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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第3章 奴はカムラ
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50 野牛の一族 中編(※ 挿絵あり)

挿絵(By みてみん)




野牛の一族。

 新しい言葉が出てきました。

 野牛というとあれか、牛面の顔をした人間一族という事だろうか?


「野牛の一族というとあれですか」

「あいつらは牛面の猿人間のオスと、角を生やしたメスってやつだ。シューターみたいな裸を貴ぶ部族だが、オーガみたく人間とは決して交わらない連中というわけだ」

「もしかしてミノ何とかというんですかね?」


 俺が質問すると、懇切丁寧にッワクワクゴロさんが説明してくれた。


「ミノタウロスって言うんだが、どうやらシューターの故郷にもいる様だな?」

「いやいるというか、知っているというか。モノの本で読んだことがあるだけです」

「そうか」

「で、そいつらを討伐するんですか?」


 俺が当惑気味に質問をすると、ずっと黙って事の成り行きを見守っていたギムルが口を開いた。

 そういえばいたな、こいつ。


「今、この村には労働力が必要だ。よって野牛の一族を捕まえて、奴隷にする」


 はい、いまギムルさんが重要な事を言いましたよ?

 みんなちゃんと聞いてましたか?


「で、誰がそれをやるんですかね……」

「もちろんワイバーンにバジリスクを倒したという腕前の赤鼻とお前だ」


 無慈悲があるとすれば今のオレの状況だろう。

 ニシカさんはわかる。普段は酒ばかり要求する様なだらしない女だが、鱗裂きのふたつなは伊達ではない。

 だが俺はどうだ? 魔法も使えなければ得意の獲物は天秤棒ぐらいの新米冒険者を兼務する駆け出し猟師だ。見習いだ。

 しかも何でそこにカサンドラが入っているのだ。

 カサンドラは猟師未満ではないのか。


「本気ですか?」

「もちろんだ」

「拒否権はありますか?」

「駄目だ。お前は奴隷身分だからな、ご主人さまの命令は絶対だ。拒否権は無い」


 心底嫌そうな顔をしてしまった俺に、こんな時にギムルは白い歯を見せて宣言しやがった。


「だが悪く思うなよ。お前が村一番の戦士である事はみなが知っている事だし、ワイバーンやオーガ、バジリスクを倒したというはなしも、昨日の晩しっかりそこの赤鼻から聞いたからな」


 慌ててニシカさんを見やると、今は赤くない鼻をひと擦りしながら俺から視線を反らしやがった。

 しかし、すぐにも何かを思いついたらしく、ニシカさんがギムルを睨み付ける。


「まて、ギムルの旦那。もしかしてお前ぇ、今日の野牛の一族狩りをするのに、いろいろオレにシューターの事を聞いてきたんだな?」

「そうだ」

「じゃァあれか、このオレ様に酒を呑ませて気持ちよくさせたのも、その目的だったんだな?」

「その通りだ」


 昨日の晩、俺とカサンドラが結婚について幸せというものが何か確認作業をしていた頃、このひとたちは旅の土産話をニシカさんから聞き出していたわけか。

 ちっ、酒に溺れる女は嫌いだよ。

 俺とカサンドラが顔を見合わせながら成り行きを見守っていると、美中年がぼそりと耳打ちをしてくれた。


「いや、ミノタウロスを捕まえて奴隷にすると言い出したのは、村長さんなんだよ。俺もそんな話は事は聞いた事が無かったから驚いたんだけど、どうやらむかし、先代の村長さんの頃にもオーガやミノタウロスを捕まえて使役していたらしい」

「はあ。そうなんですか……」

「まあミノタウロスはオーガほど大規模な部族を構成しないから、その点は安心してくれたまえ」

「じゃあミノタウロスとオーガ、どっちが強いんですかね?」


 俺が不満を覚えながらそう質問をすると、腰に手を当ててニシカさんとギムルの口論をニヤニヤ見守っていたッワクワクゴロさんが口を開く。


「ミノタウロスだな。オーガは巨人だが、それほど筋肉質な体格というわけではないだろう。だがミノは強いぞ、戦士の部族だ。まあ棒切れ一本でギムルの旦那を制圧したり、バジリスクを倒したお前さんならわけがないだろ。ん?」


 ん? じゃねえ!

 何言ってんだッワクワクゴロさんは!


「せめてカサンドラを連れていく理由を教えてください。妻を危険にさらす馬鹿がどこにるんですか!」

「何を言っているんだ、カサンドラは猟師の娘だぞ。成人もして、結婚もしたんだから仕事をする。当然の事だ。お前にしっかりとついて、そろそろ狩猟のいろはを勉強した方がいいだろうからな」


 そんな事をしれっと言ってのけるッワクワクゴロさんだった。


「カサンドラ、君はこの話を聞いていたのか?」

「……はい、シューターさんが帰ってきたら、少し猟の勉強をしたいとは言いましたけど……その、野牛の一族を捕まえるのに参加するとは」


 ほら見ろ、カサンドラはそんな事は承知していないという顔をして怯えているではないか。


「なあに、いきなりリンクスやコボルトを相手にするというのではない。女は兎や狐狩りを覚えればいいんだ。それに今回は湖畔周辺を下調べするだけだから、連れていく。そこの獣耳のお嬢さんも連れてな」


 そう言って、俺とカサンドラが獣耳の銀髪猟師を見た。

 すると、いままでぼんやりとした表情だったけもみみが口を開く。


「あの、ひとついいですか」

「何だいお嬢ちゃん」


 けもみみにッワクワクゴロさんが笑顔を向けた。


「ぼく。おとこのこですから?」


 男の娘でしたー。

 いいね!


     ◆


 湖畔に向けて偵察に出るのは午後過ぎという事になった。

 それぞれが出立に向けて準備をするために、狩猟道具や冒険者道具の支度を急ぐ。


 基本的には湖畔周辺まで陽のあるうちに前進し、陽が落ちた後で洞窟周辺まで近づく。

 今回はあくまでも状況を確認するために近づくのが目的で、ミノタウロスをとっ捕まえるというのは後日が本命だった。

 村にやって来た冒険者たちにマッピングをさせているのは、ある程度この村周辺の状況を身に付けさせておいて、いざ本番のミノタウロス捕縛の時に包囲網に抜け道を作らせない様にという事らしかった。


「それで、どうしてミノタウロスがこの森の湖畔に住み着いている事に気が付いたんですかね?」

「俺と冒険者エレクトラがあの湖畔にな、お前たちが倒した場所を案内しに出かけてたんだよ。そしたら湖畔の周辺にいくつか足跡があった」

「ほう」

「冬はあの辺り一帯が雪に覆われるので、普段俺たち猟師はあの辺までは出張らなねえ。その代わりに森の周辺や草原の鹿を追いかけるか、それを狙って降りて来たワイバーンを仕留めたりする。だからその妙な足跡を見て驚いたというわけだ」


 サイズが人間よりも大きい。しかも少しばかり古いものだったそうだ。

 先日のワイバーンに止めを刺した時の人員が残したものにしては合点がいかないので、周辺を散策してみたところ、ついにはミノタウロスの姿を目撃したという話だった。


「まさか俺たちがワイバーンを倒した目と鼻の先に、ミノタウロスどもが住み着いているとは思いもしなかったからな。フィールドの中にいるのなら、もっと早くに気が付いても良かったはずだ」

「その洞窟というのは、かなり奥に深いのですか?」

「そうだな、深さについては俺たちも実はよくわかっちゃいないんだ。何しろワイバーンが入り込めるサイズの洞窟ではあるんだが、それは洞窟の入り口周辺あたりまでの事でな」

「なるほど」

「奥にはさらに細い洞窟の道が続いている事はわかっちゃいたんだが、そもそも俺たちはワイバーンにゃ興味があるが、それ以外については猟師にとって門外漢だ」


 とすると、以前ッヨイさまや雁木マリが説明してくれたふたつのダンジョンの区分に従えば、


「それは自然洞窟から発生したダンジョン、という事になりますね」

「詳しいじゃないかシューター。ええ? 街ではいっぱしの冒険者をやっていたらしいじゃないか、一か月そこそこしかいなかったくせに」


 バシバシと俺の尻を叩くッワクワクゴロさんだが、俺はズボンを履いているので皮膚は痛くても心まで痛むことはないぜ。

 そんな会話をしながらに、俺たちは猟師小屋に向かっていたのである。

 ッワクワクゴロさんは俺たちと同じで村はずれに住んでいる身分だ。

 ちょうど道すがらというわけなんだが、ここにはけもみみの男の娘もついてくる。


「名前はエルパコと言ったかな」

「……うん」


 どこからどう見ても年若いけもみみ少女猟師にしか見えない男の娘エルパコだが、れっきとした息子の付いている男子である。

 ところでエルパコはイヌ科獣人族の血を引く人間という事だった。

 街からここに向かう間もずっとその耳と尻尾の事は気にしていたのだけれど、相手にいきなりそういう事を聞くのも失礼なので控えていたのだ。

 だが、この子は俺たちの猟師小屋でしばらく預かる事になったのである。

 エルパコについて質問しても、今ならバチはあたるまい。


「少し耳を触らせてもらってもいいかな?」

「し、シューターさん」

「だってその耳気になるじゃん。動くかどうかとか、尻尾も気になるし」

「……そうですけれどぉ」


 俺がニコニコしながら正論を言うと、やっぱり妻も気になっているのか少し遠慮気味だが同意の姿勢を示してくれた。


「……さわるくらい、なら」

「どれどれ、自分で動かす事は出来るのかな」

「くすぐったい、よ。自分で意識しては、無理かな」

「ありがとうございます、ありがとうございます」

「…………」


 なるほど、つけ耳ではなかった。ちゃんとひと肌の熱が感じられる本物である。


「ほら、カサンドラもさわらせてもらいなさい。本物だぞう?」

「で、ではちょっとだけ失礼して」

「ひゃんっ」


 こんな声をけもみみは出すのである。

 やっぱりどっからどう見ても俺はこの子が男子だなんて信じないからな。


「お前ら、遊んでいるのは構わないが、しっかり森に入る準備はしておけよ」

「了解しました。カサンドラにも何か武器を持たせた方がいいでしょうかねぇ?」

「そうだな、身を守る最低限の護身だけでいいんじゃねえか。弓矢と山刀か短剣でいいだろう」

「だったら街から持って帰ったメイスがあるので、持たせます。あれなら素人が使っても振り回して殴るだけなので。遠心力をつければ非力な女性でも効果があります」


 カサンドラにはこれから、少しは空手か武器の稽古をつけた方がいいのだろうか。

 奥さん恋人を相手に武術指導というのは、ちょっと俺が密かに憧れていたものである。


「エルパコは、武器の方は大丈夫かな?」

「……大丈夫、弓矢と手槍を持っているから」


 そう言って街から持ってきてまだ荷解きをしていないリュックを揺すって見せる。

 リュックの一部からは弦を解いた弓と矢筒がのぞいていたし、手には杖代わりの槍を持っていたから安心だ。



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