閑話 その頃のニシカさん(※扉絵あり)
鱗裂きのニシカさんを、てすん(G.NOH)さまに描いていただきました。
ありがとうございます、ありがとうございます。
作者は全裸で平伏した。
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目が覚めるとオレは無一文になっていた。
「おげぇ、気持ちわる。シューター水をおくれよ」
何しろ部屋の中はがらんどうで、オレだけが吊り床に取り残されていたのだ。部屋の中に刺し込む陽の光はずいぶんと急角度だ。
ついでに昨晩燃やしていた除虫菊の残り香がただよっているだけだった。
水だ。水をくれ。オレはもそもそと吊り床から這い出すと、ブラウスの胸元ボタンを閉じた。
ちくしょうめ。
シューターどこいったんだよ。
吊り床から降りるのも苦労してフラフラになりながら干していたアイパッチをひとつ掴んだ。
左目に装着すると気分がちょっとだけ引き締まった。昨日から普段と違う左目にアイパッチをしているが、誰からも特に反応が無い。
オレとしては、だ。
右目も似合ってるけど、左目もステキだぜニシカさん! というくらい言って欲しかったのだが、あいつら男どもはまるでわかっちゃいねぇ。
はて。オレは確か上の段で寝ていたはずだが、何でシューターの吊り床で目が覚めたのだ。あわてて服が乱れてないが確かめたが、ちゃんと下着は付けていたのでオレは安心した。まさか酔った勢いでとんでもねぇ事になったかと思ったが、大丈夫だ。
とにかく喉が渇いてしょうがないので、吊り床に転がっていた水筒を持ち上げるとオレは口に含む。
「ぶへっ、焼酎だこれ!」
シューターのかと思ったが、これはオレの水筒だった。
水はないのか水は。
オレは二段ベッドに吊るしていた山刀とベルトを取ると腰に巻く。
とにかく水だ。それから連中の居場所だ。階下に降りてゴブリンの番台を捕まえると、あいつらがどこにいったのか聞いた。
「ああ、ギムルの旦那たちなら朝一番で出かけたよ」
「行き先はどこなんだよ!」
「んなもん知らねえよ。ただ十日分の宿の前金だけはもらってるよ、お嬢ちゃん」
じゃあ、そのうち帰って来るのか。
ギムルの旦那は確か今日村に帰ると言っていたから、冒険者ギルドに昨日の面接した連中を迎えに行ったのかな。するとギムルたちが村に向けて旅立ったならシューターは帰って来るな。
今いつ頃だ。昼飯時だから戻るならそろそろか。
「おいオッサン。水をくれ」
オレがゴブリンの番台にそう言うと、番台は手を出して来やがった。
「何だよその手は」
「金だよ薪代、払うもん払ってくれないと水は出せないな」
「馬鹿野郎、水っつったら飲み水だろう」
「馬鹿はあんただ、お嬢ちゃん。飲み水だって湯を沸かすだろう、ほれ銅貨一枚払いな」
ケチくさいやつだぜまったく。
オレはポケットを探ろうとしたが、ブラウスと下着一枚で降りてきた事を思い出した。しかもオレは金なんて持ってねえ!
ちくしょうめ。しょうがないのでオレ様は井戸水をもらって、芋の酒を割って飲んだ。
すきっ腹に向かい酒は、胃に沁みた。
◆
いつまでたってもシューターは宿に戻っては来なかった。
いいかげん、そろそろ日が暮れはじめるんじゃないかとオレが不安を覚え始めた頃、オレの胃袋も限界になってしまったので、携帯食料の不味いビスケットとワイバーンの干し肉を食った。本当は茹でて雑炊にしようと思ったのだが、薪代も払えないのでしょうがない。
そもそもオレは所持金ゼロだ。
シューターがいなければまともに飯も食う事ができねえ。
べ、別に無計画に生活をしてきたわけじゃないぜ! 集落に残してきた妹が不自由しない様に、ちゃんと金を置いてきただけだぜ!
けどまあ、いざという時の金ぐらいは持っておくべきだった。今のオレが持っている金目のモノといえば、せいぜい首飾りにして吊っているワイバーンの逆鱗だけだろう。
こいつは猟人として自分の腕前を証明するものになるし、金持ちの好事家が集めているという話しは聞いた。何でも砕いて薬にするらしいね。
冒険者ギルドの部位換金カウンターに行けばいくらかにはなるだろうか。シューターの足取りがつかめない時はそうするか。
そう思いながら昨日たどった道を通って冒険者ギルドに向かった。オレは田舎者だが猟師である。道順をいち度で覚えるのは必須スキルだ。
などと思っていたら冒険者ギルドのカウンターに到着した。
「軽装の戦士さんなら、朝早くにこちらにこられてから今日は戻ってきていませんよ」
昨日とは違う女の受付が、オレに対応してくれた。
困った、シューターのやつここにも戻ってきていない。いったいどこにいったんだよ……
「ひとつ聞くんだが」
「はい何でしょう?」
「ところでこいつを見てくれ、どう思う?」
「……どう思うって、すごく立派な逆鱗ですね。ドラゴンの仲間ですか?」
「ワイバーンさ。オレ様はこれでも猟師になって過ごした冬の数だけワイバーンを仕留めてきたんだ」
「なるほど。で?」
オレが熱心に自慢をしてみたが、受付の女はまったく相手にしてくれなかった。
「つ、つまりだな。ここの換金カウンターで、この逆鱗は幾らぐらいになると思う?」
「そうですねえ。銅貨二〇枚ぐらいでしょうか」
「銀貨一枚もないだと?」
「あくまで買い取り価格ですからねえ」
「それじゃ飯もまともに食えないじゃねぇか。オレ様は腹が減ってるんだ、もう少し高く売れるところを紹介してくれよ……」
銅貨二〇枚枚の価値なんてのは、きっとこの街じゃ酒を呑んで飯をたらふく食えばあっという間になくなる。
集落よりもずっと物価が高いんだ。
シューターを探している間に資金が尽きたら、オレはどうすりゃいいんだ……
「何とかしてくれ。頼むよ!」
「いやいやお客さま。お客さまはご自身でワイバーンを仕留められる実力がおありなのですから、ここはひとつ冒険者ギルドに登録された方が、将来的にもいいと思いますよ?」
「……ふむ」
受付嬢の言う事もまあ確かにもっともだ。
オレは猟師だからモンスター討伐なら簡単にできる。持ってきた狩猟道具が心もとないが、コボルトや暴れグマぐらいだったらどうにでもなるしな。
それに、冒険者は別にモンスター狩りだけが仕事じゃないと聞いた事があるぜ。
「その話、詳しく聞かせてくれ。冒険者ギルドに登録するには金とか取られねえんだろな?」
「わかりました。それではこちらの登録カウンターにどうぞ。もちろん登録費用はありませんからご安心くださいね」
ニッコリ笑った受付嬢にフンと鼻を鳴らして返すと、オレは隣のカウンターに移動した。
◆
「あー。オーガの緊急討伐クエストは、こちらで受付をやってまーす。オーガ退治のパーティー結成はこちらになりまーす。臨時で野良パーティー集めてまーす」
オレは今、冒険者ギルドの入り口で呼び子をやっている。
即金でもらえる仕事をくれと受付嬢を脅したら、この仕事を振られた。
時刻はもう陽が暮れはじめていたけれども、近郊の村でオーガの群れが現れたというのでギルドの前は活気づいていた。
オレ様もこのパーティーに参加した方が絶対に分け前が多いんじゃないかと思ったんだけど、これが終わったら飯を奢ってくれると受付嬢が言ったから、そうした。シューターがいつまでも帰ってこないから、これはしょうがないんだ。
清算が終わるのを待っていたら明日以後になっちまう。
「オーガの討伐クエストですー。緊急ですー。参加可能な方は入口の特設カウンターで申請してくださーい。すでに参加された方はこちらに集まってくださーい」
これはしょうがないんだ。シューターが突然消えたからしょうがないんだ。
シューターの馬鹿野郎めが!
閑話 その頃のシューターさん
「びえっくしょい!」
ようじょのヒモパンの大事な部分を丁寧に手洗いしていたところ、俺は盛大にくしゃみをした。
全裸のせいかな?
(申ω`)




