136話―死者たちの逆襲
憎悪を燃やすペルテレルを前に、カレンはリオを降ろし共に並び立つ。リオは盾を、カレンは鎚を。それぞれの武器を手に、闇寧異神と対峙する。
「ははあ、君かい? 死者たちを埋葬したのは。よくもやってくれたねぇ。おかげでボクは大損害さ」
「……なんのことかは分からないけど、ロクでもないことだっていうのは分かるよ。だって異神だもの。お前はここで倒す! 覚悟しろ!」
ペルテレルにそう啖呵を切ったリオは、飛刃の盾を投げつけ先制攻撃をお見舞いした。ステッキをひるがえし、盾を切り裂いたペルテレルはリオに接近する。
返す刀で斬撃を放とうとするも、間に割り込んだカレンのしっぽに阻まれてしまった。そのまましっぽに弾き飛ばされるも、空中で体勢を整え着地する。
そこへ間髪入れず、アイージャとダンスレイルの攻撃が炸裂した。
「休憩などさせぬぞ? ここで死するがいい! ダークネス・レーザー!」
「そうさ。何がなんでも仕留めさせてもらう! 呼び笛の斧!」
闇のレーザーと手斧が放たれ、ペルテレルを抹殺するべく襲いかかる。舌打ちをしつつ、異神はステッキを地面に突き刺して土の壁を作り出す。
ドーム状の土の壁が現れ、ペルテレルを覆い隠してしまう。リオとアイージャ、ダンスレイルは攻撃を繰り返すも、土の壁は硬く三人の攻撃を寄せ付けない。
「くっ、いやに硬い土だ。壊すのは骨が折れるな」
「ならアタイに任せな! あんなモン、ぶっ壊してやる! ライトニングブレイク!」
カレンは鉄槌を振り回して雷の力を素早くチャージし、電撃を土のドームに落とした。リオたちの攻撃ではビクともしなかった土がいとも容易く砕け、消滅する。
単純な破壊力だけなら七魔神最強を誇る雷撃を前に、生半可な防壁は意味を成さない。カレンは、ドームの中に隠れていたペルテレルに追撃を放とうとするが……。
「おぉっと、そこまでぇ~。はい、またまた死者を取り込んじゃいました~。いえ~い」
「そんな!? 遺体は全部埋葬したのに!」
ペルテレルのドレスが変化し、死者たちの顔が浮かび上がっていたのだ。旧市街に放置されていた遺体は、確かにリオたちによって埋葬された。しかし……。
「ざ~んねん。君たちが立ち入ってない王宮の中にも、死体はたくさんあるんだよぉ? ほぉら、騎士たちの遺体がねぇ」
異神が取り込んだのは、王宮の中に遺されていた死体だった。王女エリルを守るため散っていった騎士やケリオン王の骸を、ペルテレルは弄んでいるのだ。
あまりの胸糞悪さに、リオたちの表情が憎悪に歪む。こいつだけは、絶対に生かしてはおけない――四人の思いは一つに重なる。
「ペルテレル! てめえ元は死者に安らかな眠りを与える神なんだろ!? こんなことしてタダで済むと思ってんのか!」
「思ってるよぉ? だってボクはカミサマだも~ん。こんな骸どもなんか、いつでも好きに出来るもんね~。ねぇ、おっさん?」
心底愉快そうに、ペルテレルは己の左胸付近に生えている死者の頭に呼び掛ける。リオたちは知らなかったが、彼女が呼び掛けた死者こそ、エリルの父ケリオン王だった。
「う、あ……。エリル、エリルよ……。お前は、無事生き延びられたのか……?」
「ちぇ、こればっかり。騎士たちもこんな感じのうわごとしか言わないし、いじめ甲斐がないんだよねぇ。つまんな……」
「じゃあ、死になよ。彼らを解放してさ。ビーストソウル……リリース」
刹那――一瞬でリオが距離を詰め、流れるような動作で獣の力を解き放つ。氷爪の盾を呼び出し、唯一死者が宿っていない、ペルテレルの頭部へ突きを放った。
しかし、性根が腐り果てても神は神。ペルテレルは超反応を見せ、リオの攻撃を避けてしまう。これが魔王の配下たちであれば、今の一撃で勝負は決まっていた。
が、そうはならなかったのである。ペルテレルはステッキを振り回し、リオ相手に激しい斬り合いを行う。
「ほ~れほ~れ。遊んであげるよぉ。君はどこまで耐えられるかなぁ?」
「くっ、このっ!」
二人は激しい白兵戦を繰り広げる。それを見ていたアイージャたちは遠距離攻撃でリオに加勢しようとするも、二人の立ち位置が頻繁に入れ替わるせいでなかなか攻撃のタイミングを掴めない。
「クソッ、一瞬、一瞬でいい! あのクソ野郎の動きが止まりゃあ、アタイの雷を食らわせてやるのに!」
「とはいえ、下手に介入するのは危険だ。リオを巻き込んでしまっては元も子もないからな」
歯痒い思いを抱く三人を余所に、リオはペルテレルを切り裂いてやろうと氷爪の盾を振るう。激しい戦いのなか、爪の先端が僅かにケリオン王に触れた。
すると、リオの魔力に当てられたのか、王の目に理性の光が戻った。王はリオに気が付くと、小さな声でささやいてくる。
「……そこの、少年。エリルは……我が娘は、無事生き延びられたのだろうか? 知っているなら……教えて、ほしい」
「生きてる! あなたの娘さんは……エリルさんは僕たちが守り抜いた!」
激しい戦いのなか、リオは叫ぶ。エリルは生きていると。騎士たちの、王の死は――決してムダではなかったのだ、と。
「ふん、そんなこと叫んだからなにさ。何も変わら……うぐっ!?」
「え……!? な、何が起きてるの!?」
リオの叫びを聞き、嘲笑していたペルテレルがとつじょ苦しみ始めた。あまりにも唐突すぎてリオが困惑していると、ケリオン王は礼の言葉を述べ始める。
見ると、ペルテレルに取り込まれた騎士たちの目にも理性の光が戻っていた。自分たちの死が意味のあるものであっとことを知り、活力を取り戻したのだ。
「……ありがとう、少年。君が、エリルを……。ならば、我々はその恩に報いねばならない。死したる者の最後の働き……見せてくれよう! 我が騎士たちよ!」
「そうだ……! 俺たちの死に、この子は意味を与えてくれた! 王よ、我々も力を!」
「ぐ、あああああ!! やめろ! やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!! ボクの身体を食い荒らすなあああ!!」
ケリオン王たちは、ついにペルテレルに反旗をひるがえした。体内に潜り込み、異神の身体を内側から破壊していく。ペルテレルはステッキを死者たちの顔に突き刺して消滅させようとするも、もう遅い。
「う、嘘だ! ボクは闇寧神なんだぞぉ! 死者を支配する神なんだぁ! それが、それが……死者に、反逆されるなんて……」
「当然だよ、ペルテレル。お前は本来の役目を捨て、死者を弄ぶことに快楽を見出だしたんだ。そのお前が、いつまでも死者を従えていられるわけないじゃないか」
神としてのプライドを粉々に打ち砕かれ半狂乱になるペルテレルに、追い討ちと言わんばかりにリオは嘲笑を向ける。その時、ケリオン王がリオに向かって叫ぶ。
自分たちごと、ペルテレルにトドメを刺せと。滅びによる眠りを、自分たちに与えてくれと。
「……分かったよ。お姉ちゃーん!」
「おう! 任せなリオ!」
カレンはニッと笑い、素早くリオに近付く。リオはカレンの身体を抱き抱え、背中に双翼の盾を装着し空高く飛び上がる。盾と鎚、二人の魔神の合体技が炸裂しようとしていた。
「うう、がああああ!! くそぉ、離れろぉ! ボクの身体から出ていけぇ!」
「これは異なことを。我々を取り込んだのは、お前自身だろう?
神を騙る者よ。もう終わりだ。私たちもお前も……眠る時が来たんだ」
狂ったように叫ぶペルテレルに、ケリオン王は諭すように声をかけた。ちらりと視線を天に向け、リオたちを見つめる。
「いくよ、お姉ちゃん!」
「ああ、任せな! 合体奥義……」
「滅雷の……」
「盾鎚!」
リオとカレン、二人の声が重なる。次の瞬間、盾の形をした雷がペルテレルに向かって発射された。死者たちの相手をしていたペルテレルに、避けるだけの体力は残っていない。
「うぎゃあああああ!! 嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、嘘だあああああああああああああああ!!!!」
「これで終わりだ! あの世で死者たちに詫び続けろ! ペルテレル!!」
断末魔の叫びを残し、ペルテレルは塵一つ残さず消滅していった。これまで死者たちに与えた、何十倍……何百倍もの苦痛を味わいながら。
ペルテレルが立っていた場所から無数の光の粒が現れ、ゆっくりと天へ還っていく。ようやく、死者たちに安らかな眠りが与えられたのだ。
――ありがとう、少年。これで、ようやく眠れる。
ケリオン王の声なき声が、リオの耳に届く。地上に降りたリオは、静かに目を閉じ――哀悼の意を捧げていた。




