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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第11章 明るい宮廷工作
562/575

414 全裸、挑戦する

いったん投稿後、後半パートを加筆修正しました。

 男装の麗人と巨人メイド。

 腕に覚えのあるふたりの女性を相手にしても息ひとつ乱さず、無傷で勝利したアップルスター卿である。

 さすがに彼女の剣技が、これほどまでとは俺も評価をしていなかったので驚きだ。


「いかがでしょうか全裸卿閣下、秘密の剣筋について何か掴むものはありましたでしょうか」

「さすがにアップルスターさんの手元で何が起きていたのかまで、全てを理解するなんて事はできないな」

「左様ですか……わたしはまだ体力に余裕がありますので、もう少しどなたかのお相手をいたしましょうか?」


 そんなアップルスター卿の有難い申し出だけれども。

 未だに興奮冷めらず、ああだこうだと意見を言い合っているコンコースのお客さんたちを、俺は解散させなくてはならない。

 日中のお仕事タイムであるにもかかわらず、全裸の役人や使用人たちは「次はどの奥さまがお相手するのだ」とか「満を持して全裸の旦那さまだろう」などと言い合っている。


 できれば静かにじっくりと、アップルスター卿からご指導たまわりたいものだが、


「そんな事を言って。お兄ちゃんはハーレム大家族の面子というものを考えていない。このまま引き下がる様であれば、オレンジハゲめの一族に負けたという汚点を残す事になるではないかの」


 この城館の主人であるアレクサンドロシアちゃんからして、こうだ。

 今にも次は「エルパコが相手をせい」とか「いや、ガンギマリー卿ならあるいは」とか思案している様だから、放置していればまだまだこんな調子が続くだろう。


「後の事は俺がしっかり研究対策をやるから、奥さんたちはお仕事に戻ってください」

「うふふ、そこは心配しなくても問題ありませんようドロシアさまあ。旦那さまが夜になれば、アップルスターさんを組み伏せて勝っちゃいますから」


 助け舟のつもりだろうか、放っておくと側に近づいてきたタンヌダルクちゃんがとんでもない事を口走る。

 ついでに一緒にいた大正義カサンドラが、とても嫌そうな顔をしてこちらを見ているではないか。

 何事も順番が大切なのに、それを無視するようなことを口走ってはいけません!

 などと、俺が必死でアイコンタクトを送り止めさせようとしたものの、


「むむっ。確かに政治的に取り込んでしまえば、これはもう勝利したと言える。お兄ちゃん、カサンドラの許可を取り付けた上で、よきように致せ。あの者もハーレム大家族であるならば面子は保たれる。ブツブツ……」

「そうですよお。旦那さまが必ず仇を討ってくださいますよ!」


 いいからタンヌダルクちゃんは、領主奥さんを執務室にお連れしなさい。

 カサンドラも恐ろしい顔でこちらを見ないでください。ジョビジョバの一族の仲間入りをしてしまいそうです。

 などと思っていると、


「あのうシューターさん」

「は、はい。何でしょうか俺の奥さん」

「アップルスターさんは高貴なお生まれで、その身の上に翻弄され続けてきた人生でした」

「う、うン。そうだね」

「戦争奴隷という立場からですけれども、こうしてその身の上の楔からアップルスターさんは救われたのです。旦那さまのお力添えで、少しでもこれからを幸せに過ごして頂く様に差し向けていただける事はできないでしょうか?」


 困惑した俺の顔を上目遣いに観察しながら、大正義カサンドラがそんな事を言ったのだ。

 確かにアップルスターさんはオレンジハゲの一族の末で、テールオン妃の身代わり役を演じてきたひとだ。

 その役割が終われば体よく用済みと言わんばかりに、跡取りの無い辺境に養子として送り出されたぐらいだからな。

 そこでも人生は薄幸そのもので、戦争では味方の裏切りで酷い目に合ったというわけである。


「戦争奴隷という立場である以上、彼女の扱いは低調でなければならないから当然だ。けれど、政治的な価値がある以上は、今すぐにどうこうする事はできない」

「はい」

「それに彼女の気持ちというものもあるからな。これから少し、剣術の秘密を教えてもらうついでに色々と聞いてみる事にしよう」

「ありがとうございますシューターさん。それでよろしいかと思います」


 案外、とても恐ろしい顔をしていたのは別の理由だったのかも知れない。

 カサンドラが深々とおじぎをすると、俺と揃ってアップルスター卿の方に視線を向けるのである。


 見ればアップルスター卿とケイシーさん、それに男装の麗人やけもみみが加わって、何かの剣術談義をくり広げているのが分かった。

 ニシカさんもその輪に加わろうとしていたけれど、俺と一瞬だけ視線を交わしたところで、自分の役割とばかり大喝を上げるのである。


「おら、いつまでサボっているつもりだお前ぇたちは! 散った散った、解散だぜ。みんなしっかりと仕事をして、素晴らしい気持ちで新年を迎える様にしやがれっ」


 ニシカ将軍がお怒りだ、などと使用人たちが蜘蛛の子を散らす様にコンコースから逃げ出す。

 他の奥さんたちも俺とカサンドラに貴人の礼をしてみせてから、それぞれの持ち場や私室へと引き上げていった様だね。

 コンコースが普段通りの静けさを取り戻したところで、俺とカサンドラは歩み寄ってアップルスター卿に話しかけたのだ。


「ここで稽古の続きをすると、またみんなの注目を集めてしまう。続きはあまり人目に付かない場所でやるのがいいだろう

「わかりました。それでは続きは別館で続けるのでいかがでしょうか」

「広いスペースと言えばリビングくらいしかないが、それで大丈夫なのかな?」

「問題ありません、むしろ好都合かも知れません。是非そちらで続きをよろしくお願いします」


 俺は残っていた奥さんたちと連れ立って別館へと場所を移す事にして、秘密の剣術特訓を再開した。


     ◆


「基本的にこの剣術は、宮殿や城館の様な施設の中で戦う事を目的に編み出されたものだと聞いています」


 実際に剣を鞘から引き抜いて見せたアップルスター卿が、対峙する俺を観察しながらもそう説明した。

 この時の彼女は、立ち合いをやった時の様にダラリと剣を垂らすのではなく、普通の剣術の様に構えてみせる。


「つまり一対一で戦う事を主眼に置いているんだな?」

「はい、わたしは閣下の様に優れた戦闘センスを持っているわけではありませんので、一度に相手できる数はひとりが精一杯です」

「お世辞はいいから、説明を続けてくれ」

「失礼しましたっ」


 口だけで謝罪の言葉を述べた彼女は、すいと剣を引き上げてゆっくりとした挙動で斬りかかる。

 もちろん立ち合いで見せた素早さなどないのだから、俺は簡単にそれを避ける事ができる。


「ご覧の通り、狭い場所でこの様に剣を振れば挙動に制限がかかります」

「大きく振りかぶる事も出来ない代わりに、俺も避けるときに制限がかかるわけだな」

「はい、屋内で戦うためには、それ相応に訓練を受けていなければ難しいかも知れませんね」

「だがその代わり、その点について知識があれば、かえってそれを有利に利用できる」

「その通りです。わたしがブルカで剣術指導を受けたのは、それでした」


 別館のリビング前で俺とアップルスターさんは、殺陣の打合せをする様な要領で、動きを確認し続ける。

 攻撃をかわす時は、できるだけ壁際に追い詰められない様に移動する必要がある。

 剣も大きく振り回すのではなくて、折りたたむ様に構えなければ壁や天井を擦りあげる事になる。

 特に落成間もない新居に剣の斬り傷なんかつけたら、この城館を現場監督したサルワタの大工たちに何を言われるかわからない。


「動きが制限されると、動きが読みやすくなるわけだな。アウトレンジの戦いよりもインファイトを得意にしている様に見えたのは、そのためか」


 先ほどの立ち合いでアップルスター卿の見せた動きを思い出しながら俺は口走った。

 そうしながら剣を引き抜いて、俺も彼女の攻撃に長剣の腹を合わせる様にぶつけてみせる。

 するとその瞬間に、アップルスター卿が手首を折るのが分かった。

 俺の剣に刃を添わせながら、するりと前進してみせるのである。


「体を小さく折りたたんで潜り抜ける動きだな。これはさっきベローチュにもケイシーさんにも見せた技だ」

「剣同士がぶつかった瞬間に相手は普通、力押しをしようとしますので。軸をずらして体を入れ替えながら、走り抜け様に一閃すればよいわけです」


 言うは易しというもので。

 実際にスローモーションでやってみせるアップルスターだけど、観察していた奥さんたちは首を捻っている。


「どうして負けたのか、ケイシーあなた理解しておりますの?」

「相手が先に攻撃を仕掛ける様に誘っていたのは理解しております、マイ・ロード。そうする事で相手をいらだたせる戦法だったのかと」

「避けて受けて、焦らして攻撃を荒くさせるわけですのね?」

「イエス・マイ・ロード。ありていに言えばその様なものかと……」

「確かに、焦らされるととても嫌な気分になりますの。夜の旦那さまが得意にしている戦法ですのよ」


 マリアツンデレジアとケイシーさんの主従は、見取り稽古をしていた。

 剣術がまるで駄目なマリアちゃんはともかくとして、ケイシーさんは見ている所は見ている様だ。

 問題は、明後日の方向のたとえ話を持ち出してケイシーさんを困惑させている事だろう。

 えっ、チラ見するとニッコリと沈黙の微笑を浮かべて同意している?!


「おい、今の理屈がわかるかけもみみ」

「しゃがんで、ぴょんと飛んだのはわかるよ。それならできるや」

「剣の威力を弱めて、しゃがんでピョンを同時にできるか?」

「無理だよ」

「使えねえなあ、じゃあ意味ないじゃねえか!」


 ニシカさんとけもみみはこんな具合だ。

 筋力だけなら男も眼じゃないニシカさんならば、むしろ男の騎士を相手にしても鍔迫り合いで圧し斬りにかかるだろう。 

 けもみみならそんな面倒くさい事はせずに、一撃を回避しながら斬り抜けるか。


「なるほど手首を返してすり抜けるところは自分も理解しました。手首を返しながら鍔迫り合いの威力を弱めて、相手の剣の陰を潜り込む様に横移動するわけですか」

「あなた、見ただけでそんな事が理解できるの? さすが産まれた時から騎士の娘というのは違うわね……」

「その代わり聖女奥さまの様に、自分は魔法が使えませんので。問題は剣を手にしてもご主人さまには遠く及ばない事でしょうか。何もかもが中途半端です」

「よく言うわ。ポーションをキめた時のあなたは、十分にハーレム大家族でも指折りの強さだったけれど」


 男装の麗人と雁木マリは、俺たちの隣で動きを観察しながら自分たちでモーションを再現している。

 頭の回転が速い奥さんふたりなので、理論的に解釈しようとしているのだろうか。

 俺よりよほど頭を使う事が得意な彼女たちが、雑談を挟みながらも熱心に技を分解しようとしていた。


「少し早く動いてみてもらえるか」

「わかりました閣下。お相手が閣下なので、少々本気でやってもよろしいでしょうか?」

「えっ」

「先ほどは広い場所で秘密の剣術を披露したので、その全てをお見せる事ができませんでした。しかし閣下は全裸不敗のお体ですし、いざという時には聖女ガンギマリー奥さまもおられます」

「えっ」


 言うが早いかピョンと後方に飛び下がったアップルスター卿だ。

 いったい何がはじまるのかと思った瞬間に、容赦なしの加速をした剣が俺の前を走り抜ける。

 ギリギリで攻撃をかわした俺は、たまらず「うおおお」と絶叫しながら反撃に転じていた。

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