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最後のご意見番

少しだけ暑さが軽くなった日曜日。

お昼少し前まで眠っていた。


なんとなくあの日以来、寝つきが良かった・・・

いままでカオルが彼女と一緒にいるかも、、、そう勝手に思い込み

ザワザワした気持ちになり寝付けないことがあったのに

健吾が来てからそれは無くなり安心して眠れた。



カオルの言葉に彼女と一切会ってないことを知り、不安な気持ちは無くなった。


でも連絡を待っている彼女のことを少し考えた。

もしかしたら仕事が忙しいから黙ってカオルから連絡が来ることを

待っているのかもなぁ・・・


直樹と付き合っていた頃の自分と重なった。

もしもあの頃、直樹がこんな理由で毎日連絡をくれていなかったと

思うと(それは泣けるよなぁ・・・・)そんなことを考えながら

秋物をクローゼットに入れ替えていた。


携帯が鳴り、クローゼットを閉めて画面を見た。

<向田 直樹>そう浮ぶ文字に

(あれ?・・・どうしたんだろう)そう思いながら電話にでた。



「もしもし、、、どうしたの?こんな時間に」


久しぶりな直樹の電話にちょっと驚きながら話をした。


「今日は休み?なにしてるのかなって思ってさ」

「あ・・うん。休み。特になにもしてないよ?衣替えしてた」

「寂しい〜な〜。まだ日曜に一人なの?」


「もう・・・なに?そんな嫌味言う為に電話してきたの?

 また日曜出勤?なのに電話なんて直樹だって暇じゃない・・・」


ちょっと怒った口調で言ったけれど、久しぶりの直樹の声が元気で安心した。


「暇ならちょっと出てこない?今日たまたま一日空いてね。

 もしまゆがまだ彼氏いないなら遊んであげようと思ってさ」


「え?出てこないって・・・ こっちにいるの?」


「ん。明日どうしても打ち合わせがあってね、ちょっとズレて

 日曜挟んじゃってさ。本当は昨日戻るはずだったんだけど

 仕事が詰まってね。で、今日は休みになったんだ」


「そうなんだ・・・・珍しいね日曜挟むなんて」


カオルは直樹に会うの嫌がるよな・・・

でも、もう直樹とはそんな関係じゃないしな・・・

そして第一、直樹にどう断ればいいか分からなかった。


「じゃあさ、近くの駅まで来てよ」

「あ〜・・・でも。その、、、」

「まゆに仕事のことで話しておきたいことがあるんだ。

もう変な誘いはしないよ」


仕事のことなら・・・

簡単に用意をして直樹との待ち合わせ場所に向った。

スーツでは無く、普段着の直樹を久しぶりに見た。


「あれ、、ちょっと太った?」いつものニッコリした顔で言った。

「ちょっと・・・それって女の子には言わないほうがいい台詞だよ?」

訝しい顔でそう言い返した。


「だってもう気を使っても見返りが無いしさ?」

そう言って意地悪そうな顔で笑った。


「じゃ、どこか行こうか?まゆの好きなとこでいいよ」

「う〜ん・・・こっち来てから遊びに行くこと無いしなぁ・・

 よくわからないから直樹にまかせる」


「そっか。じゃぁ・・・適当に行ってみようか」

そう言いながら二人で歩き出した。


直樹とこんな風に二人で遊びにいくことなんて、

付き合っている時でもほんの最初の半年前後だけだった。

後はいつも直樹の仕事に時間をとられることが多かった。

隣で涼しい顔をして歩く直樹を見ながらそんな昔のことを考えていた。



「浅草とか行ってみようか?一度行ってみたいなと思ってたんだ」


「うん。いいけど・・・行ったことないし。でも、、あそこって

 年寄りが行くとこじゃないの?TVで見てそんな感じに思ってた」


「だって俺、年寄りだもの?なんかあーゆーのんびりしたのって

 いいなってさ」


迷うことなくテキパキと直樹は移動手段を決め、スイスイと

慣れた感じで浅草に向かった。


映画で見たような古い店が並ぶ道を二人で楽しく歩いた。

思ったより若い人も沢山いるし、外国人観光客も沢山居た。

TVで見て定番な煙を頭にかけたりして、

「すごい〜 本物だ〜」と盛り上がり、大きな提灯にも

二人でちょっと大人げないくらい騒いでいた。外人よりもうるさいくらい・・


一件の甘味屋に入り、

「ちょっと思ったよりも混んでるけど、よかったでしょ?来て」

お茶を飲みながら直樹が聞いた。


「うん。思ったより面白〜い」

「仕事はどう?順調?」

「うん。健吾も来てくれたしね。あ、、仕事の話って?」

「ん?今聞いたでしょ。順調かって・・・」

「それだけ?」

「それだけ。なんとなくそう言わないと出てこない感じだったしね」


ニコニコ笑いながらも、相変わらずあたしの心の中をアッサリと

見てしまう直樹に感心していた。


「今度、京都行きたいな〜 どう?一緒に行っちゃう?」

片目を軽くあげ、そんな事を言う直樹を驚いて見た。


「え・・・なに言ってるの?もうそんな関係じゃないし、

 京都なんか日帰りできないもの・・・」



「昔のまゆなら「うん」てすぐ言ったよな。俺、相当嫌われたみたいだね。

 付き合う前だってきっと困った顔して最後には行くって言ったよな」


「別に嫌ってないけど・・・・ でももうそんな関係じゃないもん。

 そこまで見境い無しだと思う?」

苦笑いをしてそう言った。


「ん?そうは思わないけどさ。もうそんなとこ行くチャンスなんて

 無いかなと思ってね。

 俺、来年から海外に転勤になるんだ。戻りはいつかわからないし。

 もしかしたら、もう戻らないかもなって・・・」


「えっ!海外ってどこ行くの?」


「タイにうちの支店ができるんだよ。あっちで店舗を見ながら

 現地で直接買い付けしたほうが安いからね。

 やっぱり統括はちょっとまだ早かったみたいだし、

 自分から希望だしたんだ。もう東京に出張もこれが最後。

 まゆに会うことも、もう無いかもしれない。それもあって電話したんだ」


どう言葉をかけていいか少し困った。

もう直樹には会えないんだ・・・

そんなことを思いながら黙って顔を見た。


「もう会えないと思うと旅行くらいいいかなって考えてる?その顔は」

ニッコリと笑いながら言った。


「ううん。そこまで都合のいい女にはならない」

「あら・・・残念」


「あっちにはいつ行くの?」

「んー・・・たぶん3月に入ったらかな?それまでは会社に缶詰の予定。

 それ聞いて、まゆを連れて行くって思ってる人もまだいるんだよ?

 笑っちゃうよな〜」


「直樹・・・大丈夫?寂しくない?そんな海外に一人なんて」

「寂しいって言ったら一緒に来てくれるの?」

「そんな気無いくせにー」


海外転勤かぁ・・・もし付き合っていたら一緒に行ったのかな・・

あの時、仕事を辞めて直樹の家に黙っていることを選択したなら

きっと今回をチャンスに結婚とかしたんだろうな・・・


「あたし玉の輿を蹴ったみたいだね」

「だから言ったじゃない。こんな良い男振るなんてありえないぞ?

 でもタイだけどな。これがNYとかなら、格好もつくけど

 アジアだしなぁ・・・・」


「じゃあ、今度から愚痴はメールで聞いてあげるよ」

そう言ってパソコンのメールアドレスを手帳に書きその部分をちぎって渡した。

「もう毎日書いちゃうよ。それもタイ語で・・・」

「読めないから・・・」と二人で大笑いをした。



店を出て少しだけ浅草の町をまた歩き、電車で都心に戻った。

公園のベンチに腰掛け、目の前の鳩に餌をあげている直樹を黙って見ていた。


少しずつ暗くなる空を見て

(今日で直樹を見るのも最後なんだなぁ・・・・)そんなことを思った。

いろいろあったよなぁ・・・・


小さい鳩に餌をあげたいのに、大きいのが横取りをするのを

怒りながら必死になっている直樹を横目で見た。


「あ〜ぁ・・・結局アイツ食べられなかったなぁ・・・

 トロイっていうか、、、なんていうか、、、まゆみたい。

 もう夕方で鳥目だから解散した・・・」

そう言いながら手をパンパンと払い隣に座った。


「で。なんか悩みあるんじゃないの?」

いきなりそんなことを言う直樹をビックリした顔で見た。


「どうして?別に・・・ないけど・・・・」


「仕事のことじゃないなぁ?その顔は・・・男だな?」

ニヤッとして笑った。


「ねぇ・・・いつも思ってたんだけど、どうしてわかるの?」

「なんだろ?なんとなくね。で、もう聞いてあげられないよ?

 言うなら今だよ。「俺のことやっぱり好き」って言うなら」

爪に入った餌を取りながら言った。


「やっぱ当たってないや・・・偶然か」

「嘘だって。で、もしかしてマツのこととか?」

「えー。それはナイなぁ・・・」声を出して笑った。


なんとなくその悩みの元がカオルだとは言いづらかった。

そのまま爪をいじる直樹を黙ってみながら笑っていた。


「矢吹さんとどうなった?」

いきなりカオルの名前を言う直樹に驚き「えっ!!」と声が出た。


「あれから進展あった?」

「う〜ん・・・まぁ、、ちょっとだけ、、ね」


なんだか今の状況を言うと軽蔑されてしまうんじゃないかと思うと、

それ以上言うことができなかった。


「まったくまゆもモタモタしてるよな。こっち来てからどのくらい経った?」

「う〜ん・・・半年は経ったよね。でも、、まさか同じ会社なんて思わなかったもの」

「俺は知ってたけどね〜」

「えっ!?なにそれ」


「いや・・マツに聞いたんだ。ほら、前にマツとまゆがデスクで大喧嘩したことあっただろ。

あの時、実は聞いちゃってたんだよね。今度の会社にそのカオル君がいるってこと。

だから、、、きっとまゆはこっちに来たら彼と元に戻るって思ったんだ。

「もう邪魔しちゃダメですよ」って言ってたよ・・・マツ」


「そうだったんだ・・・」


「マツさ、、「大事にできないなら別れて欲しい」って真面目な顔で怒ってた。

けど、、彼がいるなら、尚更行かせたくないなって、、、俺も意地になっちゃった」


「知ってたのに、、、行かせてくれたんだ・・」

「俺なりに頑張ったつもりだったけど、まゆがどうしてもって言ったからさ。

 でもほら、今日でもう会うこと無いかもしれないしさ。

 ちゃんと素直に彼に気持ち伝えたの?」


「うーん・・・・ あたし彼に直樹と別れたって言ってないの・・・

 彼、彼女いるみたいだから、いまさら直樹と別れて東京に

 来たって言えなくて。でも、彼女と別れるって・・・・

 だからあたしも別れてって。あたしは問題無いけど、

 彼女が可哀相かなって。そんな感じで今はどうにも動きが

 とれない状態なんだぁ。けど、もう本当はお互いハッキリしてるのかもなぁ。

 ただ、、スッキリしない付き合いになるのかなとかね・・・」


その話を聞き、直樹はやれやれ・・・と言う顔をして

こっちを見ながら口を開いた。


「好きなら取っちゃえばいい。相手が別れるっていうなら別れて

 もらえばいいじゃない。まゆだって本当はそれ望んでるんだろ?

 他に好きな人がいる恋人と一緒にいるのが本当に相手は

 幸せだと思ってる?そんな義理で一緒にいられて。

 好きなほうに気持ちが傾くのは当たり前なんだって」


直樹らしい意見だな・・・

理論的っていうか、、、なんていうか、、、


「な〜んて。俺もそうだったけどね。でも、結局まゆの気持ちは彼に傾いただろ?そんなもんなんじゃないかな〜」

「うん・・・」


そうだけど、、

カオルには側にいて欲しいけど、、

ハッキリとしないあたしを見て、直樹は真面目な顔をした。



「じゃあ彼のこと諦めちゃいなよ。気楽だよ?もう彼のことは忘れちゃいな。

 俺と別れられないって彼に言えば彼も諦めるよ。

 今、返事するならもれなくタイに行けちゃうかもよ。

 彼の顔見るからまた流されるんだよ。もう軌道に乗ったろ?

 まゆの変わりにマツもいる。あっちに行けば俺のサポートをお願いする。

 今度はまゆの仕事信じるよ。一緒にいこ。さ、どうする?3分だけ時間あげるよ」



お互い目が合い「プッ!」と吹き出した。




「ごめんね・・・直樹」


「だろ?こんな好条件でも動かないほど好きなら、

 もうどうしたらいいか、自分でわかってるよね」


「うん・・・正直に言う。今日、帰ったら連絡してみる。ありがと・・・」


「ん。そうしたほうがいい。思ったことは口にしないと、

 伝わらないって言っただろ。以心伝心なんてそうそう無いよ」


ニコニコした顔で「じゃ、そろそろどこかで食事して帰ろうか」

そう言って腰をあげた。



「ねぇ・・・あたしがさっき直樹に着いていくって言ったらどうしたの?」

歩きながら笑って聞いた。


「ん?それは困るなぁ。。俺、ミス・タイランドと結婚しようと思ってるから。

 キスしか褒めない人と結婚できないよ。男としてショックだし」

そう言って皮肉を言った。


最後に二人で食事をして、駅で別れた。


「じゃあ・・・元気でね。もう会えないと思ったら寂しいけど、

 ミス・タイランドとの結婚の報告待ってるね」


「あぁ。あっちは細身で眼鏡がモテるらしいよ?

 まゆも新婚旅行で来たらいいよ。その時はガイドのふりして案内してあげるから」


「そうだね。じゃ、その時はお願いしようかな・・・

 直樹、、本当にありがと。直樹のこと大好きだった。憧れた甲斐があった」


「また(だった)なんだよな〜 俺ってそんなに魅力無いのかなぁ〜

 俺もあんな風に独りにして悪かったけど、まゆのことは本気だったよ。

 でも、やっぱり気使ってたろ。この綺麗な顔立ちが緊張させちゃうんだな〜」


「きっと直樹と一緒にいれば不自由な生活はしないて分かってるけど、

 どうにも家でじっとしているタイプじゃないみたい。もっと家庭的なおとなしい人

 見つかるといいね。仕事をほどほどにすれば、直樹は誰よりも完璧だよ」


「そうだなぁ・・・ それは分かってるんだけどね。いつまでも心が少年なのよ俺は。

 たぶん俺達ってそんなとこ似てたのかもな。だから理解してくれるって安心してた。

 まゆに不満無かったよ。ありがとな、楽しかった」


そんな冗談を言い合いながら直樹にさよならを言った。

こっちを振り向かないで、軽く手を振り歩く直樹の後姿を見送った。


「すぐ彼女見つけちゃうんだろうな〜 あんなにカッコイイなら・・・

 放っとかないなタイ女が・・・って、自分で言うなよ、綺麗な顔立ちって・・」




家までの道のりを歩きながら、カオルにどう言おうか考えた。

いつも流されるように相手の気持ちを優先して、自分から大きな行動を

あまり起こさない自分にはちょっと荷が重いと感じながらも、今回ばかりは自分で

キチンとしなきゃな・・・


歩きながら携帯を取り出しカオルの番号を探した。

ドキドキする気持ちを飲み込むようにカオルに電話をかけた。

呼び出し音が鳴るたびに鼓動が激しくなり

このまま急いでボタンを押して切ってしまいそうになった。


「もしもし・・・」聞きなれたカオルの声なのに、胸が痛くなった。


「あ・・・今って暇?」


「うん。やっと不動産めぐりから開放されたとこ。

 どうした?なんかあった?」


「うん・・・ちょっと会って話したいなって思って。ダメかな?」


「ダメな訳無いじゃん。あとから家行くよ」笑った声で

そう言うカオルに内心ホッとした。


そのカオルの声の向こう側で健吾が「なに?だれ?どこ行くの?」と

連打で聞く声が聞こえた。



そしてその声に混じって女の人の声も聞こえた・・・・

「え?どこいくの」と・・・・





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