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glay+indigo

※「はいいろ」と「あいいろ」の彼女たちが、大学生になったお話。

※後日談というよりはゆるい絡みです。

「これで終わり」

「……そうだったの」

 大学で出来た友人である彼女は、あまり表情を変えない。だけど、その表情は今、いつもより僅かに柔らかい。

 講義でたまたま隣同士の席に座ったのが縁で、彼女とはぽつぽつと話すようになった。他に話す相手が出来なかったわけじゃないけど、一番しっくりくる友人になったのだ。

 皆を惹きつけるようなタイプじゃない。むしろ口数少なく無表情で服装も地味、いつも一人で居て、口さがない人には根暗とすら言われるかもしれない。でも、あたしも群れるのが嫌いだから、そういうスタンスは共感できた。

 それに、その雰囲気は。

「あー、ごめん、辛気臭い話しちゃったね」

 丁度最後のコマが同じで、お互い今日はバイトもなかった。お腹減ったね、じゃあ御飯食べようか、というただの流れでファミレスに入って、授業の課題だのバイトのことだの、いつも通りのよしなしごとを、のんびりと話していただけだった。

 だけど、丁度隣のテーブルに座った家族連れが、両親と男女のきょうだいという構成だったため、何となく、兄弟の話になった。いつもよりずっと口が重くなった彼女からは義理の兄弟がいる、と聞いただけだったけれど、一応あたしも義理の兄弟でゴタゴタあった身だから分かる。多分彼女は、その義理の兄弟と、複雑な事情があるんだろうってことは。

 だからあたしはそれ以上聞けず、思いのほか彼女がつらそうな顔をしたから、思わず昔話をしてしまった。小賢しくて卑怯な子どもだったあたしが裏切ってしまった、だけど助けたかった、大好きなお兄ちゃんのことを。ちょっと重たいかなあと思わないでもなかったけど、彼女は引いた様子もなく、むしろ聞き入ってくれたようだった。

「それから、お義兄さんとは?」

「それがさ、お兄ちゃんが学校卒業する前に、両親離婚しちゃって。結局、会わずじまい。ま、会ったって何も言えないんだけどね」

 お兄ちゃんの中では、あたしは『意地悪な妹』なんだから。

 兄貴――実兄のことだが、彼はこの間、何の拍子にだったか言っていた。俺より優れてたあいつに嫉妬してたんだな、いつかそう言って謝れれば良いな、って。昔の暴君が随分と殊勝になったものだけど、そう思える兄貴を今更って思う反面、ちょっとだけ羨ましい。兄貴の悪意は感情の出し方を間違えただけだから、今更だとしても反省して昇華できるかもしれない。だけどあたしはある意味確信犯だから、ずうっと後悔し続けるつもり。

 非生産的なのはわかっている。でもあたしはそれで良い。痛いのは嫌だけど、お兄ちゃんを忘れるぐらいなら。

「初恋、なのかもしれない」

 痛いのに、苦いのに、忘れられないのは、その所為。

「現在形なのね」

 僅かに、けれど優しく微笑んだ彼女の指摘に、あたしは一瞬唖然として――ああそうだ、と納得した。

 一応多少の『お付き合い』もしたことがある。だけど結局ママゴトで終わったのは、あたし自身、あのひとを思い切れてないんだ。

 本当に恋なのかは分からないけれど、執着めいた心から離れられていないのは、確か。

「…………馬鹿ね、あたし。不毛にも程がある」

 もう会えない、会っても言えない、長すぎる初恋。

「不毛だからって、悪いわけじゃないと思う」

「………ありがと」

 静かな笑みを浮かべたままの彼女の空気は、やっぱり、ちょっとだけお兄ちゃんに似ている。

 何処か諦めて、それでも前に進んでいこうとする、綺麗な姿勢が、よく似ているのだった。


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