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260話―盾魔神アイージャ・アイギストス

 アイージャとオルグラムが、それぞれの得物を構え激突する。剣と盾がぶつかり合い、激しい火花が飛び散り甲高い金属音が鳴り響く。


「くっ……ぐうう……!」


「なかなかの力だ。だが……私を押し返すにはまだ足りぬな」


 全力を込めてオルグラムを押し込もうとするアイージャだったが、相手は岩のように重くビクともしない。逆にあっさりと押し返され、吹き飛ばされてしまう。


 空中で身体を回転させ、体勢を整え着地したアイージャは、連星の盾を呼び出し右腕に装着する。さらに、空中に無数の氷の板を作り出し、オルグラムの周囲に配置した。


「ほう、これは面白い手品だ。子どもにもさぞかし人気だろう」


「ただの手品などではないわ。妾の本気、見せてくれよう!」


 余裕の態度を見せるオルグラムに、アイージャは不敵な笑みを浮かべながら連星の盾を回転させる。そして、近くに浮かんでいる氷の板に向かって身を躍らせた。


 すると、アイージャの身体が溶けるように氷の板の中へと吸い込まれていく。それを見たオルグラムは即座に態度を改め、アイージャの攻撃に備える。


「食らえい! ハッ!」


「む……くっ!」


 オルグラムの周囲を漂う無数の氷の板のうち、一つからアイージャが飛び出し攻撃を浴びせる。盾で斬撃を防いだオルグラムだったが、反撃する前にアイージャは氷の板の中へ避難する。


 真正面から戦って歯が立たないのならば、絡め手を使うまで。そう言わんばかりに、アイージャは一撃離脱戦法(ヒットアンドアウェイ)を繰り返す。


「くっ、やるな。だが……まだまだ甘い。見せてやろう、竜の騎士の力をな! ドラゴニック・ウェーブ!」


「な……ぐうっ!」


 さらに手傷を負ったオルグラムは身体を丸め、力を溜める。そして、全身を広げ周囲に衝撃波を放った。衝撃波は氷の板を次々と破壊していき、アイージャを引きずり出す。


 移動手段を失ってなお、アイージャは果敢にオルグラムへ斬りかかる。全ての力を込めた死に物狂いの猛攻が、アイージャに僅かな勝機をもたらす。


 連星の盾による攻撃の中に織り混ぜた足払いがヒットし、オルグラムが体勢を崩したのだ。


「! 今だ! スターチェイン・ソーサー!」


「くっ……」


 渾身の力を込めたアイージャの一撃が炸裂する。狙う場所は、オルグラムの首。己の勝利を確信したアイージャだったが、そう簡単にはいかなかった。


 オルグラムの首に盾が当たった直後、粉々に砕けてしまったのだ。何が起きたのか理解出来ず、アイージャは目を見開くことしか出来ない。


「な……なんだと……」


「惜しかったな。首ではなく頭を狙えば勝てたのだがね。私は頭部以外、身体の好きな場所を竜のウロコで覆い、鉄壁の防御力を得ることが出来るのだ……よ!」


「かはっ!」


 動きの止まったアイージャを蹴り飛ばし、オルグラムは首を覆う竜のウロコを消した。シルティのように全身を覆ったままにしておくと、体内を攻撃された時に外に逃がせない。


 そのため、彼は攻撃を受ける瞬間にのみウロコを出現させ、攻撃が弾かれ隙を晒した相手をカウンターで葬るという戦法を好んでいた。


「くっ、げほっ……。抜かったわ、まさかこれほどまでに強固な守りを備えているとは」


「降伏するか? 魔神よ」


「たわけが、降伏などするわけなかろう。……こうなれば、奥の手を使うしかあるまい。見せてやろう、妾の切り札を! ビーストソウル……リリース!」


 アイージャは魔力を増幅させ、盾が納められた青色のオーブを作り出す。そして、オーブを身体の中に取り込み……一万年という永い時を経て、再び獣の力を解き放つ。


 一瞬で空気が凍り付き、身震いするような冷気が放出されていく。大地が凍り、空にはオーロラが浮かび、突き刺すような冷気が肺を犯し痛みを与える。


「おお……素晴らしい、これが……」


 青く透き通った氷の鎧を身に纏い、両肩に巨大なサークルシールドを装着したアイージャを見て、オルグラムは思わずそう呟いた。ネコの化身となったアイージャの、反撃が始まる。


「さあ、妾の本気を、とくと受けてみよ! シールドチェンジ・月輪の盾! ムーンサークル・ブーメラン!」


「何度同じ技を使おうが同じこと、また剛魔竜鱗盾で防いで……なっ!?」


 黄金の月輪を防ぐべく、盾を構え攻撃を受け止めようとしたオルグラムだったが、完全に勢いを殺すことが出来ずによろめいてしまう。


 ムーンサークル・ブーメランの威力は、獣の力を解き放つ前よりも遥かにパワーアップしていたのだ。よろめいたオルグラムに飛び蹴りを叩き込み、アイージャはさらに追撃する。


「まだ終わらぬ! シールドチェンジ・氷槍の盾!」


「くっ……」


 オルグラムは一旦後ろへ下がり、追撃から逃れ体勢を立て直そうとする。その間にアイージャは盾を変え、小さな槍状の突起がついた丸いスパイクシールドを作り出す。


 そして、間髪入れずオルグラムへショルダータックルを敢行する。槍状の突起が高速回転し、唸りをあげながらオルグラムを貫かんと迫っていく。


「このまま仕留める! アイシクル・ドリラー!」


「そう簡単に……竜騎士の長たるこの私が敗れるものか! ドラゴニック・ガーディアン!」


 これ以上の攻勢は許さんと、オルグラムは竜騎士の力を解き放つ。盾が巨大化し、全身をすっぽりと覆うほどの大きさへと変わりアイージャの攻撃を受け止める。


 元々の頑丈さにさらに磨きがかかり、氷の槍は粉々に砕けて散らばってしまう。しかし、アイージャにとってそれは想定の範囲内であった。


「砕けたか……ならば! フリージング・カレイドスコープ!」


「むっ、これは……分身か!」


 砕け散った氷の欠片がゴワゴワと膨れ上がり、アイージャと瓜二つの分身へと変化した。総勢七体の分身が加わり、オルグラムを翻弄しながら攻撃を繰り出す。


「それ、ゆけっ!」


「はははは、これだけ精巧に出来た分身なのだ、本体を探し当てるのは至難の技ぞ!」


「本体と分身は思考を共有している。どんな状況にあっても、完璧な連携が出来るのだ!」


 口々にそう捲し立てながら、八人のアイージャたちはオルグラムに総攻撃を加える。相手に反撃する隙を与えず、一気に体力を奪い勝利する……それがアイージャの作戦だった。


 しかし、彼女はまだ知らなかった。竜騎士の長、オルグラムはまだ本気を出してなどいなかったということを。これまでの攻防は、彼にとってまだお遊びでしかないのだ。


「……見事なものだ。ここまでの傷を負ったのは数千年ぶりだよ。だから、君に敬意を表し……私の本気、その片鱗をお見せしよう」


 そう言うと、オルグラムは襲いかかってくる分身の一体を蹴り飛ばし、包囲網から脱出する。そして、それまで身に付けていたマントを脱ぎ去り、地面に捨てた。


 マントが地に落ちると、凄まじい音があがり大地に蜘蛛の巣模様の亀裂が走った。マントそのものが、とんでもない重量を持つ代物だとアイージャが気付いた時……勝敗は決していた。


「ぐっ、かはっ……! なん、だ……何が、起きた……?」


「ほう、運のいい奴だ。急所への直撃は外したようだな。流石、魔神だ」


 オルグラムがマントを脱いだ直後、白銀の残像が見えたかと思うと、次々に分身たちが倒れ消滅していく。最後に残ったアイージャも致命傷を負い、崩れ落ちる。


 鋭い痛みが胴を走ったことで、アイージャはようやく気が付いた。自分たちは、一瞬のうちにオルグラムに全身の九ヶ所を斬られたのだということに。


「さあ、これで決着は着いた。封印させてもら……ぐっ!」


「ふ……猫の爪は、なかなかに……痛い、だろう?」


 封印の結晶が掲げられ、その中に吸い込まれていくなか……アイージャの最後の抵抗がオルグラムに炸裂した。密かに手のひらの中へ隠してあった氷の欠片で、左目と胸を突き刺したのだ。


「……やれやれ。最後の最後で油断するよくない癖、まだ抜けぬとは。私もまだまだダメだな。こんなザマでは、姉上と魔王様に怒られてしまうな」


 アイージャを封印した後、目と胸に突き刺さった氷の破片を抜き、オルグラムは苦笑しながら放り投げる。その時、竜のいななきが空から響く。


 見上げると、無数の竜の群れが大シャーテル公国を目指し飛行していた。それが何を意味するのかに気付き、オルグラムはニッと笑う。


「……ドゼリーめ。もう一つ、仕事を果たしたようだな」


 そう呟くと、オルグラムはマントを広い上げ、羽織りながらその場を後にする。残る魔神、リオとダンスレイルを狩るために。


 しかし、彼はまだ知らない。アイージャの執念の一刺しが、後に己を苦しめることに。魔神は倒れど、ただでは終わらない。その恐ろしさを、竜騎士はまだ知らない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 窮鼠猫を噛むならぬ窮猫の意地かΣ(゜Д゜ υ)一つ二つの油断が必勝の戦いを覆すきっかけになるのだよ(#゜Д゜)y-~~
[一言] アイージャもやられたか……。だが、ただでは済まさんッ!
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