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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第3章 奴はカムラ
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73 奴はカムラ 7

 俺はその夜、妙な胸騒ぎを覚えていた。

 最近は夏だと言うのに俺は世間体を気にして上等なおべべを着ているから、多少暑いのは間違いない。

 それでも今噴き出してくる汗は、妙にべとついていて手ぬぐいで拭いても拭いても額から吹き出してくるのだ。

 汗はただ暑いからと言うよりも冷や汗と言うやつだ。


「どうしたんですか旦那さまあ」

「ちょっと暑いね今日は」

「そうですかあ? ずっとさっきからソワソワしているみたいですけど」


 そんな風にふたり目の妻が心配してくれるが、気持ちがどうも落ち着かないので「何でもないよ」と言っても説得力がない。


 カサンドラにしっかり戸締りをする様に言った後、俺たちは猟師小屋を離れて鱗裂きのニシカとエルパコと別々に分かれた。

 エルパコはもともとカムラの動向を探るためという理由で別行動だ。

 冒険者ギルド長のカムラはギルドのあるむかしの倉庫を利用した建物の離れで寝起きしている。

 普段カムラは夜は遅くまで事務作業をやっているらしく、ギルドの執務室で書面と格闘をしているだろう。

 所属する他の冒険者たちは陽が落ちると酒盛りをはじめるのが日々の慣わしなので、宴たけなわでギルドが騒がしくなってくると、自分の寝起きしている離れに移動するらしい。

 

 そういうある程度の行動ルーティンは理解している。

 だからエルパコはギルドの周辺で待機して、美中年の動きを監視するというわけだった。

 先日は酒盛りをはじめた冒険者たちを避ける様にして、カムラはギルドを出て職員として雇い入れた村の若い女たちとお楽しみだったらしいからな。

 酔った冒険者たちが寝室がある離れの建物に出入りしていると、落ち着いて若い娘たちとお楽しみというわけにはいくまい。

 俺の感覚だと美中年は剣術の方もかなり出来るオーラを出している。

 何か動き出してからでは村の人間では止めようがないけれど、獣人で気配を察知したり自分の気配を消して行動できるエルパコなら、監視役には適任だ。


 そしてニシカさんと俺たちは手分けして村の周辺を夜回りするわけである。

 ニシカさんは単独になってしまうため女村長の屋敷周辺と、村に新たにやって来た開拓移民、労働ゴブリン、犯罪奴隷たちの住居周辺を見回る事になっている。

 こちらは移民や労働ゴブリンたちに目を配っておく以外に、犯罪奴隷や女村長の屋敷についてはついでだ。

 アレクサンドロシアちゃんのところにはメスゴリラ、もとい冒険者エレクトラが護衛についているし、犯罪奴隷は鎖に繋がれているから悪さはたぶん出来ないだろう。


 それらを除外したところで残るのがオッサンドラの動向と、司祭さまの動向である。


「にしても、村の中は真っ暗ですねえ」

「そりゃこの季節は陽の出ている時間も長いからな、暗くなりゃさっさと寝るんだよみんな」

「そうなんですかあ? 夜になったら家族のみんなで団らんするのが普通じゃないですかあ。何かすぐに寝てしまうのはもったいないですねえ」


 あまり緊張感のなさそうな間延びした声で、メイスを肩担ぎにしたダルクちゃんがそう言った。

 確かに、夜になった村の中はほとんど明かりが無い。

 俺たちが持っている油を使うランタンの明かりの他には、ぼつぼつとわずかな家々から弱弱しい光が漏れているだけだった、


「油や蝋燭は高価なものだからな、そんなに無駄遣いは出来ないんだ」

「やっぱりここは蛮族の村なんだなあって思いますよ。わたしのいた居留地では、夜もこんなに真っ暗になる事は無かったですからねえ」

「そのかわりほら、空は星で一杯だろう。ん?」

「ほんとうだぁ。えへへ」

「ど、どうしたんだ急にタンヌダルクちゃん」

「何だかとってもロマンチックですねえ、旦那さま!」


 俺たちは公務の最中である。

 夜回りのために鍛冶職人たちの住居が集まっている鍛冶場と、その周辺をぐるりと回りながら警戒中なのだ。

 それなのに、たわわな胸を押し付けて俺の腕に手を回してくるタンヌダルクちゃんのせいで、妙な気分にならざるをえない。

 俺は股間に手を回し、息子の位置を調整しながらドキドキした。

 この胸騒ぎ、何か悪いことが起きるというだけの理由ではない。


「き、急に積極的になられても、今夜は何もしてあげられないんだからねっ」

「いいじゃないですかたまにはあ。いつもは義姉さんやエルパコがいるからふたりっきりになれないんだし」

「そっそもそもタンヌダルクちゃんは、俺と結婚するの嫌だったんじゃないの?」

「べ、別に嫌だとか言ってないですし、ただ蛮族のくせに兄さんに負ける様な蛮族なら嫁ぎ甲斐がないからやだなって思っただけですし」


 どっちが蛮族の思考なんだか。

 まあ、中世まっさかりみたいなこの世の中じゃ指揮官先頭みたいな勇敢さはリーダーにとって必須のスキルなのかもしれんね。


「それで、義姉さんの従兄の家というのはこの辺りなんですか?」

「あそこに見える、夜も明かりが灯っている大きな建物が鍛冶場だな。覚えてるか?」

「はい覚えてますよ。感じの悪いお兄さんがいたところですね」


 その周辺というか、裏手側にぐるりと散らばっているのが鍛冶職人たちの住居である。

 最近は鍛冶場のまわりにも新しい住居建設がはじまっていたが、これは近い将来の新たなる移住者を見越してのものだった。

 村長は次の開拓移民誘致で本格的に大人数を村に呼び込むつもりなのだ。


 その鍛冶場だが、この村ではかなり珍しいガラスの窓が何か所かにはまっている。

 ガラスそのものはぶどう酒の瓶でも使われてるように珍しくはないが、ガラス窓となれば別だ。

 女村長の屋敷や、職人の工房など、領内の有力者が利用している住居だけがその対象だった。

 もちろん俺たちの猟師小屋にはそんなぜいたく品は無いが、ただいま土壁を乾かしている新居にはこれがある。

 やったね!


「鍛冶場は遅くまで作業をやってるんですね」

「それはね、金属を溶かす炉の火をいちいち付けたり消したりしていたら、効率が悪いからだよ。炉に火が入っているうちは出来るだけ作業を続けてるんだ。かわりに休みをまとめてとったりね」

「そうなんですか?」


 むかし俺が働いていた工場でもラインを停止する時は連休などまとまった時にして、その分は連休直前の土日なども工場勤務をしていたもんだ。

 職人たちは鍛冶場カレンダーで作業をしているんだろうな。


「それであれがおっさんの家だ」

「へえ、うちより小さな家ですよ。兎小屋かな?」

「失礼な事を言うんじゃありません。そっちじゃなくてその隣な」


 確かオッサンドラは独り暮らしをしている。

 むかしは家族と一緒に生活をしていたはずだが、姉だか妹だったかはすでに嫁いでいたし、俺から見れば義理の伯父夫婦もすでに亡くなっていたらしい。

 俺たちの家畜小屋よりは大きな家に住んでいるのだから、きっと暮らしぶりはそれなりだったに違いない。


「鍛冶職人というのはやっぱり暮らしが出来るんだな」

「そうなんですかあ? その割にはひとり者なんでしょ、おっさんさんは」

「おっさんの結婚相手を決める親戚の大人たちがみんな死んじゃってるからな、カサンドラの親父さんもおっさんの両親も」

「でも。知ってます?」


 おっさんの家の周りを見回りながら、俺はタンヌダルクちゃんに振り返った。


「おっさんさんは近々義姉さんと結婚するんだって」

「マジかよ。やっぱりふたりは結婚の約束があったの?」


 俺の知らない事実である。

 もしかして妙な胸騒ぎはこの事だったのだろうか。

 婚約相手だったカサンドラを俺が寝獲った格好になったので、おっさんは激怒しているのだろうか。


「そんな風にに漏らしていたらしいですよう。村長さまの家で、下女と義姉さんが話しているのを聞きましたから。けど、義姉さんは知らなかったって驚いてたみたいだけど」

「そうかよかった。おっさんの片想いだったのがわかった安心したぜ……」


 そりゃそうだよな。何かある度に「兄さんとは従兄妹同士というだけで他人です」ってカサンドラはキッパリ言ってたもんな。


「なんですかぁ。わたしと一緒にいるのに義姉さんに嫉妬してるんですかあ?」

「そういうんじゃないから。こら、手を引っ張らない。ちゃんとしっかり仕事するぞ」


 俺は第二夫人の唇に人差し指を立てて静かにする様に指示すると、おっさんの家の裏手に近づいた。

 まず煙突を見ると、頼りない煙が上がっているのが見える。

 たぶん土窯の火が入っているんだろうか。

 弱弱しいそれを見た限りだと、燻製でも作っているのかもしれない。

 この村の住人は豚や牛を潰した時は分配して近所同士でシェアするわけだ。

 肉は貴重品なので保存するために燻製にするのである。


 してみると、おっさんはまだ寝ていないのだろうか。

 結婚して家事をしているカサンドラを観察していると、火の後始末だけは俺の元いた世界の何十倍も気を使っているような気がした。

 江戸時代でも火事はもっとも恐れられた災害だし、付け火は恐ろしく重罪だったはずだ。

 不始末があってはいけないと、きっとおっさんも起きているのだろう。


 しかし、こういう時にガラスの窓が無いというのは具合が悪い。

 中を覗き込んで観察したくても、この家は板窓なので中の様子がわからないのだ。

 けれども、中でごそごそと何かが動いている音も聞こえてくる。

 ならばおっさんは今のところ安心か。


「行こうか」

「はい」


 小声で互いに合図をしたらその場を静かに離れる。

 そのまま鍛冶職人たちの集落を離れて、今度は教会堂の方に歩き出した。


     ◆


 このサルワタの森にある開拓村は、ひとくくりに村と言っているけれどややこしい。

 領内の人間たちは、かつては林であった場所を切り開いて広い平地にした場所を便宜上の村と呼んでいる。

 川と用水路に囲まれた開かれた土地は芋や豆、トウモロコシの畑に、そのまま湿地を利用した場所は冬麦の畑が広がっていた。

 この田園地帯のあちこちに住居がひと塊になった集落がいくつかある。

 俺たちの猟師小屋があるのは、猟師集落というわけだ。

 この川と用水路に貌まれた場所が元いた日本で俺が学んでいた近現代史にあてはめて解釈すると、本郷という事になる。

 村人たちが周辺集落と呼んでいる場所は、開墾の発展にあわせて外に広がっていった過程で作られた集落で、これは農村史的な言い回しにあてはめると枝郷である。

 木の幹である本郷たる村と、広がる枝葉にあたる枝郷たる周辺集落。


 鱗裂きのニシカさんはこの枝郷に住んでいる集落の住人で、この枝郷は村の周辺に複数点在していた。

 きっと川の向こう側を開墾中である事から、次の新しい枝郷が作られるのは湖畔のものとあわせてこの二か所だろうね。


 さて教会堂はそのどれにも当てはまらない事にある。

 便宜の上では村の中に存在しているが、ここは領主であるアレクサンドロシアちゃんの権限が及ばない、領内の独立法人というわけだ。

 騎士修道会が所属している、女神を崇拝するブルカ聖堂会から司祭たちが派遣されているからである。


「一応は村の掟に則って司祭さまも助祭さまたちも生活していますけれど、村長さまに強制権限はないという事らしいですよお」


 聞けば最近はアレクサンドロシアちゃんのもとで国法を学んでいるらしいタンヌダルクちゃんが、暗がりの道すがらそんな話を得意げに語ってくれた。


「するとあの坊さんには外交特権があるという事なのかな」

「外交特権? ですかあ?」

「ああつまり一応は独立した組織のブルカ聖堂会の所属なので、カタチの上では騎士爵アレクサンドロシアちゃんと対等の関係というわけなんだなあ」


 ふたりで思案をしながら、あちこちの家々に一応は目を配りつつ会話を続ける。

 俺は夜回りをしている事をおおっぴらにするべきか、こっそり回るべきなのかわからなかった。

 けれども抑止力(よくしりょく)だと思えば、俺たちは犯人に対して「監視しているぞ!」というアピールをしておくべきかもしれない。

 警備員というのは、そういうための存在だと警備員バイトをしている時に偉い人から聞かされたことがある。

 さしずめ、警察官立ち寄り所ならぬ奴隷騎士立ち寄り所といったところだろうか。


「なるほど、確かにそんな事が書いてあった様な気がしますよ。村人の治療にかかわる命令権は領主にあるそうですねえ。それから冠婚葬祭の取り仕切り」

「冒険者ギルドについては何か書かれていたかな?」

「ええと確か、この村にあるギルドは出張所なので、なんとかという街のギルドの組織に所属しているそうですねえ」

「ブルカの街だな。俺も行った事があるぜ」

「でも、湖畔のお城が完成したら、出張所からちゃんとした村長さまのもとで独立したギルドになるそうです」

「まあその方がいいな。いつまでもどこかと繋がっていたんじゃこっちの情報がダダ漏れだ」


 さて、どこにも所属していないブルカ聖堂会の教会堂の側までやって来た。

 うんこうして見ると、女村長の屋敷と石塔を除けば、この教会堂は村でも有数の立派な建物だった。

 ひときわ大きな教会堂の建物に併設して、診療所と住居がある。

 診療所の方は病人か怪我人でもいなければ、夜になればここは無人になる。


 診療所の側を通って板窓の隙間から明かりが漏れていないのを確認したら、住居の方に移動した。

 静かに歩いていたのだが、どうも足場が湿っていて、これは歩くと足跡が残ってしまうじゃないかと俺は顔をしかめた。

 タンヌダルクちゃんの方はサンダル履きだったので、ランタンに照らされた表情がとても嫌そうだったね。


「こっちもひとの気配がないですよう」

「いや、向こうの居間? があるところから声が聞こえますよ奥さん」


 俺たちが耳を凝らしながらそっと近づく。

 すると「うん、どうだい」という男の声がした。

 これは司祭さまの声だ。

 さらに耳を凝らすと「いけませんそんな」という女の声もする。

 これは助祭さまの声だ!

 お前たちはもしかして何かいけない事をやっているのではないか。

 とんでもない現場に遭遇したのではないかとふたりしてドキドキしながらさらに近づく。

 ここは教会堂という金の羽振りがいい場所なので、ありがたい事にガラス窓である。


「くくく、いけませんとか言って、本当は僕の事を誘ってるんだろう。君というやつはいつもそうだ」

「そ、そんなことありません」

「とても狡猾で、男をそうやって鴨にする。嫌がっているふりをしていつも僕を本気にさせるんだ」


 ふたりはチェスをやっておられた。

 見た事のないコマを使って盤上を挟んでにらみ合うふたり。

 たぶん異世界チェスで間違いない。


 窓を覗き込んでガッカリした俺とタンヌダルクちゃんは、教会堂の木の壁にもたれかかってズルズルとへたりこんだ。


「ちょ、ちょっとはわたしも期待したんです」

「でもチェスでした。残念」

「だって旦那さまはもう、義姉さんとは済ませているんでしょう? おっお互い夫婦なんだから」

「そうですね。夫婦ですもんね当然ですね」

「だ、だからこの際どういう風にするのかべべべ勉強というか何というか」


 本日の見回りミッション終了。

 うん、おっさんも司祭さまも特に悪い事をしていなかった。

 帰りは別のルートを使って本郷集落の他の場所を見てから帰りますか。

 そんな風に俺たちのドキドキを返せとばかり教会堂を立ち去った時のことである。


 静寂な村の中に、けたたましい咆哮が駆け抜けたのだった。

 もちろんその意味は飼い主である俺にはよくわかる。

 バインドボイスだ。

 ワイバーンと同じく巨大なトカゲの仲間たちは咆哮によって人間の体を硬直させる魔法が使えるのだ。


 ランタンを持った手を取り落としそうになるのをあわてて堪えながら、天秤棒を杖代わりにどうにか倒れずに済んだ。

 以前に戦ったバジリスクの咆哮より魔力が強い。

 もちろんバジルのはじめての咆哮より強力だった。いったい何事だ?!

 俺は奥さんを振り返った。

 タンヌダルクちゃんは手からメイスを取りこぼして倒れ込みそうになる。

 急いで腕を回して助け起こすと、


「し、シューターさま。今のは」

「あかちゃんの悲鳴だ」

「という事はお家で義姉さんに何かあったんですか?!」


 落としたメイスを俺が拾ってタンヌダルクちゃんに渡すと、


「奥さんもう走れるか」

「走れます。急ぎましょう!」


 タンヌダルクちゃんとともに俺はランタンを激しく揺らしながら猟師小屋へと駆け出した。


次話において、読者さまにとって大変ご不快に思われる可能性のある描写が書かれております。

寝取られ展開、強姦展開などお好きでない方は、申し訳ございませんがこのままブラウザバックなされるか、ご了承の上で次話の展開に進めていただくことをお願い申し上げます。

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