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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第2章 ダンジョン・アンド・スレイブ
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35 誰が言ったか1匹見たら30匹


 ここからも見える集落遺構を中心に、俺は水源を探し回った。

 なかなか見当たらない。見回りのついでに、見つけた大きな石をひっくり返す作業を俺はやっておいた。二匹目のドジョウで蛇がまた見つかるかとも思っていたのだが、そうも都合がよく見つかるわけでもない。

 そして井戸の遺構を見つけた。筒状の大きな井戸の跡地を覗き込んでみると、埋まっていた。

 まあ、その昔存在した村だから、そうそう都合がよくも行かないか。


 しかしまだ諦めない。

 かつてここに集落があったという事は、恐らく近くに川かあったと考えるのが妥当だ。

 四大文明(今ではこの表現は適切でないらしいが)の発生地もまた大河を中心に出現したというぐらいだし、人間と水源地は常にセットなのである。

 つまり、その理屈に従っていると考えれば、この近くのどこかに水源地があるはずなのだが。そう思いながら、少しだけみんなのいるベースから離れた場所までやって来た。


 はたして川は存在した。

 ちょうどダンジョンの入り口がある丘の方向とも、街道が存在している方向とも反対側になる場所である。

 しかも低木林や広葉樹が茂っている地帯だったので、見逃していたのだ。

 やはり俺の読みは当たっていたな、などと上機嫌で川辺までやって来ると、ひとまずぶらさげていた蛇を置いて手をよく洗い、水を飲んだ。

 ここまでくれば生水は体にあまりよろしくない、などとは言っていられない。

 飲み過ぎないように軽くゆすぐ程度にして、続きはみんなを連れてきてからにしよう。そう思って姿勢を上げた時に俺は気が付いた。


 この世界に来てひとつだけ以前と違うものを俺は手に入れた。

 コボルトやバジリスクなんてモンスターどもを相手にしてきたのでチート級の能力に目覚めたとか、特にない。

 ましてや未だ自発的に魔法が使えるわけでもないのでシックスセンスにも目覚めていないわけだ。

 してみると、この違和感の正体は視力であった。

 むかしより、遠くが見える様になっている。

 俺は子供の頃から視力は一・五から一・〇といったぐらいだった。極端に悪いわけではないので雁木マリみたいにメガネをかけていたわけではいけれど、俺の嫁カサンドラほど圧倒的に遠くを見渡せるわけではない。

 なんとなく、以前だったら絶対に気がつかなかった距離で、何かの集団がもぞもぞ動いている姿を目撃した。


「なんだあのノッポの人間は」


 血色の悪そうな土色の野人みたいなのがいる。

 俺と同じ様に腰巻きをしていて……ではない、かつての俺と同じ様にだ。していた。

 何となくあまりよろしくないものを目撃した事を自覚した俺は、ここが風下である事を肌で感じて、ゆっくり後退した。


 短剣は、腰にしっかりある。

 蛇の尻尾を引っ捕まえて俺は低姿勢で駆けだした。

 何だよあの血色の悪いノッポたちは。

 巨人か? 明らかに二メートルを超えてるようなデカい連中だ。だが三メートルまではいかない。

 背後をチラリと気にしながら、急いで集落の家屋遺構まで走った。よし、連中は俺にも気づいていない様だし、こちらにもまだ来ていない。

 そして音も無く遺構のところまでやって来た俺に、雁木マリが驚いて長剣を抜こうとした。


「お、脅かさないでよ! どうだったの水は」

「不味い事になった。ノッポの変な現地人みたいなのがいたぞ。この辺りは確か、もう人間は住んでいないはずだよな?」

「ん。そういう話は聞いてないけれど。ッヨイ?」

「ッヨイも知らないですどれぇ」


 あかちゃんバジリスクの相手をしていたッヨイさまは、しゃがみ込んだままの姿勢で俺を見上げた。


「二メートルは超えてそうな巨人だぞ。この先の低木林で川を見つけたんだけどあれは何なんだ。腰巻きもしてたし。文明人か?」

「腰巻きのノッポ? それって……」

「顔つきというか肌の色とかはわかりますかどれぇ?」


 短剣を引き抜くために蛇を放り出した俺に、雁木マリとようじょが口々に言葉を投げかけて来た。

 のんきなもので、あかちゃんバジリスクは俺の放り出した蛇に食らいついている。

 やはり腹が減っていたんだな。しかしお前には申しわけないが、すぐにここを移動しないといけない。


「色は土色というか茶色というか、何か血色の悪そうな連中だったな。数は数人しか見ていないが、あれはいったい何なんだ……」

「……たぶんだけど、オーガですどれぇ。一匹見たら三〇匹はいると思った方がよいのです」

「そうね、あいつらは集団で狩りをしながら移動する種族だから。ここで連中を見かけたのなら、すぐ近くに本隊というか、他の家族がいるはずだから」


 ッヨイさまと雁木マリの言葉に俺は顔をしかめる。一匹見たら三〇匹って、ゴキブリかよ。


「どうする? 水源は確かにあったが、移動した方がいいんじゃないか」

「その方がいいわね。連中はコボルトよりも高度な武器を持っているわ。少なくとも文明度合はあたしたちに限りなく近い」

「オーガって、何かもっと低能なイメージがあったんだが、どうなってるんだよ」

「そうね、こうイメージしなさい。この世界の人類の進化の中で、今の人間とは別の分岐を遂げて進化した人類みたいに」

「化石人類がまだ生きてましたパターンかな」


 雁木マリも改めて刃広の長剣の具合を確かめるべく白刃を抜き放っていた。

 ずいぶん刃こぼれをしている様子だが、さすが耐久性を重視してこさえられた剣だけあって、まだ武器として用を成している。


「マリ、切る時はここを使え。それから受け太刀をする時は刃の腹を使うんだ。そうすればできるだけ剣が痛めないからな」

「詳しいわね?」

「俺は元殺陣をやっていた経験があってな」


 俺は刃の痛みが少ない切っ先から三〇センチあたりを差しながら言った。

 むかし俺が殺陣の稽古をしていた頃、ヴェテランの殺陣師に愛用の木剣を見せてもらった事があった。

 時代劇などの役者さんたちの間で、木刀の事は木剣と呼ばれる事がある。

 特段、区別される様な差異はその両者には存在していないが、業界の慣習というやつである。

 で、ヴェテランの殺陣師の先生の持っている木剣は、必ず同じ場所に集中して受け太刀した傷跡が残っていたものだ。

 それだけより正確に剣を弾いたり、受け太刀していたのだろう。あるいは刃の腹で剣を受け流すので、刃の痛みが最低限なのである。


「最初はできないだろうが、意識だけはしていろ。筋肉と一緒で、意識し続けたらそのうちできるようになる」


 ましてや今回は相手の数がわからないのだから、こういう努力は少しでもしておくべきだ。

 あのオーガの体格から考えるに、骨を断ち斬るとなるとかなり刃を痛めそうな気がする。意識しておいて損はないだろう。


「逃げる方向でいくのか、先手を打って襲う方向で行くのか」

「逃げる方向がよいです。少しでもブルカに近づいた方がチャンスが広がるよ!」


 ッヨイさまがそう決断して、俺たちはうなずきあった。

 首なし蛇を飲み込もうと悪戦苦闘していたあかちゃんを拾い上げたッヨイさまに続いて、雁木マリが動き出す。

 俺は自然と最後尾を警戒する様にして続いた。

 ついでにボロボロになったポンチョは脱いで、腰巻き代わりにしておいた。もうポンチョとしての役割は成しそうもないし、腕に胸にとまとわりつくと集中力をかき乱しそうだしな。


 右手にメイス、左手に短剣。

 どこから襲われても対処できる様に武装状態は万全だ。

 相手がバジリスクじゃないところも、斬り抜けて逃走を図るにしてもありがたかった。

 巨人とは言ってもただの大きいだけの人間だ。筋力はそれこそゴリラ並みかもしれないが、当たらなければどうという事はない。

 次に装備が支給される時はぜひにも盾を要求しよう。うん、それがいい。

 さすがに二頭のバジリスクと連続して戦闘をしたために、体のあちこちは重たかった。

 これでも一応は筋力強化のポーションをキめているのだから、これがなければ疲労困憊だったろうな。

 俺たちはずいぶんと運がいい。そう思えばここからもうまく逃げだせる気がした。


 などと考えながら俺は、パーティーと共に足早で風に震える草原を足早に進む。

 しかし、広葉樹林の茂みを避けて街道を目指しているところ、俺たちはついにオーガと遭遇してしまったのである。

 ようじょパーティーはオーガに回り込まれた。

 ようじょパーティーは逃げられない?!


「オーガよ! 先攻を!!」


 雁木マリの悲鳴の様な指示が、陽が陰りだしていた大地に響きわたった。


     ◆


 不意の遭遇から強襲に移りかわる俺たちのパーティーメンバーは、さすが冒険者というべき切り替えの早さだった。

 俺が道場で空手をやっていた時なんてのは、一度でも予想しない攻撃を練習相手にされてしまえば、それだけでモチベーションを崩していたものだ。

 だが命がかかると、人間は割り切りが異様に速くなるらしい。

 雁木マリは当然として、ようじょのッヨイさまも素早くあかちゃんバジリスクを地面の置くと、グリモワールで魔法を発動させた。

 どうやら、事前に遭遇戦をする可能性を警戒して、例の栞を魔導書にセットしていたらしい。

 初撃ならば時間短縮で発動できるというわけか。頼もしいね!


「フィジカル! マジカル! ファイアボール!」


 相変わらずの呪文を唱えると、手元の印を踏んだ場所からようじょビームはが発射された。遭遇してしまった哀れなオーガの数は全部で七体。

 恐らく先ほど川の側で見かけたのと同じ部族なんだろうが、別の集団だ。毎度やりにくい展開だと思ったのが、オーガの中には子供をかかえたメス個体もいた様で、もしかするとこちらが部族の本集団なのかもしれなかった。

 しかも俺の元いた世界で言うと、西洋人とアフリカ系人種の混血みたいな顔をしている。妙にやりにくく感じるのはそのせいもあるのだろう。

 だがようじょは何の躊躇も無く、まずその非戦闘員っぽいオーガの首を一撃で吹き飛ばした。

 うわあ、えげつない。


 それよりわずかに遅れて、左手にファイアボールを浮かべた雁木マリも、屈強そうな戦士めがけて火球を放っていた。

 とにかくこいつらを瞬殺して、少しでも距離を稼がなければいけない。連中に合流されるわけにはいかないのだ。

 コボルトの時よりもはるかに嫌な気分になりながら、俺も駆け出した。

 ほぼ同時に向こうからも俺に向かって攻撃してくるやつがいた。


 こいつ、剣を持ってやがる。

 その体格には不似合だが、明らかにこの世界の人間がよく愛用している長剣の類だ。

 だが剣術を知っている者の動きではない。力任せの剣筋だ。


 俺は他のパーティーメンバーが奮戦しているのを見ながら、こんなヤツは一撃で倒してやろうと少しだけ強気に、前に飛び込んだ。

 正面から振り込まれた一撃を、短剣でいなしながら、ヤツの顔面めがけてメイスを振り上げてやる。

 ゴシャっという骨の砕ける音を確認して次に行く。

 ようじょに襲い掛かろうとしているオーガに飛びつこうとしたが、ようじょはその心配も必要無かった様にまた次のファイアボールを襲撃者にぶち込んでいた。

 明らかに雁木マリのファイアボールより威力が段違いだった。

 しかも次々に連射が可能な様だ。

 バジリスクを相手にしていた時の様な大威力魔法ではないので、連射がそれなりに可能なのだろうか。あるいは事前にセットしていたからだろうかね。

 俺はひとまず安心して、最後に残っていたオーガの一体に飛びついた。

 雁木マリを相手にしていて、こちらからは背中を見せている。

 やるなら今だとばかり、左手の短剣を背後からぶすりと差し込んでやった。

 あわててこちらを見ようとしたが、馬鹿め、油断するから悪いんだ。

 まだ抵抗するつもりだった刺されたオーガへ、振り返り様に裏拳の要領でメイスの一撃を顔面に叩きつけてやる。

 そいつが倒れると、目の前で雁木マリに斬り伏せられて膝をつきながら倒れる別の一体を目撃した。


「ハァハァ、これで全部かしら?」

「クダナンオナンオ!」


 雁木マリの言葉とほぼ同時に、広葉樹林からまたオーガが出現した。

 今度は五体。


「くそ、まだいる油断するな」


 俺は駆け出して、連中の中に飛び込んでいく。

 こりゃ、相手が俺たちとよく似た何かであることに躊躇している場合ではない。

 肺の中に溜まった恐怖と嘆息を全部まき散らしながら、俺は覚悟を改めてメイスを振りかぶった。



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