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第六談 松木理沙

「あんたが作ったんだ、責任取れよ! あんたが……あんたがあのとき私を呼び出したから、一人だけ生き残ったんだ!」


 事件直後、ライラーは手がつけられないほど荒れていた。

 私だって信じたくなかった。あの子たちの実力も魅力も、全部知っている。私の「クールなアイドルグループを作りたい」という願いを叶えてくれたのは、彼女たちだった。


 私は彼女たちを押し上げるため、ラッパー時代に培ったコネをすべて使った。「せこいマネした元ラッパー」と言われても構わなかった。この子たちは今まで日本に存在しなかったアイドルグループだ。かわいいアイドルではなく、クールな子たちが音楽界を変えていく――確実に。


 それが、たった一晩で炎に焼き尽くされた。


 私はライラーと千世の部屋で生活するようになった。

 母親が迎えに来ても頑なに帰ろうとしないライラーが、自殺でもしないかと心配だった。彼女はSNSで「メンバーは死んでいない」と投稿を続け、私は事務所にかかってくる電話に対応するのに疲れ果てた。何度消しても、止めさせようとしても、パスワードをかいくぐり、ライラーは「生きている」と言い続けた。


 私はライラーをカウンセリングに連れて行った。かかりつけのカウンセラーは穏やかにライラーに接して、彼女の抵抗も受け止めてくれた。精神科も受診して安定剤を飲み、ライラーはようやく落ち着きを取り戻した。


「理沙、責任取って。サマソニは絶対にキャンセルしないで。私一人で、出る」


 ライラーの願いを、私は叶えることにした。周りからはキャンセルすべきだと言われた。


「すべての責任は私がとる。ステージに立ちなさい」


 ライラーは、それから過酷なレッスンを続けた。


「もっと厳しくしてよ。もっと難しい曲とダンスにしてよ。これだけの絶望を味わったんだ。私たちに、生ぬるいことはナシにしよう」


 ライラーの背筋が寒くなるような覚悟に、私は心中覚悟で付き合った。


 私たちは、共犯者だ。

 ライラーに無理をさせてしまっているとわかっていても、私もやめられない。

 あの夜、ライラーだけではなく五人全員を呼び出せばよかった。ライラーを心配する千世のことも思慮すべきだった。だが後悔に費やす時間はない。私は、生き残ったライラーを、これからずっとアイドルでいさせなければならない。


「苦しいことは、たくさん苦しまないと、乗り越えられない」


 ライラーはそう言って、サマーソニックのマッシブステージに向かった。

 そして彼女は、ファンをも共犯者にした。


 同志よりも、共犯者の方が、ずっと強い。


            完

 

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