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238話―氷炎将軍グレイガ

 時は少しさかのぼる。フィンたちがアッパーヤードに反撃を始めた頃、その遥か下の空ではリオとグレイガが一対一の殴り合いを行っていた。


 氷と炎を纏ったグレイガの拳が連続で繰り出され、リオに叩き込まれる。時に不壊の盾で防ぎ、時に避けながら負けじと反撃を行う。


「やるじゃねえか。だが、こいつは避けられるかな! ビッグバン・ナックル!」


「くっ……わっと!」


 グレイガは左腕を巨大な炎の塊で覆い、掬い上げるようなアッパーを放つ。リオは不壊の盾で押さえ付けるように攻撃を防ぎ、そのまま回し蹴りを叩き込む。


 回し蹴りは見事グレイガのこめかみを捉え、クリーンヒットする。が、グレイガは怯むことなく、リオの足を掴みジャイアントスイングを敢行した。


「ケケケケ! あの程度の蹴りでオレをよろめかそうたぁ……キアイが入ってねえなあ!」


「わわわわわわ!!」


「蹴りってのはな……こういうのを言うんだよ!」


 リオを頭上へ投げ飛ばし、グレイガは後を追い脚を縦に回転させ蹴りを放つ。こめかみに蹴りを受けたリオは水平にふっとばされるも、なんとかブレーキをかける。


「うう……かなり痛いけど、エル兄さんの蹴りに比べたらどうってことないもんね!」


 こめかみをさすりつつ、リオは自分に言い聞かせるようにそう口にする。少し前にエルカリオスとスパーリングをした時には、こめかみが陥没するほどの威力がある蹴りを叩き込まれた。


 それに比べれば、グレイガの蹴りなどカに刺された程度の痛みでしかない。そんな無茶なことを考えつつ、リオは急加速してグレイガに飛び掛かっていく。


「お返しだ! シールドチェンジ、破槍の盾! バンカー・ナックル!」


「おっとぉ、そう簡単にゃ食らわねえよ! フリーズ・バックラー!」


 それに対し、グレイガは右手の甲を覆う小さな円盾を作り出してリオの攻撃をパリィし弾いた。大きく仰け反ったリオのみぞおちに、反撃のビッグバン・ナックルを叩き込もうとする。


「食らいな!」


「残念、僕の狙いはね……それなんだ!」


「なっ……やべっ!」


 危機的状況に追い込まれたと思われたリオは、自ら身体をさらに仰け反らせ、グレイガの突き出した拳を避けた。それと同時にしっぽで腕を絡め取り、自分の方へ引き寄せる。


 最初の攻撃は、グレイガが回避の出来ない状況を作り出すためのフェイントだったのだ。リオは魔力で作った槍を補充し、グレイガの心臓目掛けて盾を叩き込む。


「今度は逃げられないぞ、グレイガ! バンカー・ナックル!」


「グ……がああああ!!」


 渾身の力を込めたリオの一撃が、グレイガの胴体を貫いた。勝利を掴んだはずのリオは、しかし奇妙な感覚を覚える。心臓を破壊したという手応えが、全くないのだ。


 次の瞬間、絶命したはずのグレイガが動き出し、リオの首を掴み締め上げる。


「ど、どうして……」


「残念だったな。オレはな、魔族じゃねえのさ。オレは魔王グランザーム様に造られた疑似生命体……フラスコの中の小人(ホムンクルス)なのさ!」


 腕を振り払おうともがくリオに、グレイガは驚きの事実をカミングアウトする。予想外の事態に、リオは驚愕してしまう。


「ケケケケ、驚いてやがるな。ま、無理もねえか。フラスコの中の小人(ホムンクルス)の製造なんざ、お前らにゃ出来ねえもんな!」


 ――フラスコの中の小人(ホムンクルス)。錬金術を極めたアルケミストが最後にたどり着く極致であり、魔傀儡とはまた違う、生命を作り出す禁断の技術の産物だ。


 様々な大地でアルケミストたちがフラスコの中の小人(ホムンクルス)を造り出そうと四苦八苦してきたが、ついに生み出すことが出来なかった奇跡の存在。


 それを、かの魔王……グランザームはいとも容易くやってのけたのだと言う。


フラスコの中の小人(ホムンクルス)……お前が……」


「ケケケケ、その通り。造られた生命であるオレの身体には心臓がねえ。だから、どれだけ胴体を破壊されようが死なねえのよ」


 リオの首を絞めながら、グレイガはそう答える。リオの首をへし折ろうとしたその時、彼らの頭上で異変が起こった。フィンとリーズがアッパーヤードを破壊したのだ。


 破壊された要塞の破片が降り注ぐなか、二人の上に魔力を溜めるタンクが落ちてきた。グレイガはリオを突き飛ばし、離脱して回避しようとするが……。


「なんだ……? あのタンク、様子が……!?」


「す、吸い込まれ……うわあああ!!」


 リオたちの真上でタンクが爆発し、予想外の事態が起こってしまった。空間の歪みが発生し、リオとグレイガはその中に引きずり込まれてしまったのだ。


「う……。ここ、どこ?」


 異空間へ吸い込まれたリオは気絶してしまい、目を覚ますと全てが黒く塗り潰された空間にいた。頭上を見ると、星空のように無数の小さな点が明滅している。


 ピンチを脱却したのはいいが、元いた大地へ戻ることが出来なくなりリオは途方に暮れてしまう。どこかに出口はないかと、リオは果てのない異空間を歩いていく。


「なんだか、空気も重苦しいし……早く元の大地に戻りたいよぅ」


「戻る必要なんざねえ。てめえはここで死ぬんだからな! ツイン・デストラクション!」


 耳が痛くなるような静寂を破り、グレイガの声が響き渡る。彼もリオと同じく、この異空間に引きずり込まれたようだ。


 全てを消滅させる魔力の塊が飛来するなか、リオは慌てて不壊の盾を呼び出し構える。危機一髪、なんとか防御が間に合いリオは盾と両腕を失うだけで済んだ。


「グレイ……うあっ!」


「ケケケケ! 捕まえたぜ。これで終わりにしてやるよ!」


 どこからともなく現れたグレイガは、リオの首を掴み上空へ投げ飛ばす。そして、無数の氷と炎槍を発射し、全身を穴だらけにしていく。


「結構前だがよぉ、バルバッシュの野郎から聞いたぜ? お前ら魔神は、魔力が完全に枯渇したら……もう再生出来ねえんだってことをな!」


「くっ……」


 リオは双翼の盾を呼び出し、何とか氷炎の槍の嵐から逃れる。しかし、破壊された肉体の再生に魔力を大量に使ってしまい、反撃を行うことが出来ない。


 対するグレイガは、リオを確実に仕留めんとばかりに執拗に攻撃を繰り出してくる。リオの四肢を優先して潰し、遠くへ逃げられないようにしてしまう。


「まずいよ、魔力が……」


「ケケケケ! そろそろ魔力が切れる頃かぁ? それじゃあ……そろそろトドメを刺させてもらうぜぇ! ツイン……デストラクション!」


 四肢を失い、全身を穴だらけにされたリオにトドメを刺すべくグレイガは全ての魔力を込めた一撃を放つ。肉体の再生に魔力を注いでいたリオは攻撃を防ぐことが出来ず……。


 首から下の全てを、消し飛ばされた。


「あ……」


 最後にそう言い残し、リオの頭部が転がる。疲労困憊になりながらも、グレイガはそれを見て歓喜する。


「ヒャーハハハハハ! やった! ついにやったぞ! 我らの宿敵……盾の魔神を! この手で倒してやったぜ!」


 リオを撃破し、狂喜しながらグレイガは散っていった仲間たちへ思いを馳せる。ザシュローム、キルデガルド、ダーネシア、そしてオリア。


 苦楽を共にした仲間の仇を討ったことに、充足感を覚えていた。


「ああ……これで、これでやっと……あいつらの仇が討てたぜ。あいつらは、オレにとって家族みてえなもんだったからな……」


 そう呟くグレイガの顔には、寂しげな笑みが浮かんでいた。そんな彼に聞こえてくるはずのない声が届く。


「悪いね……僕は、まだ死ねないんだ。こんなところで、みんなを残して死ぬなんてのは……ごめんだよ」


「なっ……!? 有り得ねえ! お前は確かに、オレがさっき殺したはずだ! なんで……何で生きてやがる! リオォォォォォ!」


 グレイガが振り向くと、そこには抹殺したはずのリオが、傷一つない状態で立っていた。右手には真っ二つに割れたハチガネが握られており、少しずつ砂になっていた。


「……本当に、危なかったよ。ムーテューラ様から貰ったハチガネがなかったら……僕は死んでた」


 そう。リオはムーテューラから貰ったハチガネの力により、一度だけではあるが死を退けたのだ。魔力も完全回復し、いつでも全力で戦える状態であった。


 対して、グレイガは全魔力を使ってツイン・デストラクションを撃ち、魔力が底を突いていた。このまま戦ったところで、勝ち目はまずない。


「……へっ。やっぱり、頭も含めて丸ごと消滅させるべきだった、ってことか。オレもまだ甘いな」


「……今度は僕の番だ。ガルトロスと同じ場所に送ってやる」


 リオがそう言うと、グレイガは眉をひそめる。その場に座り込み、リオにとある話を始めた。


「……オレを殺す前に、一つ聞いとけ。お前の故郷……リアボーン王国の末路に関する話だからよ」


 そう言うと、グレイガは語り始める。かつて、ガルトロスと共に王国を滅ぼした時のことを。リオが知ることのなかった、滅亡の真相を。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔神の再生力も魔力だよりだけにガス欠×肉体全壊=絶命なのかΣ( ̄ロ ̄lll)流石に今のはヤバかった(|| ゜Д゜) しかし最後に何を語るやら、時間稼ぎかもしれんが(-.-)ノ⌒-~
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