134 階段の白き嶺城 1
新年あけましておめでとうございます!
本年も村八分をよろしくお願いいたします!
「……ん、くっ!」
「最初は少し痛いかもしれないけれど、我慢ですわ」
「じ、自分は大丈夫です。ひと想いにさあどうぞ!」
四人の男女がとある宿屋の寝所に集まっていた。
場所はリンドルにある歓楽街の一角である。
豊かなおっぱいが重力に抗う事もかなわずふんにゃりと崩れている姿を刮目して、とても不思議な気分になる。これがまもなく法的に俺のものになるというならなおさらだ。
法的にはそうだが、きっと精神的に手に入れる事はない……
「いい心がけですわね。それでは婿殿、ベローチュさんの気持ちが変わらないうちにおやりなさいな」
「お、おう。大丈夫かベローチュ」
「いいんです。自分はそうして頂ける事で、幸福をこの体に感じる事が出来るんですから」
「そうか、んじゃ遠慮なく」
「痛ぅ……。でも、すごく今、幸せです」
俺の名は吉田修太、三十二歳。
ただいま奴隷を手に入れた男である。
寝台にひとり横たわった褐色エルフの女の名はベローチュ。セレスタ領主オコネイル男爵の部下で、オネエな男色男爵が率いていた妖精剣士隊の分隊長だったおっぱい黒エルフである。
その彼女の志願によってセレスタの街から奴隷としてサルワタの外交使節団に受け入れていたのだけれども、この度めでたく法的な意味で奴隷となる手続きをしていた。
つまり、奴隷商人カラメルネーゼさんの手によって奴隷契約書が作成され、俺がベローチュの褐色のおへそにピアスを通したのである。
「化膿しない様に、ガンギマリーさんが処置してくださいますからね。ほんの少しの辛抱ですわ」
「任せてちょうだい、この程度の傷口はほんの数秒で消す事が出来るわよ」
痛みに耐えかねて暴れた時の事を考えて蛸足令嬢がベローチュを抑え込んでいたけれどそこは剣士の心得あるものだ。問題なく耐えている様だった。
俺の時はそんな言葉も誰もかけてくれずに強引にピアッサーをぶち込まれたものだが、今回の時など気を利かせたカラメルネーゼさんが、歯を食いしばる用のコルクのハミを用意してくれていた。
そこまで騒ぐほど痛くなかったはずだが、まわりがこの対応なので俺は申し訳ない事をベローチュに強要している気分になる。
「それでは足を放しますわ」
この場合の足とは触手の事であるけれど、そう口にしたのはカラメルネーゼさんだ。
ひもぱん一丁で寝台に横になっていたベローチュはゆっくりと起き上がると、彼女に雁木マリがシーツを差し出してやった。
「ありがとうございます」
「これであなたは正真正銘、サルワタの騎士シューターの奴隷身分となりましたわ。主人の許可なくその側を離れたり脱走を働いた際は、国法によって逃亡罪が適用されますわよ。また、この瞬間より所有権を有するサルワタの騎士シューターが人頭税その他の税金の支払い義務を請け負う事になり、あなたは養われる立場となったのですわ」
「了解です」
これからは俺がこの男装の麗人を扶養しないといけない立場になったらしい。
つまり奥さんをもうひとり娶ったか、養子を迎え入れたのと同じ様なものなのだが、だからといってベローチュを自由にできるというものでもない。
何しろ俺はカサンドラというよく出来た正妻が恐ろしいからである。子供でも間違ってベローチュに最初に産ませてしまえばハーレム大家族崩壊の危機なのである!
「どうしたのシューター、マヌケ面の猿人間みたいな顔をして」
「雁木マリ君、きみはアレクサンドロシアちゃんみたいな事を言うね」
「ドロシア義姉さんがそんなことを言ったの?」
義姉妹になると言う事も似てくるのだろうか?
◆
ところで俺たちは何もリンドルの宿屋でのんびり油を売っているわけではなかった。
ゴルゴライやセレスタの街に入城する際に、色々とややこしい行き違いが起きまくった事を考えて、領主との面会をするためには、それなりに段取りをしっかりやってからにしましょうね、となったのである。
ようやく今頃気付いたかという話ではあるけれど、失敗しなければその事に気付く事も無かったし、後々になって大失敗をしてしまったかもしれない。
「だからみんな、今回は作戦を変えましょう」
「何よ唐突にそんな事を言い出して、どうしたいっていうの?」
「先触れの使者を出して、受け入れ態勢を整えてもらっておいた方がいいんじゃないかとね。また俺が兵隊さんと間違われたり、歓楽街で揉め事に巻き込まれないようにしないためにも」
「主にあなたの問題じゃないの。シューターさえ揉め事を起こさなければ、そんなややこしい事をする必要はないわね」
俺を巻き込まれ体質の残念人間とでも思っているらしい雁木マリが失礼な事を言ったけれど、そこは無視しておいた。
そこで俺は提案をしたのである。
鉱山と交易の街リンドルに入城するにあたり、今回から先行してまず使者を街に送り出す事にした。
その使者の役を買って出てくれたのはカラメルネーゼさんである。
元貴族軍人という事で馬術に長けていて高貴な身の上という立場もある。
この手のお願いにはもってこいだったので平均時速十二キロ程度で走る馬車隊列に先行する形で、リンドル手前の最後の宿場を出立した彼女は正午頃にはリンドルの門の検問を通過した。
俺たちが泊まるための宿屋を探してもらい、その足で街にある聖堂にも報告をしてもらう。
外交使節団の馬車隊列がリンドル市壁の城門を潜る頃には、待機していたカラメルネーゼさんがリンドルの官憲さんたちと出迎えてくれて、そのまま一旦は彼女が用意していた宿へと入る事になった。
それが今である。
今回は面会の約束も余裕をもって到着から数日後にしてもらっていた。
なので、ベローチュの奴隷契約を宿屋で済ませている間は、それぞれが自由行動に出ている。
カサンドラとようじょが、セレスタで雇った護衛の傭兵付きで買い物へと出かけていったし、ニシカさんはけもみみと一緒に市場調査をするといって繁華の商店街を見て回る予定らしい。
ヘイジョンさんも今頃は街のあちこちでひとり写生大会をやっているんじゃないだろうか。
「奴隷になるというものは、きっと何か特別な高揚感とか屈辱感があるのではないかと思っていましたが、そういう事もないんですね」
「それはそうだろう。俺も奴隷だった経験があるけれど、普段はあんまりそういう感情はなかったな」
俺たちはというと、ヘソピアスが完了した後は繁華街に繰り出している。
どういうわけか俺を中心にして右前を雁木マリ、左前をベローチュ、さらに後方をカラメルネーゼさんというフォーメーションで道中を歩いているものだから、かなり周囲に目立っているんじゃないだろうか。
「この男はもともと奴隷体質だから、社会のゴミ身分になっても何とも感じない鈍感人間なのよ」
「失礼な事を言うな! 俺はこれでも君の婚約者だぞ」
「婚約者だから遠慮無く言っているのよ。カサンドラ夫人にまるで頭が上がらないことぐらい、あたしでも知ってるのよ?」
「ぐぬぬ、否定できない」
もはや正妻の貫禄を身に着けつつあるカサンドラであるけれど、ハーレム大家族の何か決めごとをする時は、彼女を抜きに相談してはたいへんな事になるのである。主に夜のご奉仕が。
とても悲しい気分になったので腹いせに雁木マリの尻をぺろんと撫でてやると、俺はその手を思いっきり叩かれてしまった。俺はますます悲しい気分になった。
「けれども普段はあまり、という事は何か特別な事を感じる時があったという事でしょうか、ご主人様?」
「まあ特別な気分になった事はあったけどね。例えば、」
「例えば?」
「俺の場合はだけれど、クソみたいな奴隷商人から買い取ってくれたッヨイさまに恩義を感じて、せめてもご奉公に力を入れようとか。同じく身請けをしてくれたニシカさんにも大きな借りを作ってしまったから、同じ事を考えたな。この恩はいつか返そうと」
なるほどと考え込んでいるベローチュに、雁木マリは余計な事を言う。
「気にすることはないわ。愛人の末席にでも入れてもらったと思って、いつも通りにすればいいの。ただしカサンドラ夫人の機嫌は損ねない事ね。それから裏切りは許されないわ」
「は、はい。もちろん裏切ったりなんてしません」
やり取りを見ながら小さくため息をつくと、背後からカラメルネーゼさんが「大家族の旦那さまも大変ですわね」などと他人事の様に言いやがった。
そんな会話をしながら繁華街を歩いている途中で、ばったりと俺はニシカさんとけもみみに遭遇したのである。
「シューターさん」
「おう! お前ぇらも飲みに来たのかッ」
市場調査とか言っていて、ニシカさんは密かに酒場に繰り出すつもりだったのか。
相変わらずの赤鼻っぷりを指摘してやると、黄色い蛮族はあわてて顔を赤鼻をひとこすりした。
「ニシカさん鼻が赤いですよ?」
「何? っかしいなあ。一杯だけしか飲んでないはずなのに?!」
「ちょっぴり酒臭いんですよ。ぶどう酒ですか?」
「うんにゃ、さとうきびの酒だ。こいつは美味いぜシューターよう」
バレたとわかれば開き直るニシカさんは、ほんのり甘みのある吐息を俺に吐きかけながら俺の肩に腕を回してきたではないか。
やめろ。背の高いニシカさんが密着すると胸が俺のボディにタッチするのよ。
俺はたまらず前かがみになりつつ、息子の位置を調節した。




