45.暗殺者、魔神が二体であろうと倒せるようになる
エステルに励まされた、翌朝。
早朝。
魔神の反応があったので、俺は現場へと影転移で急行した。
奈落の森の中。
木々が密集するその場所に、そいつはいた。
人間の3倍ほどある白い虎だ。
筋骨隆々で、腕が4本生えている。
その4本にはすべて斧を持っていた。
【わしは風神・白虎という】
「……そうか。目的は邪血か」
【無論。魔神の子よ、いざ尋常に勝負じゃ】
……魔神の子って。
いや俺人間なんだけどって言いたいが……。
まあいい。
俺は白虎を見やる。
どちらかというと四天王ドライガーに近いフォルムをしていた。
だが巨木のごとき腕が4本生えている。
どう見てもパワータイプだ。
手数とスピードで押すか。
【いざっ!】
ダンッ……! と白虎が俺めがけて走ってくる。
そこそこの速さだが(魔神基準で)そこまで早くはない。
俺は手印を組み、影の触手で白虎を捕らえようとした……そのときだ。
バチ……ッ!
「がッ……!」
背中に衝撃。
そして電流が、俺の体に走ったのだ。
影の触手が解除され、ただの影となる。
な、なんだ……?
【ふぅうんん!!!!!】
俺の隙を突いて、白虎が両肩の斧を俺めがけて振ってくる。
受け止めるなんてアホなまねをせず、潜影を使って避けようとした……そのときだ。
バチッ……!
再び電流が体に流れたのだ。
一瞬の硬直。
その隙を突いて、白虎が俺の両腕を切り飛ばす。
「くっ……!」
俺はバックステップで白虎から距離を取った。
……さっきの電流はいったいなんだったんだ?
白虎の特殊能力だろうか。
いやどう見てもパワータイプのこいつが、特殊な攻撃をしてくるとは思えないし……。
【ふははっ! どうした噂の魔神の子よ! その程度か!】
「……やかましいヤツだ」
俺はスキル【超再生】を発動させようとする。
だがその前にまた電流が流れた。
……明らかに何かがおかしかった。
【死ねぇい!!】
白虎が両腕に持った斧を重ね合わせる。
すると大きさが二倍の、1本の斧になった。
両腕で持った斧で、俺の脳天をかち割ろうとする。
バチッ……!
また体に電流が流れ、体がビクッとなる。
【ふははっ!! 勝ったぁああああああああああああああああ!!!】
斧が俺のド頭をかち割るーーー
ーーズォッ!
俺の体が一瞬で影になる。
白虎の斧が空を……いや、影を斬る。
【くっ……! 噂に聞く黒獣化というやつか!】
【そうだよ……】
俺はやられる直前、【月影黒獣狂化】を発動させた。
黒獣となることで、体を影に変え、物理攻撃を完全に無効化させるというわざだ。
【余裕ぶって武器に闘気を流さなかったせいで、俺を殺し損ねたな】
武器に闘気を流すことで、自然現象さえも斬ることができる(グレンの炎とか)。
もしあのとき白虎が手を抜いてなかったら……やばかった。
【さすが魔神の子! やるではないか!】
【……だからその魔神の子ってやめろよ。なんだよそれ】
【人の身で魔神になりかけている子ども、だから魔神の子じゃ。気にいらんか?】
【……甚だ不服だよ。俺は、人間だ】
【ハッ……! 貴様本気で自分が人間だと思っているのか?】
白虎の言葉に、俺は目を閉じる。
昨晩のエステルの笑顔と言葉が、俺を鼓舞する。
【……ああ、俺は人間だ。人間を守る、ただの人間だ】
俺は何度も迷うだろう。
だがそのたびに、彼女が俺を救ってくれる。
【ふむ。なかなか胆力のあるやつだ。おまえ、わしの部下にならないか?】
【……ならねえよ】
【そうか、残念だ!】
白虎がまた突っ込んでくる。
俺はすでにやつのカラクリに気付きかけていた。
白虎の斧に闘気が流れている。
今度はあの斧で、影である俺を切れるだろう。
【ぬぅううううううううううん!】
白虎が俺に攻撃を食らわせてくる。
俺は織影で刀を作る。
刀に闘気と【呪い】をまぜ、それを手に取って、思い切り背後へと投げ飛ばす。
【ぎっ……!!!】
ダンッ! と刀が背後の大樹に突き刺さる。
【ぬぅっ!】
俺は両腕に刀を出現させ、白虎の斧を受け止める。
すさまじい膂力だ。
押しつぶされそうになる。
だが闘気を腕に集中させ攻撃をなんとか受け止めることができた。
俺は刀で白虎の斧を受け止めながら、織影でやつの影を刃に変えて、敵の心臓をひと突きにしようとする。
【ぬぁっ!】
白虎は俺を弾き飛ばすと、そのままバク宙をする。
影の刃をひらりとかわした。
着地のタイミングで、俺はやつの影を沼に変える。
白虎は斧の1本を地面に投げ、その柄の上に着地。
なおも沈む斧。
だが白虎はそれを足場に飛び上がり、そして近くの木の枝の上に飛び移る。
【ふむぅ……やるではないか。それに我らのカラクリに気付いたか】
【……見た目脳筋のくせに、やることがこすいな。2対1で戦うなんてな】
俺は背後を見やる。
そこには1匹の青白い色をした兎が、木の幹に、俺の刀によって縫い付けられていた。
そう、こいつらは元から二人で俺を襲ってきたのだ。
ひとりはパワーで。
もう一人はスピードで、俺を翻弄したのである。
兎の周りにはバチッ! バチッ! と青白い電流がスパークしている。
【そいつは?】
【雷神・飯綱だ。わしの相棒じゃ】
風神に雷神か……。
なるほど、コンビなんだな。
白虎は枝から飛び降りる。
飯綱のもとへ着地し、俺の刀を斧でたたっ切る。
【……飯綱が俺の体の動きを電撃で止め、その間に白虎が斧でとどめを刺すってパターンか】
【その通りだ。飯綱はその体が雷でできておる。『電光石火』。ただの体当たりが、必殺の一撃となるのだ】
なるほど……目にもとまらぬ速さで俺にぶち当たり、電流で動きを止めていたと。
【力の風神、技の雷神よ!】
【……ご丁寧に解説どうも】
ベラベラとよくもまあ、自分の手の内を明かすものだ。
楽勝ってことか。
……なめられたもんだ。
俺はすでに飯綱に対して【呪い】をかけている。
どちらが優勢なのか、わからせてやるか。
【タネを明かしてもわれら風神雷神のコンビネーションにはかなわぬ! ゆくぞ飯綱!】
雷の兎がうなずくと、バチッ……! と瞬き、消える。
白虎は愚直に俺に突っ込んでくる。
今わかったがあの斧には風のまじないが付与されているらしい。
斧の一撃に鎌鼬が乗っている。
斬撃の威力が上がるって寸法だろう。
俺は両手に刀を出す。
また白虎の一撃を受け止める作戦だ。
【ふははっ! 二度は通じぬぞ! 飯綱ァ……!】
白虎は飯綱のアシストを期待する。
俺の体にぶち当たり、硬直したところでとどめをさそうするのだろう。
……そうは、いかない。
白虎の攻撃を、俺は両腕の刀で受ける。
さっきと同じ構図だ。
【なっ!? い、飯綱!? 何をしているッ!】
動揺する白虎。
俺は背中に鳳凰の翼を生やし、そのまま白虎ごと空へと飛ぶ。
【ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?】
俺は遥か上空まで白虎を連れ、垂直に飛んでいく。
地上を一瞬で離れ、雲の上までやってきた俺。
俺は白虎から離れる。
【……その図体で空飛んでみろってんだ】
竜神王ベルナージュは、闘気を使って空を飛んでいた。
だがこいつにそんな器用なまねができるわけがなかった。
なにせ攻撃のパターンがワンパターンだから。
飯綱で相手の動きをとめ、斧の一撃でとどめを刺す。
それが必殺の、確殺のコンビネーションなのだ。
だから闘気によって空を飛ぶという方法を練習してこなかったのだろう。
哀れ白虎は、重力に従って、真下に墜ちていく。
俺は鳳凰の翼で空を舞い、そして勢いよく降下。
俺は右腕を影の刀に変えて、白虎の体を一刀両断。
さらに空中で方向を変え、四方八方から、白虎の体をバラバラにした。
俺は地上へと着地。
その後ずいぶん時間を空けて、白虎の死体がボトボトと落ちる。
【ぬぅ……! なぜだっ! 飯綱はどうした!?】
【……そこで動けないでいるよ】
俺が指さす先に、雷の兎が、白目をむいて倒れていた。
【毒かっ!? しかし魔神を失神させるほどの毒など……】
【あんたのお仲間の、魔王の呪毒を使わせてもらった】
魔王は山羊悪魔神というらしい。
魔神のひとりだったんだと。
【ばかな! 魔王は我らのなかで最弱! そんな最弱の毒が飯綱にきくはずがない!】
【……普通ならな。だが、俺の作った呪炎毒は別だ】
飯綱の腹部に、黒い炎があがっている。
黒い炎の毒が、飯綱の体を焼いていた。
【……魔王の呪毒と、この間食った炎竜の炎とを、能力統合・変質化スキルでまぜて、新しい呪いの毒を作ったんだ】
魔王の毒は体を焼く。
グレンの炎もまた体をむしばむ強力な呪いの炎だ。
二つを掛け合わせ作った【呪炎毒】は、魔神すらも動けなくするほどの、最強の毒というわけだ。
【……飯綱に刀で攻撃する直前、毒のアイディアを思いついたんだ】
あとは突き刺さった刀から傷口を通して、飯綱の体に毒を回せば……それで終わりって寸法だ。
いくら足が速かろうと、毒で動け無くすれば、何も問題ない。
【なんてことだ……あの一瞬で魔神を倒す毒を作り出すとは……恐ろしいやつだ】
驚愕する白虎。
俺は影喰いで飯綱を喰う。
【さすがだ。魔神の子よ。魔神を2柱相手にして勝利を収めるとは……驚嘆に値するぞ】
【……そりゃどうも】
俺はそれだけ言って、白虎も影喰いする。
風の斬撃と、体を雷にするすべを手に入れた。
これで魔神は残り5柱(ベルナージュ除く)。




