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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第11章 明るい宮廷工作
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406 ハーレム大家族の絆

「あのうシューターさん。日頃の感謝を込めて、旦那さまにプレゼントを用意させていただきました」


 上等なおべべをマイサンドラに着せてもらった俺は、リビングルームへとやって来た。

 するとそこには、大正義カサンドラを筆頭とする奥さんたちがズラリと並んで俺を出迎えてくれたのである。


 微笑を湛える正妻カサンドラに、第二夫人タンヌダルクちゃんと第三夫人アレクサンドロシアちゃんが寄り添っている。

 エルパコや雁木マリもにこやかな表情でこちらを見ているし、マリアツンデレジアや男装の麗人らも同様だ。

 他の奥さんたちに混じって新妻のガーターさまやアルフレッド、それにアップルスター卿までがこの場に同席している。


「これはいったい……」

「見た通り、旦那にプレゼントがあるって話なんだろうさ。わたしは聞いていなかったけれど、見当がついていたよ」

「マジで?」


 一方ニシカさんは当惑する俺の表情を見て嬉しそうにニヤついていたが無視する事にした。

 俺にプレゼントがあるという。

 いったいそれは何なのかと不思議がっていると、目配せをしたアレクサンドロシアちゃんが、ドワーフの全裸奴隷に長い金属の棒を運ばせたのである。

 それから、リビングの隅に重ねられていた幾つかの木箱が、部屋の中央まで運ばれてくるではないか。


「岩窟都市の王様、バンダーレンタイン陛下のご厚意で用意した、ウーツ鋼で鍛えた天秤棒よ」

「黒くて長くて禍々しくて、とってもしなる金属の天秤棒です。きっとこれからシューターさんの武勇伝とともに語り継がれる武器となると思います」


 説明をしてくれる雁木マリと、それに首肯しながら俺に金属の天秤棒を差し出してくれるカサンドラだ。


 受け取ってみると、思ったよりも軽く感じるものだった。

 樹木の年輪の様に木目状の模様が浮かんでるが、積層鍛造でもしたのか、製鋼過程でできた内部結晶の作用なのかまではわからない。


 だがしかし、ただの鉄パイプでない事だけはその触り心地と感覚から理解する事ができた。

 重みと同時に、軽く手に握ってみても弾力があるというか、しなりが違う気がする。

 

「これを俺に……」

「本当はもっと早くに用意できる算段だったんだけれども、折からの降雪と、戦争による資材不足で時間がかかってしまったのよ」


 近頃奥さんたちの様子、特に雁木マリの様子がおかしかったのは、これのためだったのか。

 よく考えればゴルゴライに駐留していた頃も、マリの周辺にはドワーフの職人連中の様なのが彼女のアトリエを出入りしていた様な気がするしな。


 恐らく鍛造の過程で特別な工夫を何度もかけたのだ。

 だからそれだけ予想外に時間がかかってしまったのだろうし、仕上がりも納得だ。


「それに手配した職人が鍛造するにも、思ったよりも手間取ってしまったんですの。ダアヌ夫人の横槍なんかもあったりして、物事なかなか上手くいきませんのよ」

「本当はシューターさんがイジリー砦へ視察に出ている間に、コッソリと準備しようという話だったのです。今は戦時下ですので時間がかかってしまいましたが」

「視察からご帰還されたタイミングで驚かせようと話していたんですけれどもね。おほほ」


 マリアツンデレジアとカサンドラは、互いに顔を見合わせた後に俺の方へ向き直った。

 カサンドラは懐内を探ると、何かの巻物を取り出したではないか。

 何かな? と俺が表情を緩めて差し出された巻物を手に取ると、


「そのう、わたしたち妻から感謝のお手紙です」

「さすがに全員の手紙を集めるのは大変だったので、みなさんからの寄せ書きと、代表者の手紙が添えられておりますのよ」

「お、俺にお手紙か。実は業務用の手紙以外を貰うのは、今回がはじめてかも知れない……」


 金属の天秤棒を脇に抱えながら巻物の蝋封を解くと、俺はそれを広げて感動に打ち震えた。

 奥さんから旦那さんへのラブレター。

 こんな事をしてもらったのは、人生で本当にはじめてなのだ!


 いや、むかし俺が男子高校生だった頃に悪戯で下足箱に手紙を入れられていた事があった。

 男子校だったので当然その手紙の主は学校関係者で間違いない。

 そうなれば教師も生徒もみんな男所帯なので、悪戯で手紙を入れた人間も男と言う事になる。

 もらった人間は「お幸せに!」などとクラスメイトたちに冷やかされるのが定番で、バレンタインの時期にチョコ付きでもらえば、もはや言い逃れのできない地獄週間(ヘルウィーク)が待っているのだった。


 あの時の俺は大変だったなあ。

 誰にもバレない様にスクールバッグの奥底に悪戯ラブレターとチョコを仕舞い込んで、何事も無かった様に隠蔽した。

 バレればどういう事になったか、想像するだけで恐ろしい俺物語である。


「よ、読んでもいいか?」

「当然、あなたに読んでいただくためにお手紙を差し出したんですの。わたしたち妻の前で、ぜひお読みになって下さらない?」


 柔らかな笑みを浮かべたマリアちゃんに促されて手紙に視線を落とすと。

 そこには奥さんたちを代表して書いたものと思われる文が記されていたのである。

 最初は大正義カサンドラか、あるいはアレクサンドロシアちゃん辺りが書いたのかとも思った。

 口ぶりからマリアちゃんかとも思ったら、そうでもない。こう書かれていたのだ。


「永遠の伴侶ニシカより、最愛の夫シューターさまへ」

「?!」


 視界の端で、これまでニヤつき笑いをして他人事の様に眺めていた黄色い花嫁が、血相を変えて腕組みを解いた。

 するとニシカさんの暴れる爆乳がばるんと弾けるではないか。


「離れてみればわかる事ですが、あなたとの絆はわたしの全てでした。夜毎、逢瀬を重ねる度にこの想いは強まり、任地へ赴きあなたの存在が遠く離れて初めて、わたしの中でそれはますます強まり、それは確信へと繋がったのです――」

「おいヤメロ、これはどういう事だカサンドラ?!」


 あわてて手紙を読み上げる俺を制止しようとしたけれど、そこは俺の側に控えていたマイサンドラがズイと前に出て阻んだ。

 天下の鱗裂きさまであろうと、お師匠のマイサンドラは苦手なのである。


「この気持ちは例え魂が女神様の祝福を受け異世界に旅立とうとも、その先で来世もまたあなたと添い遂げたいと切に感じる事でしょう。願わくば妻として子を授かり、やがては母としてあなたの分身を後の世に残す幸せを授かりたいものですが、今はこの様なご時世。断腸の思いでその気持ち胸に秘め置き、来るべき平和な世のため共に手を携えてこれを成しましょう」


 読み終えると、そこには「スルーヌ騎士にして独眼龍殺し、鱗裂きのニシカ」と署名が書かれていた。

 これだけは確かにニシカさんの筆跡で間違いない。

 不慣れな文字ではあるけれど、ニシカさんが自分の名前と二つ名ぐらいは練習していたのを知っていたからね。

 そこで手紙から視線を上げてみると、


「オレ様はそんな恥ずかしい手紙を書いた覚えはないぞ、第一読み書きができねえんじゃ無理な相談だ、誰だこのオレをハメたのは?!」

「ニシカさんをハメていいのはシューターさんだけだよね。それにニシカさんだって喜んで署名したじゃないか」

「あったりめぇだ! 誰がお前ぇのショボくれた息子を受け入れてやるものかッ。オレはお前ぇたちに書けと言われた場所に名前をだな、書いただけだぜ?! なあシューター聞いておくれよっ」


 情けない顔をしたニシカさんがあわてふためいたものだから、奥さんたち一同が顔を見合わせながらもクスクスと笑い出した。


「するとここに書かれている手紙は、ニシカさんの本心とはまったく関係ないと?」

「そうだぜ! いや……ンな事はねえ! 確かにオレはそういう風に思っていないわけじゃねえ。しかし、そんなまどろっこしい言葉は使わねえ人間なのは、相棒だってわかってるだろ、信じておくれよシューター!」


 そんな次第でニシカさんは、青みがかった黒髪ショートヘアを振り乱しながら言い訳を並べ立てた。

 その姿があまりにかわらしかったので、間に入っていたマイサンドラの了承を得て一歩前に進み、何となくニシカさんを抱きしめてしまったのである。


「気持ちが本当なら、言葉なんてどんなものでもありがたいよ。ニシカさんありがとう」

「お、おう。わかりゃいいんだ。どうってことないぜ……」

「それにカサンドラも、わざわざ気を利かせてプレゼントや手紙まで用意してくれて……」


 何と言ってお礼を言おうか。

 いやこんな時こそ、言うべき言葉はひとつだ。

 ついいつもの様に威厳も何もない風に、ペコペコと頭を下げて奥さんたちに謝意を伝えたのだ。


「ありがとうございます、ありがとうございます。ハーレム大家族は永遠に不滅です!」


     ◆


 さて、岩窟都市から特別に融通してもらったウーツ鋼とやらでこさえた武器は、鋼の天秤棒以外にもいろいろとあった様だ。

 木箱の中身を改めて確認してみると、ズラリと装飾の施された短剣が収められていたのだ。

 それこそ奥さんの人数分、ひとりにひと振りが支給できる様にである。


「そのう。旦那さまに黙ってこの様な手配をしてすいません……」

「いやぜんぜん、とても気の利いたことをしてくれたと思う」

「お揃いの剣を用意すれば、家族の絆も一層強くなるものだからな。わらわも一も二も無く賛成したぞ」

「俺や領主奥さんは戦場で斬り込みもするから、丈夫な剣はありがたいよな」

「義姉さんは気配りの人ですからねえ、うふふ」

「タンヌダルクちゃんもよく支えてくれているじゃないか。ありがとうな」

「シューターさん、今度ぼくに必殺の剣を教えてよ」

「そうだな。男は黙って飛天流だな」


 奥さんたちが口々にそんな事を言うので、俺はいちいちそれに返事をした。


 高貴な身の上である事がひと眼わかる豪華な装飾もさる事ながら。

 アレクサンドロシアちゃんが紅のマントの象意に使っている野牛の角をあしらったデザインも加味されていて、なかなかオシャレで高級感がある。

 俺はそのうちのひと振りを手に取って、鞘から短剣を引き抜いてみた。


「なるほどダマスカス鋼みたいに、こちらも木目状の波紋が奇麗に浮き出ているな」

「鍛造の過程でこういう様な模様ができるらしいわよ。ダマスカス鋼と言うの?」

「俺たちの元いた世界ではそういう風に言われていたな。インド産の鋼鉄を、シリアのダマスカスで鍛えた剣なんかがそんな感じに言われていたはずだ」


 実際の武器制作を細かく指揮した雁木マリが、隣に並んで白刃を覗き込んでいた。

 白刃とは言うが、不思議な色合いで金色と黒の木目状といった感じである。

 斬れ味の方は今すぐに試すというわけにはいかないが、マリによれば品質保証間違いなしとの事だった。


「以前、サルワタの鍛冶場で用意してもらった短剣は、すでに刃こぼれが激しくて鍛え直してもあまり長く持たないと言われていたんです」

「元が普通の量産型の短剣だからな。会戦で何度も使った割にはまだ使い物になるんだから、十分に量産品としては頑張ってくれたともいえる」

「それでそのう、特別な金属を手に入れたついでに、ガンギマリーさんにわたしがお願いしたんです」


 カサンドラによれば、それがこの木箱に収められた中身の正体だったわけである。

 昨夜マリの部屋でゴトゴトと音を立てていたのは、この木箱と中身だったのだ。。

 という事は、まだ開封していない木箱については長剣が収められているのだろうかね?


「はい。短剣はあくまでも護身の懐剣として使うものですから、戦場で使うのはこちらという事になります。貴族軍人の義姉妹にはこちらを使っていただこうと……」


 カサンドラの言葉に反応して、けもみみと男装の麗人がゴリゴリとバールの様なもので木箱の蓋をこじ開けた。

 こちらも豪華絢爛な装飾と、ひと眼でサルワタ貴族であるとわかる野牛象意の施された長剣ではないか。

 刃広の長剣はただでさえ丈夫な構造なのに、恐らくこのウーツ鋼を使った事で斬れ味についても十分なものなのではないだろか。


「残念ながら費用がかさむので、すべてのサルワタ貴族にこれを持たせるというわけにはいかなくての。ひとまず、わらわやお兄ちゃん、それから戦場に出る可能性のある貴族軍人の義姉妹どもの数だけ十振りばかり当座は用意させた」

「短剣は家族全員お揃いで、長剣は軍人奥さんと俺用というわけだな」


 俺の手で順番に奥さんひとりひとりへ短剣を支給していると、領主奥さんの番でそんな説明を聞かされた。

 確かにこの剣はかなり製作にも手間がかかっているという事だったし、数を揃えるのは難しいだろう。


「ご主人さま、将来的にはこの剣を簡易化したものをサルワタの騎士たちに支給する目算は立っております。ただししばらくは、新たに迎え入れる事になる奥さま方のために、というところでしょうか」


 今度は男装の麗人の番になって、彼女がまたおかしなことを言いはじめるのである。


「……新たな、これ以上俺は奥さんを増やして体が持つのだろうか」

「ご安心ください。困った時は一度にふたりの妻を相手にすれば問題解決ですね」

「そんな事をカサンドラが聞いたら怒るんじゃないのか……」

「はい、何事も順番が大事なので、そういうった事は下々の妻から行うのが妥当でしょう。あくまで正妻であるカサンドラ奥さまは、ご主人さまを独占する事が許されてしかるべきです」


 何事も順番が大切であるからして、この場合は逆からやる事になるのか。

 これから先、ハーレム大家族が増えても夜の絆を確かめるために、複数同時にお相手をしたところで俺の体が楽になるわけじゃないんだけどね……

 それにカサンドラの許可がなければ勝手な事はできない。


 などと埒も無いことを考えていると、青白い顔をした王族奥さんが、頬だけりんごの様に朱く染めてこんな事を言う。


「こ、この高貴な身の上のわたしに、アルフレッドとふたりで全裸のお相手をしろと言うんです?! 無礼千万にもほどがあります!」

「はじめてはふたりきりがいいよね」

「そういう問題ではありません!」


 箱入り娘に育てられたとはいえ、実家の伯爵家でも後宮でも武芸は嗜んでこられたらしい。

 貴族軍人のアレクサンドロシアちゃんに憧れていたところがあるからか、長短のふた振りを俺の手から奪ったガーターさまは、ぷりぷりと不平を俺にぶつけた後、背中を向けた。

 彼女もいざ戦場に行けば、前線に斬り込むつもりがあるんだろうか。

 まあ都落ちの際に護衛として付き従ってきた白色長耳の側近たちは、誰も彼も腕っこきの連中だった。


「大丈夫です。いざとなれば、あたいがしっかりお守りしますんで閣下のご心配にはおよびませんよ。それより、やっぱりあたいも、はじめてはふたりだけがいいです。むむ、ムードとか大切にしたいタイプだし?」

「そうだね、俺もムードは大切だと思うんだ」


 何故か俺はボーイッシュ白色長耳の少女に赤面しながらヒソヒソ返事をした。

 男勝りでガサツなタイプのアルフレッドセイヤーママンから、まさかムードという言葉が出てきたのが驚きだ。

 都会育ちのガーターさまやアルフレッドには、特別な演出で初夜の思い出を作らなければならない。

 そんな風に心に誓う吉宗だった。


 最後に一本残された長剣のそれは、今この場に集まったハーレム大家族の奥さんの中で唯一欠席のカラメルネーゼさんのものだ。

 蛸足麗人は今、俺の触手として王都周辺の情報収集と工作活動に従事している。

 帰還した彼女には、感謝の言葉とともにこのお揃いの長剣を手渡ししなければならない。


 奥さんからのプレゼント、ハーレム大家族の絆。

 俺はとても嬉しかった。

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