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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第4章 アレクサンドロシアの野望
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104 修道騎士ハーナディンの報告

 修道騎士ハーナディンが俺たちに差し出したのは、一羽の伝書鳩だった。

 この世界での通信に使われているありふれた使役動物のひとつである。


「どういう事だ。伝書鳩の死体があり、死体からは脚に付けられている書簡筒が外されているのか?」

「そうですね。この鳩の脚が折れている事と、背筋がおかしな方向にねじ曲がっていますよね、これは猛禽類に背後から襲われて蹴られた痕だ」


 あわれな姿になった伝書鳩を平気で持ち上げて見せたハーナディンは、まず脚をぐいと持ち上げて状態を見せてくれたあと、ひっくり返して背筋のあたりを指さした。

 言われてみれば確かに脚は明後日の方向を向いているし、交通事故にでもあった様に伝書鳩はくの字にへし曲がっている。

 さすがに自分は元猟師出身の宗教戦士だと名乗るだけの事はあり、こんな程度の鳩を触る様な事は手慣れたものなのかも知れない。


「たぶんこれは、意図的に渡りをしていた伝書鳩を撃ち落としたんだと思いますよね」

「ほほう」

「アレクサンドロシア卿は、何か心当たりなどありませんか? 例えばこの村から魔法の伝書鳩を使って、ご領地や拠点のお仲間とご連絡を取り合っていたという様な事は?」

 

 モノの本によれば、俺の元いた世界で伝書鳩は古くは軍事利用や報道、医療品などを僻地に運ぶために、それこそ紀元前の時代からおおよそ五〇〇〇年にもわたる歴史があったとされる。

 中央アジアでまず発祥し、それが中東に伝わり発展した。これが十字軍の遠征を通じて中世時代のヨーロッパに伝わり、当時の貴族階級の中で狩猟とともに一種の貴族階級のステータスになったという書物を読んだ記憶がある。

 俺のおじさんが鴨射ち猟師だったのも縁があったのか、本当にたまたま鷹匠に関する本に目を通していたのだ。


「残念ながら、わらわには身に覚えがないな。だが普段、サルワタの領内からブルカの関係者とのやり取りに伝書鳩を使っていたのは確かさ」


 ハーナディンの言葉に否と答えた女村長だったが、そのまま腕を組んで片方の手でアゴに手を当てた。

 考え込んでいるらしく、俺の方を見てきた。


「そうですか。ならよかった」

「ハーナディンさん、この状況から何か見てわかることがあるのですか」

「ほら、この背中のねじ曲がり方、」


 改めてハーナディンはあわれな亡骸を持ち上げて見せる。


「これは猛禽類に撃ち落とされたんでしたっけ」

「そうです。普通、この様にして獲物の背後から空中で蹴りつける様に攻撃すると、獲物は地面にたたき落されるわけですね。蹴られた衝撃で背骨が折れて、獲物はその時に絶命します」

「それは確か、ハヤブサの仲間がやる狩りのスタイルだな」


 俺は元いた世界で見たことがあった動画だったか動物番組だったかを思い出してそう口にする。

 ハヤブサの仲間は、獲物に向かって急降下する際には実に時速三〇〇キロを超えるスピードで獲物に蹴りつけるらしい。

 時速三〇〇キロと言えばこれは新幹線なみの衝撃であるから、獲物が高速で移動していたとしてもやはりひどい姿で撃ち落とされるだろう。


「なるほど、さすが猟師のご出身だけあって詳しいですね」

「それでハーナディンさんは、これが獲物によって撃ち落とされたと言いたいんですね? 脚の文筒が外されているという事は、つまりこの伝書鳩は人為的に蹴落とされた可能性がある」


 つまり鷹匠か何かを使って、意図的に通信手段に使われている魔法の伝書鳩が狩られているという事実だ。


「それはまことか、お兄ちゃん!」


 もはや人前ではばかる事無くそう叫んだ女村長に、慌ててエレクトラと雁木マリが咳払いをして見せた。


「うおほん、そういう可能性があるという話だね。もしかしたら、たまたまハヤブサに襲われた伝書鳩から、書簡だけを抜き出したという可能性はありますが」

「それもおかしな話ですよ。もしこの土地の人間が墜落した鳩を見つけたとしても、それならツダ村の村長のところに届けるのが普通でしょう。たまたま野生の鷲鷹(わしたか)が襲ったんだったら、獲物を放置してどこかに行くのはおかしいですよね。事実、鷲鷹が伝書鳩の羽毛(はね)をむしった形跡がないしなあ」


 猛禽類が鳥類の獲物を食する時は、だいたい羽根をむしってから食べるのが普通だ。

 それは俺も件の動画の中でそういう姿を見ていたので間違いないと思うが、してみるとやはり鷹匠が、わざわざ伝書鳩を狙って捕まえていたという事になる。

 そしてまず考え付くのが、ブルカ辺境伯だ。


「ツダ村という場所は、地形的にも山地に囲まれた場所よ。辺境の中心地ブルカから南を見ると、ここはアギトの森に連なる大山脈に続くわけで、ブルカの東に広がる辺境奥地一帯と伝書鳩を使って連絡を取るのならば、必ずツダの周辺あたりを移動すると思うの」


 ブルカ周辺に土地勘のある雁木マリが、俺たちに向かって説明した。

 つまり意図的にこの辺りに鷹匠を配置して、情報を収集していたというわけか。


 そしてふと思い出した。

 女村長は自分の鳩舎で飼育している鳩には、それぞれ片足に行先をわかりやすくするために色付きか何かのタグを使っていたはずだ。


「この鳩のもう一方の脚に、タグは付いていないんですか」

「ないですねえ。こっちもはぎ取られている」


 俺の質問に、ハーナディンが確認をしてくれた。

 なるほど。どこから飛来した魔法の伝書鳩か、飼い主なり移動先を特定できる証拠も隠滅されているのである。


「これは由々しき事態であるな。今後うかつに伝書鳩を使った連絡をするのははばかられる」

「ブルカ辺境伯もかなり趣味の悪いことをするわね……」


 女村長と雁木マリがお互いに顔を見合わせてそんなことを言った。

 誰もこの犯人が辺境伯だなどと触れていなかったけれど、やはりみんな同じ事を考えていたらしいね。


     ◆


 翌朝。


 結局のところ伝書鳩を狙った鷹匠の正体はわからないまま、妙に不穏な空気を感じつつも俺たちはツダ村を退去する事になった。

 女村長と俺、エルパコにエレクトラ、そしてブルカから戻っていたダイソンが俺たちの村のメンバー。

 騎士修道会の側は雁木マリに加えて修道騎士ハーナディンが、彼女に付き従って俺たち一行に加わる事になっていた。


「総長から婿殿の手足となって働く様にと仰せつかってまいりました。よろしくシューターどの」

「お、おう。こちらこそよろしくお願いします」


 貴人の礼にならって胸に手を当てたハーナディンを見やりながら俺は曖昧な返事をする。

 すでにこのファンタジー世界でふたりも奥さんを持っている俺だけれど、改めて婿殿などと言われると気恥ずかしい事はこの上ないのである。

 すると顔を真っ赤にした雁木マリが言葉を言い添えた。


「は、ハーナディンはね。あたしがサルワタに嫁ぐ事になったという話を聞いて志願してくれたのよ」

「そうだったんですか。いいひとですねえ、今後ともよろしくお願いします」

「そうよ、自発的に志願したんだから、シューターの部下だと思ってこれからはこき使ってやればいいのよ」

「ははは、手厳しい。よろしくおねがいしますよ」


 居合わせた全員が馬上の人となった俺たちは、軽やかにゴルゴライの村を目指した。


 恐らくこの馬列の中でもっとも馬の手綱捌きが下手くそなのが俺だ。

 同じ世界からやって来たはずの雁木マリは、騎士修道会の軍事教練のカリキュラム内に乗馬でもあったのか、貴族軍人出身の女村長と揃って先頭を駆けているのである。

 一方のエレクトラとダイソンはあまり乗馬経験がないのか、護衛だというのにやや手つきが安定しないところを見ると、俺と似たものだ。

 実家が奴隷商をやっているカラメルネーゼさんも、当然の事ながら国王の騎士号を持つ貴族軍人だから馬の扱いは慣れたものである。

 問題はエルパコだ。このけもみみはもとブルカに住んでいた猟師の小娘だったはずなのに、どういうわけか馬とウマが合うのか、なかなか巧みに乗りこなしていやがる。

 今なども、ついついへっぴり腰で馬に乗せられている(とても馬を操ってるとは言えない)俺のすぐ側にいてサポートしてくれているという有様だった。

 ハーナディンはまあ、同じ元猟師と言ってもホーリーなブートキャンプ出身者なのでさすがだ。ツダ村で拾ってきた絵師のヘイヘイジョングノーなどは、その背中にへばりついて振り落とされまいと頑張っている。

 彼が自前で旅に使っているロバを連れていたが、こちらには旅荷だけを乗せてお気楽に馬列の後を小走りについてきている。

 俺はそのロバにすら負ける手綱さばきなのだ。

 畜生め! こんな仕打ちってあるかよ?!

 ここにはいない奥さんたちにはちょっと見せられない情けなさである。


「何をしておるシューターよ。護衛のお前が遅れていては世話がないぞ!」


 そんな事を言いながら先頭列で馬首を返して見せた女村長に、俺は恨めしい視線をぶつけてやった。

 たぶん領主の身の上になってからは馬駆けする様な事がめったになくなったので、ツダ村との往復路でこうして早駆けするのが楽しいのかもしれない。

 文句は内心にあったけれど、言うのをやめておいた。

 きっと騎士修道会との交渉がそれなりに上手くいったと思い、女村長も多少浮かれているのだ。


「そ、村長さま。あまり先を急がれますと、あたしたち護衛の仕事がつとまらなくなります。あたしたちは騎士では無いので、そういう事には慣れてないんですってッ」

「む。そうか、では少し馬の脚を遅めるとしようかの」


 エレクトラが俺の代わりに抗議してくれた。

 まったく……

 あんたも自分だけの体じゃないんだから、あまり無茶はしないでもらいたいものだぜ。


 こうして早朝一番にツダ村の教会堂を出発した俺たちは、ブルカと辺境奥地へと別れる三叉路を辺境奥地方面へと進み、昼過ぎ頃にはふたたびゴルゴライ村の入口に到着したのである。


「こう度々俺たちサルワタの人間がこの村を出入りしている事は、ここのご領主にどう思われているんですかねえ」

「フンっさあな。わらわはむかし、前の夫が死去した折に求婚された事があってな。ここの領主についてはあまり好かぬのだ」


 ゴルゴライの村周辺を囲む防風林を見やりながら、馬上で苦い顔をした女村長がそんなことを言った。

 よほどこのゴルゴライの領主がお嫌いの様だ。


「そうなんですか。それなら尚更筋は通しておかないと、また何かのやっかい事に巻き込まれやしませんかねえ」

「必要ない。わらわたちが出入りしている事はヤツらとて見ていればわかることであるし、ヤツら自身が必要性を感じれば調べるであろう。逆にわらわたちの動きに興味を示さないのであれば、情報の必要性に疎いそれまでの領主であるという事であるしな」


 フフンと笑って見せた女村長は、顔を見合わせていた俺と雁木マリを見比べながら馬を降りた。

 すでに下馬して周囲を警戒していたエレクトラとダイソンが、女村長の左右をかためた。

 なかなかいい仕事をしているなあ。こういう事をそういえば騎士修道会総長カーネルクリーフの側近たちがやっていたのを思い出す。

 あの時もその場で護衛をやっていたハーナディンはどうしているかというと、なかなか馬から降りる事が出来ないヘイヘイジョングノーを手伝っているところだった。

 軍事訓練を受けた彼であっても、さすがに出来ないか。


「ヘイジョンさんを押し付けてしまうことになってすまないな」

「いえ、これぐらいは問題ないよ。具合はどうですか、ヘイジョンさん」

「ろ、ロバより視界が高いので怖かったですね。あと、ずっと帽子が飛んでいかないように抑えていたので腕が痛いです……」


 俺がふたりに馬を寄せて声をかけたところ、ヘイヘイジョングノーのロバを引きながらハーナディンが周囲を警戒しつつ返事をくれた。

 ヘイヘイジョングノーはまだ気分がすぐれないらしいね。

 

 俺はというと、まだ下馬はしていない。

 これは道中にハーナディンに聞いたことなんだが、騎士の基本的フォーメーションというのは、いつでも一部の騎士が即応可能な様に騎乗したまま待機する人間が必要なんだとか。

 その話を聞いたので早速にも実践しているところだが、どうなんだろうね効果はあるのか。

 などと思っていると、女村長にお叱りを受けた。


「シューター、いつまでぼんやりしているのだ。さっさと村の中に入るぞ」

「あっはい……」


 あわてて俺が馬から降りようとしたところ、同じく馬に乗ったままのエルパコがそれを制止した。


「シューターさん、あれ」

「ん、どうした?」

「義姉さんが、誰かに囲まれて困った顔をしているよ?……」


 馬を寄せて俺の袖を引っ張るけもみみの視線の先に俺も眼を向ける。

 用水路を渡す石橋からずっと続く道の向こう側、太った男とその仲間たちの姿がここから見えたのだ。

 義姉さん、つまりエルパコが言うのはカサンドラの事であり、距離にして一〇〇メートルも離れた場所からでもわかるデブを指してけもみみが言ったのである。


「どうしたシューターよ?」

「俺には見えませんが、カサンドラがどうやら――」


 俺がそう女村長たちに説明をしようとしたところ、言葉を待つ事も無くエルパコが馬を駆け走らせた。

 何かあった事は間違いない。

 おい、と声をかけるよりも先にその事を自覚した俺はエルパコに続き馬に鞭を入れた。

 またカサンドラが、何か良く無い事に巻き込まれているのではないか。


 俺は焦りとともに馬にしがみつく様にして加速した。




調べてみると、戦時下の欧州大戦でも英軍によって伝書鳩が通信手段に使われ(何と50万羽も用意されていたそうですね!)、それに対抗して独軍も鷹狩を実施したそうですね。

歴史って面白い!

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