101話―帝都救出作戦開始
「――はい、これでおしまい。さ、戻っておいで」
過去を垣間見たリオたちは、現実に意識を引き戻される。かつて起きた出来事を知り、リオは神妙な顔つきになりながら心の中で考える。
ベルドールの無念を晴らさねばならない。彼が今や忘れ去られたラグランジュと共に守り抜いたこの世界を、ファルファレーに支配させない、と。
「……ふふ、同じね。あの日、ここを訪れたベルドールと同じ顔をしてるわ。使命感に満ちた……見る者を惹き付ける凛々しい顔を」
リオの顔を見て、メルナーデは笑う。ソファーから立ち上がったメルナーデは、執務机に向かって歩き出す。途中、エルケラの肩に手を乗せ、小さな声でささやく。
「……あなたの違反の制裁は全てが終わってからにするわ。それまでの間、あの子を守りなさい。いいわね?」
「かしこまりました。……総書長、ありがとうございます」
エルケラは慈悲をかけられたことを感謝し、エリルをソファーから立たせる。元来た道を引き返し、くノ一たちと一緒にフォルネシア機構の客間へ去っていった。
残ったリオとカレン、クイナはエリルたちを見送った後、自分たちもソファーから立ち上がろうとする。が、メルナーデは三人を制止し、手に小さなハサミを持って戻ってきた。
「あなたたち、ファルファレーと戦うのでしょう? なら、いいものを貸してあげるわ。どんな強固な結界をも切り裂くアーティファクト……聖断ハサミを持っていきなさい」
「ありがとうございます、メルナーデさん。必ずファルファレーを倒して、返しに来ますから。二人とも、行こう」
リオはお礼の言葉を述べた後、エリルたちを送り届け戻ってきたエルケラに案内されフォルネシア機構を去る。一人執務室に残ったメルナーデは、独り言を呟く。
「……ふふっ。これじゃ、私もエルケラを責められないわね。ま、いいわ。少しくらいのルール違反も、神々は許してくださるでしょう。……あ、いけない。こことあの子たちの大地は時間の流れが違うって伝えそびれちゃった」
◇―――――――――――――――――――――◇
エルケラにキャンプをしていた広場に送り届けてもらったリオたちは、作戦会議を始める。まずはどの結界を破り、閉じ込められた人々を助けるか話し合う。
結果、まずは現在地から一番近い帝都ガランザを解放することに決まった。リオは界門の盾を作り出し、帝都のすぐ側の草原に移動しようとするが……。
「あれ? 宝玉が一個足りないなぁ。どこいっちゃったんだろ」
「あ、それなら拙者が持ってるよ。落ちてるのに気付いて拾ったんだ。今嵌めるね」
ここにきて、ようやくジャスティス・ガントレットに嵌め込まれていた宝玉が一つ取れていることに気が付いた。クイナは自分が拾ったことを告げるも……。
「あれ、ダメだ……。何回入れてもポロッて外れちゃう」
リオは何回も穴に宝玉が嵌め込もうとするも、その度に宝玉が取れてしまう。仕方なく、リオはクイナに宝玉を持っていてもらうことにした。
いつまでも広場に留まるわけにもいかないので、三人は手早くテントを畳み、その他の荷物も回収する。後片付けを終えた三人は、界門の盾をくぐる。
「よーし、行こう! ガランザのみんなを救出しなくちゃ!」
「だな。もしまたあいつらが来てら、アタイらでぶっ飛ばしてやろうぜ!」
「うん!」
リオとカレンは気合いを入れ、門をくぐっていく。一方、宝玉を預かることになったクイナは、まじまじと手のひらの上に乗せられたソレを見つめる。
どこか安らぐような不思議な気分に浸っていたが、少しして我に返り、宝玉を懐にしまった後リオたちの後を追って界門の盾をくぐり帝都へ向かう。
「……さて、気合い入れますか。拙者もリオくんのために頑張らなきゃね!」
そう呟き、パンッと自分の頬を叩いた。
◇―――――――――――――――――――――◇
「……ジェルナの生命反応が消えたか。奴め、我の言い付けを破るとは」
「父よ、申し訳ありません。もう一度、彼女に機会をお与えください。必ず、失態を拭わせます」
その頃、聖礎エルトナシュアでは、創世偽神ファルファレーが配下たちに次なる指令を与えていた。一人だけ帰還しなかったジェルナが死んだことを悟り、不機嫌そうに顔をしかめる。
「……まあいい。次はないということをよく言い聞かせろ。バウロス、故にお前は待機だ。バギード、ローレイ。お前たちは第一の結界へ向かえ。例の姫の反応が消えた以上、我は次なる手を打たねばならん」
「ハッ。お任せを」
エリルの気配が大地から消えたことに気付き、ファルファレーは勘づいた。彼女は今、フォルネシア機構にいるであろうと。そのため、方針を変えることにしたのだ。
新たなる神の子どもたちへの指令――それは、帝都に閉じ込められているアイージャとダンスレイルを抹殺し、魔神の数を減らすことであった。
「バギードよ、此度の戦いで先天性技能の使用を許可する。派手に暴れよ。大地に満ちる命全てを根絶やしにするのだ」
「お任せください、我が父よ! ローレイ、出掛けるぞ! 良き土産を持ち帰らねばならないからな!」
「分かった。では父よ、私たちはこれにて」
バギードとローレイが去った後、ファルファレーは一人にしてくれとバウロスを遠ざける。一人になった後、ファルファレーは早速周囲の床や壁に八つ当たりを始めた。
「あの小娘め! 我でさえ足を踏み入れることを許されなかったかの機構に匿われるなど……! 許しがたい! 許しがたいぞ!」
壁を拳で殴り付け、床を足で踏み砕きながら癇癪を起こすファルファレーの姿は、子どものように滑稽だった。ひとしきり暴れた後、大きく息を吐く。
(……その気になれば機構を滅ぼすことは容易いが、下手に動けば真なる神々の逆鱗に触れかねん。しばらくは姫の抹殺を先伸ばしにするしかあるまい。本当に腹が立つ……!)
暴れ出ことでスッキリしたファルファレーは、頭の中でそう結論付ける。聖礎の最深部にある祭壇の間へと向かい、祭壇の上に安置されているソレを見つめる。
「……まあよい。いざとなれば、ジャスティス・ガントレットの片割れ――このパラトルフィ・ガントレットを使うまでだ」
そう呟き、ファルファレーは笑う。彼の視線の先には、錆び付いた左腕用の籠手が鎮座していた。
◇―――――――――――――――――――――◇
リオたちが帝都の近くにある草原に到着した頃、帝都にある宮殿では臨時の会議が行われていた。ギオネイをはじめとした帝国軍の幹部が集まり、結界を破壊するための作戦を話し合う。
「……以上実験の結果、残念ながら結界に傷を付けることは出来なかったのであります。魔力研究部も結界を壊すための方法を模索しているのでありますが……」
「ご苦労、アーリー。報告を終えて構わん」
かつてタンザ奪還戦でリオと共に戦った女性軍人、アーリーはギオネイ将軍の言葉に従い報告を終了する。帝国軍の面々は試行錯誤を重ね、結界を破壊しようとするも失敗に終わっていた。
外界から遮断され、帝都に住む民衆の不安がこのまま高まり続ければ、最悪暴動が起こりかねない。そう危惧するギオネイが主導し幾度も結界へ攻撃を重ねるも、傷一つ付けられなかった。
「将軍、もしこのまま結界による封鎖が続けば……食料も水も、それ以外の生活必需品も三ヶ月で底をつく。そうなれば、民の暴動は避けられんぞ」
「であるな。はてさて、どうしたものか……。こんな時に、リオ殿がいてくれれば……」
にっちもさっちもいかなくなってしまい、ギオネイは弱音を吐く。かつて共に戦った、勇敢なる魔神……リオならばあるいは、と思うも、彼はここにいない。
会議が煮詰まるなか、突如一人の軍人が会議室に飛び込んでくる。そして、集まっていた幹部たちに向かって、驚くべき現象が起きていることを大声で告げた。
「た、大変です! あの結界が……何者かの手によって切り取られて消滅していっています! これをご覧ください!」
「なに!? そんなバカなことが……」
報告をしに来た軍人は、懐から水晶玉を取り出しギオネイに渡す。水晶玉に映し出された光景を見て、ギオネイは歓喜の表情を浮かべる。
水晶玉には、聖断ハサミを使って結界を切り取っていくリオの姿が映し出されていたのだ。




