137話―吹雪の中の再会
無事ペルテレルを打ち倒したリオたち。一息ついていると、どこからともなく紅炎の剣が飛来し、異神が立っていた場所に突き刺さった。
「うおっ!? なんだあの剣、どっから飛んできた!?」
「大丈夫だよお姉ちゃん。あれはね……」
僅かに残っていた闇寧神の力の残滓を吸収する剣に驚いているカレンに、リオは説明をする。その間に剣は力の吸収を済ませ、再びどこかへ飛んでいった。
戦いが終わり、カレンとリオは獣の力を解除し元の姿に戻る。カレンは完全に力をコントロール出来るようになったことで、常に腰から蛇の尾が生えているようになった。
「なるほど。そのエルカリオスってのが鍵をねぇ……」
「うん。これで異神は四人倒したから……残りは二人か」
リオとカレンはそんな会話をしながら、体力回復のためのんべんだらりとしていた。リオの方はまだまだ余力がたっぷりあったが、カレンは初めて獣の力を使ったため疲弊している。
四人で話し合った結果、一度カレンを屋敷へ帰し休息を取ってもらうことになった。これまでアイージャたちの代わりに戦い抜いたカレンへの、せめてもの礼であった。
「わりいな、ホントはもっと一緒に戦いてえけど……もう身体が限界だ。少し休むぜ」
「ううん、気にしないで。ゆっくり休んでね、お姉ちゃん」
「ああ。体力が戻ったら……その時はまた助けに行くからな。待ってろよ、リオ。あ、そうだこれ持ってけ。必要なんだろ? その籠手の力を引き出すために」
そう言うと、カレンは右手をぎゅっと握り締め魔力を集める。手のひらが開かれると、そこには小さな黄色の宝玉が乗せられていた。
「ありがとう、お姉ちゃん。これ、貰うね」
リオはカレンから宝玉を受け取り、ジャスティス・ガントレットの窪みに嵌め込む。これで、集めた宝玉は四つになった。
「アタイの分まで頑張れよ、リオ!」
「うん!」
言葉を交わした後、カレンはリオが呼び出した界門の盾を通って帝都ガランザへ帰っていった。彼女を見送った後、リオたちは残り二人の異神の追跡を再開する。
次にリオはファティマの魔力を探り、彼女がどこにいるのか探し出そうとする。しばらくして、リオは彼女の魔力を捉えた。遥か遠く、北東にいるようだ。
「……見つけた! 二人とも、行こう!」
「うむ。しかし、魔王の造り出した自動人形か……。珍妙なものよ、なあ姉上」
「だねえ。案外、私たちの助力はいらないかもね」
リオの言葉に頷きつつも、アイージャとダンスレイルは冗談混じりにそんなことをのたまう。二人はファティマをグランザームの差し金かもしれない、と警戒しているのだ。
とはいえ、リオの決めたことに逆らうつもりは毛頭ない。万が一ファティマが牙を剥けば、即座に排除する。心の中でそう決意し、二人は互いに頷きあった。
「どうしたの? 内緒話なんてして」
「ん、なんでもないぞ。相変わらずリオは勇ましくて可愛らしいと話していただけだ」
「えへへ……」
アイージャに上手く誤魔化されてしまったものの、リオは特段二人の内緒話を気にすることはなかった。界門の盾のいきさきを変更し、三人は中に飛び込んだ。
◇―――――――――――――――――――――◇
「よっと! つい……わっ、寒い!」
「あやや、吹雪いてるねぇ。リオくん、こっちにおいで。ふわふわの羽根で包んであげるよ。暖かいからね」
界門の盾を飛び出したリオたちを出迎えたのは、猛烈な勢いで吹き荒れる吹雪だった。アーティメル帝国の北、ドワーフと魔傀儡たちが住まう歯車と蒸気機関の超大国――グリアノラン帝国に移動したのである。
「うう、寒いなぁ。いつまでもこんなとこにいたら凍えちゃうよぉ。早く移動しよ?」
「そうだな。とはいえ、どこに向かえばいいのやら」
アイージャがぼやいた通り、リオたちが出たのは吹雪が荒れ狂う雪原。どこに行けば町にたどり着けるのかさっぱり分からないのである。
このままの状態が続けば、ファティマ捜索どころではなくなってしまう。凍死するのはごめんだとリオが考えていると、どこからか音が響く。
音は吹雪に紛れながら、リオたちの元へ向かってきていた。顔を強張らせるリオを見て、アイージャたちも何かが迫ってきていることに気付き警戒する。
「……リオ、姉上、何かが来る。気を付けよ」
「うん。もしかして、異神に気付かれたかな?」
敵に自分たちの存在を気取られたかと心配するリオだったが、すぐにそれは杞憂だったことを知る。北の方から雪を掻き分け、ファティマがやって来たからだ。
ファティマの下半身はテントの時のように変形しており、グリアノラン帝国で使われる乗り物、マジックスノーモービルになっていた。恐らく、雪上をスムーズに移動するためだろう。
「我が君! ああ、ようやく……ようやく再会することが出来ました。転移機能が破損して……わたくしは、わたくしは……」
「よしよし、大丈夫だよふーちゃん。もう離れ離れにはならないからね」
エスペランザによって離れ離れにされてから、ファティマはずっとリオを探していたのだろう。詳しく話を聞くと、転移魔法を使うための装置が壊れ、探索に支障を来していたと言う。
「それでも、僕を探そうとしてくれてたんだね。本当にありがとう、ふーちゃん」
「……いえ、我が君。わたくしは従者として当然の務めを果たそうと……して……」
「ふーちゃん!? 大丈夫!? しっかり!」
その時、ファティマの身体がふらつき、倒れてしまった。リオは彼女の身体を揺さぶり、意識を取り戻させようとする。ファティマは僅かに意識を取り戻し、リオにささやく。
「わたくしの……メイド服のポケットに……ゼンマイが……巻いて……くだされば……」
「ゼンマイ、か。リオよ、こやつを助ける前にまずはこの吹雪から逃れるとしよう。はっ!」
エネルギー切れ寸前のファティマを助けるべく、アイージャは鎧を展開しドーム状の壁を作る。ダンスレイルが植物を生やして床を作り、冷たい雪を遮った。
ファティマはうつぶせに寝かされ、とうとうエネルギーがすっからかんになってしまったようで動かなくなる。リオはメイド服の背中の部分を開き、穴にゼンマイを差し込む。
「えっと、どうやって回せば……まあいいや、まずは時計回りに巻いてみよっと」
ここで問題が一つ起きた。霊峰カウパチカにてファティマの動力がゼンマイ仕掛けであることは聞いていたリオだったが、どうゼンマイを巻けばいいのか分からないのである。
とりあえず時計回りにゼンマイを巻くことに決め、ゆっくりとゼンマイを巻いていく。ギコ、ギコ、という音が響き、ファティマの体内から歯車の回る感覚がリオに伝わってきた。
「うーん、これでいいのかな。十回くらい巻いたけど……わっ!」
「……エネルギーチャージ完了。システムを再起動します」
なんと、たった十回ゼンマイを巻いただけでファティマが再起動したのだ。とんでもない低燃費っぷりに、リオだけでなくアイージャたちも舌を巻く。
「……姉上よ。オートなんとかとやらは凄いものだな」
「そうだねぇ。私も驚きだよ。それとアイージャ、なんとかじゃなくて自動人形だよ」
アイージャとダンスレイルがそんな会話をしている間、ファティマは起き上がり服のしわを直し背中の部分を閉じる。スカートの裾を摘み、恭しく頭を下げた。
「ありがとうございます、我が君。これで十日はゼンマイを巻かずとも行動出来ます。これより……ガーディアン・プロトコルを再開します」
「よかった、また動けるようになってよかったよ、ふーちゃん」
リオはファティマが無事活動を再開したことを喜ぶ。彼女に案内され、三人は北にある小さな町マキャラナへ向かう。
町に入り、広場で一息つく。高い防御壁とドーム状の結界により、ようやくリオたちは吹雪から解放された。
「ふう。やっとあったかいところに来られたね」
「そうだな、リオ。ん? 肩に雪が残っておるぞ。妾が……」
「我が君、雪を払って差し上げます。さ、こちらへ」
アイージャがリオの肩に残ったままの雪を払おうとすると、ファティマが先に雪を落としてしまった。自分の役割を奪われたようで、アイージャは面白くなさそうに頬を膨らませる。
「あやつ……新参者のクセに妾のポジションを奪うつもりか……? むむむ、リオの姉一号の座は渡さんぞ」
「……ふふ」
対抗心を剥き出しにするアイージャに対し、ファティマは余裕の笑みを浮かべリオの腕に抱き着く。二人の乙女が火花を散らすなか、突如町の中に警報が鳴り響いた。
耐寒武装をした兵士たちが慌てて町の外へ向かい、住民たちは急いで建物の中へ避難していく。それを見ていたリオは、何かあったのかと首を傾げる。
「なんだろう、魔物でも襲ってきたのかな?」
「強大な敵性生命反応……いえ、これは……。我が君、恐らくこの町に接近しているのは異神レベルの存在。我々も加勢したほうがいいかと」
ファティマの進言を聞き、リオは頷く。ただの魔物が相手なら兵士たちに任せても問題ないが、異神……あるいは異神に匹敵するなにかが敵ならば、傍観しているわけにはいかない。
「みんな、行こう! もし異神が相手なら、兵士さんたちが危ない!」
「うむ。任せておくがよい、リオよこの妾……」
「わたくしにお任せください、我が君。貴方様の敵は全てわたくしが滅してみせましょう」
自分のセリフを遮られ、アイージャは頬を膨らませる。降り止まぬ吹雪の中に、四人は再び飛び出していった。




