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143話―時間と空間の脅威

「ほう、何か策を考えついたようだな。面白い、見せてもらおうか」


 余裕綽々といった感じで、エスペランザは腕を組む。ダンテは目を閉じ、グリオニールから与えられた獣の感性に身を委ねる。次の瞬間、ゆらりと身体を動かし不可視の斬撃を避けた。


「……見切ったぜ。てめぇの攻撃の正体……空間の歪みを刃に変えて飛ばす、そうだろ? エスペランザさんよ」


「ククッ、見事だ。大地の民にもいるのだよ。お前のような聡い者が」


 自身の攻撃のカラクリを見破られてなお、エスペランザは平然としていた。それどころか、笑みを浮かべてパチパチと拍手をしダンテを称賛する。


 まだ何かある。そう睨んだダンテは、エスペランザが次の手を討つ前に仕留めようと槍を構えた。両足に風のブーツを纏い、目にも止まらぬ速さで飛びかかる。


「このまま……お前を仕留める! 覚悟しな!」


「ククク。少し甘いな。男よ、私が空間を操り攻撃出来るなら……防御も出来ると考えねばならんぞ?」


 直後、エスペランザは手をかざし透明な空間の障壁を作り出しダンテの突きを防ぐ。即座に障壁を折り曲げ、ダンテを包み込み地面に叩き付けた。


「ぐあっ!」


「ククッ、少しは楽しめたぞ、男。何しろ、かつて私が戦った闇の眷属たちは我がカラクリを見破れなかった者がほとんどだったからな。お前で四人目だ」


「へっ、そうかい。そいつぁありがたい……ね! ウィンドダーツ!」


 ダンテは起き上がりざまに風の矢を放つ。が、エスペランザの用いるディメンションウォールを突破出来ず、傷を付けることが出来ない。


 ウィンドダーツによる攻撃を防ぎつつ、エスペランザはどこからともなく錆び付いた懐中時計を取り出し、時刻を確認する。時計盤を見ながら、小さな声で呟く。


「ふむ。もういいだろう。遊びを終わらせるとしようか。――クイックタイム」


「な……がはっ!」


 直後、ダンテの身体に凄まじい衝撃が襲いかかる。突然、何百何千もの拳に殴られたような痛みがやってきたのだ。何が起きたのか分からず、ダンテは崩れ落ちる。


『ダンテ、しっかりしろ! 大丈夫か!?』


「ぐっ、クソ……一体何が起きた……? あのクソッたれは一歩も動いてねえのに、こんな傷を……」


 グリオニールに応えつつ、ダンテは起き上がろうとする。しかし、深刻なダメージを負った身体は言うことを聞かず、指一本動かすことが出来ない。


「おやおや、まだ生きているのか。確実に仕留めるつもりだったのだがね。まあいい。次の一撃でトドメを刺せば同じことだ」


『異神よ、そうはさせぬ。ダンテは私と血肉を共にせし盟約の狩人。ここで貴様に殺させるわけにはいかん』


「ほう、ではどうするつもりかね? 傷だらけの相棒の代わりに戦うか?」


『いいや、こうするのさ』


 そう言うと、グリオニールは突風を発生させてダンテの身体を浮き上がらせる。エスペランザが現れた空間の亀裂にダンテを飛ばし、次元の狭間へと逃げ込んだのだ。


 エスペランザは何もせず、黙ってダンテとグリオニールを見送る。懐中時計を懐にしまい、ニヤリと不穏な笑みを浮かべ空間の亀裂を消し去ってしまった。


「逃げたか。賢明な判断だ。奴らにとっても、私にとってもな」



◇―――――――――――――――――――――◇



「……そんなことが」


「ああ。ズタボロにやられちまったよ。完敗さ。でもよ、おかげで奴の空間を利用した攻撃についてお前に伝えられたのがラッキーではあるな」


 何があったのかを話し終えた後、ダンテはそう言い笑う。リオに心配をさせないように、わざと明るく振る舞っているのだ。敗北による悔しさを押し殺しながら。


「エスペランザ……まずいわね。恐らくあの方があなたを逃がしたのはただの慢心じゃない。狙いは……」


 メルナーデが呟いたその時。フォルネシア機構全体を凄まじい振動が襲った。警報が鳴り響き、どこからともなくアナウンスが流れて来る。


『警告! 警告! フォルネシア機構内に侵入者あり! 繰り返す、フォルネシア機構内に侵入者あり! 戦闘員はただちに迎撃に迎え! 侵入者は第八ブロックに出現! 繰り返す! 戦闘員はただちに迎撃に迎え!』


「遅かったわ。エスペランザがここへ侵入したようね」


「そんな、何の目的……そうか、ゴッドランド・キー! エスペランザの奴、鍵を奪うつもりだ!」


 リオはエスペランザがダンテをわざと見逃した真の理由に気が付いた。ダンテの魔力をたどり、フォルネシア機構に保管されている鍵を奪いに来たのだ。


「クソッ、オレが奴をここに誘い込んじまったのかよ! とことんダメじゃねえか!」


「いいえ、あなたのせいじゃないわ。元々フォルネシア機構は時空神の管轄下にある組織。元時空神であるエスペランザがここを襲うのは時間の問題だったわ」


「ダンテさん、メルナーデさん! 僕、エスペランザの足止めをしてきます!」


 悔しそうに拳をベッドに叩き付けるダンテに、メルナーデはそう声をかける。リオはエスペランザの企みを阻止するべく、一人アイージャたちの元へ向かう。


 ダンテはベッドから降り、側に立て掛けてあったコートを取り身に付ける。そんな彼の前に立ち、メルナーデは険しい顔をして押し止めた。


「待ちなさい。あなたの傷はまだ完全に癒えてはいないわ。そんな状況で加勢しても……」


「いいや、加勢に行く。誰がなんと言おうがな。元々はオレの不始末のせいでこうなったんだ。そのオトシマエはオレ自身がキッチリ着ける」


 メルナーデは説得するも、ダンテが首を縦に振ることはなかった。説得を諦めたメルナーデは、ため息をついた後懐から短剣を取り出した。


「力ずくで止めるつもりか?」


「いいえ、逆よ。そこまで言うなら、私も協力するわ。ここを破壊されるわけにはいかないもの。私の血を飲みなさい。龍族の血はあらゆる傷や病を治す万能の霊薬だから」


「むごっ!?」


 短剣で指先を切り、メルナーデは滲んだ血を指ごとダンテの口に突っ込む。すると、傷だらけだったダンテの身体がみるみる治っていき、完全に癒えた。


「おおっ、すげえ! サンキュー、これでまた戦えるぜ!」


「気を付けなさい。龍族の血による治療が出来るのは一度だけ。二回血を飲めば、あなたの身体が龍の力に耐えられなくなって死ぬわ。さ、行きなさい。悔いが残らないように」


 メルナーデに礼を言い、ダンテはリオを追いかける。しかし、彼は知らなかった。この戦いで、グリオニールと永遠の別れを迎えることになると。



◇―――――――――――――――――――――◇



「戦える者は前へ! かつての創世六神とは言え手加減は無用! フォルネシア機構を守るのだ!」


 その頃、ヴォルパール・Kは部下たちを率いてエスペランザの足止めを行っていた。第八ブロックを隔離し、異神の侵入を阻もうと奮戦する。


「ククッ、ムダなことだ。私には誰も勝てん。何故なら、時空神こそ創世六神の中で最強だからだ。それを知らんことはあるまいよ、なあ? ヴォルパール・K!」


「ぐあっ!」


「ぎゃああ!」


 エスペランザは瞬間移動を繰り返し、空間と時間の力を宿した手刀を戦闘員たちに叩き込む。ある者は空間ごと圧縮されて消滅し、ある者は急速に老化して骨になってしまう。


 空間と時間。何者もその影響からは逃れることは出来ない。故に、エスペランザは己を最強と自負しているのだ。


「くっ、まずいですね。このままでは……」


「いた! ヴォルパールさん、僕たちも加勢します!」


「ありがたい! 頼りにしてますよ!」


 そこへ、リオとアイージャ、ダンスレイルが到着した。三人の姿を見たエスペランザは目を細め、恭しくお辞儀をする。


「これはこれは。お初にお目にかかる。私のことは……その顔つきからして知っているようだね。なら、挨拶は不要かな?」


「いらないよ、挨拶なんて。お前に鍵は渡さない。ここでやっつけてやる!」


 そう叫びながら、リオは右腕に不壊の盾を、左腕に飛刃の盾を装着する。アイージャたちもそれぞれの武器を呼び出し、戦闘体勢に入った。


 その直後、エスペランザの指が僅かに動く。リオたちはそれを見逃さず、不可視のディメンションブレードを避け、少しずつ異神へ接近する。


「ほう! あの男から私について聞いているとは思っていたが、初見で避けてみせるとは! これは素晴らしい。少しは本気を出せそうだ」


「なら、出してみなよ。言っとくけど、僕たちは負ける気はないからね!」


 最後の異神、エスペランザとリオたちの戦いの火蓋が切って落とされた。

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― 新着の感想 ―
[一言] よもやこんな所まで追って来るとはこれは逆に逃げられたら追えないぞ(゜ロ゜) まあ逃がすつもりもないんだろ?Σ(-∀-;)
[一言] ダンテ?……冗談でしょ?冗談だと……
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