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*「むらさきいろ」後日談、のはず。

*ほーこさんやりたい放題。見様によっては性悪モード。

*実はコレが「こげちゃいろ」原案だったなんて誰が信じるだろうか…(遠い目)。

 悪気がなかった、とは言わない。

 だって鬱陶しかったんだもの。

「………ほーこ、そんなこと言って。こじれたらどうするの」

「そんなに考えなしじゃないわよ。それでも良いんじゃないかって思ったから言ったに決まってるじゃない」

「当人達にとっては割と大事おおごとだから!」

「馬鹿ね明菜。浮気なんてした時点で、些事ですむわけないじゃない。浮気は男の甲斐性だなんて、節操なしのろくでなしの科白だわ」

「うん、その辺りは全く以て同意だけどさ…」

 明菜がぐったりと呟く。うんまあつい一ヶ月前まではこいつも浮気に振り回されていたので色んな意味で気持ちが分かるのだろうけれど。


 そもそもの発端は、あたしが明菜の元恋人に攻撃を仕掛けたということが、何処からか漏れたことだ。

 奴は明菜と付き合っていたことを周囲に秘密にしていたようだが、そうでなくても毎回違う相手と引っ付いていればそりゃあ浮き名も立つ。

 そんな馬鹿を義憤にかられたあたしがノしたという謎の尾ひれがついてきた頃、とある女の子が話し相手になって欲しいとあたしに話しかけてきた。いかにも可憐なお嬢さんといった雰囲気のある彼女の恋人も相当な浮気性らしい。ただ、彼をノして欲しいというわけでは別になく、アンチ浮気派であるあたしと話したかっただけのようだ。

「この間も買い物していたら、可愛い女の子と腕組んで歩いているのを偶然見かけちゃって……彼、ちゃんと私に『好き』って言ってくれるんです。信じたいんですけど……」

「ふうん。あんたの彼氏、好きな女に会える時間を、好きでもない女に使ってんのね。変わった趣味」

「……………や、やっぱり私、騙されてるんでしょうか…」

 顔の面積と不釣合いに大きい小動物のような目が潤む。さあね、とあたしは返す。

「あたしには何とも。本人に問い詰めてみたら?」

「でも、それで駄目になったらどうしよう…わたし、彼とは別れたくないんです。大好きだから。何にも言ってない今なら、わたしを好きって言ってくれるんだから、我慢しないといけないのかなあって」

「浮気への嫌悪より『好き』って感情を優先するのは凄いし健気だとは思うけど、相手によっちゃ単なる『他と遊んでも口うるさくない都合の良い女』になるだけよ。白黒はっきりつけたらどうなの」

「………それは、そうなんですけど」

 はっきりこうと決めない、というか決めようとしない態度に、ちょっとくらい苛立っても許されると思う。

 だって、彼女には、解決したいといった意思が見られない。ただひたすら、共感して欲しい、とだけ思っているみたいで。

 あたしはそもそも繊細な心の機微に疎く、うじうじと思い悩む態度を鬱陶しいと感じてしまう。長い付き合いで性を知り尽くしている幼馴染ならともかくも、最近知り合ったばかりのひとを色々慮って適切に行動できるほどスペックは高くない。

 健気な自分に酔いたいなら余所へ行け、愚痴を聞いてほしいなら電信柱にでも頼め、と言いたくなったが、さすがに口に出したら角が立つだろうと、溜息を吐くに留めた。


 大体こんな感じの会話と感情の動きがあった数日後、件の女の子の恋人があたしを訪ねてきた。

 いかにもチャラく頭の軽い感じの男との会話なんて思い出したくもないので省くが、平たく言えば彼女があたしに何を相談しているかを探りに来たのだ。まあ、浮気癖のある奴をノしたということになっている女のところに恋人がちょくちょく話しに行くなんて、後ろ暗いことやっているなら気になるだろう。彼女は浮気を勘付いているという決定的な言動を見せていないらしく、もし彼女が疑っているならあたしからも違うと取り成してくれないか、好きなのは彼女だけなのだ、というようなことも念押ししようとした。だが、とりあえず相手に執着はしているらしいと分かったので、こう言ってやった。

「別に、あんたが浮気しているかなんてあたしにはどうでもいいことだけど。ただ、浮気が恋人にバレないのは、向こうも浮気している時だけよ」

 真っ青になって回れ右した男を見送りもせず、あたしは読みかけだった雑誌を再び開いた。


「…それってさ、解釈は二重にあるよね」

「『彼女は浮気なんてしてないんだからあんたの浮気なんて気づいているに決まってるでしょタコ』っていうのと『浮気に気づいた素振りを見せないのは彼女も浮気しているからよマヌケ』っていう意味ね」

「やっぱり分かっててやったよねほーこ!」

「やかましいわね。他人の恋愛沙汰に巻き込まれるなんてつまらんにも程があるのよ。とっとと縁切るわ」

「何か清々しく言い切ってるけど色々倫理的に不味い気がする……」

 明菜があたしの机に懐きながら呟く。こいつは基本的に人が良いから、無責任っぽい行動に抗議せずにはいられないのだろう。

「まあ褒められた所業じゃないわよね。でもあたし、こじれようがくっつこうがどうでもいい相手に肩入れしてあげられるほど善人じゃないの」

 そもそも、浮気疑惑なんてあった時点で、遅かれ早かれ衝突は免れないのだ。見なかったふりですませたら繰り返すに決まってる。それならこじれるなり災い転じるなり何なり、とっととケリをつけろって話。

「恨まれたりとか、してもいいの?」

「だから言ってるでしょ。そんなに考えなしじゃないわ。恨みたければそれで良いんじゃないの。無責任なことした自覚はあるし」

 仕返しを甘んじて受けるという意味ではないが。恨まれるような筋書きになったとしても、突っついただけで砕け散るほど罅を入れていた本人達の責任ぐらいはきっちりと自覚してもらわなきゃ、割に合わないわ。

「あの子も相手を間違えたわね」

 アンチ浮気なのは間違いないけど、だからって延々と終わりのない繰り言に付き合ってあげるほどお人好しでもフェミニストぶってもいないのがあたしなんだから。

「………一概に間違えたとはいえないけど、ある意味ほーこを見くびってたねえ、きっと」

 明菜も諦めたようにそう締めくくって、別の話に移った。


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