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夢のカフェを開いたものの、店はJKたちのたまり場になるようです  作者: 春野 安芸
第3章

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089.大事な話


 遥母に連れられてやってきた、彼女の自宅。

 そこで俺は娘の遥と会い、どういうわけか抱きしめあっていた。

 すぐ近くにいる我が姉の視線をひしひしと感じつつも、自然と惹かれる遥の唇。

 見ていたそれを受け入れるかのように遥が瞳を閉じ、俺もつられて彼女に接近していくと、ついにかかる姉ストップ。


 淋しげで再度抱きしめたくなる感情を抑えつつ、母に告げられるは2つ目の……本当の目的。

 俺たちは全員で広い広い廊下を歩く。その手を硬く握りしめながら。


「ねぇ、遥」

「? どったの?マスター?」


 ふと気になることがあって母親とともに先導してくれる遥に声をかける。

 ……本当に、彼女を動物で例えるならば犬のようだ。愛嬌があって呼ぶとトテトテと隣を歩いてくれる。


 もう遥はさっきのから立ち直ったようだ。服も着替えて外での彼女と同じまま。


「遥のお父さんってどんな人?」

「どんなかぁ……ん~~」


 当然、気になるといえばそれだ。

 彼女の父親……名を本永 善造さんと言ったか。

 呼ばれて、これから会う人物。気になるに決まっている。


「あっ、アタシに随分甘いよ!ママと比べると随分!」

「遥……それを本人の前で言いますか」


 前の方で母親の呆れるようなため息が聞こえてくる。

 まぁ……うん。俺も最初は随分厳しそうだなって思ったもの。今となってはユーモア溢れて別の意味で怖いくらいだけど。


「えへへぇ。でも、パッと思いつくのはそのくらいかなぁ……。あ、後仕事中は怖いみたい!建築の社長さんやってるんだ!」


 仕事中は怖い……ね。

 今は一体どっちのモードなのだろうか。


「じゃあ、俺のことどのくらい知ってる?」

「どのくらいだろぉ……ママ、わかる?」

「……遥の想い人という認識でしょうか。少なくとも顔は知らないはずです」

「想い人だなんて……そんな……」


 なんだか恥ずかしがっている遥は置いておいて、俺はまだ見ぬ彼のことについて整理する。

 遥の父親で地元の名士。娘には甘いが建築の社長モードでは怖い。そして、俺のことは顔も知らぬ娘の想い人という認識……あれ、これマズくない?


 推測だが、きっと呼び出したのは何者なのか見定めるためだろう。もしくは一向に挨拶に来ない俺に痺れを切らしたか。

 挨拶しなかったことに怒っているなら最初から好感度は最悪だ。名士なんて物語でしか知らないが、昔ながらという観点で見るとちゃぶ台とか返されるかもしれない。


 ……今更になって怖くなってきた。もっと情報を引き出さないと――――


「――――着きました。ここに普段詰めております」


 えっ!?もう!?


 更に遥から聞こうと口を開こうとした瞬間、前を歩く母親が立ち止まって横の襖を示す。

 見た目的には客間や遥の部屋と同じ、普通の襖。しかし聞いた話による補正からか、えも言えぬ威圧感が重くのしかかってくる。


 『ちょっとまってて』と遥母は言い残し、1人部屋の中へ。

 ……大丈夫かな。開幕ちゃぶ台とか嫌だよ。


「大丈夫大丈夫! 何かあればアタシがかばうからさっ!!」

「……心強いよ」


 俺の隣で励ますように胸前に握りこぶしを見せてくれる彼女に、俺も心が軽くなる。

 でもそうなったら、更に好感度下がるだろうなぁ。


「大丈夫よ、総。 いざとなったらあたしが責任とってお嫁にもらってあげるから」

「…………婿じゃないんだ」


 遥とは反対側に寄ってくれる優佳も励まして……それ、励ましてくれてるんだよね?


「優佳さんっ!イザという時はアタシがなんとかするもんっ!」

「あら、遥ちゃんにそんなことができるのかしら?」

「できるもんっ! む~!!」


 あの……一応父親に聞かれてるかもしれないから静かにね?


 そんな言い合いをなだめていると、ふとさっきまでのしかかっていた重圧が軽くなっていることに気づく。

 もしかして2人とも、軽口を言い合って俺の緊張を解してくれたのかな?



「――――よろしいとのことなので。お入りください」

「あ、ありがとうございます………あれ?」


 ふと気づけば、もう中での話が終わったようだ。

 俺たちも続いて入ろうとすると遥母は部屋から出てどこかに行こうとする。


 そんな疑問に彼女も気づいたのだろう。『あぁ』と口に出して柔らかく微笑んでくれた。


「私は少し……あの人が眼鏡を置いてきてしまったらしいので取りに行ってきます」

「あ~。 パパ、また眼鏡置いてきちゃったんだ」


 彼女の説明に同調するよう、呆れた声を出す遥。

 眼鏡……普段から掛けてる人なのか。


「パパって結構近視でね。本は大丈夫だけど、眼鏡が無いと人が見えないんだ」


 あぁ、だからか。

 近くの物は見えるが遠くは見えない。人すら見えないとは結構酷い近視らしい。


「とりあえず先に挨拶をお願いします。 ……では」


 そう言って俺たちの横を通り過ぎていてしまう遥母。

 …………さて、次は俺たちの番か。


「それじゃあ行こっかマスター! パパー!呼んだぁ~!?」

「あっ! ちょっと遥っ!!」


 ようやく俺たちの順番だと。覚悟を決めるよりも早くに襖を開けてズカズカと部屋に入っていく遥。


 そんな!?無遠慮すぎない!?

 俺たちも慌てて彼女の後を追っていく。


「…………キミが、大牧君か」

「っ――――! はい……」


 部屋に入った途端、かけられる声はそれだった。

 低く、重圧のある声。振り返って見ると遥に似ても似つかぬ父親がそこに居た。


 一言でいえば、ダンディーなオジサマだろうか。

 髪はかき上げており、鼻下と顎下に髭を蓄え、シワも多い眼力のある男性。

 黒い着物と羽織を身にまとい、明らかにここの主人だとわかる雰囲気を醸し出していた。


 手を乗せている机の上には読んでいたであろう本が見える。ちゃぶ台は……ない。よし。


「すまないね。こんなのだが、イマイチ君の顔が見えなくてね」

「いえ。 眼鏡のことは聞き及んでおりますので」

「そうか……。 じゃあ改めて。私が遥の父、元永 善造だ。よろしく頼む」

「大牧 総です。この度は遥さんと仲良くさせていただいて……あの――――」


 『遥』の名前が出た途端一瞬だけ眉間にシワが寄るのが見えた。

 やはり、その件で怒りに来たのだろうか。


 今日の本題は何か……。

 その事を問おうとしたその時、ふと部屋の外から聞こえる遥母の声。眼鏡を持ってきたのか。


「あぁ、助かった」

「まったく。毎回同じ場所に忘れるんですから……」


 そう言って手渡すのは黒縁メガネ。上部だけフレームがあるタイプだ。

 しかし、毎回忘れるのね……なんだかちょっとだけ人間味があってホッとしたような。


「おぉ。これでよく見える。 それで、何を言おう……と――――」

「あ、はい。 今日呼び出した理由をお聞きしようと思いまして。…………善造さん?」


 …………?

 何やら様子がおかしい。


 俺が答えようとしたものの、彼は眼鏡を掛けた途端驚いた様相で俺の顔を見つめてくる。

 ……なんだ?俺の顔に変なものでも? いや、それだったら道中絶対に誰かが言ってくれるはず。ドッキリを仕掛けるような面々でもない。


「えっと…………?」

「…………もう一度、君の名前を教えてくれるかい?」

「? はぁ。大牧 総ですが」

「いいや、違う。 本当の……いや、前の名前のことだ。あるだろう?」

「――――!?」


 何故その事を――――。

 もしや俺の過去について遥が教えたのかと思いきや、彼女を見るも首を横に振って否定してくる。


 となると、父か母の知り合いか……?


「どうだい? あるだろう?」

「…………白藤。白藤 総(しらふじ そう)です」

「――――!! やはり……そうか……」


 白藤の名――――

 俺が昔使っていた、養子に入る前の名前。


 その名前に心当たりがあったのだろう。

 何やら得心が言ったように彼は眼鏡を外して天を仰ぎ、眉間のシワを揉みながら息を吐く。

 そしてまっすぐ正面を見据え、真剣な顔で俺と目を合わせながら口を開いた。


「白藤君。君に会ったら言いたかったことが……大事な話がある。 きっと辛い話かもしれないから、2人きりで話したいんだが」


 突然場の空気が変わり、威圧感が消えて緊張の空気だけが残る。

 どうしたんだ……?大事な話?


 昔の名前を聞いてくるということは、父か母の知り合いなのはほぼ確定だろう。

 問題は辛いという部分。正直昔の話を掘り起こされたところで何も問題は無いのだが、万が一の事を考えて2人には居てもらいたい。2人はとっくに知っているから問題はない。


「いえ、今ここで言ってくれませんか? 遥や優佳は大丈夫なので」

「……そうか。 じゃあ、簡潔に結論から言おう」


 そう告げてからおよそ10秒。

 彼は視線をしきりに動かすも話を続ける気配を見せない。


 本人にとっても何か言いにくいものなのだろうか。

 しかしようやく決心が付いたのか、少し回りくどく、そして言い淀みながらも、ようやく……教えてくれた。



「君が10年以上前に遭ったという事故。アレを引き起こした原因は、全て私にある――――――――」

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― 新着の感想 ―
[一言] すげぇ意外な展開が...
[一言] 遥ちゃん負い目感じて脱落かー?
[一言] うを!マジか!
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