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奇跡とタイミング

電話の向こうに聞こえた女の人の声に体が冷たくなった。


「あとから家に行くよ」そう言ったカオルの言葉に

「え?どこいくの?」そう聞いた女の人の声がいつまでも耳に残った。



「あ・・・あの、、、もし忙しいならいいの!」


また急に逃げの姿勢の自分が出た。


「え、、いいよ?忙しくないから」


「でもお客さんでしょ?」


本当は(彼女来てるんでしょ?)そう聞きたいのに一枚オブラートで

で包んだような言い方をした。


「いいんだ。そっちから誘ってくれないと俺も出にくいし。

 じゃ、後から行くから」小声でカオルは電話を切った。



この前の話は嘘だったんだろうか・・・・

途端にさっきの勢いは消え、あっちにもこっちにもいい顔をするカオルが浮んだ。


(もしかしたら・・・ このままバレなきゃ二股しちゃえ)とか

思われてるのかもしれない・・・


落ち込んだ気持ちのまま家に戻った。

浅草で直樹に買ってもらったお土産のグラスやお菓子が入った袋を

テーブルに置き、黙ってその袋を見つめた。


(こんな時・・・直樹ならどうするのかな・・・

 あたしも「別れたら自分のとこに来たら?」とか格好をつけたら

 あたしの時のようにカオルも少しプレッシャーを感じてくれるのかなぁ)


昔、直樹にそう言われたことを思い出した。

「彼と別れたら俺のところにおいで」余裕なことを言った直樹のことを

思い出しながら考えていた。


もう直樹に頼ることはできないよなぁ・・・

もう会うこと無いんだから・・・・

まだ今日なら東京にいるから頼ったほうがいいのかなぁ・・・


どんどんネガティブに暗くなった。

そしてまた気楽なほうに逃げようとする自分を嫌だと思った。

傷つくのならば、、、このまま泣いてばかりになるなら、、、

いっそ直樹に頼ったほうがいいのかな・・・

自分でそう思いながら、なんて自分勝手なんだろうと思った。

しばらくしてインターホンが鳴り、カオルが来た。



「もう嫌になるくらいアッチコッチ見て回ってさ、せっかくの休日が潰れたよ・・・

 でも、いい所見つけたから。まだ2週間後になるけどな。それまでちょっとまた会いにくいけど、来週の休みはどこか行こうか?なんとか健吾に言い訳するよ」


笑顔で言うカオルの顔を複雑な顔で見た。


「どうしたの変な顔して。あ・・・なに?浅草行ったの?へ〜って・・・・一人で?」


お土産の袋に書いてあった<浅草>の文字を見てカオルが聞いた。


「直樹と・・・・さっき会ったの・・・」


カオルの目を見ないで言った。なんとなく目が見れなかったのは

直樹と会ったという後ろめたさでは無くカオルに対しての不信感だった。


「えっ、こっち来てたんだ。って・・・二人で浅草とか行ったんだ?」

そのまま黙って袋を見ていた。


「あの・・さっき部屋に女の人いたよね・・・あれって由美さん?」

ここでまた逃げる訳にはいかない・・・

そう思ってカオルの顔を見て聞いた。


「あ・・・うん。そう」

「もう帰ったの?」


「いや、健吾といるけど。それよりなんだよ。呑気に観光かよ。どうなってんだよ・・・」

声は普通のトーンでも顔は怒っていた。


その態度にムッときた。

自分だって呑気に彼女を呼んで健吾と3人で仲良く不動産巡りをしていたくせに。


「カオルのこの前の言葉って嘘だったんだね。あたし・・そんなの信じてバカみたい。すっごく悩んだのに!」


「なにが嘘なんだよ。嘘ついてんのそっちだろ。なにが「約束する」だよ!出来ないならそんなこと言うなよ!」


お互い険悪なムードのまま黙って立っていた。


「で。なに?話って。俺にわざわざ彼氏と浅草行ってきたって自慢したかったの?それなら俺もう帰るけど・・・土産もいらねーぞ」

冷たくそう言ってこっちを見た。



「どうしてそんなこと自慢する為にわざわざカオルのこと呼ぶ?そんなことで呼んだんじゃないわよ!それにカオルにお土産なんか買わないよ!ちゃんと言おうと思って、、、そう思って電話したのに!」


泣きそうになったけど、なんでも泣けばいいと思われるのが悔しくて我慢した。


「なにを?やっぱり彼氏と別れることできませんって?あの日のことは単なる浮気だから彼氏に内緒にしてくださいって言いたかったの?ならいいよ。俺、言わないから」


そう言ってクルリと玄関のほうを向いて歩いて行った。


<浮気>と言われてカチンときた。

自分じゃない!そう思い玄関で靴を履くカオルに向って


「あたしカオルみたいに付き合ってるのに浮気なんかしない!前の時だって、もう終わりだと思ったから、、そう思ったから辛くて直樹のとこ行ったのに。今回だって浮気じゃないもん!もうとっくの昔に別れてるもん!バカ!」


怒って手元にあったクッションを投げつけ玄関に通じるドアを思い切り閉めた。


玄関を開ける音はいくら耳を澄ませて聞こえなかった。

しばらくシーンとした後、思い切り締めたドアがカチャ・・と開き、カオルがソロ〜と顔を出した。


「あのさ、俺の聞き間違いじゃなければ<とっくの昔に別れた>って聞こえたんだけど」


「もう帰っていいよ。早く彼女の所に帰れば?あたしも言わないから、この前のこと。

 あたし達、体の相性いいもんね。ちょっと浮気してみたくなったんでしょ?忘れるから!」


目線をそらして違うほうを見ながら言った。


「ちょ、、お前、バカにすんなよ!俺は付き合ってる時、浮気なんかしたことねーぞ!」


ムッとした感じで声を大きくし、こっちに歩いてきてカオルがそう言った。


「へ〜〜! この前のは浮気じゃないんだ?

 カオルの浮気ってどうすれば浮気なんだろね?

 なにが愛してるよ!信じらんない。いいからもう帰ってよ!」


昔だってこんなにお互い怒って喧嘩なんかしたこと無かった・・・

あたしもカオルの嫌がることを言わなかったし、カオルだって

声を大きくして文句を言うことなんか一度も無かった。


「さっきいきなり怒って悪かったって。もう少し頭冷やして冷静に話しようって。

 さっきの話本当?もう別れてるって。じゃあ今日なんで会ったの?その、、向田さんに」


低姿勢なカオルの顔を見て、このまま帰してもきっと

後々気まずいのも困るので少し冷静に話しをしようと思った。


「直樹とはもうこっちに来るって決めた時に別れてたの。

 で、、、今日は直樹がこっちに来るのがもう最後だって。

 あたし達、もうそんな関係じゃないから、、、仕事のことで

 お世話にはなってるけど、ただそれだけだから。

 それに・・・来年海外転勤になるから、もう会うこと無いだろう・・・って

 だからそれもあって最後にちょっと一緒に直樹が行ってみたいって言う所に遊びに行っただけ!」


冷静に言おうと思ったが、ちょっといつもより声が大きかった。


「じゃぁ・・・もう別れてかなりになるってこと?

 俺に偶然会った時も、もう別れてたの?なんで嘘ついたんだよ」


「だってカオル彼女いるって思ったし、そんなこといまさら

 格好悪くて言えないよ」


そう言ってチラッとカオルの顔を見た。

気の抜けた顔をして


「お前・・・馬鹿だな」


呆れた顔をして言った。

こんな時にあらためて言うことかよ!そう思ったが黙っていた。


「で・・・さっきから言ってる俺の彼女のことだけどさ」

その言葉に黙って顔を見ていた。


「お前、、気がつかないの?あの部屋見たり普段の俺見てて?」

「なにが?」

「どー見ても彼女がいそうには見えないと思うぞ・・ってこと」



「だって今、家にいるんでしょ?サッカーだって行ったんでしょ?

 この前、夜にだって電話きたじゃない!この場におよんで嘘つくの!」


「へ?まさか・・由美のこと言ってんの?」


<まさか>ってなんだよ!そう思いながら訝しげな顔でカオルのことを見ていた。


「お前・・・会ったことあるだろ?由美。

 うちの妹。去年からこっちに出てきたんだよ。

 なんかさ、健吾とちょくちょく会ってるみたいで今日も一緒だったんだ。

 まさか・・・勘違いとかしてないよな?由美が彼女だって」


そのまさかだと言うには、ちょっと重たい空気だった・・・

散々、眠れなくて悩んだ相手が妹だったなんて・・・・


「お、、思ってないよ そ、、そんなこと・・」


シーンとした空気の中、頭の中で考えた・・・


(結局・・・・カオルの彼女っていないの?妹って由美ちゃんて言うんだ・・・

 別に聞いたことなかったもんなぁ・・・あ!だからこの前健吾が笑ってたんだ!)


力が抜けてソファーにボンッと座った。

隣の空いたスペースに同じくカオルも無言で座った。


「ねぇ・・どうして彼女いるなんて嘘言ったの?」


「だって・・・花嫁修業なんていきなり言われたら、

 つい見栄張っちゃった・・・いないなんて言える雰囲気じゃなかったし」

「ディズニーランド行くまで嘘言って?」

「それはぁ、、、、デートの定番ってそんな感じかなって。だって信じただろ?」


また脱力が強くなった・・・




「健吾・・・・」


カオルがポツリと呟いた言葉にハッ!としてカオルの顔を見た。


「また健吾知ってたんだな〜全部」

そう言ってカオルが(やられたー)と言う顔をして少し笑った。


「アイツ・・・口堅いな?そう思うと」

「うん、、でもきっと心の中でワクワクしながら黙ってたんだろね・・」


「俺がずっとまゆのこと忘れられないって健吾知ってたのになぁ・・・」


「あたしも・・・まだカオルのこと好きって健吾知ってたのになぁ・・・」


二人で前を向いたまま呟いた言葉に目が合った。


「アイツ応援してたんだか、そうじゃないのか分からん奴だな」

「うん、、、」



二人でそんな健吾のニヤニヤした顔を思い浮かべ力無く笑った。

だからこの前もなにも言わなかったんだ・・・

あんなにバレそうなことが続いてもニヤニヤしていたんだ。。



「俺のとこ、戻ってきちゃう?」

ニヤッと笑いこっちを見てカオルが言った。


「戻ってきてほしい?」

同じような顔をして言い返した。


「戻りたいなら戻ってもいいよ?どっちでもいい〜」

そう言ってソファーに寄りかかった。


「そうなんだ・・・・ 直樹がタイに一緒に行かないか?って。

 カオルが戻ってこなくていいって言うなら行っちゃおうかなぁ〜

 せっかくカオルのとこ戻ろうと思ったけど・・・」

ちょっと残念そうな顔で前を向いた。


「ちょ、、待てよ!来なくていいなんて言ってないじゃん。

 ったく・・もっと素直になれよなぁ」

ジロッと睨みながらそう言って肩に手をまわした。


ちょっと笑いながらそのままカオルに寄りかかり、


「もう離れない・・・ 今度は仕事辞めろって言われたら

 素直に辞める。カオルの実家にも行く。もうなんだって言うこと聞いちゃう!」

そう言って抱きついた。


「やっぱ俺って・・・奇跡を呼ぶ男だなぁ

 こんな頑固な女、なんでも言うこと聞くって言わせるんだから」


そう言って満足げな顔で、古臭い映画のようにアゴを触り変な芝居をした。


「俺ももう離さない。長かった〜〜 2年半だぞ?」

そう言って抱きついた体に力を入れた。


カオルの携帯がいきなり鳴りお互い抱き合ったまま、

片手でカオルが電話に出た。



「どこにいるんだよ?もしかしてまゆの所?」


ちょっと響いた健吾の声が携帯から聞こえた。


「あぁ。俺、今日帰らないわ。なんならその部屋お前にやるよ。

 由美のこと頼んだぞ。じゃ、、あとは邪魔しないでくれな。

 それと、、、長々と意地悪してくれてありがとうな!」


「え?もしかして、、、バレた?」


「お前なぁ・・・。ったく、、、」


「だってお前等見ているとバカみたいで可笑しくてさ。お互い勘違いして鈍感なんだもの。

 俺じゃなくても、「コイツら・・・アホだな」って思うぞ?社長達と賭けてたんだけどな〜。後一ヶ月遅かったら、俺全額もらえたのに〜。ちぇっ、、、」


「部長達もグルかよ・・・」


「当たり前だろ?ばーか!ま、上手くいったなら良かったな。じゃ、ほどほどに〜」



携帯を閉じ、二人で顔を見て「なんだかな〜」と弱い笑いをした。



「でも、、カオル。こんなに待ってたってこと?もしかして

 会わなかったかもしれないのに」


「いや?でもちゃんとした彼女は〜 たしかまゆと別れて

 半年くらいしてからちょっと居たかな?あんまり乗り気じゃ無かったけど。

 でも、またいつもの感じですぐ別れちゃった。俺、マメじゃないから。

 で〜・・・その次の年は夏にちょっとまたヤス達とナンパとかして遊んで〜

 ま・・・それほど真面目に待ってた訳でもないかな?」


その言葉に思い切り顔を抓った。

「ちょっと・・・・まだそんなことしてるの?

 最低― なにそれ?なにが長かったよ!」


「いや、、痛いって、、、でもほら、まゆだって仲良くやってたんだろ?

 回数にしたらまゆのほうがヤッって・・・」


話の途中でもっと強く頬を抓り、少しねじって指を離した。


「痛ったぁ〜 でも彼女いたら浮気しないってば。

 なんだよ・・・しおらしくしてんのさっきだけかよぉ・・・」

赤くなった頬を撫でながら言った。


「なんだか信用ならないなぁ。そんなに簡単にポンポンと

 抱けるもの?好きでもないのに」


「気合の入れ方が違うだろよ!

 ナンパの女にはキスはしない。俺のポリシーだから」

そう言って大げさに何度もわざと音をさせキスをした。


「もうそんなことしない?」

いつでも抓れるように準備をして頬を親指と人指し指で挟み

少し睨みながら聞いた。


「しないって。俺ももうすぐ30だぞ?それ限界だろぉ。

 それに、、、あんまり楽しくなかったし。もう絶対しない。

 誰を抱いてもまゆのこと考えた。まゆも・・・もうダメだぞ」


そして離れていた時間を縮めるような長いキスをした・・・・

沢山悩んだし、沢山泣いたし、そして・・・なにより

これからも沢山カオルのことを好きになると思った。


最初は文字しか知らなかったカオルがいまこうして目の前にいる。

ちょっと遠回りしたけど、やっと自分の場所を見つけたような気がして

安心した気持ちになれた。


「まゆ・・・矢吹梨緒は現実になりそう?」

唇を離し、カオルが笑いながら聞いた。


「ん。現実にしてね」ニッコリ微笑んで返事をした。


「うわぁ・・・俺、今のプロポーズ最高ぉ・・・」

そう言ってまた唇を重ねた。



すべての偶然とタイミングに感謝した。


あの時期に直樹と別れたこと、祐子さんがこの仕事に誘ってくれたこと、

そして、まだカオルがずっと好きでいてくれたこと、

自分の中でカオルのことを好きでいたこと・・・・

一本の回線が導いてくれた、この奇跡を・・・







健吾が意地悪しなきゃもっと早くに片づいたけど・・・・




<FIN>


最後まで見ていただいた方、ありがとうございます。後半で「あ、、もしかして」って気がついた方も多かったと思いますが、キーワードは「似たもの同士」ってことで(^^ゞ

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