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※『ももいろ』スピカ視点、二人の出会いが中心のお話。説明部分が結構長いですが、要は「スピカはクロちゃん大好き」ということだけです。


 釣り合わないって、言う人がいるのは知ってる。

 だけど、私は、クロちゃんが大好きなのだ。


 あるSF作家曰く、高度に発達した科学は魔法に似るという。

 だから、その『科学』が『魔法』と呼ばれ出したのは、必然だったのかもしれない。

 つまるところ、科学技術により、昔ならばまさに『魔法』と言われただろうことが可能になった、ということだ。それぞれの適性はあるが、空を飛ぶことも出来るし、変身も出来る。人を攻撃することも出来るし、癒すことも出来る。

 けれど、しがらみなく使えるわけでは、勿論無く。

 たとえば、変身や一部身体能力の強化などの補助的な魔法、また治癒魔法については、能力レベルの測定と申請により発行されたカードの携帯が必須。たとえば、空を飛ぶには自動車と同様にライセンスが必要。

 ただ、これらは一旦通してしまいさえすれば、何某かの大会などの場合を除き、使用に関して制限を受けることはあまり無い。

 一番厳しいのは、幻惑魔法や攻撃魔法だ。現行の法律では、他の魔法の場合と同じく、測定、申請、発行、携帯の流れを辿ることが義務付けられているほか、魔法を使える場面や条件もかなり制限されている。魔法の訓練や大会、また緊急時を除いてほぼ全面禁止と言っても良いくらいだ。まあ、普通の日常生活で攻撃魔法を使う機会なんてそうはないから、大多数の人間からは不満が出なかった。

 とはいえ、まあ何時の世も、非合法に力を振るおうとする人種は存在する。ということで、順当に、魔法を使って好き放題に暴れる者も出てきた。当然ながら警察も動くが、通常の犯罪などにも対応しなければならないため、限界がある。そう悟った政府から、彼らとの戦闘を委任され、担当する人々が現れた。『魔法犯罪者鎮圧人』というのが政府から与えられた正式名称だが、長いし硬いということで、俗にこう呼ばれる。

 『正義の味方』――その中でもうら若い乙女たちは、魔法少女という俗称も持つ。

 スピカと名乗る『私』も、そのひとりだ。


 私は、自分で言うのもアレだが、魔法に関してはおよそ天才と言って良かった。

 空を飛ぶなどの移動用の魔法、一時的に俊足になる又はシールドを張るなどの危機回避用の補助的な魔法、それから護身用の幻惑魔法か攻撃魔法をそれぞれ一種あるいは二種ずつ身につける、というのが一般人の平均。現代では格闘技と同じく魔法による戦闘も娯楽に数えられているため、其処に身を置く人々はその2倍くらい。しかも、一つの魔法を習得するのに、毎日一時間の訓練をしたとしても、安定に一か月程度を見るのが普通だ。

 でも、私は違った。自転車に乗れるようになるより先に空を飛べるようになっていた、というエピソードをはじめとして、大抵の魔法は知っただけですぐ使えたし、魔法を使うための適性も軒並み高い。

 『正義の味方』にならないかという打診が来るのも、必然だったのだろう。魔法犯罪者は嫌いだったし、魔法に関しての自信もあった私は、ほぼ二つ返事で引き受けた。

 訓練がスムーズに修了したのは良かったのだけれど、実戦に出ようとするにあたって、思いもしなかった問題が出て来た。

 ――共に戦うパートナーが、出来なかったのだ。

 無論、何人も候補が挙げられたし、そのうちの数人とも組んだ。いずれも自信にあふれた、才能があると評判の人たちだった。けれど、数日もしないうちに、向こうから辞退されてしまう。

『スピカを見ていると、俺の力不足を思い知らされる』

『あたしじゃスピカの足を引っ張るだけ』

 一様に、傷ついた顔をして、彼らは離れていった。実際、そのまま『正義の味方』自体を辞めた人もいると言う。

 そんなつもりじゃ、なかったのに。

 打ちのめされた私に追い打ちをかけるように、私と組みたいと言ってくれる人たちも、どんどんいなくなった。私と相対した時には天才と褒める人たちが、陰では化け物と罵っているのも、知った。

 それならば一人で戦えば良いのでは、という意見もあるだろうが、それは法律上出来ない。おそらく暴走を抑えるためだろう、『正義の味方』は複数で活動することが義務付けられるのに加え、『キー』として設定した言動を誰かと交わさない限り、幻惑魔法や攻撃魔法を発動出来ないように制限されている。

 つまり、私は『正義の味方』になる道を事実上閉ざされつつあったのだった。

 新しいパートナー候補が来る度、多少セーブするようにした。それでも彼らは最終的には離れていってしまう。

 もう辞めてしまいたい、と訓練中にはついぞ出なかった弱音が首をもたげ始めた。今度こそと期待しては離れられる、その繰り返しが怖かった。最後のほうは半ば自棄で、初っ端から全出力でぶっ放して一時間もせず仮パートナー解消、なんてこともやらかした。

 やさぐれかけた、そんな時だった。

 彼に、出会ったのは。


 彼を連れて来たのは、先輩魔法少女のポラリスさんだった。

 多くの『正義の味方』の例にもれず変身しているのだろう、ポラリスさんの見た目は十代だが、その実結構な古株さん。魔法に関する能力が目覚ましく高いわけではないが、状況判断と機転に優れた人で、大掛かりな作戦では司令塔としての役割を担うことが多い。私にとっては上司にも当たるため、気安く接することは出来ないが、裏表なく接してくれることもあって尊敬できる先輩だ。

 初めて彼を見た時は、驚いた。人が乗れそうな大きな体格の黒い狼、ということもそうだが、わざわざ動物に変身している人が稀だから。

 説明されて、曰く。彼は正式な『正義の味方』ではない、いわばアルバイトやパートタイムに近い存在なのだとか。荒れかけた私を懸念したポラリスさんが、元から知り合いだった彼に対して、現状打破のきっかけになればと協力を打診したらしい。今まで、私たちのとはちょっと違う戦闘訓練で、一か月ほどかけて戦闘慣れしていたのだとか。

 彼は極端な一点特化型で、全く敵を倒す手段を持たない。補助的な魔法に関しては『自分の意思以外では解除されない』という特性があるという。通常の人の使うそれが時間制限や集中力の持続時間によって効果が切れることを考えると、稀有と言えた。

 だから希望が持てる、とは私は欠片も思わなかった。

 全くの一点特化というのは初だったけれど、ある分野の魔法に秀でている人は、今までだってたくさんいた。それでも、結果、私は独りだった。

 そうですか、組んでみます。

 今思えばそんな無愛想極まりない言葉で、私はただ、ポラリスさんに頷いた。


 一日目。

 私が全力を出しても彼は怯まなかった。

 分からない。顔に出さなかっただけで、理性で抑え込んでいるだけで、怖がっているかも。

 二日目。

 動きを俊敏にするという、彼の魔法を受けてみる。身体が浮くんじゃないかって思うほど軽くて、驚いた。これは、ポラリスさんがスカウトするのも分かる。

 魔法を褒めると照れたみたい。もしかして、案外わかりやすい…? いや、でも見た目が狼だから、彼の顔色が分からない。私を怖がっているのかどうか。

 三日目。

 彼の防御壁に向かって魔法を使ってみる。流石に最大出力とはいかなかったけど、それでもかなり頑張らないと破れなかった。素直に凄い。

 一点特化型の意地だ、って得意そうな顔してた。大柄で強面なのにちょっと可愛い。

 それに、私の魔法を正面から受けたのに、怖がらなかった。訓練したからって言うけど、大体、他の人はこの段階で駄目だったのに。

 七日目。

 訓練の合間に、思い切って触らせてもらった。

 芯はそこそこあるけど柔らかい毛で、びっくり。もふもふ、って感じ。狼ってもっと剛毛なイメージだった、というと、本物はそうかもしれない、とのこと。毛に関してはとことん好みの触り心地をイメージしたそうだ。

 自分で触ることはあんまり出来ないみたいだけど、それが拘りってものかな。

 言葉遣いは男の子らしいけど、何か、可愛い。

 十日目。

 化け物呼ばわりされて落ち込んでいたら、彼が傍に来て寄り添ってくれた。何を言ってくれたわけでもないけど、もふもふした毛皮に顔を埋めていると、何だか凄く癒された。

 十二日目。

――スピカは凄いな。

 それは私にとって別れの合図みたいな台詞だったから、思わず俯いたが、彼の声は明るかった。

――強いのに、頑張ることを止めないのが、一番凄い。おれ、補助的な魔法しか使えないしその範囲も狭いくせに、持続力がずば抜けてるから、コンプレックスとか自信とかが色々混じって、ポラリスさんに声掛けられるまでは、あんまり練習してなかったんだよな。でも、スピカはちゃんと強化も制御も怠らず練習してて、本当に凄いなあって思う。

――尊敬してる。スピカと一緒に頑張れてる俺って、贅沢だなって思うよ。

 呆然と、したと思う。

 いっしょに、がんばってくれるの?

 間抜けにも訊き返してしまって、嫌かなんて慌てる彼に首を振り、抱き付く。

 今の私の全力を、いろんな魔法で見せた。スピカとはそもそも出来ることが違うから、そもそも羨むなんて感情が出ないなって笑うだけ。魔法の威力に驚いたり多少怖がることもあったけど、それでも、私を怖がることは、徹頭徹尾なかった、ひと。

 彼と一緒に、頑張ろう。

 十四日目。

 彼と正式に組むことになった。

 とはいえ、彼は正規の『正義の味方』ではないため、パートナーじゃなくて補佐、という形に落ち着いた。私としては少しばかり不満だが、彼はそれぐらいでちょうど良いさと笑っていた。

 制限解除のためのキーは、彼を撫でることと設定した。もふもふの毛並みも堪能できるし制限解除も出来るし、一石二鳥ってこのこと。

 そう、その設定が終わった途端、魔法犯罪者が現れたって聞いて、即デビュー戦となったんだっけ。


 そんな風に彼との過去を回想してしまったのは、彼の手による文書を見ていたからだ。

 正確に言えば、元上司を告発するために、クロちゃんが作っていた文書。

 エリートだった彼は、そもそも『正義の味方』のファンでそのサポートがしたくって、という入社理由の割には、現場からの受けが悪かった。

 『正義の味方』を妙に神格化しているというか、万能だと思い込んでる節がある、というのが主たる原因だった。

 そんなことはない。私たちだって制限されるし、怪我もすれば死ぬこともあるし、そもそも出来ないことだってたくさんある。物語の主人公みたいに、何があっても死なないとか、絶対に負けないとか、そんなわけないんだ。それを分からない立場ではないはずなのに、何というか…同僚の言葉を借りて「ヒーローたちの司令官って立場に酔ってる」といえば良いのか、わざと『山場』を作り出してピンチを盛り返す!みたいな演出的なことが好きだった。

 いや、ある程度一般の皆さんからのご支援あっての『正義の味方』活動だから、大衆受けするストーリー性を出す、という路線は分からなくもない。だけど、現場側にとって戦闘はショーじゃない。労力も被害もなるべく減らしたいし、ピンチは回避したいし、ましてや殉職なんて御免だ。そのために日夜訓練して様々な場合を想定しているんだから、その努力を踏み躙るような余計な真似すんな、という感情が生まれるのは致し方ないことで。

 私は、多分強かった所為だろう、例の上司に随分と気に入られているらしかったが、その所為で連戦させられたり、そのくせその采配という名の妨害が頻繁だったりと、正直踏んだり蹴ったりだった。クロちゃんをわざと違う場所へ向かうように仕向けた時には、さすがにどうしてくれようかって思った。クロちゃんがいないと私も攻撃魔法が使えず敵を満足に倒せないってことはわかってるくせにやらかしたってこともあるけど、何より、その時クロちゃんを向かわせた場所が、敵の密集した危険地域だったことが許せなかった。クロちゃんを殺す気か。

 調べたところ、クロちゃんを筆頭に、自分が気に入らない人に関しては随分なことをしていたようだ。わざと指示ミスをして、それを彼らの失敗のようになすりつけて、かつその状況を自分のお気に入りに挽回させるという、何とも傍迷惑なことを何度もやらかしていたみたい。

 しかしクロちゃんもさるもので、辞職を決意しつつも、ちゃんと告発を考えていたらしい。偽指示のメールなどは小賢しく発信元を誤魔化していたようだが、悪口雑言の録音などの証拠があれば、少なくとも嫌がらせを訴えることは出来ると踏んでいたようだ。

 さすがクロちゃんタダじゃやられない! 格好良い!

 組織内部の色々なしがらみもあり、かの元上司は左遷だけ、辞職に追い込めなかったことはちょっと不満だけど、まあやらかしたことがやらかしたことなので、今後肩身が狭い思いはするだろうし、少なくとも暫くは指揮する立場にはならないだろう。

 そうすれば、クロちゃんも辞める必要はなくなる。相対的に見てもなかなかの実力者である私が、彼と一緒に辞職すると騒いだことも加味すると、きっと慰留する声が上がるはず。

 また一緒に頑張れる。それが嬉しい。

 報告書を見ながら、微笑みが零れる。客観的に見れば怪しいだろうってわかってても。


 元上司が、私とクロちゃんは釣り合わない、なんて思っていたことは、知っている。

 でも、クロちゃんが傍に居てくれたことで、『スピカ』という魔法少女は、救われた。決して大袈裟ではなく、そう思っている。彼が居なかったら、『スピカ』も存在すらしなかったのだ。だから彼と一緒に戦いたい、と思うのはそれほどおかしな話ではないと思う。

 今のところそれを変える気はないから、そういう意味で、クロちゃんと駆け落ち、というのもあながち冗談じゃなかったんだけど、混乱から飛び出した思考としかとらえられていないみたいなので、とりあえずやめておく。

 まあ、いつか、最後の手段になるかもしれないけど。


 私は、いつでも何度でも、クロちゃんの隣を選ぶ。

 たった、それだけのこと。


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