62.暗殺者、毒使いと戦う
13使徒とかいう、神の使いを自称する集団に、命を狙われることになった。
使徒【十三】を討伐した数日後。
俺たちの暮らす【奈落の森】にて。
森の中に、見知らぬ気配を感じた。
俺は【影転移】の能力を使用し、気配の元へとやってきた。
「……誰だ?」
そこにいたのは、眼鏡をかけた、お下げの少女だった。
「きゃうっ! す、すすすすぅみません!」
ペコペコと頭を下げる少女。
「わ、わたし……トゥエルブって言います。農奴の娘なのですが、食糧難で家を追い出されて……ここにやってきたんです」
俺は敵意を抑える。
「……村のうわさを聞いたのか?」
「は、はいっ。この森には、訳ありの女の人たちが寄り合って暮らしている村があるって聞きました。だから……できればかくまって欲しくて」
俺のいるこの森には、唯一ひとのすめる場所がある。
そこが、エステル達の暮らす村であり、トゥエルブの言っている訳あり女が寄り合う村のことだ。
「わたし……もうどこへも行くところがなくって……頼れるのはもうその村しかないんです……」
声を落とし、ぐすんと鼻をすするトゥエルブ。
「……わかった。案内しよう」
「へ? あ、あんないって……?」
「……俺はそこの村で、まあ用心棒みたいなことをやっている。村にかくまってほしいっていうなら、連れて行く」
「ほっ、ほんとですか!? ありがとうござます! ありがとうございます!」
「……ああ」
俺はトゥエルブに背を向けて、村へと歩き出した……そのときだ。
「……ただし、武器は捨てろ」
「なっ!?」
トゥエルブが、声を張り上げる。
「な、何を言ってるんですか……? 武器……?」
「……懐のナイフを捨てろ。護身用だとしたら無意味だ。ここの魔物は、そんなちんけなナイフで倒せない」
トゥエルブは押し黙ると、ぽいっと地面にナイフを捨てる。
「な、なんで刃物を持っていることがわかったんですか?」
「……さぁな。ただのかんだ」
本当は、違う。
俺は影を操る能力【影呪法】を使う。
呪法のひとつに、影探知という技がある。
影に触れている物体を探しあてる能力だ。
本来敵の位置を探るだけの用途に使われるが、こうして触れている生物が、何を身につけているのかまでも探ることができるのだ。
【素晴らしい能力です。さすがヒカゲ様】
使い魔の賢者ヴァイパーが、感心したようにつぶやく。
彼女は影式神のひとつ。
影の中に身を潜めているのだ。
「……どうした? ついてこないのか? それとも、嘘をついたのか?」
「う、嘘なんてついてませんよ。か弱い女の子が護身用ナイフをもっていたからって、疑いすぎではっ?」
「……そうか。今時のか弱い女の子は、毒まで使うんだな」
「!?」
がくんっ、と俺はその場に膝を折る。
【見えない糸と針で攻撃してきたようですね】
「……13使徒のひとりか?」
「は、はんっ! わかったところでなに!? そうよ! わたしは使徒トゥエルブ! わたしとこの【蠍の針】の前では、黒獣なんて恐るるに足らずだわ!」
またこいつも、十三と一緒で、神器とかいう特殊な武器を使うようだ。
しかしこの女は武器を身につけていない。……ように、見える。
「わたしの針と毒に死ぬがいいわ!」
目の前がチカチカと明滅してきた。
なるほど、針攻撃は続いているのだろう。
毒が注入されているわけだ。
「……まあ、大丈夫だけどな」
俺は立ち上がる。
「なっ!? なんで!?」
「……敵のお前に答える義理はあるか?」
【なるほど……影喰いを応用し、体内の毒素を喰らったのですね?】
そのとおり。
影呪法の一つ【影喰い】。
影の霊獣、黒獣を使って物体を喰らう能力だ。
かつては魔物や魔法などを喰らうだけだった。
しかし闘気で強化した影喰いは、概念すら喰らう。
死の概念だって食らえるのだ。
体内の未知の毒くらい、簡単に喰えるさ。
「く、くそっ!」
「……これで終わりか? 毒使いだもんな。直接的な戦闘力は無いのか?」
「ちょ、調子に乗るなよ背信者め! あんたは結局、わたしの針の秘密を解いたわけじゃない! ぶっ倒れるまで、毒を注ぎ続けるんだから!」
俺は手印を組む。
俺の足下の影から、黒獣の頭が出現。
ガォンッ……!
空気を切り裂く音とともに、黒獣は何かを喰らった。
「……ああ、なるほど。髪の毛の先に、極細の針がついていたのな」
「なぁっ!? ど、どうしてばれた!?」
「……黒獣が喰ったものを教えてくれたんだよ」
俺の目には、やつの攻撃が見えなかった。
しかし人知を超えた存在である、黒獣は、エサが見えていたらしい。
「し、信じられない……見えない物体すらも捕らえられるというの……その黒い獣は……!」
「……霊獣っていってな、俺たちとは別の理で生きてる、すげえ獣なんだよ。さて……これで全部のタネがわれたぞ?」
俺が一歩、前に足を出す。
「ひっ……!」
トゥエルブは怯えた表情で、後ずさりする。
「こ、こうなったら……!」
お下げが持ち上がる。
髪の毛が固まり、鏃のように変化する。
「しねぇ……!」
凄まじいスピードで、2本の矢となったお下げが、俺めがけて跳んでくる。
パシッ……!
「なにぃっ!?」
「……おまえ、アホか? 見えないのがおまえの武器の強みなのに、見えるようにしてどうする」
確かに髪の毛を束ねたことで、パワーと貫通性能、そして毒の威力は上がっていた。
しかし先ほどの見えない攻撃のほうが、俺にとっては脅威だった。
「はっ、はんっ! ばかめ! その髪は致死量を超えた毒が分泌されてるのよ!」
「……ああ。だから?」
「はぁあああああああああ!? い、生きてるですってぇええええええええ!?」
掴んだお下げから、毒がぽた……ぽた……と垂れる。
「……黒獣がさっき、おまえの毒針を喰らったことで、俺は毒に対する耐性を得た。これで俺に毒攻撃はきかない」
愕然とした表情で、トゥエルブがその場にへたり込む。
「うそ……うそうそうそ! 神が調合した特別な毒を、たかが人間ごときが打ち破れるはずがない!」
「……どうやら俺は人間じゃないないらしいからな」
俺は一歩踏み出す。
「ひぎっ!」
「……女を殺すのは趣味じゃない。農奴うんぬんが嘘なら、さっさと帰れ。それが本当なら村に連れて行く。……どうする?」
トゥエルブはぐるんっ、と白目をむく。
がくがくがく……と体をけいれんさせ、その場に仰向けで倒れた。
【どうやら恐怖で気絶したようです】
ずぉ……っと、俺の影から、ダークエルフのヴァイパーが出現する。
「どうします? この女……消しますか?」
トゥエルブを、まるでゴミのような目で見下ろすヴァイパー。
「……式神使って、森の外へ捨てておけ」
「よろしいのですか? おそらくこいつの神器はこの女の髪全て。安全を期すなら、すべての髪を喰らった方がよいかと」
「……さすがに女の子を、丸刈りにするわけにはいかないよ」
髪は女の命、ってエステルがいつも言ってるからな。
「ご主人さまは……お優しいですね」
「……そんなんじゃない」
「さすが、力のある御方は余裕がおありになる。素晴らしいと思います」
ヴァイパーは腰を折ると、影の式神を出現させ、その背にトゥエルブを乗せる。
「では、捨て置いてきます」
「……くれぐれも、丁重にな。川にすてるとか無しだぞ」
「……………………。はぁ。かしこまりました」
ヴァイパー達が去って行く。
あいつ……俺が釘を刺さなかったら、マジで川にあの女捨ててたな。
まったく、使える女だが、俺以外に対して冷酷すぎるのが玉に瑕だ。




