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番外編:そして、これが真実

【SIDE:望月咲良】


 私、咲良が自分をブラコンだと意識したのはつい最近のこと。

 それまではただの仲のいい兄妹だと思ってたけどね。

 どうやら私は世間で言うブラコンらしい。

 自覚しちゃうと普通にお兄ちゃんに甘えるのも楽になったきがした。

 でも、お兄ちゃんとお姉ちゃんが恋人になって寂しく思う。

 まぁ、別にいいけどね。

 お兄ちゃんの事が好きだけど、那奈お姉ちゃんとなら幸せになれそうだし。

 だけど、ラブラブいちゃいちゃするのはムカつくから邪魔したくなる。

 今はもっぱら邪魔する事が楽しかったりする。

 私はいつからブラコンだったんだろうと考えた時、私は自分の過去を思い出す。

 

「でも……ブラコンゆえになんて事をしてしまったんだろう」

 

 思い出すだけで恥ずかしくなる、子供心でしてしまった過ち。

 私は過去にとんでもないことをしてしまったのだ。

 

 

 

 

 あれは6年前、まだ私は小学生に入ってまもない年齢。

 その頃から私はお兄ちゃんの事が好きだった。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」

 

「ん?咲良か。どうしたんだ?」

 

「ねぇ、お姉ちゃんの事が好きなの?」

 

 でも、お兄ちゃんはずっとお姉ちゃんを見ているのを知っていたから。

 誰が見ても、恋をしている。

 

「好きだよ。那奈姉ちゃんのことが俺は好きだ」

 

 初恋の想い、お兄ちゃんの気持ちを知った私は自分が嫌な気持ちになった。

 私の大好きなお兄ちゃんを取られたくない。

 もっと私と遊んで欲しい、一緒にいる時間を作ってほしい。

 それは単純な意味でのブラコン。

 魔がさした、と言ってもいい。

 

「……お兄ちゃんとお姉ちゃんがうまくいかなかったらいいのに」

 

 お姉ちゃんの事は好きだけど、お兄ちゃんが一緒に遊んでくれなくなるから嫌だ。

 

「もしも、お兄ちゃんがお姉ちゃんに嫌われたら、私ともっと遊ぶ時間も増えるよね」

 

 子供は単純ゆえに時折、すごいことをしてしまう。

 

 

 

 

 その日は那奈お姉ちゃんが転校してしまう日の前日。

 お兄ちゃんは朝から風邪気味で寝ていたの。

 そこで私はお姉ちゃんを公園に呼び出す。

 公園で私はお兄ちゃんの服を借りて、お気に入りの帽子をかぶる。

 その頃の私はショートカットで、当時は小柄な方だったお兄ちゃんとはそれほど身長差もなく、帽子で顔を隠してしまえばお兄ちゃんそっくりになれた。

 実際に会った那奈お姉ちゃんも変装をした私に気付いていない。

 

「道明君、まだ風邪は治らないの?」

 

「……うん」

 

「早く良くなると良いわね」

 

 ひらひらと舞い散る桜の花びらが綺麗だった。

 私達は桜を観賞しながら、話をきりだす。

 

「あのね、那奈姉ちゃん。もういなくなっちゃうんだよね?」

 

「そうよ。お父さんの仕事が転勤になるの。嫌だけど、私も一緒についていかなくちゃいけなくなる。道明君とも別れなくちゃいけないの」

 

「……寂しいなぁ。ずっと、那奈姉ちゃんと一緒にいたいのに」

 

 寂しそうに呟くお姉ちゃん。

 彼女にとんでもない約束をしてしまうことになるなんて。

 

「でも、これでずっとお別れってわけじゃないから。また会いに来るわ」

 

「ホントに?」

 

「本当よ。きっと、私だって道明君に会いたくなるもの」

 

 お兄ちゃんと再び会った時、ふたりはどういう関係になるんだろう?

 恋を知らない私はブラコンゆえに過ちを起こす。

 それこそが、2人を結びつけてしまう事になるとは気付かずに……。

 

「……だったら、那奈姉ちゃん。大人になったら俺と結婚してくれる?」

 

 誰でもする幼き頃の約束。

 それでも、お姉ちゃんの方が年上なんだから覚えている可能性は高い。

 もしも、再会しても約束をした方のお兄ちゃんが全く覚えてなかったら?

 那奈お姉ちゃんに嫌われてしまい、私と一緒にいる時間が増えるんじゃないか。

 ……そんな子供の発想でついた嘘。

 

「俺は姉ちゃんのこと、好きだから……」

 

「み、道明君……本気なの?」

 

 戸惑うお姉ちゃんに私はお兄ちゃんの声色でその約束を告げる。

 

「だからね、約束しよ?那奈姉ちゃんが帰ってきてくれたら……」

 

 お兄ちゃんの知らない所で、お姉ちゃんにした約束。

 

「――俺と結婚してね、那奈姉ちゃん」

 

 私は笑みを浮かべてお姉ちゃんに言ったんだ。

 お兄ちゃんの意思なんて関係なく、私が勝手にお姉ちゃんに婚約をしたの。

 これが婚約者発言の真相。

 ブラコンゆえに嘘をついて困らせようとした私の幼心が招いた出来事だった。

 

 

 

  

 あの出来事から数年後、お兄ちゃん達は再会して、婚約者問題に巻き込まれてしまう。

 小さな嘘が大きくなった……今回のウ騒動の原因が私だと思いだしたんだ。

 ふぅ、人間って都合の悪い事を忘れやすいから困る。

 そりゃ、お兄ちゃんも覚えてないよね。

 だって、私がお兄ちゃんに変装して勝手にした事だったんだもの。

 自分がした行動のせいで、ふたりを悩ませてしまったの。

 

「でも、それだけ、本気だったんだよね」

 

 私は自室で昔のアルバムを眺めながら呟いた。

 写真に写るのはショートカットの幼い私の姿、それを見て過去の過ちを全て思いだせた。

 こんな小さい頃からブラコンだったんだなぁ。

 

「必死にお兄ちゃんの気を自分に向けたかったんだなぁ」

 

 可愛い子供の悪戯、と思いきや、それを本気にしたお姉さんがいるわけで。

 那奈お姉ちゃんまでこんな風に本気になるとは思いもしなかった。

 ただの子供の約束を親戚中を認めさせるほどに本気になるとは、約束を勝手にした幼い頃の私も想像すらしてなかったよ。

 ただ、約束破棄をして嫌われちゃえ程度に考えてただけなんだよね。

 お兄ちゃんとお姉ちゃんの愛情がこんなにも強い絆だったなんて予想外。

 

「でも、結果オーライと言う意味では私は恋のキューピッドかも?」

 

 ……この件については未来永劫、真実は闇に葬る事にしておく。

 真実なんて今さら知っても意味なんてでしょ?

 お兄ちゃんもお姉ちゃんも今の自分達を好きになって交際してるだもん。

 

「咲良、ちょっといいか?」

 

 アルバムを見ていた私に声をかけてくるお兄ちゃん。

 

「どうしたの?」

 

「那奈姉がケーキ買ってきたから食べないかって」

 

「食べる~っ。お姉ちゃんも甘いものが好きだよね。私も大好きだけど」

 

 お兄ちゃんはふと私の机のアルバムに視線が向かう。

 

「ん?昔のアルバムか。懐かしいな。この頃の咲良はまだ髪も短かったよな」

 

「お兄ちゃんも背が小さい方だったよね」

 

「うぐっ。中学生から伸び始めて、高校になった今は猛烈に成長していく予定だから問題はない。断じてありません」

 

 背がそれほど高くない事にお兄ちゃんはコンプレックスがあるみたい。

 放っておいても高校生になれば成長するけど、男の子として気になるんだろうなぁ。

 

「お兄ちゃん……ごめんね」

 

「何が?」

 

 私は一言だけ過去の事を謝る。

 お兄ちゃんは何も分かっていない、不思議そうな顔をして見せる。

 

「ふふっ。何でもないっ。お兄ちゃん、行こう」

 

 私はお兄ちゃんの腕に抱きついて甘える。

 

「こら、くっつくな。俺は良いけど那奈姉に見つかると……お、恐ろしいことに」

 

「お兄ちゃんなんだから妹を甘やかせなくちゃいけないの」

 

 むぎゅってくっついていると安心できる。

 

「咲良は昔から変わらないよな」

 

「お兄ちゃんこそ変わらないよ。私もお兄ちゃんも変わってない。仲のいい兄妹のままでいいじゃない。ねぇ、お兄ちゃん?」

 

「ははっ、そうかもな」

 

 私はお兄ちゃんに甘えるのが好きで、お兄ちゃんも私を甘やかせてくれて。

 これからもずっと似たような関係が続いていくんだと思う。

 

「……お兄ちゃん。私は隠し事があるのです」

 

「ほぅ、隠し事?咲良の秘密ってなんだろう」

 

「実はね……」

 

 私はお兄ちゃんに微笑みながら言ったの。

 

「私はお兄ちゃんの運命を変えちゃうくらいに、お兄ちゃんが好きってこと」

 

「俺の運命?」

 

「そう。私はお兄ちゃんとお姉ちゃんの愛のキューピット。感謝してよね?」

 

「咲良が恋のキューピッドねぇ?可愛いけど、何でキューピッド?」

 

「それが私の秘密なの」

 

 お兄ちゃんは「何だ、それ?」と笑いながら私の頭を撫でてくれる。

 仲のいい兄妹の関係。

 いつまでも、そんな関係でいたいな。

 

 ――私はお兄ちゃんが大好きなのです♪

 

【 THE END 】

 

これにて終了です。咲良がメインヒロインな気がする作品です。那奈姉より咲良が可愛いと思ってしまったり。この作品を少しでも楽しんでもらえたら幸いです。

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