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不信感



健吾が来てから数週間が経った。


「なー。明日不動産屋行こうぜ。付き合ってやるからー」

健吾のことをカオルが誘っていた。


「私の体に飽きたのね!ひどい!出ていかないわよ!」


「だから・・・・もうソファーで寝るの体痛いんだって・・・」


冷ややかな顔をしてカオルが(勘弁してくれよ・・)と言う顔をしていた。

そんな二人を見て裕子さん達と笑っていた。


「だから一緒に寝ようって言ってるじゃねーかよ。大丈夫だって!」

「いや、、その言葉にしての「大丈夫」が逆に怖いんだって」

疑った顔をしたカオルに健吾がニヤニヤしながら笑っていた。


「お前ソファーで気持ち悪い格好で寝てるぞ?死んでるのかと思って

 夜中に顔にテッシュ置いたことあるもん」笑いながら言う健吾に、

「頼むから早く出ていって・・・・俺の息のあるうちに・・・」

縋るような目で言うカオルに嬉しそうに健吾は

「どうしよっかな〜」と答えていた。


午後から打ち合せで健吾と外に出た時。

二人の暮らしの話を聞きクスクスと笑っていた。



「俺、いびきなんかかいてねーのに、カオルの野郎うるさいんだって!」

「健吾・・・いびきかくよ?うるさかったもん。昔・・・・」

「マジで?俺、疲れてるんだなぁ・・・・相棒が相棒だからな〜」


当然、自分のことを言われていると思いジロッと睨みながら車を運転する

健吾を見ていた。

これから行く打ち合わせの場所の書類に目を通しながらラジオの曲を

口ずさんでいると、何気ない感じで健吾が聞いてきた。


「なぁ〜 まゆとカオルってさ、毎晩メールとかしてる?」

「えっ!ど、、どうして?」

「いや、、、いつもカオルがこそこそ携帯持ってるからさ」

「さぁ?あたしじゃないなぁ・・・・」


目を通しているはずの書類の字は何一つ頭に入っていなかった。


「お前さ。俺に何か聞きたいこととかない?」

「なにかって?」

「カオルのこととか・・・・カオルのこととか・・・・カオルのこと」


絶対なにか知っている顔でこっちをチラッと見る健吾に動揺した。


「何が・・・言いたいの?」ちょっと怒られるような気分で健吾の顔を見た。

「ん?別にぃ〜。似た者同士だよなぁ・・・お前等ってさ」

少し笑いながらウインカーをあげた。


「何が似てるって言うの?」

健吾はにやけた顔で前を見ながら、タバコに火をつけ思い出し笑いをしていた。


「俺のダンボールしまおうとしたら、まゆの服とか入った箱見つけたんだよなぁ。

 二人で撮ったプリクラとか写真とか、お揃いのキャップとかいろいろあったぞ?」


「へぇ・・・ 前に偶然会った時にカオルそんなこと言ってたなぁ?

 なんとなく捨てられないんだって。あたしと別れてからも彼女いたくせに

 よく怒られなかったね」


「部長だって怒らなかったじゃん」

「あぁ・・・まぁね。バレているとは知らなかったけど・・・」

「部長は大人だからな。そんなヤキモチみたいなこと格好悪くて言えないんだろな」

「ヤキモチっていうか、、、関心が無かったんじゃないかな?」


思い返せば、一度だって直樹はカオルと言う言葉を出さなかった。

あの人は過去のことは一切聞かなかった。常に現実しか考えていないんだぁ・・・と

思ったことがあった。

結局、健吾が何か言いたそうな、聞きたそうな・・・そんな感じではあったが

上手く表現ができなくて、そのまま違う話を振り話題を濁した。


「お前さ、、、いままで体の相性が合う男っていた?」

「な、、なによ!こんな昼間から下ネタ炸裂する気!」

「いや、、、昨日カオルとそんな話したら、「合う女とヤッったら誰抱いても思い出す」って

偉そうに言ってたからさ〜。女もそうなのかなって」


「そうかも、、、ね」


直樹に抱かれていても、やっぱりどこか弾けきれない所があった。

大胆になると幻滅されるんじゃないかとか、こんな自分は嫌われるんじゃないかとか・・・


そんな時、あたしはカオルを思い出したことが何度もあった。

なぜか分からないけれど、カオルにならば自分を装うことは無かった。

どんな自分を見せても受け入れてくれるという見えない自信があり、同時にあたしもどんな

カオルを見ても気にならなかった。


直樹には、引かれることが怖かった。



「それって、、俺?それとも部長?それとも、、、カオル?」


「次々と男の名前だすな・・・」

「いや、、お前の男関係は下手に知ってるからさぁ」


(誰を抱いても思いだす・・・なんて、、、彼女を抱いても思い出してくれたのかな)


見えないヤキモチで胃のあたりがムカムカしていた。

カオルはあたしと離れてから何人の人を抱いたのだろう。


「また眉間にシワ寄ってるぞ」

「えっ!あ、、いや、、、なんでもない!そういえばさ、、、健吾って部屋探してるの?」

「あ?別に〜」

「でも、、それってそろそろカオルも困るんじゃない?」

「なにが?」


まったく気にした様子も無い健吾にそれ以上言えなかった。

健吾はカオルの彼女のことをどう思っているんだろう。もしかしてあたしが知らない所で

カオルは彼女に会いに行っていたりするのかな。


「その、、、カオルだって外出したいとかあるかもしれないじゃない・・・」

「なら行けばいいじゃん」

「いや、、そうだけど、、、」


「けどたまに出かけてるぞ?」

「えっ、、そうなの?」


ドキッとしてそれ以上聞くことができなかった。けど確実に顔は動揺していて慌てて外を見た。


(やっぱり、、まだ続いているんだ)


嫉妬とかヤキモチとか、、そんな次元じゃないモヤモヤに包まれながら胸がドキドキしていた。

慌てているあたしを見て健吾が普通に「どうした?」と声をかけてきたのを、

「あ、、いや!なんでもない」と誤魔化したけれど、明らかに変な感じだった。


「あ、、あのさ。ちょっと変なこと聞いていい?」

「ん?なに」

「カオルの彼女ってさ、、健吾知ってるんだよね?」


あたしの質問に健吾は妙に変な顔をして黙っていた。


「カオルの彼女ねぇ・・・さぁ〜俺はあんまり詳しくは知らないなぁ?」


(嘘ばっかり・・・)


黙って顔を見るあたしを見て、お互い黙ったままだった。


「あ、、いや、、、いいの。なんでもない・・」

「あのよ、、、」

「いい!もういいから!なんでもない!」

「まゆさ、、、そのカオルの彼女の存在ってどんな経路で知った訳?」


健吾の言い方に違和感を感じながらも、サラッと気にしていないフリをした。


「え?あ〜、、、えーと。ほら、、前にサッカーの話あったじゃない?あの時、偶然健吾のパソコン見ちゃって、、、いや!盗み見した訳じゃないよ?ただ偶然見えちゃって」

「サッカー?」

「ほら!前にカオルと行くって言っていて、あたしも誘ってくれたじゃない。あの時のメッセで」


健吾はもう忘れているのかしばらく考えている顔をしていた。

その顔がなんだかワザとらしくてイラッとした。


「だからー!その時一緒だったんでしょ?由美さんって人。だから、、「あぁ、、名前由美って言うんだな」って思っただけ。そんだけ!」


プイッと外を見て知らない顔をした。


突然健吾が飲んでいたコーヒーを吹き出し、その音に驚いて顔を見た。

「な、、なによ!」

「いや、、なんでも、、、ない、、、ブッ、、、」


「なに笑ってんのよ!だからもういいって言ってるじゃない!汚いなー」

「あ〜。思い出した。あの時のサッカーな。うんうん」


妙にニヤニヤしたまま吹き出したコーヒーを手でふき取り満面の笑みを浮かべながら運転をする健吾を横目で見ながらやっぱり言わなきゃ良かったと思った。


「なにニヤニヤしてんのよ!あたし別にヤキモチとかじゃないからね!」

「分かった。分かった!本当にお前は面白いよな。カオルも面白いわ・・・」


「カオルが、、なによ・・・」

「ん?カオルがイロイロと部長のこと聞くのが可笑しくてよ〜。アイツ俺を笑い死にさせる気じゃねーかと思うくらい抜群に面白いんだよなぁ〜」


カオルが直樹のこと?


「何を聞くの?」

「いや、、、お前がこっちに来た後、女の噂無いのか?とか、あんなにイケメンならモテるんだろ?とか」

「へ、、へぇ・・・」


目を合わせると動揺していることがバレそうで知らない顔をして外を見ていた。


「心配すんなって。バッチリ俺がフォローしておいたから」

「フォロー?」

「あぁ。部長はお前一筋だってキチンと言っておいたから!寄ってくる女には「まゆがいるから」って片っ端から断ってる一途な男だって言っておいたからよ!俺に感謝すれよ〜」


それは、、、どうかな、、、

今となっては、、、それマズイかも、、、


「あ、、そ、、そうなんだ。ありがと、、、」

「いやいや。大事な友達の為だもの〜。全然気にするなって〜。部長はお前が戻るのをジッと

待っているって言っておいたからよ!」

「あ、、、うん」


やっぱり、、、いまさら健吾にカオルと戻りましたなんて絶対言えない。

妙にニコニコしている健吾を見ながら複雑な顔をしていた。


会社に戻り倉庫で商品チェックをしようと中に入るとカオルが在庫の確認をしていた。


「お。お疲れ」

「うん・・・」


カオルは健吾の言ったことをどう思っているんだろう。

そして、、、あたしに内緒で出かけているってどういうつもりなんだろう。


背中を向けたままチェックをしているとフッとカオルの腕が体を包んだ。


「ちょ、、誰か来るってば」

「うん。ちょっとだけ」


ギュッと力を入れる腕に不安と不信感が広がった。


(健吾がいるから、、、彼女に会っていないと思ってたのに・・・)


さっき聞いてしまった言葉になんとも言えない気持ちになりながらカオルの腕を掴んでいた。

クルッと顔を振り向かせ、軽く触れた唇になんだか嬉しさより淋しい気持ちになりながら黙っていた。


「今日さ、、まゆの家、、、行っていい?」


さっきの話を聞かなければきっと喜んで頷いたのに・・


「カオル、、、彼女に会ってる?」

「は?なんで」

「健吾が、、、さっき」


突然バタンッ!と音がしてドアが開き、慌てて二人で大袈裟に体を離し違う方向に走っていった。


「ん?どうした」


ダンボールを持ちながら入ってきた健吾に二人で慌てながら

「なんでもない!」と全然関係無い商品を手に取りながら仕事をしていたフリをした。


「それ、、売れてないぞ?」

「えっ!あ、、うん!不良品かな〜って思って見てただけ!」

「あれ・・・カオル」


「えっ!なんだよ」

グイッと顔をカオルに近づけ健吾がジロジロと顔を見ていた。


「お前、、口が妙に光ってるけど」

「えっ!なにが?」


慌てて口を拭い手についたグロスに更に慌てながらオドオドしていた。


「じゃ、、じゃぁ!あたし事務所に戻るね〜」

「俺も〜!」


二人で慌てて倉庫を飛び出しエレベーターに駆け込んだ。


「健吾・・・絶対疑ってるよね?」

「だよなぁ〜。やっぱりハッキリしてからじゃないと出られないよな」

「う、、うん」


隣でグロスがついていないか口を拭いているカオルを見ながら、

(もしかして別れ話が難航しているのかな・・・)と心配になった。


「まゆ、、、向田さん今度いつこっち来る?」

「え?さぁ、、、全然聞いてないけど」

「連絡無いの?」

「う、、うん」


「そろそろさ・・・キチンとしないか?」


それって、、、彼女じゃなくてあたしを選んでくれるって思っていいのかな・・・


「あっちが全然別れる気無いかもしれないだろ?なら、、、時間かかるかもしれないし、

 できるだけ早めに言ったほうがいいかと思って」

「あ、、うん」


健吾の言葉を鵜呑みにしているカオルにそれ以上言えなかった。


「カオルの、、、彼女だってそうかもしれないじゃない」

「俺ぇ?いや、、それは平気だけど」

「そんなこと分からないじゃない!カオルだって本当はそんな気無いんじゃないの?」

「なにがだよ」


「別にあたしの結果待たなくなっていいじゃない!本当に別れる気があるなら伸ばさなくたって問題無いのに、どうしていつまでもダラダラしてるの」


「ダラダラってお前なぁ!ならお前はどうなんだよ」

「あたしは会ってないもん!」

「俺だって会ってねーよ!」

「嘘ばっかり!」


開いたエレベーターの前に驚いた顔をした祐子さんと望月さんが二人を黙ってみていた。


「どうしたの?二人とも」

「え、、、いや、、、なんでも無いです」

「喧嘩するほど仲がいいって言うからね〜。俺達は外回り行ってくるから後はよろしくな〜」


望月さんがエレベーターに乗り込んできて、慌てて二人で降り祐子さん達を見送った。

事務所に入り無言で二人ともデスクに座り黙って違う方を見ていた。


健吾が戻り口をきかない二人を見て、またニヤニヤしていた。


「なぁ、、健吾」

「ん?どうした」

「俺、別に夜に外出なんかしてねーよな?」

「あ?どこに」

「どこって、、、だからしてねーよなって話!」


不機嫌そうなあたしの顔を見て健吾はまた「ブッ・・・」と吹き出した後に、

「コンビニくらいか?」と笑った。


コンビニ?

健吾が来てから数回カオルがそんな嘘をついて家に来たことを思い出した。


チラッと目が合ったカオルが「そーゆこと!」と一言だけ言ってパソコンに向かっていた。


健吾が煙草を吸いながら二人を交互に見て笑っている顔に、

「あっそ!」と一言だけ言いながらも、少しだけホッ・・・としていた。



「ごめん、、俺ちょっと腹痛い、、、ブッ、、、」

健吾が笑いながら事務所を出て行く姿を見た後、お互い目が合った。


「俺がコンビニって言ってそれくらいの範囲で帰ってこれる所なんてお前の所くらいしか無いだろ」

「・・・・・・」

「まゆ・・・」


カオルのほうをチラッと見ると真面目な顔をしていた。


「なによ」

「向田さんってさ、、、お前が別れるって言って納得するのか?」

「え?そりゃ、、、すると思うけど」


「お前のこと信じてこっちに来させてくれたのに、、、こんなことになって本当にいいのかな。そりゃ、、、お前が俺を選んでくれるのは嬉しいし、ずっと一緒にいたいけど、、、

 あの人この前会っただけだけど、お前のこと本当に好きだってすげぇ思った」


(健吾ぉ・・・なんてこと言ってくれたんだよ・・・)


真面目に直樹のことを考えているカオルに本当のことが言えずに申し訳なくなった。


「お前を見る目が凄く優しかったし、可愛くて仕方無いって感じした。やっぱ大人だなって思った。お前、、、俺のこと選んで後悔しないか?」

「何よ、、、いまさら」


「あの人と離れているから寂しくなってつい・・・って感じとかじゃないよな?」

「そんなこと無いよ!あたしのこと信じてないの?」

「いや、、そういう訳じゃないけど・・・」


不安そうなカオルの顔を見て、きっとカオルは昔のことを思い出しているんだと感じた。

あたしがカオルに会っていない間に直樹に気持ちが動いたことを。


「なら分かった」

「なにが?」

「お前がそれでいいって言うなら、もう考えないようにするよ。俺、健吾からあの人の話聞く度に全部が負けているような気がして、、、自信無かったんだ」



「カオル・・・。直樹のことはもう心配しなくていいから。ただ、、、あたしが直樹のことハッキリしたらカオルも彼女に別れるって言うんだと思うと、、、そんなことして本当にいいのかなって」


「まゆが向田さんにハッキリ言えない原因はそれ?」


「うん・・・・。だって、、、もし彼女がカオルのこと大好きで、別れるなんて思ってもいなかったら、、きっと凄くショックだと思うし」

「あのさ、、、」


カオルが何かを言いかけた時、健吾が事務所に戻ってきた。


ピタッと話を止め何も無かった顔をして仕事をする二人を見て、健吾はまた小さく、


「やべぇ、、、また笑っちゃう」とクスクス笑いながらデスクに座った。


「何がそんなに可笑しいのよ!」

「だって、、、ブッ、、、お前等頼むから俺をそんなに笑わせるなよ・・・」


ゲラゲラ笑う健吾を横目にカオルと二人でムスッとしながら健吾を見ていた。


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