148 うたわせるもの
男装の麗人が奔走したおかげで、触滅隊が商隊を襲った襲撃箇所の結果からいくつか結論めいたものが導き出されてきた。
ひとつは彼ら触滅隊が意図的に襲っていないエリアが、リンドル往還とその周辺の中にぽっかりと存在しているという事実である。
ちょうどセレスタ領とリンドル領にまたがる険しい山岳地帯という事もあって、周辺には開拓に失敗した廃村の跡地がある程度という事もその中から判明したのである。
そこは、つい先日ようじょが「触滅隊のアジトがあるならこの辺り」だと当たりを付けていた周辺であったのだ。
よく考えられたもので、双方の領土にまたがる境界線上にアジトが作られているため、この辺りはセレスタ側もリンドル側も、手出しをすることを躊躇しているエリアだったのである。
そりゃそうだよな、不用意に境界線上を隣の領主の軍隊がうろついているとなれば、これは戦争行為だと思われてしまう可能性がある。
その辺りを上手くついた場所にちょうど廃村があったし、そこは十数年もひとの手が入っていない事になっている場所だったので、捨て置かれていたというわけである。
もうひとつわかった事はブルカ公商会という、ブルカ辺境伯が直接経営している商会の護送商隊だけが襲撃による被害者を出していないという事実である。
いや、正確にはもっと巧妙だった。
確かにブルカ商館の商隊は襲われていたのだけれど、関係者に死者が出ていない。
襲われた連中の商隊は護衛の傭兵や冒険者ばかりが殺されて、商人たちはひとりも被害者が出ていないというから、これもおかしなはなしだ。
「灰色を通り越して、これはもはや黒だな」
俺はまずいビールを口に運びながら、そんな感想を口にしたのである。
場所はリンドル歓楽の裏路地にある小汚い食堂の、小汚いテーブル席だった。向かいには庶民の格好をした男装の麗人がいる。
いや、今はいつもの男装を解いて町娘の様な変装をしていた。
「他の商隊であれば商人どもの中にも被害が出ていた事は、妖精剣士隊の頃に自分も確認しています」
「つまりこれは、あくまでブルカ商館の自作自演の可能性があるという事かな?」
「人相の悪い商人が生き残って、街で適当に雇った傭兵や冒険者が殺されているのですよ。これはもう間違いなくブルカの自作自演です」
「……マッチポンプというヤツだな。人相の悪いというのは、触滅隊の人間でまず間違いないだろう」
ぬるくて不味いビールを口に運んだところで、先に来ていたベローチュの注文していた食べ物が運ばれてくる。
焼きたての湯気が立つそれは、もも肉の付いた鳥か何かの姿焼きみたいだった。
ハラワタを抜いて、詰めもの焼きにしたものらしい。オリーブや小麦、玉ねぎのみじん切り、それに何かの香草の刻まれたものが入っているという食べ物だ。
ベローチュは布巾とナイフを手に取ると、脚を抑えながら丁寧に切り分けてくれる。
「背骨とあばらは抜いているので、食べやすいですよご主人さま」
「何の鳥かな?」
「鳥ではありませんご主人さま、コカトリスです」
自分はこれが大好物でして、などと舌なめずりしてみせながらベローチュが嬉しそうにそう言った。
コカトリス。何のトリっすか?
「コカトリスというのはですね、見ての通り小型のドラゴンの仲間ですよ。玉子をたくさん産むので、飼育されているんです」
「マジかよ、ドラゴン飼育してるのかよ……」
「大丈夫ですよ。大きくならないし玉子はたくさん産むんですが、ふ化するのはほんの一部だけで何より美味しいんです。はい、あーん」
丁寧に切り分けたコカトリスの詰め焼きの一部をスプーンに乗せたベローチュは、俺の口元にそれを差し出してくれた。
さすがに食べさせてもらうのは真面目な話をしている時に不謹慎であるから、俺はスプーンを奪って自分で食べる事にした。
「あん、ご主人さまのイケズ。お味はどうですか?」
味は何というのだろうか、意外にも柔らかくて脂ののり具合もちょうどいい。何よりニワトリみたいなサイズだからニワトリの味を想像したのだが、ちょっとだけ癖のある味付けでカモみたいな感じだ。
詰め物の中身である香草やタマネギなども肉汁を良く吸い込んでいて、口の中に程よく広がるのがたまらない。
まあ嫌いじゃない味だと言える。
「ご主人さまを餌付けしようとするんじゃないよ。いや意外に美味いな」
「そうでしょう」
これは普段は不味いビールでも、美味しく感じてしまう気がするから不思議だ。
いやいやをして見せたベローチュを軽くしかっておいて、ビールを口に運んだ。
「この地図と一緒にセレスタ領側の証言を添えた手紙を、ダアヌ夫人の邸宅とリンドル城にもっていきました。これでお家騒動中のダアヌ夫人もマリアツンデレジア夫人も、ブルカ辺境伯による侵略の危機が迫っているのだという事実は理解できたでしょうね」
「当然だ。もともとマリアツンデレジアさんは、妥協点を見つけ出す努力は夜会の時点で確約していたからな」
「はい、ですがオゲイン卿も妹のダアヌ夫人をこれで説得してくれることでしょう。オゲイン卿はただちに触滅隊のアジトと思しき場所に兵を送る事を確約してくださいましたし、芋づる式に触滅隊を叩けます。サルワタからも協力をしてくれと言ってきていますよ」
よし落着点が見えてきたな。
「ですがご主人様、問題はシェーン子爵本人ですよ」
「ああ、その点は問題ないよ」
「?」
あの少年の周囲にはブルカ伯の関係者が今もちょろちょろとしていて、ある事ない事を吹き込んでいるのだろう。
さしずめアレクサンドロシアちゃんが一時期、冒険者の美中年カムラによく相談事を持ちかけていた様な具合で、誰かに耳打ちされているんだろうからな。
「ご主人さま、ニシカ奥さまに何をさせているのです?」
「君は確かシェーン少年は御しやすい人間だと言っていたな」
「はい。自分は確かに、女で人生を間違いなく駄目にするタイプですので、その点を突いて味方にする事が出来ると進言いたしました」
するとベローチュは「まさかニシカさんで色仕掛けを?」と町娘の格好のまま驚いて見せる。
確かにニシカさんは外見だけはとても魅力的なおっぱいエルフだが、少々ガサツなところがあるから彼女に母性を感じさせる部分があるとしたらおっぱいだけだ。
だからニシカさんが色仕掛けというのはちょっと難しいだろう。
「違うんだなあこれが。彼女は猟師だからな、気配を消して城内に侵入するなんてのはお手のもんだ」
「それなら、暗殺かシェーン子爵の取り巻きを排除ですか……」
「今回は後者だ。シェーン子爵を殺してしまっては、リンドルの後継者がいなくなるからな。それにオッペンハーゲンとも交流を深めようという時に、これ以上俺たちサルワタが問題行動をとるのはやばい」
これはニシカさんにも言った事だが、あまり武力解決に訴える様な事ばかりやっていれば周辺諸侯からサルワタの評判は地に落ちてしまう事になりかねないからな。
本当に武力に訴えないといけない時に、誰からも警戒されて協力を得られないことになってしまう。
「だから今回はニシカさんに、ブルカ伯への言付けをお願いしたのさ」
「言付け……」
「リンドルから手を引けと、シェーン子爵に引っ付いているヤツに」
「警告ですか、最適な手段です。でもまだありそうな口ぶりですね……?」
ベローチュは質問をした後に自分でもコカトリスの肉を口に運んだ。
そのままビールも呑もうとしたけれど、どうやら俺がここに来るまでに呑みきっていたらしい。
断りも無く俺のビールジョッキに手を伸ばして呑み始めるではないか。まあ俺の耳目手足となってよく動いてくれている町娘装の麗人の働きにこたえて、触れないでおく。
「話は簡単だ、シェーン子爵のところに踏み込むのさ」
「やっぱり自分が言った通り色仕掛けじゃないですか?!」
「まて早まるな、そうではなく!」
外道を見る様な眼でジロリと褐色エルフに睨まれたので、ちょっと怯んでしまった。色違いとは言え同じ長耳族にそんな事をさせるのが許せなかったんだろうか……
「自分が何者の血を引いているのか、シェーン少年に知ってもらういい機会だ。ブルカ辺境伯の孫であり、エミール夫人に見捨てられたんだとね。恨みがあるのなら意趣返しに協力してあたろうと耳打ちしてやるのさ」
「ニシカ奥さまにそれが出来るでしょうか。あのひとの口の悪さは本物ですよ……?」
「か、彼女自身がチャンスをくれと言って来たのでね。それに今度はきっと大丈夫だ、俺もこれからニシカさんの手引きで、一緒に侵入するからな」
ニシカさんに対して疑いの向きがあるのか、恐ろしい事を口にした町娘姿の麗人である。
俺はあわててそれを否定したけれど、ちょっとだけ心配になって居心地の悪さを感じるのだった。
「店員さん、ビールのおかわりをふたつ!」
「それとひとつ訂正があるぞ」
「はい?」
状況報告を聞いているあまり、ついうっかり聞き流していた事があったけれど、ひとつ訂正を加えておく。
「ニシカさんは奥さんじゃないからな」
「そうなんですか? まだ愛人でしたっけ」
からかう様にベローチュがテーブルに両肘を乗せて、頬杖を付ながら俺を見やった。
するとニシカさんに迫るとも届かないおっぱいいっぱいが強調される。
こいつ、俺が眼のやり場に困るのをわかっていてこういう事をしやがる……
「どっちでもないからねっ!」
「あっはっは。今更ご主人さまが好色漢である事を隠す必要はありませんよ」
いちいち相手にしていたらきりがない!
「とにかく今、カラメルネーゼさんがオッペンハーゲン商館とご当地訪問前の予備交渉を館長どのとやっているところだ」
「なるほどです」
「あそこはブルカ憎しで辺境盟主の座を長らく争ってきたライバル関係だから、上手くすれば外交の交渉はリンドルやセレスタの時の様に乗り込んでから長くかかるという事はないかもしれないな」
俺はいち度言葉を区切って、運ばれてきたビールを手に取ってから続きを口にした。
「ではオゲイン卿に伝えてくれるか。触滅隊討伐の態勢が出来次第、合流してアジトに向かおうと。俺たちも準備を始めよう」
「わかりました、お任せください」
ベローチュはそう俺に口にすると、ひと息にビールをあおって小汚い食堂を出て行った。
その後ろ姿をしばし見送った後、俺もビールを呑みながら残った料理をかき込んで立ち上がる。
さて、俺もニシカさんと落ち合う場所に向かわなければいけない。
頃合いだろう、時間はそろそろ夕方を迎えつつあった。
◆
ニシカさんは、昨日の朝がたからリンドルの城館の裏にそびえている山の中に入っていた。
新調したばかりの装備では無く、サルワタの村時代からずっと使っていた格好をした彼女は、市壁の城門を抜ける時に「兎を狩に行く」とか何とか言ってそこを通過したはずである。
彼女は日中の間、しばらく城館の様子をつぶさに観察して人間の動きと警備の配置具合を確かめていた事だろう。
適当な頃合いで警備が手薄になった瞬間を付いて、城館の敷地内に侵入する手はずになっていた。
目的はひとつだ。
リンドル子爵であるシェーンに纏わりついているブルカ辺境伯の手先を捕まえて、警告を与えてやる事だ。
そしてシェーン少年自身にも、自分がブルカ伯に操られているという現実を突き付けてやる事。
あれこれと考えながら城館の裏手までやってくると、もうすぐ秋口が近いというのに服は汗びっしょりになっていた。
やはり全裸ならもう少し涼しかったかもしれないなどと考えながら、二階建て建物のベランダほどの高さがある白レンガの囲いを見上げていると、背後から突然声がしたではないか。
「ようシューター、準備は出来てるかい?」
「驚かさないでください、びっくりするじゃないですか」
「悪いな、暇だったもんで待ちくたびれていたんだ」
振り返るとそこには、メイド服を着たニシカさんがいた。
ご丁寧に長耳を隠す様にして頭巾まで被っていた。
暗がりの中で似合っているかどうかまではわからなかったけれど、女性の割りにタッパがあるのでちょっと不思議な感覚だ。
「オレ様に見惚れてるのか、ん?」
「真っ暗だからそんな事まではわかりませんよ」
「チッ、全裸を貴ぶ部族は眼が悪くていけねえや……」
ニシカさんは軽く悪態をついて見せるとそのまま歩き出した。
「こっちだ。ここの警備はたるんでるな、コボルトでももう少ししっかり見張りを立てるってもんだぜ」
「だからこそ、ブルカ伯の手駒が城内を自由に出入りしているんじゃありませんかね」
「違いない」
白レンガの壁をどうやって乗り越えるのかと思っていたら、メイド服姿のニシカさんがヒラリとジャンプして壁に手を掛けたではないか。
そのまま音も無く壁を蹴り上げて華麗に壁の上に乗る。
たぶん俺が真似をして飛び乗ろうとしたら、余計な音を立ててしまうな。などと思っていたらそっと手を差し伸べてくれるではないか。
「来いよ、手伝ってやる」
「すいませんねえ……よっ」
ちょっと不格好だが、ニシカさんが袈裟掛けにしていたらしいロープを垂らしてもらってそれでよじ登る。
どうにか城館の庭に侵入した俺たちは、無言のまま城館の裏手口に回って館内の離れへと無事に侵入した。
静かなものだ。
夕陽はもう山の向こう側に沈んで久しかったから、城内に出仕している大方の家臣や使用人たちも下城した後なのだろう。
スパイでもやる様にして移動するのかと思ったが、そういう事も無くとある部屋にたどり着いたのである。
「倉庫ですかね?」
「倉庫だな」
「中に何があるんですか?」
「昼間の内に屋敷の中をうろついていたんだがよ」
メイド服のスカートを引っ張ってニシカさんが言った。
いつもは口汚く勇ましいニシカさんが、メイドの格好をして潜入していたところを想像してみるが、ちょっと出来ない。
「バレなかったんですか?」
「んなもんバレるわきゃねえ。この格好をしているのは念のためだぜ、気付かれない様に大人しくしていたのさ」
まるで忍者みたいなニシカさんである。
ドーモ、ウロコザキ=サン。
「オレ様の長い耳で聞いた限り、サルワタはリンドルを奪い取ろうとしていると何度も口にしていた男が中にいる。もちろんブルカの人間だと確認したぜ」
「どうやって確認したんですか」
「オレ様はガンギマリーじゃないからな、薬で懇切丁寧に聞くなんて事はしない。体に聞いてみたらアッサリよ」
そんな物騒な事を言いながら、倉庫の扉を開くニシカさんである。
してみると、暗がりの中からズタ袋を被されてす巻きにされた男が現れた。
むかし俺はサルワタの村で全裸にされたうえす巻きにされた事がある。そこを行くとこの男はまだズタ袋を顔から被されているだけ幸福というわけだな。
だが下半身マッパだ。哀れだった。
下半身丸出しの男はウンウンと言葉にならない喘ぎ声を上げていた。
そこをイッパツ、ニシカさんが腹に蹴りを入れる。
「ようおっさん、サルワタの大使さまのお出ましだ。騒いだらその皮被りの息子を切り落とすから大人しくろよな」
「……!」
「ようし、麻袋を外してやる。じっとしてろよ」
「こ、こんな事をして、わたしをどうするつもりですか?!」
押し殺した声で反意を露わにしている男の顔が、ズタ袋の内側から現れた。
何事も乱暴なニシカさんの事だから暴力手段に訴えでもしてボッコボコにされた顔が出て来るかと思ったら、綺麗なものだ。
「どうやって脅したんですか?」
「何を言ってもいう事を聞かないんで、その息子を切り落とすと脅したのよ。そんだけ小さけりゃあってもなくても一緒だろ」
「や、やめてください。まだ結婚もしていないんですから」
ニシカさんの言葉に俺まで空寒い気分になったけれど、状況に流されているわけにはいかない。
「そう思うんだったら大人しくいう事を聞くんだな。まずお前の、あまりまくってる皮から切り取ってやろうか。ええ?」
「ひいい、言います! わたしはブルカの出身です。ブルカ人です!!」
この脅しは効果てき面だったらしく、リンドルの文官の中に紛れ込んでいたこの男はあらいざらいを口にした。
何だ、ポーションが無くても簡単に自白できるじゃないか。
「さすが蛮族ですね」
「蛮族じゃねえ!」
◆
さて。
湯気に包まれたリンドル城にある入浴施設というのは、古代ローマばりの大金を掛けた豪華な造りだった。
辺境に生息するというホラアナラインの口から熱々のお湯が吐き出される仕様になっており、これならきっと古代ローマ人も満足するというものだ。
もちろん俺も、この豪華な入浴施設の浴槽に浸かってこの贅沢を満喫していた。
いいね!
ちなみに、どうして俺がリンドル城内の湯船に浸かっていたかというと……
「か、義母さま。孝行息子がお背中をお流しします」
ひたひたとタイルを歩む足音が聞こえたかと思うと、ちょうど湯船から出てオリーブの石鹸で体を洗おうかとしていたところ、少年の声が聞こえてきたのである。
「やっぱり義母さまの背中はお美しいですね……あれ? 少し見ないうちにとても筋肉がこっていてでゴツゴツとして……や、やっぱりリンドルを女手ひとつで切り盛りするのは大変なんですね……こんなところにも苦労が出ているだね」
「残念だったな、マセガキのシェーンくん。その背中はサルワタの森より広いシューターさんの背中だぜ」
全裸でお股を隠しながら近づいてきたシェーン少年が、俺の背中に触れた時、ニヤリとして俺は背後を振り返った。
「な、何だお前は、どこから入って来た?!」
「もちろん浴室の入り口からに決まっているじゃないか、いい風呂をいただきました。ありがとうございます、ありがとうございます」
「貴様、体を洗う前に浴槽に浸かったのか? お風呂の作法も知らない蛮族め!」
「失礼だな、ちゃんとかけ湯をしてから湯船に浸かったぞ。黄色い蛮族に用事があるならニシカさんをお呼びしましょう、例の文官を連れてきてください」
俺が湯気の向こう側で待機していたニシカさんに声をかけると、す巻きの文官を連れてぬっと登場した。
蛮族呼ばわりされてとても嫌そうな顔をしていたけれど、今は大人しく文官を突き出してくれる。
「おい坊主、この文官がお前に話したいことがあるんだってよ」
「な、こんな事をしても僕は風の早撃ち魔法が得意なんだ。後悔するぞ!」
「残念ながらオレ様も風の魔法が得意なんだ、どっち早撃ちが得意か勝負するか。ん?」
全裸シェーン少年が、威風堂々と立っているニシカさんに右手をかざそうとしていたけれど、ニシカさんの右手はそれよりも早く動いて、少年の手に風の魔弾を射ちつけてみせたではないか。
あまりの早業に俺は一瞬何が起きたのかわからなかった。
「ぐぎっ僕より早いだなんて?」
「言ったろう? オレ様は風の魔法が得意だって。茶番は終わりだ、大人しくこの文官のお話を聞くこったぜ」
ニシカさんはそう言うと文官を蹴り飛ばして恫喝した。
「さあさっきオレたちに白状した通りの事を今ここでうたってもらおうか。一言一句間違えたら、そんときゃ息子の余り皮をみじん切りにするぞ!」
「ひいいい。言います、何でもうたいます!」
黄色い蛮族の言葉を聞いていて、俺と少年はたまらず息子を両手で庇った。




