52.暗殺者、村の美少女たち全員から子作りを迫られる
竜神王ベルナージュに子供をせがまれたその後。
俺たちは着替えて、朝食を取るべく、俺たちの暮らす【木花開耶村】へとやってきた。
「「「…………」」」
村が……なんだか静かだった。
いつもは女の子たちが、俺の元へと黄色い声を上げながらやってくる。
しかしこの日に限っては、みなジッ……と黙って、俺を見ていた。
俺……というか、俺とエステルをだ。
「……みんなどうしたんだ?」
「およ? どうしたってなぁに?」
となりを歩く金髪の美少女、エステルが小首をかしげる。
「……なんかみんな大人しくないか?」
「ふぅむ。言われてみれば……ちょっと聞いてくる! ベルちゃんと先にご飯食べててー!」
だっ……! とエステルが村人たちめがけて、走って行く。
俺はベルナージュとともに、ミファたちのいる祠へと向かった。
この村は神聖なる大樹【神樹】によって、守られている。
見上げられるほどの大木の根元に祠がある。
そこは巫女であるミファの住居でもあった。
俺たちは祠の中に入る。
ここは魔法によって異空間となっており、中は意外と広い。
長い廊下を抜けた先に、大広間がある。
普段俺やエステル、ミファたちは、ここで朝食を取っていた。
大広間へ行くと、すでにいつものメンツがそろっていた。
巫女のハーフエルフ・ミファ。
赤髪の獣人剣士・アリーシャ。
妹のひなた。
そして村長である幼女のサクヤ。
ここを利用するのは俺か、ミファに関係が深い者たちだけである。
「……おはよ」
「おっ、おひゃよーごひゃいまひゅっ!」
俺がミファに挨拶をする。
ミファは顔を真っ赤にして、動揺しまくりで言う。
ひなた、アリーシャは顔を真っ赤にしてその場にうつむいて、もじもじとしていた。
サクヤはニヤニヤと実に楽しそうに笑っている。
なんなの……?
「お、お食事の用意ができておりますっ。どどど、どうぞっ!」
旅館の朝食のように、小さなテーブルの上にたくさんの料理が置いてある。
俺はテーブルの一つに座る。
普段ならアリーシャやひなたがすぐに寄ってくる、のだが……。
この日はふたりとも、俺から距離を取って、もじもじとしていた。
……そういえば村人たちと同じ反応だな。
なんなのだろうか……。
「あ、あのあの……ええっと、ヒカゲ様。どうぞっ」
ミファが、俺のお茶碗にご飯をたんまりと乗せ、手渡してくる。
「うぉおおおおおお! ミファのご飯はうまいのだーーーーーーーーー!」
がーっ! とベルナージュが無邪気に、食事を腹の中にかき込んでいる。
俺もドラゴン娘にならって食事を取る。
「じー……」
「…………」
「じぃ~…………」
「………なんだ?」
ミファが俺のとなりに、ぴったりと寄り添うように座っていた。
「あの……ヒカゲ様。つかぬ事をおたずねしても良いでしょうか?」
「……なに?」
俺は味噌汁に手をつける。
ずず……っと吸う。
サクヤが極東を知っているからか、こうして極東由来の和食があるので、ここのメシは気にいっている。
「ね、ねえ様とえっちなさったのでしょうかっ?」
「ぶぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
俺は口に含んでいた味噌汁を吹き出してしまった。
ミファはいそいそと台ふきんでそれを拭く。
「ゲホッ……! ごほごほっ!」
「だ、だいじょうぶですかっ?」
咳き込む俺に、ミファが背中をさすってくる。
ややあって。
「……おいそれ誰から聞いた?」
ミファが俺のとなりに、真剣な表情で座っている。
「いえ、誰からも。かまをかけたのです」
「か、かま……?」
「ええ。わたしたちSDCは、この夏にねぇ様とヒカゲ様が神社で一緒に寝ていることは知っております」
「何で知ってるんだよ!?」
「SDC内では定期的に情報交換会が行われておりますゆえ」
「せんでいい! そんなわけわからない集会!」
「いえっ! 大事です。みなヒカゲ様のことを知りたいのです。ヒカゲ様のことをもっともっと深く知りたい。そういう乙女たちはたくさんいるのです」
そ、そうなのか……。
知らなかった。
「集会の時にねぇ様がおっしゃっていたのです。ヒカゲ様と肉体関係に発展するまで、秒読みだと」
おいぃいいいいいいいいいい! あのアホ姉ぇえええええええええええ!
自分から恥ずかしい情報を発信してんじゃねえよ!!!
「だから村人たちは皆、ヒカゲ様とねぇ様の動向を見守っていたのです。いつえっちをするのかなと」
「……それでかまをかけたと?」
こくり、とミファがマジな顔でうなずく。
そんなアホなことに鎌をかけるとか。
この子もひょっとして、アホ姉と同類なのか……?
「アリーシャ! ひなた! 皆に知らせなさい!」
「「承知!」」
だっ! とアリーシャたちが部屋を出て行く。
「待て待てこらこらこら! どこへいくんだっ!」
俺がふたりを呼び止める前に、ふたりはすごい速さで部屋を出て行く。
「ふたりは伝令です」
「なんのだよ!?」
「ねぇ様とヒカゲ様が結ばれた……と言うことを村中に知らしめるためにっ」
「やめてくれぇええええええええええええええええええええ!!!」
俺は影転移でアリーシャたちのもとへ飛ぶ。
するとそこは……。
「ひかげさまだっ!」「防人様よ!」「ほんとだ防人様だわっ!」
祠の目の前だった。
そこには数多くの村の女たちが集まって、黒山ができていた。
「……な、なんだ。どうしてこんな人がたくさんいるんだよ?」
すると人混みの中から、エステルが出てくる。
「ひかげくん! 大変だよぉう!」
たたたっ、とエステルが俺のそばまでやってくる。
「なんだか知らないけど、お姉ちゃんとひかげくんがえっちなことしたってことがバレてた!」
……バレてた、というかかまをかけられてこいつが見事引っかかっただけでは?
このアホ姉はそういうトラップにすぐにひっかかりそうだからな……。
「……え? じゃ、じゃあこいつら、俺とエステルの関係性を聞いてここへ?」
「「「そうでーーーーーーす!!!」」」
村人たちが、目をキラキラとさせながら言う。
その目は好奇心でらんらんと輝いていた。
「くっくっく……。ヒカゲよ。大変だぞぅ」
「……サクヤ」
いつの間にか、村長であるサクヤが、俺のとなりに出現していた。
見た目は幼女だが、これでも何千年と生きる樹木の精霊だ。
「前にもわしが言うただろう? この村の女どもは常に色恋に飢えていると」
そういえばこの村には男がいない。
結界の関係で、女しか入れないことになっていた。
なので村の女たちは、長い間、男や色恋といった娯楽に飢えているのだ。
「そこへ降ってわいたおぬしとエステルが結ばれたといううわさ。くくっ、みなのもの興味津々なのだろうなぁ」
サクヤが意地悪そうな笑みを浮かべて、ぽんぽんと俺の肩をたたく。
くっそ……そういうことかっ!?
「……ど、どうすれば?」
「考えよ、若人よ♡」
くっそこいつも俺たちを娯楽にしやがって!
「あのっ! 防人様っ!」
村人……というかSDCのひとり、シリカが、俺の前にやってくる。
「……な、なんだ?」
「エステルと寝たというのは本当なんですよね!?」
……こ、答えにくい質問を。
「おうっ! そうだぜっ! お姉ちゃんとひかげくんは男女の営みをしたんだぜ!」
「おいぃいいいいいいいいい!!!」
俺はアホ姉の頭をたたく。
「「「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー♡♡♡♡♡」」」
村人たちがいっせいに、黄色い声を上げる。
「やっぱりそうなんだわ!」「ねえねえ防人様っ! えっちってやっぱり気持ちいいんですよねっ?」
だだだっ、と村人たちが、俺の元へ押し寄せる。
「知らねえよ!」
「おうさっ! すっごく気持ちがいいよ!」
「エステルおまえちょっと黙ってろ!!」
エステルがいると余計に話がこじれそうだった。俺は影転移でこのアホ姉を、祠の中へと強制的に転移させる。
俺も逃げようとするが……。
「おまちください!!」
ガシッ……! とシリカが俺の手をつかむ。
「ぼ、ぼくともエッチぃことしてください!」
「はぁ!?」
何を言ってるんだこいつは!?
「一度で良いんです! 男の人とそう言うことしてみたいんです! お願いします!」
バッ……! と深々とシリカが頭を下げる。
「防人様っ! わたしともっ!」「ずるいわっ! アタシが先にヒカゲ様と寝るのよ!」「ちょっとどいて! 私が先よ!」
「何言ってるの防人様とはワタシが!」
村人たちが俺の元へ押し寄せてくる。
みなが俺の体を掴んで、ぐいぐいと自分に寄せようとする。
……な、なんだこの空間は?
女性たちの多種多様な甘い匂いがまじりあって、頭がクラクラしそうだ。
そして全員が、俺との肉体関係を望んでいる……?
「言っただろうヒカゲ? みな娯楽に飢えているだ。よいではないか、スポーツ感覚で楽しめば♡」
「サクヤてめえ楽しんでるな」
「おうさ♡ とっても」
ちくしょう!
「……ヒカゲ」
きゅっ、とアリーシャが俺の腕を、自分の胸の谷間に挟みこむ。
や、やばい……。
彼女は村一番の爆乳だ。
柔らかさも桁外れだ。
とろとろに熱したプリンの中に、腕が沈んでいく……。
「……私では、だめか?」
潤んだ目でアリーシャ。
「いや無理だって……。俺は……」
「兄上ー!」
小柄なひなたが、ひょいっと俺の背中に乗ってくる。
「兄上っ! せっしゃ子供の時からずぅっと兄上をお慕い申しておりましたっ! 兄上、つるぺたではいけませんか?」
「体型以前におまえは肉親だろうが!」
なんだか知らないが、妹も俺との関係を望んでいるようだった。わけわからないぞ!
「実の兄妹だからこそ燃えるのではありませんか!」
「知らねえよ!」
俺は潜影でその場から逃げる。
「ヒカゲ様が逃げたわ! みなさん、探しなさい! 見つけた順と言うことで!」
「「「承知!」」」
ミファの言葉に、みながうなずき、謎の連携を見せる。
俺はその場から影を伝って逃げた。
……エステルとの関係が一瞬でバレただけでなく、全員から関係を迫られるとは……。
ほとぼりが冷めるまで、影の中で静かにしていよう……。
「ひかげも大変だなぁ♡」
いつの間にか、俺のとなりにサクヤがやってきていた。
こいつ実体がないからか、影の中にも普通に入ってこれるのだ。
「……サクヤ。おまえ、楽しそうだな」
「当たり前よ。村の子らが楽しそうにしてることが、ワタシの幸せだからな」
慈愛に満ちた表情でサクヤが言う。
なんだかんだ言って、村長だもんな。
村のみなの幸せを願っているのか……。
「てことで、おぅーい! みんな! ひかげはこの影の中にいるぞー!」
「やめろこのロリババアぁああああああああああああああああああ!!!」
……結局、俺はその日、一日村に近づけなかった。
心から、疲れるのだった……。




