31 ダンジョン・アンド・スレイブ 6
ダンジョン攻略編、再開です。
むくっ、起きました!
朝を迎えると俺は息子を覚醒させていた。
ポンチョにくるまって寝ていたのだけれど、問題はポンチョが上半身をすっぽり隠してくれるだけで、下半身は丸出しという事だった。
悲しい事にダンジョンの中でも生理現象が現出するわけで、俺は朝から息子が元気だったのだ。パーティーメンバーのッヨイさまはようじょだ。これは教育上よろしくない。
という事で、雁木マリが朝から不機嫌に俺を蹴り飛ばしてきた。
「お、お前という男は。いったい朝から何てものをおっ勃ててるのよ!」
勢いよく足蹴にされたので、俺はあわてて起きながら息子を庇った。
そうしなければ怒り狂った雁木マリに、息子まで児童虐待されかねなかったからだ。
「痛ぇ、やめろよマリ。俺がどうしたっていうんだよ。俺たち仲間だろ?!」
「ガンギマリー、どれぇがどうしたのですか?」
「この男、事もあろうにあたしたちの前で、ちちち……アレを勃起させていたのよ! この変態!」
「全裸だけど俺は変態じゃねぇ! ただの生理現象であって、俺が健康な奴隷男である証拠だ!」
とまあ、朝からひと波乱あったわけである。
ッヨイさまにいらぬ心配をかける前に俺の息子が落ち着きを取り戻したので、雁木マリはそれ以上言わなかったが、それでもいろいろ気になっていたらしい。
「あ、あれがただの生理現象って本当なの」
「本当だ。モノの本によれば男は生命の危機を感じると、元気になるというぞ」
「嘘じゃないでしょうね?」
ダンジョン攻略の準備中、コソコソと雁木マリがそんな事を質問して来た。
「さあ俺も専門家じゃないからな、そんな事はわからんぜ。だけどバジリスクだっけ、そりゃドラゴンの親戚相手に戦うんだから生命の危機っちゃ生命の危機だろ」
「確かにそうだけれども。そ、そのッヨイの前であんな事、できるだけ見せないでもらいたいわね。き、教育上よろしくないわ」
「いや、すまんことをした。お前も年頃だしな、それに嫌な事を思い出させたかもしれない」
「そ、それはいいのよ」
顔を桜色にした雁木マリはお茶を濁して、ダンジョン内のマップで表情を隠してしまった。
さて問題のダンジョン攻略である。
昨日の行程は、前回のアタックでッヨイさまと雁木マリが調査していた入り口付近と表層を通って、中層部分までやって来ていた。
ッヨイさまが最初に説明していてくれた通り、このダンジョンは数日の行程でアタックできる程度に比較的小規模なものという事だが、それは過去の踏破者が作成したこのダンジョンのマップから読み取ったものだ。
ただしそれは十五年前に入ったこのダンジョン最後の踏破者のマッピングを複写したものだった。
これとは別にッヨイさまが今回、改めてダンジョンへのアタックにあたり新規のものを作成している。
理由を聞いたところ、
「中には以前の攻略時と経路が変わっている様な、そういう仕掛けがある本格的な魔法装置が機能しているダンジョンもあるのよ。古代人が作成した、ね」
雁木マリがそう教えてくれた。
古代人恐るべし。
「そんなダンジョンはめったにないわ。でも事前のチェックを怠った事で複数同時攻略のパーティーが連携を失って、モンスターに各個撃破された事がある」
「そういう経験があるのか」
「それが南にある巨大な猿人間のダンジョンだったわ。ッヨイとはそのダンジョン攻略で知り合ったの」
なるほど。そういう経験に従ってふたりは緻密なマップ作製を怠らなかったのか。
待て。もしかするとそのダンジョン攻略で、雁木マリは……
いやそれ以上は考えまい。
「このダンジョンは心配ないのですどれぇ。魔法装置のある様な遺跡タイプじゃないし、バジリスクがいるだけなのです」
「そうですね。ッヨイさまがお利口さんなので、どんな時も手を抜いていないだけですもんね」
「えへへ」
よしよしすると、ようじょは嬉しそうに口元をほころばせた。
「でも自然洞窟系のダンジョンでも洞窟の崩落はあるのです。だからしっかりマップ情報はチェックしておくと、後発の冒険者にとっては非常に有効だといえるのですどれぇ」
「とてもよい心がけだと思いますッヨイさま。無事にひと仕事おえたら、冒険者ギルドに提出しましょうね」
「はい、どれぇ!」
うわようじょかわいいなぁ。
むかし俺が大学生だった頃、いつもお世話になっていた先輩空手家の息子さんの相手をしていた。
ベビーシッターというほどではない。
そもそも息子さんは当時三歳ぐらいにはなっていたと思うので、本当に幼児にかかるだろう苦労というものはなかったわけだが、よく肩車をせがまれたり一緒に昼寝をしたりなんて事をしたもんだ。
ほんの少しの間、自主稽古中の先輩の代わりに相手していただけだから本当の苦労は分からないけれど、お子さまのかわいさの、いいところだけを集めると、今のッヨイさまを相手にしている様な気分になる。
ッヨイさまは利発的なので、とてもお相手をしていて心地がよいのである。
だが早まるな。俺は決してロリコンではないし、過去の俺もショタコンだったわけではない。ちょっとだけうわようじょきゃわいい。って思っただけなのだ。
ようじょはかわいいから、仕方ないね!
「では出発するわよ」
ッヨイさまにデレデレの俺に呆れた顔を浮かべた雁木マリは、手元に光の魔法を現出させるとダンジョンの先に進んだ。
あわてて荷物を背負い、ッヨイさまと手を繋いで後に続く。
その後モンスターはマダラパイクに遭遇したり、例のチョウバエを見かけたので叩き潰したりしながら進んだ。
いくつか側道になっている場所を確認したが、そういう場所がモンスターのねぐらになっている場合が多いので、きっちりとマッピングしていくついでに討伐しておく。
そして懸念というほどではないが、今朝がたの話題にも上がっていた洞窟の崩落場所を発見したのである。
◆
「道が崩れているわね……」
手で触りながら、本来なら奥に続いていくだろう洞窟の崩落個所を前に雁木マリがため息をついた。
「崩落したのは最近ね、まだ洞窟の天井が経年変化した形跡がない。一年か半年か、そんなにまだ経っていないかもしれないわ」
照明魔法をかかげる雁木マリにつられて、俺もランタンを持ち上げた。
雁木マリが長剣を引き抜くと、背伸びをしてガリガリと崩落した天井部分を確かめている。
逆にッヨイさまはしゃがみこんで、崩れた土の感触を確かめていた。こちらは俺がランタンを持ち上げてしまったので、自前で小さな魔法の照明を作り出していた。
魔法、便利だね。
雁木マリも使えるんだから、俺もいつか覚えられるよな。
「どうも自然に崩落したという感じでもないですねえどれぇ。ここだけ洞窟が少し狭まっているので、無理やり何かが通り抜けるために、洞窟の天井や壁をこすった感じがするのです」
ようじょはそう言って、壁や天井、それから地面を観察した。
「しっぽのあとがあるのです」
「ほう。これは確かに尻尾のあとね。マダラパイクのものとは違うわ」
ふたりの冒険者が顔を寄せ合う。
なるほど。図体のデカいバジリスクが、恐らくここを通り抜けたために崩落したというわけか。
「迂回路は?」
「ないですガンギマリー。この先の地底湖まではこのルート一本なのです」
「じゃあ、バジリスクがあたしたちのいる側に来るためには、ここを通る必要があるわけね。土は、そんなに硬くないから、また強引に通過する事もできるかも」
「そうですねえ。魔法でッヨイがこじ開けます。どれぇはこれを持っていてください!」
立ち上がったようじょが、俺にダンジョンの地図を渡した。
複写したマップと、マッピング中の自作品両方だ。
するとようじょはパラパラと魔導書をめくり、そこに栞を挟んだ。
「ちょっと強引に穴をこじ開けるわよ。あんたも下がって背を向けていた方がいいわ」
「大丈夫かよ。無理やりやったらまた崩落するんじゃねえのか」
「どうかしらね。他に方法もないし、強引にといっても瞬間的な力で突破するわけじゃないから。見てなさいよ」
雁木マリが説明してくれたので、俺はうなずいてマリとともに背を向けた。
すると背後で空気の感触が変わるのを何となく実感した。
これまでようじょが使っていた魔法は、いわゆる照明を発光する魔法であるとか、どれも実用的なものだ。今度のはもっと本格的に魔力を使うものなのだろうか。
ヒュンと股下がそら寒くなるのを感じて、俺は股間を片手で押さえた。
すると隣の雁木マリがとても嫌そうな顔をする。
「何やってるのよこんな時に」
「タマヒュンってやつだぜ。何か股間の心地が悪い」
その直後、ズモモモモという様な妙な効果音が発生して、やがて俺の背中に小石や土がバチバチと叩き付けられた。
ちょっと俺、全裸ポンチョなんですけど。ケツは丸出しなんですけど。
痛い! 小石痛い!
やがて魔法がおさまったらしく「ふぅ」というようじょの吐息が聞こえた。
うまくいきました! という声を俺は期待していた。元気なッヨイさまならそういう返しを普段ならするはずだ。
ところがいつまで経っても言葉が無いので雁木マリが振り返り、俺も続く。
すると、俺の視界には信じられないものが飛び込んできた。
「あれは?」
「し、知らないわよ」
「どう見てもドラゴン系の何かですよね」
「そうだけど!」
「例えて言うなら、ティラノサウルスが四足歩行になってトサカを生やしたような感じですよね」
「そんな例えはどうでもいいわ! ッヨイ下がって!」
ッヨイさまの魔法で崩落した土砂を吹き飛ばしたところ、明らかにトカゲの親戚の様な姿をした軽バンサイズのモンスターがいた。
こんにちは、バジリスクさん!
俺たちは荷物や道具を放り出して、武器を構えた。




