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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第3章 奴はカムラ
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52 ダンジョンの最深部に都市が存在しました

昨夜は電車で寝落ちしてしまい、知らない駅で目を覚ましてしまいましたorz

更新が出来ずに申し訳ございませんでした!

 ダンジョン化した自然洞窟に入るのは、俺にとって三度目の事である。

 最初と二回目はバジリスクの住み着いたあの洞窟だった。

 前回と大きく違う点があるとするならば、手元明かりの類が一切存在しない点だった。

 つまり真っ暗闇の中でダンジョンを前進しなければならないのである。

 これはかなり厄介だった。

 最初のうちはワイバーンが休眠する事が出来る様な大きな口が開いているのだけど、数十メートルほど先に進むと急激に洞窟が狭まり、いくつかの細道が走っている具合になる。

 この先の細道では月光なり星明りなりが入り込む余地はないだろう。


「それならですよ、少しでも陽の明かりが差し込む昼間のうちに入ればよかったんじゃないですかね」

「バッカお前ぇ、夜なら暗がりに眼が慣れてだいたい状況がわかるだろ」


 俺が当然の様に質問したところ、ニシカさんがそう返事をしてッワクワクゴロさんも同意した。

 いや、長時間暗い所にいれば目が慣れるという理屈はわかります。

 わかるけど、わかんねぇよ。

 昼間の方が視界に飛び込んでくる情報も多いと思うんだけどね。

 星明かりや月明かりで十分だっていうのは、ニシカさんが長耳族でッワクワクゴロさんがゴブリンだからというのも関係しているんじゃないだろうか。

 あるいはそもそも猟師として子供の頃から慣れ親しんでいたから可能なんだと思う。


「このトンネルは比較的新しくくり抜かれたものだな」

「ほんとだ、表面がやわらかい。変色もない」


 ニシカさんとけもみみがそれぞれ洞窟の壁面を触って確認している。

 そういえば雁木マリやッヨイたちも、洞窟の壁面を触って似たような事を確認していたのを思い出した。

 なるほど情報はこうやってしっかり見落とさない様にしなければならないのか。

 二人が確認を続ける。


「するとミノタウロスが掘って広げたのかな」

「何かのモンスターが広げた可能性と、ミノタウロスの可能性の両方があるぜ。まあこんな硬い山肌を削るんだ、ミノがやったんだろうけどね」


 俺にはこういう穴掘りはドワーフの専売特許なんじゃないかと勝手なイメージで思っていたが、いやよくよく考えてみると、あいつらは迷宮の主なんて呼ばれたりもする連中だ。

 もしかすると洞窟を加工してとんでもない大迷宮でも作っているかも知れない。

 

 おぼつかない足元のために、俺は地面の具合を確かめる様にしてニシカさんと並んで歩いた。

 時々、俺の体を触って合図を送って来るのだが、俺は下半身こそズボンを手に入れて心が満たされていたけれど、上半身はお肌丸出しの上からささやかなチョッキを着ているだけだった。

 お肌とお肌の触れ合いはやっぱりドキドキする。

 もしかするとダンジョン侵入のために心がドキドキしているのかもしれないが、少しだけ冷たいニシカさんの手にドキドキしているのかも知れない。


 色々と馬鹿な事を考えながら前進していると、またニシカさんが俺の腹のあたりをぐっと触った。

 今度のは優しげなタッチではない。

 前方に何かを発見したという具合だろう。


「ッワクワクゴロ、後方警戒」

「おう」

「シューター、お前はオレ様と低姿勢のまま前進。けもみみ女男はバックアップだ」


 小声で次々に指示を飛ばしたニシカさんは、いつでも不意の遭遇戦に備える様に山刀(マシェット)を抜くと、俺の手を引っ張った。

 さすがベテランのッワクワクゴロさんは油断なく手槍を片手に背後を警戒した。

 エルパコは、けもみみ女男と言われてとても嫌そうな顔をしながらも、ニシカさんの命令に従って短弓を構えた。

 予備の矢も短弓を構える手に持っているので、いつでも速射できる体制だった。

 ニシカさんと俺がツーマンセルになって前進する。

 

 俺はこの洞窟を前進しながら、まるでここは蟻の巣だなんていう見当違いな感想を抱いていた。

 こんな狭い場所に野牛の一族が生活しているというのは、きわめて疑わしい。

 ぴたりと足取りを止めたニシカさんが、出来るだけ頭の位置を低くしながら、その先を覗き込もうとしていた。


「いたな。野牛が眠りこけている」


 ほとんど吐息の様な小さな声で、ニシカさんが呟いた。

 すぐに俺と立ち位置を入れ替えて、俺も洞窟の向こう側を覗き込む。

 顔を出そうとした瞬間に、ニシカさんがぐっと俺の頭を押さえこんできた。

 もっと姿勢を低くしろと言いたいのだろう。


 見ると、オーガほど巨体ではないけれど、それでも青年ギムルや冒険者ダイソン程度にはムキムキの牛面が、そこで寝息をかいていた。

 服を着ている。俺より上等な服を着ている。くやしい……

 その上、しっかりと寝台に横になっていてはだけてはいたが毛布まで被っている。

 俺はてっきりオーガの様な蛮族を想像していたが、それよりも文化度合いはずっと高いらしい。

 俺が首を引っ込めると、今度はかなり堂々とニシカさんが通路を進んでいく。

 振り返って俺たちに手招きをした。

 エルパコと顔を見合わせて、さらに後ろのッワクワクゴロさんに合図をしながら、さらに道の先に進む。


 不思議なもので、暗くてまるで見えないと思っていた暗闇の中でも、気が付いたらある程度ものを判別出来るぐらいまで眼が慣れはじめていたではないか。

 それによれば、牛面の猿人間はよだれを垂らして爆睡していた。

 殺るなら簡単にニシカさんがとどめを刺してしまいそうだが、村長によれば労働力として期待しているらしいから、数を減らすのはまずいだろうか。


 さらにしばらく前進していると、またニシカさんが俺を手で制止した。

 いちいちお腹のあたりや胸のあたりを触るので、またドキドキしてしまった。


「この先はオレも良くしらねえんだが、音の響きが悪くなっている」

「つまり?」

「たぶんここを進むと、大きく洞窟が広がってるんじゃねえか」

「と言うと、バジリスクのダンジョンみたいに?」


 そう言われて俺がバジルを保護した地底湖を思い出して質問した。


「たぶんな。生活音が聞こえるだろう」

「生活音。ミノタウロスのですか?」

「ほんとだ、聞こえる」


 俺には何も聞こえないわけだが、ニシカさんとけもみみが顔を見合わせて何事か納得した様だ。

 慎重に歩き出したニシカさんがやがてまた足を止め、その先を伺った。

 今度はそれほど警戒している様子が無い。

 俺もじゃあという事でひょこりと先を覗き込んだところ、絶句してしまった。


 どういう風に説明すればいいのだろうか。

 そこにあったのは洞窟の天盤をくり抜いてつくられた、ひとつの都市であった。

 土か岩かまではわからないが、しっかりとした文化的なブロック状の家々いが並んでいて、月光に照らされたそのどの壁もが鮮やかな装飾の施されていたのだ。

 オーガどころじゃない。

 俺たちの村よりもはるかに文化的な生活をしていることは間違いない。

 家の数は、ざっと見たところ五〇から七〇ぐらいはあって、その中央にひときわ大きな建物がある。

 最初の予想では数十人いればいいほうだと俺たちが予想していたけれど、建物の数から想像するに、もっとこの集落、いや都市の人口は多いはずだ。

 ちょっとした家庭菜園の様なものもあちこちに見えるし、家々から明かりが漏れている。

 どこからか野牛の一族たちの談笑が聞こえてきた。


「あれはオレたちと同じ言葉を使っているな」

「人口も、思ったより多そうだ。ざっと見ても数百人規模なんじゃないかな」


 ニシカさんの言葉に俺もうなずきながら一言添えた。

 ッワクワクゴロさんもエルパコも、揃って茫然とした表情でその半地下都市を眺めていた。

 規模こそ俺たちの村より小さくても、明らかに都市なみの文化だ。

 こんな連中と捉えて使役するなんていうのは、ちょっと難しいんじゃないですかね……


「帰るぞ、もう十分だ」

「……あそこに、犬がいるよ。犬を飼っている。早く引き返した方がいいかも」

「ああ」


 ニシカさんの言葉に、エルパコがけもみみを器用に動かしながら反応していた。

 俺たちはすぐにも引き返した。

 筋骨隆々なミノタウロスを想像して二〇〇、三〇〇人規模の半数が男、そのうちさらに半数が成人だと考えてみる。

 一方の俺たちは冒険者と猟師をあわせてもせいぜい二〇名に満たない。

 恐らく女村長や幹部も多少は武技が使えるとしても、数の上でどうにか対等という程度だ。

 これはとんでもないものを見つけてしまったかもしれんね。


 洞窟を足早に、ニシカさんを先頭にして進んだ。

 途中で例の寝いびきをかいているミノタウロスの部屋を通過したが、野牛の男は寝返りをうっていたらしく俺たちとは反対方向を向いて寝ていた。

 たぶんこいつは、湖畔に抜ける洞窟の道を守衛している人間なのだろう。

 注意して見てみると、例によってこの世界で愛されている刃広の剣が壁に立てかけてあった。

 野牛の守衛部屋を突破し終わると、ニシカさんの歩みはさらに早まった。


「しかし洞窟がこんな風になっていたのは知らなかったな。人生四〇年、まだまだこの森について知らない事がある」


 音も無く歩いていたッワクワクゴロさんが、そんな言葉を吐き出した。


「あんなしっかりとした都市機能は、恐らく一朝一夕に出来るものではないだろう。恐らく最近はワイバーンも洞窟にやってこなくなったと見て、洞窟同士を繋いだのかもしれんな」

「あり得る話だが、これを村長にどうやって説明するつもりなんですかね」

「見たまんまを伝えるしかないだろうぜ。ニシカは口が足らないから、俺とシューターで説明する他ないだろう」


 俺とッワクワクゴロさんがそんな会話をしていると、気分を害したのかニシカさんが鼻息を荒くして振り返った。


「お、オレ様にだって状況を説明するぐらい出来るぜ。オレに任せてもらおうか」

「いやシューターに任せた方がいいだろう。お前さんと違ってこの男は学があるからな」

「チッ、全裸を尊ぶ部族の出身の癖に……」


 ニシカさんが俺の事を馬鹿にしてそんな事を言ったではないか。

 しかしやぶへびってもんだ。俺はひとつからかってやった。


「まあ、ニシカさんは黄色い蛮族だからしょうがないですね」

「ニシカさん、蛮族なんですか?」

「そうだぜエルパコ、ニシカさんはワイバーンを生で食べてしまう様な蛮族だから、怒らせると怖いぞ」

「蛮族じゃねえ!」


 ほら怒った。黄色は蛮族なのである。


     ◆


 洞窟を出て来た俺たちは、美中年カムラとカサンドラと合流した。

 カムラの方はッワクワクゴロさんと何か会話をしていたが、俺は待っていたカサンドラを気遣って側に行く。


「どうでした、シューターさん?」

「洞窟の向こう側には、野牛の一族が住む都市があった。かなりしっかりした作りで、人口も俺たちが予想していたよりも多いみたいだった」

「都市、ですか? 集落ではなく?」

「ああもうあれは集落なんてショボいもんじゃない。俺たちの猟師小屋より立派な家がいっぱい並んでいたよ。俺たちもあそこに引っ越そうか?」


 俺がそんな冗談を言ったところ、カサンドラはちょっと頬を膨らませて嫌そうな顔をした。


「心配していたんですから、茶化さないでください」

「うむ。俺は無事だよ」


 むくれたカサンドラの顔もかわいいね。


 そして俺たちは一刻も早く女村長の元に情報を届けるべく、道を急いだ。

 さて女村長がどんな判断をするのか、見ものだね。

 あれを捕まえて使役するのは、やっぱりどう考えても無理だ。

 それにニシカさんが確か言っていたが、俺たちと同じ言葉を喋っているという事なので、意思疎通は可能だ。

 してみると、この土地の領主である女村長は、土地の領有権を主張して税を納める様に野牛の一族に交渉を働きかけるか、少なくとも領境線を確定するための話し合いの場は持つように考えるだろう。

 いや、考えなくても俺から提案する必要がある。

 村が総出で野牛の一族狩りをしても、たぶん被害の方が大きくなって割に合わないからな。


 俺はそんな事を考えながら、常夜灯の燈った石塔を目印に道を急いでいた。


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