139話―創命異神ラギュアロス
時は少し巻き戻る。リオたちがティタンドールを起動させていた頃、一足先にテントへ戻ったガルキートたちの元に悪い知らせが届いた。
歯車やパイプ、金属の塊で出来たなにかが、テントに向かって雪原を進行しているのが確認されたというのだ。ガルキートは指揮を採り、部下に偵察をさせる。
「ガルキート将軍、お主此度の敵についてどう思う?」
「まだなんとも言えませんね。しかし、我が国の宝たるキカイを奪い粗末に扱うとは……許せない相手ではあります」
アイージャたちは偵察部隊が戻るまでの間、布陣を整える。いつ敵が到着してもいいように、魔法を使って雪の壁を作ったり、雪上を移動出来る大砲を設置していく。
その最中、ガルキートにアイージャが問いかけた。彼女の問いに、ガルキートは怒りの念をはらませつつ答える。今回の敵に、かなり怒っているようだ。
しばらくして、偵察部隊が帰還する。謎の塊はもう間もなくテントに到達するとのことであった。知らせを受けたガルキートは、部下たちに迎撃準備をさせる。
「そろそろ始まるね、アイージャ。準備はい……ん?この匂い……」
「……油、か? だがそれにしては……やけに腐った匂いだ」
アイージャとダンスレイルも準備をしようとした、ちょうどその時。二人の鼻が腐った油の匂いを捉えた。あまりにも酷い悪臭に、二人は顔をしかめる。
「ん? 二人ともどうし……」
「ガルキート様! 例の塊が来ました!」
ガルキートが二人の異変に気が付くのと同時に、謎の塊が到着した。十メートルほどの大きさがある塊は大砲の前で停止し、まるでアイージャたちを観察するように佇む。
騎士たちは大砲に砲弾を装填し、いつ攻撃命令が出てもいいように備える。ガルキートが指令を下そうとしたその瞬間――塊から金属を擦り合わせたような声が発せられた。
「おやオヤ。わザワざご馳走ヲ用意してクレているとハ。嬉しいモノだ。ククク、計画通リ魔神タチもいルナ」
「こいつ、喋れるだと……!?」
その場にいた全員が、驚きで固まってしまう。直後、塊がうごめきその形を変えていく。歯車を回し、パイプから吹き出させ、パーツをスライドさせ――ソレは巨人へと変わる。
瞬きしている間に、ティタンドールに匹敵する二十メートル近い機巧の巨躯を持つ巨人がアイージャたちの前に立っていた。巨人は身を屈め、顔を近付ける。
「ヒッ……!?」
「な、なんだこいつ……首、首から上が……!」
屈んだ巨人の頭部を見た騎士たちは戦慄し、恐慌状態に陥ってしまう。巨人の頭部だけが、人間の赤ん坊のソレだったのだから無理もないことだ。
「貴様……何者だ! 名を名乗れ!」
「ク、ク、ク。勇マシいものダな、魔神よ。我ハ創命異神ラギュアロス。かつて生命ノ誕生を司リし神ナり」
アイージャが叫ぶと、異形の巨人――創命異神ラギュアロスは己の名を告げた。胸のパーツがスライドし、内部にあるヒビ割れた緑色のオーブが挨拶をするかのように露出される。
オーブが見せびらかされた後、再び体内に収納された。
「へえ、命の誕生を司る神だったクセに、今はキカイと融合してるのかい? それは御愁傷様だね」
「ファルファレーが用意シタ器ガ馴染マなかったノデな。これはコレで気に入ッテいるゾ? ク、ク、ク」
ダンスレイルの皮肉にも動じず、ラギュアロスは口元を歪め不気味に笑う。次の瞬間、右腕を薙ぎ払い大砲ごと騎士たちを轢き殺してしまった。
突然の行動に、アイージャたちは反応すら出来ずただ立ち尽くす。ラギュアロスは笑みを浮かべたまま、ゆっくりと腕を振り上げる。
「何ヲ呆ケていル? 我は遊ビに来たノデはないぞ。貴様ラを……ホロボシニキタノダ!」
「全軍退避! 逃げろおおぉ!!」
我に返ったガルキートが、振り下ろされる拳を見て叫ぶ。辛うじて生き残った騎士たちの退避が間に合い、拳からは逃げることが出来た。
しかし、巨大な拳が打ち下ろされた際に発生した衝撃波から逃れることは出来ず、アイージャとダンスレイル以外の者たちは吹き飛ばされてしまう。
「ぐうっ……! なんという風圧だ、危うく吹き飛ばされてしまうところであったぞ」
「アイージャ、彼らが回復するまで時間を稼ぐよ!」
「了解だ、姉上!」
アイージャたちは気絶し騎士たちが目覚めるまでの時間を稼ぐため、ラギュアロスに突撃する。足でアイージャを掴み、ダンスレイルは空高く飛翔していく。
それを見た創命異神は、屈むのを止めゆっくりと立ち上がる。細い目が飛翔する魔神の姉妹を捉え、ゆっくりと腕が振りかぶられた。
「ク、ク、ク。お前タチは……ドンな声デ鳴イてくレルかな!」
「く……わわっ!」
腕を避けることは出来たダンスレイルだが、風に煽られてバランスを崩してしまう。そこへすかさず追撃の左腕が打ち込まれるも、アイージャが阻止せんと攻撃を放つ。
「隙……アリ!」
「させん! ダークネス・レーザー……ヒートブレイド!」
高熱を帯びた闇の光線がアイージャの手のひらから放たれ、ラギュアロスの腕を押し返す。そのまま腕を溶断し、どうにか窮地から逃れた。
「助かった、アイージャ。さあ、今度は私の番だ! 出でよ、巨翔の斧!」
「フン、ムダなコトを」
ダンスレイルは羽根の生えた巨大な片刃の斧を呼び出し、口笛を吹いて斬りつけさせる。生身である頭部を狙うも、機械パーツがせり上がってヘルメットになり防がれてしまう。
ラギュアロスは溶断された左腕を拾い上げ、切断面同士を押し付ける。すると、断ち斬られたはずのパーツが復元され、傷痕一つ残ることなく元通り繋がってしまった。
「なっ!?」
「バカな!?」
「ク、ク、ク。残念ダッたな。我は命ヲ司る者。キカイの身体をもコウして再生サセられるノダ!」
驚愕する二人を見ながら、ラギュアロスは笑う。手のひらを広げて両腕を振り上げ、二人を叩き潰そうとする。ダンスレイルは猛スピードで前進し、手から逃れた。
一度ラギュアロスから距離を取り、対策を話し合う。
「姉上、どうする? 再生能力がある以上、中途半端な威力の攻撃では奴を倒せんぞ」
「それは分かってるん、だけどねぇ。ビーストソウルを解放して……くっ! 確実に勝てる保証があるわけでもなし。苦戦は免れないね!」
ラギュアロスの攻撃を避けつつ、二人はどうすればかの異神を倒せるのか意見をぶつけ合う。が、キカイという未知のモノに対する知識のない二人では、有効な策を閃けない。
「ク、ク、ク。どウシた? ただ逃げテイルだけデは、我ニは勝てンぞ? オ前たちガ戦うツモりがナイのならバ……先に伸びテいる奴ラから殺すトしヨウ!」
「まずい! ローズバインド!」
「なんダ、コンナモノ!」
いまだ気絶したままのガルキートたちに狙いを変更し、ラギュアロスは拳を振り下ろそうとする。ダンスレイルは手から八本のイバラを伸ばし、異神の腕を絡め取った。
攻撃を防ごうと力を込めて引っ張るも、二十メートル近い巨躯であるラギュアロスに力では勝てない。逆にイバラごと振り回され、二人は地面に思い切り叩き付けられてしまう。
「ぐっ……!」
「かはっ!」
「ホウ、まだ生キているカ。流石ハ魔神、ファルファレーから聞イていたが頑丈ナものダ」
幸いなことに、地面が柔らかい雪だったためどうにかアイージャたちは即死を免れた。が、全身がバラバラになりそうな衝撃を受け、少しの間まともに動けなくなってしまう。
どうにか立ち上がろうとするも、二人が負ったダメージは深刻で、傷を治さない限りこれ以上戦うのは不可能であった。ラギュアロスはゆっくりと足を上げ、二人を踏み潰そうとする。
「あっけナイものダ。結局、運命ハ変わらナイ。お前タチは一人残ラず、ここデ死ぬのダ!」
「死ぬ……? ははは、私たちは死なないよ。だって……まだ、切り札が……リオくんがいるからね!」
「ナニヲ……!?」
次の瞬間、ラギュアロスの身体が吹き飛んだ。何者かに真横から体当たりされたのだ。五メートルほど吹き飛び、雪原を転がっていく。
「間に合った、かな。それにしても、何だか凄いのが出てきてるね、ふーちゃん」
「そうですね、我が君。あのような醜悪な姿、わたくしならば到底耐えられません」
ついに、リオとファティマが操縦するティタンドールが戦場に姿を現したのだ。リオは拡声器を使い、離れるようにアイージャたちに告げる。
アイージャたちが僅かに生き残った騎士たちを連れ撤退した、ちょうどその時。ラギュアロスが起き上がり、怒りに満ちた表情でティタンドールを睨み付けた。
「ヨクもやってクレたナ。我の真似事ナドしおっテ。その程度デ勝てルとでも思ったカ!」
「勝てるさ! お前がどこの誰かは知らないけど……僕たちの目の前で! これ以上好き勝手なんかさせない! メガスチーム・ナックル!」
リオが叫ぶと、バトルプログラムが起動する。ティタンドールの右腕が引かれ、肘に格納されていた魔導ブースターエンジンが稼働する。
そして、目にも止まらない高速のパンチが、突撃してくるラギュアロスへ放たれた。
「なっ……ググアッ!!」
顔面にカウンターを食らう形になったラギュアロスは、今度は仰向けに倒れ込む。ティタンドールはファイティングポーズを取り、異神を挑発する。
「さあ、かかってきなさい、異形の者よ。このわたくし、ファティマと……」
「この僕、リオがお前をやっつけてやる!」
機巧の巨人同士の一騎討ちが、始まった。




