走っていくと、突如バリアが現れる。


『これより先に進めるのはただ一人。余の宿敵たる盾の魔神、リオのみ。その他の者はここに留まっていてもらおう』


「ハァ!? ふざけんじゃねーぞ! ここまで来て戦いに参加出来ねぇとか舐めてンのか!」


 グランザームの言葉に、カレンが怒号を飛ばす。魔界を旅し、過酷な戦いの末にここまで到達したのに、よりによって最後の最後で門前払いをされれば、誰だってそうなるだろう。


「カレンの言う通りだぞ! オレたちだって魔神だ、てめぇと戦う資格があるだろうが!」


「そーだそーだ! 私たちも戦わせろー!」


『ならぬ』


 魔神たちが抗議するなか、グランザームは静かに、されど厳かにそう言い放つ。その場にいた全員が、凍り付いたかのように動けなくなってしまう。


 それだけの力が、魔王の声には宿っているのだ。


『本来ならば、リオ以外の者たちはこの魔界に入れるつもりはなかった。だが……黒大陽の三銃士、そして機巧の巨人たちを相手に一人では分が悪かろう。そう判断して、慈悲を与えたのだ』


「つまり、もう慈悲はないってこと?」


『左様。この戦いは、余と貴公だけのものだ。我が配下たちを、そしてかの創世偽神を打ち破った、貴公だけが……余の真の敵であり、友なのだ。余は望んでいるのだよ。憎愛を越えた、我らだけの戦いを』


 グランザームの望みを聞き、魔神たちは静まり返る。そして、試しにバリアに触れてみた。リオの身体はバリアを透過することが出来たが、他の者は出来なかった。


 彼の言う通り、リオだけと戦うための措置なのだろう。仮にバリアを破壊出来たとしても、そのために力を消耗してしまっては本末転倒でしかない。


「……なるほど。悔しいが、妾たちはここでリオの勝利を祈るしかないようだ」


『理解してもらえたようでありがたいことだ。案ずるな、我ら二人の戦いの映像を投影する。観客として、心ゆくまで楽しむがよい』


 諦めたようにそう呟くアイージャに、グランザームはそう答えた。このまま進んでいいのか迷うリオに、アイージャがゆっくりと近付いていく。そして……。


 彼に、口付けをした。かつて、リオに魔神の力を継承させた時のような……長く、濃厚な口付けを。


「~~!! ~! ぷはっ! ねえ様、何を……あれ? 何だか、いつもより力が湧いてくる……」


「妾の中に残っていた魔神の力を、全てそなたに渡したのだ。どうせ戦いに加われぬのなら、リオに役立ててほしいのだ」


 アイージャはそう言うと、優しく微笑む。そっとリオを抱き締め、言葉を送る。


「リオ。そなたは強い。だから……勝つと、信じておるぞ」


「任せて。絶対に、勝つから。勝って、戻ってくるよ」


 リオもアイージャを抱き締め返し、そう答えた。二人の身体が離れ、リオは階段の方へ振り向く。一歩を踏み出すたびに、仲間たちからの応援の言葉が飛ぶ。


「リオ! アタイの分まで、グランザームの野郎をブン殴ってこい! 頼んだぜ!」


 拳を振り上げながら、カレンがそう叫ぶ。


「大丈夫、リオくんなら勝てるさ! なんたって、君は私の……自慢の弟だから!」


 共に戦えぬ悔しさを飲み込み、ダンスレイルが誇らしげにそう口にする。


「師匠! わたくしは……わたくしは、貴方の帰りをお待ちしていますわ! ……武運長久を!」


 涙を流しながら、エリザベートは胸が張り裂けんばかりに大声を張り上げる。


「リオくーん! 約束……忘れてないからね! 絶対に……絶対に! 生きて帰ってきてね!」


 クイナもまた、リオに声援を送る。笑顔の裏に、こぼれ落ちそうな涙を隠しながら。


「オレからは、一つだけ言うぜ。リオ! お前は負けねえ! 何故なら、このオレが勝利を祈ってるからだ!」


 リオは必ず勝って戻ってくる。ただそう信じているダンテは、腕を突き出しサムズアップする。


「フレー! フレー! おとーとくん! ファイトだよ、負けちゃダメなんだからね! 絶対に……ダメなんだからぁ……」


 勇ましい掛け声でリオを応援していたレケレスだが、不安に押し潰され泣き崩れてしまった。そんな彼女の頭をそっと撫でながら、ファティマが声援を送る。


「我が君! わたくしは信じています。貴方の勝利を。全てを終わらせ、また笑顔で戻ってきてくださると!」


「うん! 僕は絶対に勝つ! ここで見ててね、最後の戦いを!」


 階段の途中で振り返り、仲間たちにそう答えた後、リオは前を向き走り出す。振り返ることなく、ひたすらに階段を駆け登っていく。


 扉の前にたどり着き、リオは取っ手を掴み深呼吸をする。この先に、グランザームがいる。いよいよ、世界の命運を賭けた最後の戦いが始まるのだ。


「ふー……。よし、いくぞ!」


 意を決し、リオは扉を押して開き中へ飛び込む。扉の先には、一本道の長い廊下があった。遥か遠くに、金色の扉が見える。リオはゆっくりと一歩を踏み出し、歩いていく。


 歩を進めるたびに、リオの脳裏にこれまでの記憶が次々とよみがえってくる。仲間との出会い、強大な敵との戦い、絆を育んできた者たちの笑顔。


 その全てが、リオを動かす原動力となる。それと同時に、リオは心から悟った。――これまでの旅路に、ムダなことなど一つもなかったのだと。


「……着いた。この扉の先にグランザームがいるんだね」


 廊下を渡りきり、リオは観音開きの扉を開け先へ進む。扉の向こうには、広いドーム状の玉座の間が広がっていた。玉座に座するは、魔の王グランザームだ。


「……よく来た。我が宿敵(とも)よ。貴公がここへ足を踏み入れる日を、余はどれだけ夢見たことか。ようこそ、最後の舞台へ」


「歓迎ありがとう、グランザーム。……今回は顔を見せてくれるんだね」


「当然のことだ。最高の賓客を出迎えるのに、顔を隠すなど無礼極まりないだろう?」


 グランザームの顔は、かつてのようにもやで覆われていなかった。端正な顔立ちをした魔王は、パチンと指を鳴らす。すると、どこからともなくキャンバスと絵筆、絵の具付きのパレットが現れた。


「一つ願いがある。戦いを始める前に、貴公の姿を描かせてもらえないだろうか? 余が勝利した時、永遠に貴公の姿を残せるように」


「……いいよ。まあ、僕が勝つからムダなことだろうけどね」


「フッ、違いない」


 冗談めかした言葉で承諾するリオに、グランザームは笑みを返す。天井が開いていき、青空と陽の光が玉座の間に射し込んできた。リオの顔をよく見るためだろう。


 一言も発することなく、グランザームはリオの肖像画を描きあげていく。三十分もしないうちに、リオを描いた絵画が完成した。タイトルは――『偉大なる魔神』だ。


「これでもう、やるべきことは全て終わった。ここからは……言葉で語ることはない。ただ存分に……決闘(しあ)うのみ」


「そうだね。そろそろ、魔界旅行も飽きたし……ここで全部終わらせるよ。何もかも全部を……ね」


 魔王は立ち上がり、キャンバスやパレットを別の場所へ転移させる。リオは不壊の盾と飛刃の盾を、グランザームは闇の力を纏った大鎌を呼び出し構えた。


 そのまま、二人は少しずつ相手ににじり寄っていく。そして……目にも止まらぬ速度で、同時に相手へ斬りかかっていった。


「さあ、始めよう! 栄光ある最後の戦いを! 終わりの始まりを!」


「望むところさ! 僕は……絶対に、負けない!!」


 今、最後の戦いの火蓋が……切って、落とされた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 盾魔神 リオ・アイギストス! 魔王 グランザーム! いざ尋常にッ!! 勝負ッッ!!!
[一言] これが最後の戦い( -д-)無事に勝って平和を掴むか、負けて全て終わるか、二者一卓この勝敗は神にもわからん(-.-)y-~
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