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【完結】影使いの最強暗殺者〜勇者パーティを追放されたあと、人里離れた森で魔物狩りしてたら、なぜか村人達の守り神になっていた〜  作者: 茨木野
1章

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06.暗殺者、魔王の部下を撃退する


 

 ミファとエステルと別れ、俺はひとり、おばばさまのもとを尋ねていた。


 神樹の根元には洞があって、その中には和室があった。


 畳に掛け軸にふすま。

 俺の住んでいた里でよく見た内装だった。


「黒い髪に目……おぬしもしや【極東人】か?」


 おばばさまの第一声はそれだった。

 眼前には緑髪の幼女がいる。


 さっきまで全裸だったのだが、今は白い小袖こそで緋袴ひばかまという巫女装束に身を包んでいた。それをだいぶ着崩している。ぶかぶかだし。


 和室に巫女装束。そして、極東人を知っている……。


「あんたも東の大陸から、この西方大陸に渡ってきた口か?」


 ここから遥か東に、【極東】と呼ばれる小さな島国がある。


 俺の先祖、つまり火影の里の人間は、むかし極東に住んでいた。こちらに流れてきた一族の末裔が火影であり俺である。


「まあそうなのじゃが……正確にはちとちがう。われの【母体】となるこの神樹が、もとは極東の地に生えていた聖樹じゃったんじゃ」


「母体……あんた木霊こだまか?」

「うむ。こちらの大陸では【ドライアド】というらしいがな」


 ドライアド。樹に宿る精霊のことだ。

 樹木は年月が経つと、意思を持つようになる。極東では付喪神つくもがみと呼ばれる現象だ。樹木に宿った付喪神を木霊、ここではドライアドと呼ぶ。


「なるほど極東出身者か。どうりでわれの結界をすり抜けられるはずじゃ」


「あんたがここら一帯に結界を張っていた術者ってことでいいんだな?」


 おばばさまがうなずく。


「わしがこの木花開耶このはなさくや村に結界を張っておった」


「コノハナサクヤ……偉いたいそうな名前だな。由来は?」


「わしの名前じゃ。気軽にサクヤちゃんと呼んで良いぞ♡」


 おばばさまことサクヤが、両指で自分のほっぺを指さし、笑顔で言う。


「は、はぁ……。それでサクヤ。結界をあんたが張っているのはわかった。ふたつ聞きたい。どうして結界を張っている。そして、なぜ結界が解除された?」


 俺がここに来た理由はそれだ。


 まずこの村に結界を張る意味がわからない。そもそもこんな魔物だらけの森で人が住む必要性を俺は感じない。危ないしな。


 危ないからこそ結界を張るのだろうが、そもそも論でいくと結界を張る手間をかけるくらいなら、もっと安全な土地を選んだ方が良いと思われる。


 後者は今まで散々疑問に思っていたことだ。答えを知りたい。


「おや、防人のことは聞きたくないのか?」

「別に。あんたんところの巫女が教えてくれたよ。森の守り神のことなんだろ?」


「おうとも。そして、わしの創作物じゃ!」


 俺はずっこけた。


「そ、創作物だぁ……?」


「そうじゃ。防人、森の守り神なんておらんわい。わしがこの森にモンスターをこさせないように結界を張っていたから、ま、いうならばわしが防人さきもりみたいなもんじゃな!」


 かっか! とサクヤが笑う。


「……なんでそんなもんでっちあげたんだよ」


「敵からの襲撃に備えるためじゃ。この森を守っているのは、結界ではなく防人という架空の人物が守っている、としたほうが敵の注意がいもしないやつに向いてこちらは安全じゃろ?」


「いやまぁ……けどあんたのところの巫女やエステルは知ってたぞ。神樹が結界の要だってさ」


「事実はそのふたりしか知らぬ。ミファは巫女だから、エステルは巫女の世話係じゃからな」


 どうやら後の人間は、村の平穏は神樹の結界ではなく、防人が守っていると言うことになっているらしい。


「……それであの歓待っぷりだったのか」


「まぁな。おぬしがいるおかげで村人は平和を享受できている。そして若い衆は、おぬしのおかげで村の外に自由にでれてハッピーってことじゃ」


 若い女どもは、村にとどまっているのが窮屈に感じているらしく、よく村の外に出るらしい(結界の範囲内ではあるらしいが)。

 外に出れるのは、防人が自分たちを守ってくれているから……と思っているとのこと。


「いかんせんここは超田舎の閉鎖空間じゃ。村の中に娯楽など皆無。若い衆たちは村の外へ行って狩りをしたり木の実を摘んだりして暇を潰しておる。若い女たちはそういう理由もあって、おぬしに感謝してたんじゃろうな」


 やたらと女からちやほやされた理由はそういうことか……。


「というかなんで女しかいないんだ?」


「わしの張っている結界は、女人以外は寄せ付けぬ結界だ。最初はこの地に人はほとんどいなかった。じゃがよそから訳ありの人間たちがどんどんと、この結界の中に入ってくるようになったのじゃ」


 なるほど別に女を呼んだのではなく、ここへこれるのが女だけだった。結果的に女しかいない村になったってことか。


「じゃあそもそもなんで結界を張ってるんだよ」

「それは……守るためじゃ」


「村人を」

「それもあるが、源流は違う。ミファとその母……【邪血じゃけつの一族】を守るためじゃ」


 邪血じゃけつ。さっきも出てきたな、その単語。


「邪血ってなんなんだ? あんたがこんなたいそうな結界を張ってまで守ろうとするのはなんでなんだ?」


「それは……」


 サクヤが答えようとした、そのときだった。


「ッ! まずい、侵入者じゃ!」


 サクヤが額に汗を垂らしながら叫ぶ。

 彼女が焦りながら立ち上がると、外へ向かって走り出す。


 俺はその後をついていく……エステルの身に危険があったら大変だからな。


「バカな! 結界は万全ではないとは言えほぼ修復しかけていたのに……いったいなぜ!?」


 俺は走りながら考えを巡らせる。


「おそらく……空から入ってきたんじゃないか?」

「空じゃと!?」


「ああ。……俺の影探知に侵入者の気配はなかった。つまりそいつらは森からここへやってきたんじゃない。村の上空からこの地に降り立ったんだろう」


 俺の探知はあくまで影に触れていることが前提条件となる。この村は影が少なくて村内の探知は難しい。


 森から入ってきたら探知に引っかかっていた(影式神がいるので、ここからでも影をリンクさせて探知ができる)。だから空から直接、村内に侵入したと考えるのが妥当だった。


「クソ! 空か……結界は根元から修復していた。天井の修復はまだ不完全じゃったか!」


 焦るサクヤとともに、俺はおばばさまのほこらの外へと出る。


 すると……。


「きゃーーーーーーーーー!」

【ぐへへ……うまそうな肉だなぁ~……】


 そこには魔族がいた。

 数は3。


 敵のひとりは、犬人コボルトだ。

 人間の倍ほどある、二足歩行の犬っころだ。


 犬人コボルトが女性の手を掴んで、持ち上げている。

 

「ッ!」


 捕まれていたのは、エステルだった。

 俺は迷わず影呪法を発動させた。


 影呪法、呪力を影に流し込むことで、影を自在に操るスキル。


 影呪法は10の型がある。

 その1つ【影式神】を発動。


 影で作ったハエを作り、先行させる。


 影蝿は俺の命令で素早く動く。

 

【美味そうな肉の女だなぁ~! 邪血の姫が食えねえからよぉ、こいつで我慢してやろうかなぁ】


「た、助けて、ひかげくぅううううううん!」


 悲鳴を上げるエステル。

 俺は……大事な人が失われるかもと思った瞬間、スイッチが入った。


 影蝿が犬人コボルトの背中につく。

 俺の影が今、敵のすぐそばにいるのと同じ状態だ。


【知ってるぞ……! この村には戦えるやつがいないんだろぉ~? いったい誰がおまえを助けるって言う……ぴょ?】


 シュコンッ……!

 ドサッ……!


【は、はれ? お、俺様の頭が……とれて、胴体と離れて、りゅ……?】


「へ? きゃああああああああ!」


 エステルが犬人コボルトの腕から落ちる。

 俺は地面に激突する前に、エステルを抱きかかえて、着地。


「ひ、ひかげくんっ!」

「エステル。無事か?」

「う、うんっ! ありがとー! ってお姫様抱っこきゃああああああああ!」


 俺はエステルを下ろす。

 元気そうだな。良かった。


【き、貴様ぁ……なにものだ!?】


 頭だけになった犬人コボルトが叫ぶ。

 これで生きてるのか。すげえ生命力だ。


 シュコンッ……!

 シュコココンッ…………!!


「答える義理は、ない」


 俺は影呪法のひとつ、【織影】を使った。 影の形を自在に変える技だ。


 自分の影を伸ばし、先端を刃に変え、犬人コボルトの体をバラバラに切り裂いたのだ。


 ちなみにクビを切断したのは、織影で小刀を作り、直接切った。影転移を使って影蝿のいる犬人コボルトの背後に回り、そこから一瞬でクビを切った。


 ……昔は、そんなふうに瞬殺できなかった。

 俺は暗殺者。素早さと器用さのステータスは高いが、腕力は低かった。


 なので毒や闇討ちを駆使して暗殺をせざるを得なかった。


 だが今、俺は奈落の魔物を狩って超レベルアップしている。

 腕力もついている状態なので、ああして背後からの一瞬の暗殺が可能になった次第だ。


【キキッ……! 犬のやつ死んでやがるッ!】

【やつは我らの中で最弱……。死んで当然だろう?】


 襲撃者3名のうち、残り2名が、俺の前にやってきた。


「猿にキジ……桃太郎か?」


【猿ではない! 王猿キング・コングだ!】


【我は鷲馬ヒポグリフ! 鳥ではない、誇り高き空の王だ!】


 王猿に鷲馬がギャーギャーと騒いでいる。

 あまり知性は高くなさそうだ。


「……おまえらは誰だ? 何の目的があってここへきた?」


 俺は猿と鳥と会話しながら(注意を引きながら)、影式神を飛ばす。


 ここは影が少ない。呪力が足りてない。

 だから森の中でのように戦えないのだ。


【俺様たちは魔王四天王のひとり、ドライガー様の命で『邪血の姫』をいただきにやってきた!】


 ……猿がアホで助かった。

 情報を聞き出すために少し泳がしておくか。


「ドライガーってのは、四天王のひとり獅子王ドライガーのことか?」


【そうだ! 我らはドライガー様直属の部下、『三獣士さんじゅうし』がひとり王猿キング・コング様だ!!】


 どうやら魔王の部下の、さらに部下らしい。


 つまり魔王の命令でここに来ているらしい。


「邪血の姫ってのはここの巫女のことか?」


【他に誰がいる! あの裏切り者は死んでしまったが聞くところによるとその娘がいるらしいではないか! 本当は裏切り者を連れてこいとの命令だったが……まあ娘でも十分だ!】


 ……情報が多すぎて処理しきれない。


 裏切り者?

 その娘……とはミファのことだから、裏切り者とはミファの母親のことか?


 なぜ魔王がミファとその娘を狙う?


「邪血ってなんだよ?」

【それは】【おい王猿キング・コングおしゃべりはそれくらいにしろ】


 鷲馬ヒポグリフが釘を刺す。

 どうやらこっちの方が頭があるみたいだな。

 くそ。厄介だな。


【人間よ。おとなしく邪血の姫をこちらに引き渡せ。さすれば村人を傷つけない。貴様にも手を出さないでやろう】


 影蝿はすでに猿にも鳥にもついている。

 いつでも暗殺は可能だ。

 ……もう少し粘るか。


「おいサル。おまえら魔族はどうして邪血の姫が欲しいんだよ?」


 鳥は口を割らなそうだからな。

 直情タイプのこっちに鎌をかけるか。


【サルではないと言ったろうが!】

「良いから答えろこのエテコウ。それとも脳みそが豆粒程度だから答えられないのか?」


【俺様を愚弄しやがって! 下等生物のくせにぃいいいいいいい!】


 ダダダダダッ……!!


 王猿がこちらに向かって走ってくる。

 俺は【織影】を発動させる。

 やつの背中につけておいた影蝿を足下へ移動。


 そこから影呪法【影喰い】を発動させた。


【な、なんだぁああああああ!! 体沈むぅうううううううう!!!!】


 影喰いは影を底なし沼に変えるわざだ。

 沼に沈めて殺すことも可能。だが沈めるまでに時間がかかるので、死体にしてからでないと効果がないのだが……と思っていたのだが。


【し、しずむぅううううううう! 鷲馬ヒポグリフ! た、たすけ……】


 どぷんっ……!


 ……と、一瞬にして、王猿が影の沼に沈んだのだ。


「あれ? 喰う速度あがってないか……? 俺のレベルが上がったからか?」


 俺はつい最近、自分のレベルが急激に上がった。

 自分がいつの間にか強くなっていたことを、つい最近自覚した。


 だから力加減がわからないのだ。

 

【王猿を一撃で飲みこんだ!? や、闇魔法か!?】


 鷲馬ヒポグリフが動揺しまくっていた。

 というか同程度の強さっぽいし、こいつも影喰いで沈められるな。


 ……いや、こいつ飛ぶんだったな。

 じゃあ別の手段を使うか。


「おまえも死ぬか?」

【ひ、ひぃいいいいいいいいい! ば、化け物ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!】


 鷲馬ヒポグリフが俺を見て叫ぶ。

 魔物ばけものにバケモノって呼ばれてちょっとショックだ……。


 鷲馬ヒポグリフは翼を広げて、空に向かって飛び立つ。


【お、覚えていろ! 今にもっと強い奴らをひきつれて、必ずや邪血の姫を我が魔王様ものにしてやるからなぁあああああああああああ!】


 鷲馬ヒポグリフが飛んで離脱しようとする。


「そんなこと……させねえよ」


 俺は手印を組み、影呪法のひとつ、【影転移】を発動。


 影蝿をつけた鷲馬ヒポグリフの背中の上に、一瞬で転移。


【ひぎぃいいいいいいいい! な、なんだその技はぁあああああああ!】


 シュコンッ……!!


 織影で作った小刀で、簡単に鷲馬ヒポグリフのクビを切断する。


 鷲馬ヒポグリフの背中を蹴ってその場から離脱。


 着地の寸前、自分の影を【織影】でクッションに変えて、軟着陸する。


 ドドゥッ……!


 鷲馬ヒポグリフの胴体が、少し離れた場所に落ちる。


「おい鳥。さっきの質問に答えろ」


 魔族はクビだけになっても生きていられる。

 俺は鷲馬ヒポグリフのクビに問いかける。


【それは……ぐ、ぐわぁあああああああああああああ!!!】


 突如として、鷲馬ヒポグリフが苦しみ出す。


「どうした? 俺はまだ何も……」


 と、そこで気付いた。

 鷲馬ヒポグリフの胴体の落下場所の近くに、ミファがいた。


 ミファは腕をすこしきっているらしく、腕を押さえていた。


「大丈夫かミファ!」

「は、はい……鋭い小石が飛んできて、少し肌をきっただけ……です」


 落下の衝撃で小石が飛び、それで切ってしまったらしい。

 大事にいたらず良かったと思った……そのときだ。


【力が……力がみなぎるぅうううううううううううううううううううう!!!】


 ごごごごご…………!!!


 鷲馬ヒポグリフの胴体が、もこもこと隆起しだしたのだ。


 胴体が何倍にも膨れ上がっていく。


「まずい!」


 俺は急いで影鴉を作り、鷲馬ヒポグリフのもとへ飛ばす。


 影転移を使い、一瞬で鷲馬ヒポグリフのもとへ移動。


 体に呪力を走らせる。腕力を向上させ、鷲馬ヒポグリフとその頭部を、勢いよく、森に向かって投げた。


 ブンッ……!!!


「っらぁああああああああああああ!!」


 吹っ飛んでいく胴体。

 俺はすぐさまその後を追いかけて、森の中へ入る。


 森でなら呪力無制限だ。


 織影を使い、巨大な影の腕を作る。


 そして影の両手を使って、鷲馬ヒポグリフを勢いよく、まるで蚊を潰すように、


 ぐしゃっぁあああああああああああああああああ!!!


 と、押しつぶした。

 影の腕を解除。

 ボトボト……と肉片が、俺の眼前に落ちてくる。


「な、なんだったんだ……?」


 死んだと思った胴体が、何倍にも膨らんで、動こうとしていた。


「なにがあったんだ……? !?」


 すると恐ろしいことがおきた。

 なんとぐちゃぐちゃになった、鷲馬ヒポグリフの肉片が、動き出したのだ。


 それらはスライムのように動き、ひとつに集まろうとしている。

 

 俺はすぐさま影喰いを発動さた。

 完全に、肉片を沼に沈める。


「こ、殺してもしななかったのか……? いったい、何があったんだ……?」


 戦慄していたそのときだ。


「ヒカゲ様!」

「……ミファ?」


 銀髪ハーフエルフが、俺の元へ駆け寄ってきた。


「ご無事でしたかっ? 鷲馬ヒポグリフは!?」

「あ、ああ……。危なかったがな。なんとか倒したぞ」


 するとミファが、大きく目をむく。


「邪血を浴び凶暴進化した魔物を……いともたやすく倒すなんて……すごい……」


 口をわななかせるミファ。


「血を浴びる……?」

「ええ……。腕を切ったとき、少量の血が、あのモンスターの体に付着した、んです」

 

 俺はさっきのバケモノを思い出す。

 死んだと思ったら、生き返った。

 森での俺の攻撃力は、SS級のモンスターを一撃粉砕できるほどだ。


 それをもろに受けて、あのバケもんは平然としていた。

 元の鷲馬ヒポグリフはたいしたことなかったのに……。


「進化したのか。おまえの……血、邪血を浴びて」

「はい……」


 それ以上、ミファは語ろうとしなかった。

 ……おばばさまに、聞くしかないんだろうな。

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