254話―波乱に踊る諸侯会議
その日の夜、リオは執務室での出来事をアイージャに話す。アイージャはアイージャで、祭りの露店を見て歩くリオがどこか上の空なのを見て何かを察していたらしい。
一部始終を聞かされたアイージャは、困ったような顔を浮かべる。もし祭りが中止になるようなことになれば、せっかく舞踏会のために気合いを入れたのがムダになるからだ。
「ふむ……なかなかに事態は切迫しているようだな。全面戦争とはただ事ではない」
「うん。あの後公王さまとお話してね、明日諸国連合の代表さんたちを集めて会議するんだって。お祭りと平行して」
密かに進めていた計画が頓挫した以上、ドゼリーがどんな凶行に走るか分からない。そのため、モーゼルは急遽他の十二ヶ国の代表を招集し、対策を話し合うことにしたのだ。
その会議にはシャトラの輪から代表としてゾーナが参加し、またリオも是非参加して欲しいと誘われていた。勿論、リオは参加するつもりでいる。
「なら、妾も参加しよう。祭りの最終日、舞踏会までに敵を叩き潰せば何も問題はないからの」
「そ、そうだね……」
異様なまでに闘志を燃やすアイージャに、リオは若干ひきつった笑みを見せる。もう夜も遅く、とりあえず二人は明日に備えて眠ることにした。
リオは自分の部屋に戻り、寝間着に着替えてベッドに潜り込み深い眠りへと落ちる。翌日の会議で、とんでもないことが起こるなどとは夢にも思わずに。
◇―――――――――――――――――――――◇
「……フン! ラークスめ、やはり裏切ったか。前々からおかしいとは思っていたが、よくもまあ親を裏切れたものだ! あの恩知らずめが!」
その頃、ドゼリーは一人癇癪を起こし暴れ回っていた。表面上は全面的に信頼する素振りを見せてはいたものの、内心息子の裏切りを心配していた彼の予想は的中した。
怒髪天なドゼリーは部屋中のものをひっくり返し、絵画を引きずり落とし踏みつける。一通り破壊し終え、荒い息を吐いていると、窓の外から落ち着いた男の声がする。
「随分と荒れているようだな。何か嫌なことでもあったのか?」
「おお、あなたは……! 魔王軍最高幹部、オルグラム様! いやいや、これはお見苦しい」
いつの間にか窓が開いており、一人の男が部屋の中に入ってきていた。純白の鎧を身に付け、白銀のマントを羽織った男――オルグラムはフッと笑う。
「あまり成果が出ていないようだな。私が手助けをしてやろう」
「はあ……?」
オルグラムは懐から小さなオカリナを取り出し、ドゼリーに手渡した。オカリナはまるで小動物のように温かく、僅かに脈打っている。
不思議そうにオカリナを眺めているドゼリーに、オルグラムは説明を行う。
「そのオカリナはドラゴンを呼び集めコントロールする力を秘めている。遥か昔、我が姉オリアが私のために作ってくれたものだが……お前に貸そう」
「それはありがたい。我が国の兵士どもはみなたるんでおって使い物にならんのですよ」
実際にはドゼリーの無茶苦茶な徴税で兵士たちすら満足に生活出来ず、鍛えることが出来ていないからだが、そんなことは総督には関係ない。
強力な武器を手に入れ、ドゼリーは鼻歌混じりに部屋を後にしていく。一人残ったオルグラムは、窓から身を乗り出し夜空へ飛び出す。
「これで布石は打った。シャーテルへの攻撃はドラゴン軍団とディーナたちに任せればいい。その間に……残りの魔神たちを狩るとしよう」
リオたちの相手を配下の者たちに任せ、オルグラムはアーティメルへ向かう。帝国に留まっている、クイナたちを仕留めるために。
◇―――――――――――――――――――――◇
翌日、祭り開催三日目の朝。モーゼルの緊急招集に応じ、シャーテル諸国連合を形成する十三の国々の代表が公王議事堂へ集まっていた。
盟主モーゼルに次ぐ地位にある侯爵たちとゾーナ、リオたちが席に着くと、早速会議が始まった。ドゼリーの企てた陰謀の存在を知り、代表たちの間に動揺が走る。
……とある三人を除いては。
「それは本当なのですかな? 盟主モーゼル公。確たる証拠もなしに、我々を揺さぶっているだけではないのですかな?」
諸国連合の傘下の一つであるリピテム候国の代表、ギュドという男がモーゼルに早速反発する。両隣にいる別国の代表二人も、ギュドの言葉に頷く。
「ギュド侯爵、これは確固たる証拠あってのこと。ただの妄言ではない。口を謹んでいただきたいですな」
「ほう、証拠があると。なら、それを見せてもらいましょうか。そうでなくば、この場にいる全員が納得しませんぞ」
やたらとトゲのある物言いをするギュドに、モーゼルはため息を吐きながらラークスを呼ぶ。予想外の人物の登場に、モーゼル、ギュドと取り巻き二人を除いた各国の代表たちは驚きをあらわにする。
「あ、あの方はドゼリー氏の御子息ではないか! モーゼル公、何故彼がここに?」
「イース侯爵、それは私自らお話しましょう。我が父の邪悪な企みの全てをここに明かすと、ラークス・レザインの名の元に誓います」
そう言うと、ラークスはリオたちに語ったようにドゼリーの企みの全てを話し出す。が、それを聞いているギュド侯爵とその取り巻きたちは内心気が気でなかった。
ドゼリーに最も近い立場にいたラークスなら、自分たちが諸国連合を裏切り、内通していることを知っているはずだ。それをこの場で暴露されれば、全てが終わる。
故に、ギュド侯爵は強引な手を使ってでも、早急にラークスを葬らねばならぬと決断した。ギュドは勢いよく立ち上がり、ラークスに向かって怒鳴り始める。
「もうよい、黙れ! さっきからペラペラと嘘ばかり垂れ流しおって! そもそも、貴様がドゼリー殿の御子息本人だと何故言える? 我らを謀るために、モーゼル公が用意した偽物ではないのか? ん?」
「ギュド侯爵! それ以上我が主とその友を侮辱するのであらば、このゾーナ容赦しませんぞ!」
あまりにも無茶苦茶ないいがかりをしてくるギュドに、ゾーナは敵意を剥き出しにする。何か嫌な予感を覚えたリオは、こっそりとアイージャに耳打ちし、有事に備える。
「フン、侮辱ではないぞ、公王の犬め。何を隠そう、本物のラークス殿は我がリピテム候国に滞在なされておるのだ。証拠もあるぞ、これを見よ」
そう言うと、ギュドは懐から魔法石を取り出し、空中に映像を映し出す。どこかの宮殿にて、ギュドとラークスが会食をしている一部始終が映され始めた。
「私は昨日、ラークス殿と会食をしていたのだ。そして、今も我が宮殿に滞在しておられる。つまり! この場にいるラークス殿は偽物ということだ!」
「違う! 私は昨日大シャーテル公国に到着した! ギュド侯爵の宮殿には行っていない!」
「黙れ! 貴様のような不届き者の言葉など聞く耳持たぬわ! モーゼル公よ、やってしまいましたなぁ。こんなことをして、我々が黙っておくと……」
その時だった。リオがおもむろに席から立ち上がり、ごそごそと懐をまさぐる。こんな時のためにと持ってきておいたカラーロの魔眼を装着し、モーゼルたちに話しかける。
「皆さん、発言をお許しください。今僕が身に付けた魔道具、カラーロの魔眼には危険な罠や偽りを暴く力があります。これを使えば、あの映像の真偽と、今ここにいるラークスさんが本人なのかを確かめることが出来ます。公王さま、試してもいいですか?」
「うむ、ギュド侯爵があそこまで言うのだ。是非やっておくれ。他の者たちもそう思うだろう?」
リオの言葉に頷き、モーゼルはしてやったりといった表情でギュドを見つめる。自分から疑惑をふっかけた手前、ギュドは断るわけにもいかず押し黙ってしまう。
(クソッ、あのガキ余計な真似を! このままでは、あの映像が偽物だということがバレてしまう! もっと時間があれば精巧に作れたものを!)
実は、ギュドは昨日の夜にドゼリーからラークスの裏切りを事前に知らされていたのだ。ドゼリーと一蓮托生である自分の地位を守るべく、ギュドはラークスを陥れるための策を練った。
それが、今回用意した偽の会食映像だった。後はこのままラークスを糾弾し、モーゼルへの不信感を煽り議会を分裂させる。それが狙いだったが、寸前でリオに阻まれた。
(まずいぞ、あのガキは本当に映像が偽物だと暴けるだろう……もし暴かれたら一巻の終わりだ! こうなったら、ドゼリー殿から貰ったコレを使うしかない!)
このまま全てを暴かれるよりは、とギュドは自暴自棄に陥り懐に手を入れる。取り巻きたちを壁にして見えないように毒々しい小さな肉の塊を取り出し、ニヤリと笑う。
「……見ておれ。全員道連れにしてやる……!」
今、惨劇の幕が上がる。




