138話―超兵器ティタンドール
町を飛び出したリオたちは、兵士たちを追って雪原を進む。あれだけ吹き荒れていた吹雪がピタッと止んでおり、不気味なほど晴れ渡った空が広がっていた。
兵士たちは雪原に設置された大きなテントの中に入っていく。テントは屈強なドワーフの騎士たちに守られており、緊迫感に満ちた表情で見回りが行われている。
「何を話してるんだろう。たくさん騎士の人たち来てるけど……」
「ん? 君たち、そこで何をしてるんだい? ここは関係者以外接近禁止……おや!? 君、もしかしてあの有名な魔神の少年かい!?」
その時、見回りをしていたドワーフの騎士がリオたちに気が付いた。追い払おうと声をかけてくるも、相手がリオであることに気付き表情を明るくする。
「そうですけど……」
「やっぱり! こんなところで会えるなんてついてるなぁ! ちょっとついてきてくれるかい? 君の力が必要なんだ!」
騎士に懇願され、リオはテントへ向かう。敵の正体が分からない以上、グリアノラン軍と協力して戦ったほうがいいだろうと考えたのだ。
テントの中に入ると、ここで待つようにと言い残し騎士が去っていった。リオたちのことを上官に伝えに行ったのだろう。しばらくして、別のドワーフがやって来た。
「話は部下から伺いました。偉大なる魔神よ、ご協力感謝致します。私はガルキート。グリアノラン軍の将軍です。以後お見知りおきを」
「よろしくお願いします、ガルキートさん」
雪原での迷彩効果を持つ白銀の鎧を身に付けたドワーフの男、ガルキートは丁寧な物腰でリオに声をかける。テントの中を案内されながら、リオたちは彼の話を聞く。
つい先日、大きな霧がとある町を襲ったのだという。霧は町を構成していた蒸気パイプや歯車を全て奪い去り、町を滅ぼしたらしい。事態を重く見た女帝が、霧を追うよう命じたとのことだった。
「霧……ガルキートさん、僕その霧の正体に心当たりがあります」
「なんと! それは本当ですか!? 是非お聞かせ願いたい!」
リオはガルキートに霧の正体……異神のことを伝える。事象の地平から現れた、大地の敵対者にしてかつての神。彼らの存在と目的を聞き、ガルキートは顔をしかめる。
ファルファレーに協力し、この大地を蹂躙しようとしている存在がいると知ったのだから無理もない。しかし、リオにも分からないことが一つだけあった。
(……おかしい。なんでふーちゃんを狙わないでこの国を襲ってるんだろう? ヴァンガムやペルテレルみたいに僕たちを襲わないなんて……何か変だ)
エスペランザを首謀者とする四人の異神は、リオたちを離れ離れにして一人ずつ始末するために襲ってきた。実際、ヴァンガムもペルテレルも間髪入れず現れた。
しかし、今回の異神は違う。ファティマを放置し、グリアノラン帝国で悪さをしている。何のために歯車や蒸気パイプを集めているのか、リオたちには想像も出来ない。
「なるほど、異神ですか……。しかし、リオ殿が手を貸してくださるのであれば我々にも勝機があります。皆様に見せたいものがあります、こちらへ」
ガルキートには何か策があるらしく、リオたちを案内する。天幕で仕切られた部屋に入り、床に描かれた魔法陣を起動させ別の場所へと転移させられたリオたちが見たものは……。
「わあっ、凄い! 歯車の巨人だ!」
「なるほど……巨大な搭乗型自動人形ですか。これを使って戦う、と」
転移した先は、帝国の武器庫だった。その一角にある広いドックの中に歯車と蒸気パイプで構成された、二十メートルはある機巧の巨人が静かに立っていた。
グリアノラン帝国が誇る超兵器、ティタンドールである。ファティマの呟きに、ガルキートは頷き機巧の巨人を見上げた。
「神が敵とあらば、ティタンドールを起動させねばならないでしょう。しかし問題が一つありましてね。我々では魔力が足りず起動させられないのですよ」
「なるほどね。そこで僕にこれを動かしてもらおう、ってことかな?」
察しのいいリオに、ガルキートは申し訳なさそうに頷く。有事の際の切り札にと作られたが、稼働させるのに膨大な魔力が必要となるが故に、魔力に乏しいドワーフや魔傀儡では動かせない。
が、リオやアイージャのような魔神なら話は別だ。膨大な魔神の魔力を使えば、ティタンドールを問題なく稼働させることが出来るだろう。
「ですが、あなた一人だけに任せっぱなしということはしませんよ。内部のコックピットは二人乗りなので、誰か優れた技術者とサポートとして……」
「その必要はありません。このわたくしが我が君をサポート致します」
ガルキートの言葉を遮り、ファティマが名乗りを上げる。アイージャも名乗りたそうにしていたが、こういう技術に関してはちんぷんかんぷんなため諦めたようだ。
魔王によって造り出されたファティマであれば、サポートには適任であろう。ファティマの見た目から、彼女が人ではないことを見抜いていたガルキートは納得したらしい。
「まあ、それでもいいでしょう。見たところ、あなたも魔傀儡のようですしね」
「感謝します、ミスターガルキート。ですが、一つ訂正しましょう。わたくしは命を得た人形……魔傀儡ではありません。この世でただ一人、我が君のために造り出された自動人形です」
少しムッとしたような表情を浮かべ、ファティマはガルキートの言葉を訂正する。自分がリオのために造られた人形であることに誇りを持っているらしい。
「済まない。訂正させて――! このアラーム……奴が来たようですね」
その時だった。ドック内に警報が鳴り響く。帝国を脅かす異神が、テントの近くに出現したらしい。ガルキートは通路の端に設置してあったパネルを起動させる。
すると、ティタンドールの胸の部分が開き、中からリフトが降りてきた。リオとファティマは互いに頷き合い、リフトに乗りコックピットへと入っていく。
「リオくん! 私とアイージャは先にテントへ戻っているよ! 待っているからね!」
「ダンねえ、分かった!」
ダンスレイルたちはティタンドール到着までの時間稼ぎをするため、ガルキートと共にテントへ戻っていった。リオたちがコックピット内に入ると、どこからともなく声がする。
『パイロットの認証を開始……認証完了。ようこそ、コックピットへ。ブレインコントロールデバイスを装着し、エントリーしてください』
「えっと、これかな?」
音声案内に従い、リオはコックピットの天井からぶら下がっているヘルメットのようなものを頭に被る。すると、ティタンドールがパイロットを認識し起動し始めた。
コックピットのハッチが閉じ、両腕を入れ固定するための筒が現れる。ファティマはその筒に両腕を入れてロックし、ティタンドールの情報を読み取っていく。
「……なるほど。これでだいたいの情報は読み取り終わりました。我が君、わたくしに抱き着いてください。アーマープロトコルを展開して情報を渡します」
「分かった。これでいい? ふーちゃん」
リオが後ろから抱き着くと、ファティマの背面が分解されていく。リオの両腕と腹に鎧として装着された後、自分が読み取った情報を魔力に変え送信される。
「ありがと、ふーちゃん。僕もだいたい分かったよ」
「では、そろそろわたくしたちも動くとしましょう。二人で息を合わせれば、稼働は容易かと」
「うん。いくよ!」
操縦方法を学んだリオは、ブレインコントロールデバイスを用いてティタンドールを起動させる。姿勢維持用の拘束具が外れ、歯車が回り蒸気がパイプの中を駆け巡っていく。
機巧の巨人が目を覚まし、ゆっくりと動き始める。コックピット内にあるレバーが自動で下がり、転移魔法がひとりでに発動された。目指すは、アイージャたちがいるテントだ。
転移が完了し、ティタンドールは何もない雪原へ転送された。リオは転んでしまわないよう、ゆっくりと足を動かしティタンドールを歩かせる。
「おっとっと……よしよし、だんだん慣れてきたぞ。このまま走ってくよ、ふーちゃん」
「かしこまりました、我が君。サポートはわたくしにお任せくださいませ。何があっても……我が君を守り抜いてみせましょう」
「大丈夫だよ。僕たち二人が揃ってれば、全部無事に終わるさ」
ティタンドールを走らせ、リオたちはアイージャたちの元へ向かう。異神を打ち倒し、ドワーフたちを助けるために。




