122話―禁断の同盟、結成!?
「ほう、神の力か。いいだろう、やってみるがいい。精々、借り物の力で足掻くことだ」
「忌々しい奴め……! ならば望み通り見せてやる! 【神眼】発動!」
ファルファレーは目を見開き、神の力を行使する。瞳が黄金の輝きを放ち、それまで視ることが出来なかった不可視の存在を捉えることが出来るようになった。
「……なるほど。不可視の刃……七つか。忌々しいものだ。こんな手品で我が足を切り落とすとは」
神眼の力で虚空針の正体を見極めたファルファレーは、苛立ち混じりに呟く。空中を浮遊し、自在に動く七つの透明なブレードが触れるもの全てを切り裂く。
単純ながらも非常に厄介な技であることに気が付いたのだ。周りを囲まれれば、それだけでファルファレーが取れる行動は限りなくゼロになってしまう。
それを理解しているからこそ、グランザームには余裕があったのだ。とはいえ、虚空針にばかり頼るつもりもまた毛頭ないようではあるが。
「手品、か。確かにな。この虚空針も先ほどの万魔鏡と同じく試金石の技。捌ける者であれば簡単に捌けるが、そうでない者にとっては致死の技。貴様は……なるほど、前者だったか」
「どこまでも見下しおって……! まあいい。カラクリさえ分かれば対処など容易いわ!」
そう叫ぶと、ファルファレーはツインブレードを振るい7つの虚空針のうち、四つを瞬く間に砕いてみせた。それを見たグランザームは目を細め、大鎌を構える。
再び二人の激しい打ち合いが始まり、金属音が響き渡る……その時だった。器なきかつての神が、グランザームという『異物』を見つけ姿を現したのだ。
『おや。おやおやおや。これはこれは。我らが住まう地に不届き者が現れるとは。ファルファレー、こいつが例の魔王か?』
「貴様らは……! くっ!」
異神の登場に気を取られ、グランザームはファルファレーの攻撃を食らってしまった。一度距離を取り、傷を再生させながら様子を窺う。
ファルファレーは攻撃の手を止め、現れた異神と何やら話をしている。髑髏の形を取った霧が不気味にうごめき、何かをささやいているようだ。
(奴ら……何を話している? チッ、異神どもに勘づかれた以上、ここに留まるのは得策ではないか……。仕方あるまい、一度撤退するしか……)
「おや? もう帰り支度かな、魔王よ。なら、一ついいのを見せてやろう。異神より譲り受けたとっておきだ……」
魔王といえども、複数の異神たちと戦うのは勝機なしと判断し撤退の準備を進める。その直後、ファルファレーが得意気に声をかけてくる。
そして、グランザームがリオと同盟を組むことを決めた、脅威の一撃を放ったのだ。
「受けてみよ! ダークネス・コドン!」
「なっ……この技は! 貴様、異神の力を手に入れたのか!」
ファルファレーのの手から闇の波動が放たれ、グランザームに襲いかかる。障壁を作り出して防ぎながら、魔王は驚愕の叫びをあげた。
真なる神々にしか使うことが出来ない技を容易く使ってみせたファルファレーに、事ここに至ってついにグランザームは脅威を覚えたのだ。
「クハハハハ! その通り! 我は手に入れたのだ! かつて闇寧神と呼ばれた神の力をもな! 待っているがいい。我は残る神々の力も手中に収め……貴様たちを滅ぼしてくれようぞ!」
「……なるほど。それが今回の貴様の狙いか。ならば、余もカードを切らせてもらう。出来れば使いたくなかった……が……な……」
攻撃に耐えきれず、障壁が砕け散る。高笑いをするファルファレーに、魔王の分身はそう言い残し闇の奔流に呑まれ消滅した。
そして、グランザームは決意する。不倶戴天の敵であるリオと手を結び、ファルファレーたちに対抗することを。
◇―――――――――――――――――――――◇
「……そんな、ことが……」
「そうだ。ファルファレーは異神の力を集め、己をより強くしようとしている。奴の目論見を阻止し、討ち滅ぼさねばこの大地の平穏はない。だからこそ、余は君に……いや、貴公に協力を求めたのだよ」
全てを聞き終え、リオは考える。ファルファレーの計略の恐ろしさは、すでに先の神の子どもたちとの戦いで経験済みだ。
今回、これまで以上の大がかりな計画が進んでいることを知ってしまった以上、リオが取るべき道は二つしかない。魔王と手を組み共に戦うか、あくまで敵対し続けるか。
「……今すぐに、答えを出さないとダメ?」
「それが望ましい。余にとっても貴公にとっても、時間は多くは残されていないのだ。今決めてめらわねば、我らも動けぬ」
グランザームは言う。今ここで、選択せよと。しばらく沈黙が続いた後、リオは意を決して口を開く。果たして、彼が選んだのは……。
「……決めたよ。僕はあなたと手を結ぶ。これまであなたの部下たちがしてきたことは許せないけど……今はそんなことを言ってる場合じゃないから」
「聡明なる判断に敬服しよう。偉大なる魔神よ、余の提案を受け入れてくれたこと……感謝する」
悩んだ末、リオはグランザームと手を取ることにした。現状を鑑みた結果、妥当な判断だ――自分にそう言い聞かせ、リオはそっと頷く。
差し出された魔王の手を握り、固い握手を交わす。魔神と魔王による、双魔同盟が締結された瞬間であった。
「さて、無事同盟は為った。しからば、余の方から誠意を見せねばなるまい。盾の魔神よ、何か困り事はないかな? 余に出来ることならば解決してみせよう」
「えっと、急にそんなこと言われても……あっ、そうだ。じゃあ……」
突然の提案に戸惑うリオだったが、ふと思い付く。グランザームなら、いまだ昏睡状態に陥ったまま目覚めないアイージャとダンスレイルを目覚めさせられるのではないか、と。
リオの話を聞き、魔王は顎――正しくは顎があるであろう場所を、だが――を撫でつつ思案する。少しして、考えがまとまったらしく話を始めた。
「……なるほど。恐らく、その二人は結界を介して放たれたファルファレーの魔力に当てられてしまったのだろう。余が少し力を振るえば目覚めさせられるやもしれん」
「本当!? お願い、二人を助けて!」
グランザームの返答を聞き、希望を見出だしたリオは深々と頭を下げる。宿敵にすらすがってしまうほど、彼の精神は追い詰められていたのだ。
一方、グランザームはというとリオに感心していた。仲間のためならば敵にすら頭を下げる姿に、心を打たれたようだ。目を細め、魔王は話し出す。
「相分かった。余に任せておくがいい。お前の仲間を目覚めさせてみせよう。では、一足先に戻るがよい。余もすぐに後を追う」
「あり……が、とう……」
意識が揺らぎ、遠退いていくなかリオは礼を述べる。魂が肉体へ引き戻される感覚を味わいながら、リオは意識を失った。
次に目覚めた時、リオはベッドに寝かされていた。身体を起こすと、カレンがすっ飛んできてリオに質問を浴びせかける。
「リオ、起きたか! 身体は大丈夫か? どっか痛いとことかないか? 腹は減ってないか? えーと、後は……」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。ちょうど疲れが出ちゃっただけだから……」
リオはそう答え、カレンを落ち着かせる。アイージャたちの世話をしている間に、過労で倒れてしまったことを思い出したのだ。
「ホントか? ホントに大丈夫か?」
「うん。心配かけてごめんね。でもぐっすり寝たからもう大丈夫だよ」
「そっか。ならいいんだ。そうそう、今は席を外してるけど、ドクターが来たらお礼言っとけよ? リオを診てくれたんだから……お、噂をすれば戻ってきたな」
二人が話していると、医務室の扉が開かれ、ドクターが姿を現す。が、リオはすぐに気が付いた。姿こそ変わっているが、目の前にいるドクターはグランザームなのだと。
「目が覚めたかい? よかった、君が医務室に運ばれてきた時は驚いたよ。ツレの人が慌ててたからね」
「ちょ、恥ずかしいから言うなって!」
カレンは気が付いていないらしく、顔を赤くしながらドクターに抗議をする。リオの検査をするからと、ドクターはカレンを部屋の外へ追い出す。
そして、唖然としているリオに向き直り、ニヤリと笑みを浮かべた。
「どうだ、余の変装魔法は。普通の人間と変わらないだろう?」
「え、あ、うん……。本当に、見分けがつかないや」
「そうであろう。さ、ムダ話はここまでだ。貴公の仲間がいる場所へ案内してくれ」
リオは頷き、アイージャたちがいる病室へグランザームを案内する。奇妙な同盟関係の第一歩が、今踏み出された。




