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夢のカフェを開いたものの、店はJKたちのたまり場になるようです  作者: 春野 安芸
第1章

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033.一難去ってまた一難?


「たっだいま~! マスターいる~!?」


 7月に突入し、夏の入り口へ片足入っていったとある日のこと。

 まだ梅雨明け宣言はされていないが、ここ数日の快晴で徐々に外の生き物たちが活動を本格化させていき、毎年の風物詩がミンミンと鳴こうかという頃。


 俺は1人冷房の効いた店内でのんびりと洗い物をしていると、バンッ!と勢いよく扉が開く音が聞こえてきた。

 もはやいつもどおりの光景。驚きもしなくなったが一応そちらに顔を向けると、満面の笑みで夏服に身を包んだ遥が店に入ってきた。


 いつものスカートに半袖になった真っ白のシャツ。外の気温のせいで額には汗が浮かんでいるものの、対策は万全らしく下着が透ける様子はない。

 しかし夏服では隠しきれない彼女特有の大きくて柔らかそうなそれが、勢いよく方向転換して店に入ってきたおかげでぷるんと上下に揺れる。


「ふあ~!すっずし~! マスター!お水頂戴~!うんと冷たいの!!」

「はいはい。 ちゃんと冷やしてるよ」


 迷うことなくカウンター席に着いた彼女は、それだけ外が暑かったのかシャツのボタンを2つ外してパタパタと手で仰ぐ。

 俺がコップに水を入れて渡す時もその動作を止めないものだからもうちょっと……もうちょっとで下着が見えそ…………!


「…………あれ?」


 ついついその隙間に視線が吸い込まれていると、ふと彼女の動作が止まっていることに気がついた。

 仰ぎやすいようにシャツを引っ張って、内側に仰いで風を送り込む体勢。もうちょっと引っ張ってくれると見えてしまう、その途中でピタッと止まっていることに違和感を覚えてつい小さく言葉を漏らす。


 これは…………まさか…………。


 まさか見られていることに気づいているのか……!?そう思って視線を徐々に上へ上げていくと、そこにはニヤニヤとしてやったりの笑顔でいる遥が。


「……マスターのえっち」

「いっ……いや……!これはちが…………!お願いだから通報だけは……!」


 慌てて後退りしながら言葉を探すが時既に遅し。俺はもはや言い訳は不可能だと確信し、ただ謝ることに徹する。

 彼女は手元の冷たい水を一気に飲んで、フッと笑いつつ再度俺と目を合わせてきた。


「別にそんなことしないよ~。 心配性だなぁマスターは」

「…………いいのか?」

「もちろんっ! って、前にも言ったじゃん! 『アタシはいい』って!」


 ……そんなこと、いつか言われただろうか。

 ふと過去にあったことを思い出そうとしていると、彼女はカウンターを乗り越えるように身を乗り出してピシッと俺の鼻先に指をつける。


「でもっ!他の女の子の胸見てたら嫌われるから気をつけること! いいね!?」

「…………お、おう」


 「ならよしっ!」と上機嫌な声で乗り出していた身体を戻した彼女はその勢いのままに椅子へ腰を下ろす。

 その反動で椅子が前後に揺れてしまうが、彼女は気にしないようにまたも空いたシャツへと指を差し込んだ。


「それとも……マスターは気になるの? アタシの……この下」

「っ――――」


 突然。

 人が変わったかのように上目使いになった彼女は、少しだけ甘えるような声で俺に問いかけてくる。


 そんなの……当然気になるに決まっている。


 けれど口に出してしまえば嫌われるか失望されること確定。その問いになにも答えられないでいると、続けるように彼女の口が開き出した。


「マスターにはお世話になってるし、誰も居ない今なら……ちょっとくらいなら……見るくらいならいい――――」

「いいわけないでしょう」

「――――!?!?!?」


 頬に赤みを帯びた色っぽい表情で、彼女が3つ目のボタンを空けようとした瞬間。

 突然の声に俺たちは、雷が落ちたように身体をビクンと大きく震わせた。


 何事か――――そんなの、決まっている。

 伶実ちゃんだ。伶実ちゃんはいつの間にか遥の背後に立っており、突然の声に俺たちの心臓をと大きく跳ねさせたのだ。


「あ……あははは……やっほー……レミミン」

「やっほーじゃないですよ。そういう事するものではありませんよ。羨ま――――はしたない」

「伶実ちゃん…………」

「マスターも。 もう恋人関係は終わったんですからちゃんとしてもらわないと」

「はい……」


 ぐうの音も出ない。

 でも、恋人関係って1秒もたたず終わったというか、設定だよねそれ。



 伶実ちゃんも、遥同様シンジョの夏服だ。

 遥ほど身体の起伏があるわけではないが、バランスの良いそのスタイル。同じく汗をかいて来たからか、その美しい茶髪が汗でより一層光っているように見える。


 そして、よくよく見れば伶実ちゃんの後ろには…………


「高芝…………」

「まったく、遥先輩はあなたのではなく”私の”なんだから変なことしないでくださいよね。 それと灯で良いって言ったじゃないですか」

「おぉ……すまん」


 フンッ!と鼻を鳴らして遥のすぐ隣に座る灯。きちんと『私の』を強調するのが灯らしい。

 更に隣には伶実ちゃんが。俺は暑そうにしている3人に水の入ったコップを渡す。遥は2杯目だ。


「…………ふぅ。やっぱりこの店は落ち着きますね」

「なんてったって遥先輩が居ますからね! 私は遥先輩がいればどこでも落ち着けますよぉ……」

「キャッ! も~、あかニャンったら甘えんぼなんだから~」


 いつものごとく遥の胸にポスンと頭を乗せる灯。そして遥かもそれを受け入れる。

 こら灯。そんなしてやったりのニヤニヤ顔をこちらに向けるんじゃありません。羨ましさで血の涙が出そうになるじゃないか。


(…………そんなに遥さんの胸がいいのかしら)

「ふぇ? 何か言った?レミミン?」

「!! い、いえ。何も!」


 …………?

 伶実ちゃんが何か言ったか?俺には聞こえなかった。


 って、そうじゃない。まず3人に聞くべきことがあったんだ。


「それで3人共…………学校はどうだった? 計画は?」


 そんな俺の問いかけに、彼女たちは真面目な顔つきになって姿勢を正す。


 今日は参観日を終え、週末と代休を終えた、彼女らの学校の日だ。

 それはすなわち、俺が考案した計画を遂行する日のこと。

 さっきは遥のおかげで忘れかけていたが、今日一日そのことで気が気じゃなかった。俺の評判はどうでもいいが、彼女らが大丈夫かと。


「それはもちろん……。ちゃんと目論見通り、灯さんはクラスのみんなと話せるようになりましたよ。ちゃんと婚約云々もなかったことになってます」


 代表して伶実ちゃんが答えた内容は、成功ということだった。

 その柔らかな笑みと言葉を受けて、俺の力はどんどん抜けていく。


「…………よかったぁ。 じゃあ、遥のほうは?」

「全く問題なしだよっ! ちょっと心配されちゃったけど……。 でも、仲いい子にはイチから教えちゃった!お兄ちゃんじゃないの?って疑われちゃったしねっ」


 ……まぁ、遥が信頼してるくらいだし、それくらいなら全く問題ないだろう。

 つまり多少俺の評判は下がっただろうが、彼女らの学校生活は概ね問題なくなったようだ。


「でもでもっ! ちゃんとマスターの誤解も解くからね! そんな肩身狭いのはマスターもヤだろうし!」

「おっ、おう…………?」


 それやっちゃあ全部水の泡なんじゃないかな……。誤解させるのが主目的なんだから。


「早速灯さんも友達ができたようですし、後は期末テストに向けて頑張るだけですね」

「えっ!? もう期末テストなの!?」


 全くの初耳――――。

 そんな様子で聞き返す遥は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

 その後スッと青い顔になって戻ったと思えば、ダラダラと滝のような汗を流しだす。


「もしかして遥さん……勉強、おろそかになってましたか?」

「あ……はははは…………。だって色々と立て込んでてぇ…………お願いふたりとも!勉強教えてっ!!」


 パンッ!と合掌する仕草で伶実ちゃんと灯に頭を下げる遥。


 もはやテスト以外は憂いの一つもなくなった、いつもの光景。

 必死にお願いする遥を見て、少女2人は互いに顔を見合わせ、屈託なく笑い合うのであった。

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[一言] 遥…懲りんね(笑)
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