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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第3章 奴はカムラ
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67 奴はカムラ 1

 延焼した建設途上の湖畔のお城を俺は見上げていた。

 昨晩、俺の家族たちが集まって女村長の屋敷で晩餐をしていたところ、この城の火災を知らせる一報が届いたのである。


 時刻はどれぐらいだっただろう。

 陽が落ちて一時間程度は経っていたとは思うから八時、いや九時ぐらいかもしれない。

 普段ならそろそろ飯も風呂も終えて寝仕度を始めるころだし、少し夜更かししている頃ならばカサンドラとハッスルしている時間かも知れない。

 そんな頃合に火災の一報を聞いて村長の屋敷を飛び出してみると、湖畔のある西の森の向こう側が朱く染まっていたのである。

 

「見事に振り出しにもどっちまったなぁ」


 何と言っていいのかわからない俺は、翌朝になって消火活動が終わった後に茫然とそんな言葉をこぼしてしまった。

 ここまで建設にかかった日数は二週間以上。

 元いた世界ならば長くかかるだろう建設の時間を見ればほんのわずかなロスかもしれないが、この世界では別問題だ。

 魔法によって簡単に土壁を作り上げる事が出来るので、いったん基礎と足場を作ってしまえば、ほとんどあっという間に家そのものは作り上げる事が出来る。

 問題はお城の方だ。

 朝になって火災の静まった城周辺を見れば、苦労して掘り起こした井戸が破壊されていたり、基礎部分の石の柱が強力な魔法か何かでヒビを入れられたりしていた。

 かなり用意周到な破壊活動だね。


 この世界には破壊活動防止法はないのか。

 俺の二週間が、何もかも台無しだ!

 ぜひとも当局には徹底的に調査究明をやって頂きたいものである。


「ふむ。ずいぶんと派手にやられたものだな。シューターよ、予定の計画通りに城を作るためには、どれぐらいの工数がかかるかの?」

「そ、そうですね。ちょっとわかりませんけれども、当初の予定では秋を迎えるまでには棟上げを済ませてしまおうという話でしたっけ」


 いつものドレス風の衣装の上から軽装な甲冑を身にまとった女村長が、(すす)けた城の壁を見上げながらそんな事を口にした。

 俺は慌てて手に持った羊皮紙の巻き物を広げる。

 細かく書き込まれた工程表は、俺が日本語で書き込んだものである。

 同じ内容をタンヌダルクちゃんに書いてもらって、こちらはドワーフの大工たちとも共有はしていた。


「この冬までに居住が可能なようには出来るか」

「ドワーフによれば基礎の部分は十分に耐久力がある事が、今回の襲撃で証明されたと言っていました。問題は足場を完全に燃やされてしまったのと、一部の石柱にヒビが入っているのも発見されたので、これは急いで交換しないといけないという事でした」


 いくつかの柱を指差して俺が説明した。

 女村長は何の表情も無い顔でそれを見上げ、ひとつひとつ触りながら移動していく。


 作業の工程全体を見れば、基礎をかため足場を作り、ようやく一階部分の壁面が仕上がったばかりのところだった。

 城の内側になる土の壁面は真っ黒に煤けていた。

 木組みの足場やそれを覆う天幕が張られていたのが、余計に災いしたらしい。


「石柱を交換するのはさほど時間がかかるまい?」

「問題は予備の石柱を急いで用意する必要がある、という事でしょうね」

「急がせろ、これはわらわにとっても意地にかかる事だからの。冬までに完成できませんでしたでは、周辺領主の介入を増長させる事になる」

「どういう事ですか?」

「今回の事件ひとつをとっても、わらわに統治運営能力が無いと注文を付けてくる人間がいるだろう。ブルカ伯か周辺貴族か中央か、それはわからぬが、そうなればわらわと結婚して、この領地をわが物にしようと考える不埒な輩がいるかもしれないからね」


 ようやく女村長の顔に生気が宿ったのだが、その時彼女は唇を噛んでいた。

 何と言葉をかけていいかわからず、俺はひとまずため息をついた。


「それに、冬になればこの辺り一帯は雪に覆われるんでしたっけ?」

「そうだの。それまでに城と集落、可能ならば村の幹部たちの石の家をしっかりと建設しておきたい」

「村と湖畔を繋ぐ道も、どうにかしないといけませんね」

「だからこそ、この様な事をやってくれた犯人が憎たらしくてならんよ」


 女村長は俺の方に向き直ってそう言った。

 よほど悔しい顔をしているかと思ったら、そうでもなかった。

 どうやら怒りや悔しさよりも、覇気と面白がっている様な顔をしているではないか。


「お兄ちゃん。わらわを助けてくれると言ったな?」

「ああ言ったよアレクサンドロシアちゃん」


 周辺に誰もいないのをいいことに、俺と女村長は茶番をはじめた。


「わらわのお城にこのようにした事、犯人に絶対後悔させてやりたい」

「そうですねえ。俺も俺の仕事を台無しにされたのが悔しくてなりませんからね」

「そうだろう、そうだろう」

「率先して犯人捜しをやりましょう」

「じゃあ、さっそく死体を検分に行こうかの」


 妙な意気投合でお互いにしばらく見つめ合った後に、俺たちは丘の下に向かった。

 本来は作業小屋で見張に立っていたはずの村人が、そこで消し炭になって見つかったのである。


「おう、シューター来たか」

「ッワクワクゴロさん、死体の具合はどんな感じですかね?」


 死体周辺で警備にあたっていたッワクワクゴロさんが俺を見上げて声を出した。

 女村長は俺たちのそんなやり取りの隣をすり抜けて、ドレスの裾をつまみしゃがみこんだ。


「殺された後に火の中へ放り込まれたらしい、この通り消し炭になっていて状況がわからん」

「冒険者やニシカさんたちの見解は?」

「カムラとかいったか、冒険者ギルドの旦那が周辺警戒から戻るので意見を聞いてみるとするか」


 ッワクワクゴロさんが鷲鼻をいじりながらカムラという言葉を耳にした瞬間、俺の背中に緊張感が走った。

 しゃがんで死体を覗き込んでいる女村長もたぶん同じだ。

 ビクリと背中を動かしたらしいのは、チラリと見ていてもわかったのだ。

 犯人と決めつける状況ではまだないが、余所から来た移民はこの際等しく怪しい。

 そしてエレクトラたちの上申を握りつぶしたという事実は拭えない。


 俺もアレクサンドロシアちゃんの隣にしゃがみ込んで、ふたつのまる焦げ死体を見やった。

 見るもおぞましいとはこの事で、俺はとても気分が悪くなった。

 どうやら女村長、義務感から覗き込んでは見たものの、詳しい事もわからず、死体の残念な有様にも耐えかねて、嗚咽一歩手前という具合だった。

 いやあ、不謹慎かもしれないがふたりの妻を離れた場所に待機させていてよかった。


「村長、シューターくん。この周辺の足跡を調べてみたがまるでわからない。作業員たちが踏み荒らしているので犯人のものと判別がつかないんだよ」


 すると、少し離れたところから美中年カムラの声がして俺たちは振り返った。

 美中年は移民の護送に付いてきた冒険者たち数名を連れていた。

 鹿追いにも参加していた青年と、あまり会話のしたことは無い鎖帷子姿の女冒険者だ。

 それからまだ未婚の、村の女を数名連れていた。

 確かギルドの運営に人手がいるというので、カムラがかけあって手の空いている働き手を求めたのである。

 それに応えたのがこの未婚の女たちというわけか。


「逃走経路なんてどうにでもなるだろうからな、足跡はこれだけ人足が作業現場をうろうろしていれば、その線から犯人探しをするのは無駄な事だろうぜ」

「シューター君は犯罪捜査の経験でもあるのかな」


 俺がむかしテレビや小説で読んだサスペンスやミステリを思い起こしながらそんな事を言うと、カムラが驚いた顔をしていた。

 たぶんこれは真顔なんだろうな。あまり裏表のない顔でカムラが言ったのだ。

 するとッワクワクゴロさんが腕組みをしておかしな事を口にする。


「ふん、シューターは故郷で戦士をやっていた男だからな。役人としてそういう事も経験した事があるに違いない」

「褒め過ぎですよ、ちょっとそういうのを見聞きしたことがあっただけです。足跡はいざとなれば誤魔化す事も出来るでしょうが、手口からは犯人像が浮かんでくるかもしれない」


 俺はというと、感心しているッワクワクゴロさんは無視して棒切れを拾い、改めてまる焦げの死体を検分した。


「これ、斬り殺されていますよね」

「ああこれは胸をバッサリだな」


 死んだ人間が誰なのかはすぐにわかった。

 何しろ見張りに立っていた村人が殺されたので、これはすぐに合致する。

 問題は殺され方だ。

 ひとり目の斬り口を見る限り、肩口から脇腹あたりまで斜めにバッサリと一刀のもとに斬られたというのが正しい。

 もうひとりを見やると、こちらは突き殺された後に剣を引き抜く際に斬り上げられている。


 むかし俺は大学の格闘技サークルに所属していた頃、居合を学んでいる人間から聞いた事があった。

 日本刀で人間を斬り付けるのはとても難しいと。

 まず刃を正しく立てる事が出来ないので、そもそも袈裟斬りというのは合理的な斬り方ではないのだと。

 つまり素人は刃を突き立てる方がいいのだ。

 刺すだけなら勢いをつけてやるだけなので、まあ根性さえ座っていれば誰でも出来る。

 

 この現場を見る限り、袈裟斬りひとつと刺殺がひとつ。

 両方が当てはまるわけだけれども、ひとつめの死体は日本剣術だろうが西洋剣術だろうが難易度の高い袈裟斬りだ。

 もうひとつの刺殺だけれど、こっちもプロの仕業を示唆するものがあった。

 刺して切り上げる。

 ただ刺すだけでなく引き抜く時に負荷を上にかけるのは内臓を切断するためである。

 やり方がえぐい。

 もしかすると他にも止めを刺した様な斬傷はないものかと探すと、やはり黒こげになった顔の付け根、つまり頸根の血脈が斬られていた。

 

「ああこれはプロの犯行ですわ」


 俺が棒切れで傷口数か所をつついたところでそう断言した。


「本当かそれは」

「斜めに斬り伏せられていますよね、これは剣筋を確かにコントロール出来る人間の仕業です。こっちは腹にひと刺しした上に、引き抜く時に内蔵もぐちゃぐちゃに切断してる。ついでに首筋も太い血管を斬っています」


 ふたり目はあざやかに、ほとんどふた太刀で倒しているのだ。

 その事をアレクサンドロシアちゃんに説明すると「なるほどな」とうなずいてカムラを見上げた。


「村の中にこの程度の剣術が出来る人間が何人いる」

「冒険者登録をしている人間は全員出来るでしょう。俺もシューター君もそうだし、大変失礼ですが、騎士さまであられるアレクサンドロシアさまもそれが可能です」

「フフフ、そうだな。犯人という意味で絞り込める人間を今日明日中に必ずわらわに上申せよ。また犯人を捕まえたものはわらわより騎士叙勲させると冒険者どもに伝えてくれ」

「ははっ」

「シューターはただちに野牛どもに連絡を飛ばせ。ギムルに応援をつけて寄越す様に伝えるのだ、警備の数を増やす」

「了解です、また後程」


 アレクサンドロシアちゃんは美中年を試す様にそう言うと立ち上がり、俺にも命令を飛ばすとすたすたと黒こげの造りかけのお城に向けて歩き出してしまった。

 途中で「エレクトラ、カサンドラ!」と叫んでいるところを見ると、何か話をするつもりなんだろう。



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