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幕間:聖都巡礼者の告白

注目度ランキング1位ありがとうございます。

これからも拙作をよろしくお願いします。

 

 大陸東方、とある国の、辺境に位置する小さな村。


 その村の、古びた、しかし、村人たちの手で、常に清められている教会の隅で、わし、アベルは、若い司祭に旅の話をせがまれていた。


 わしは、数日前に、生涯の夢であった、聖都サンクトゥム・ルミナへの巡礼から、帰ってきたばかりだった。


「アベルさん。本当に、噂は、まことなのですか? 大聖堂が、半壊し、ヴァレリウス枢機卿猊下が、その……亡くなられた、というのは」

 若い司祭の、不安げな問いに、わしは静かに頷いた。


 わしが、生まれて初めて見た、聖都の姿。


 それは、まさに、天上の楽園そのものだった。


 陽光を浴びて輝く、純白の街並み。魂を洗い流すかのような、荘厳な鐘の音。


 そして、天を突くルミナリア大聖堂の威容。


 わしは、この聖なる都で、このまま生涯を終えても良いと、本気でそう思ったものだ。


 あの日、わしは他の多くの巡礼者たちと共に、大聖堂の、広い身廊で、祈りを捧げていた。


「聖勇者」とやらを連れた、北の小国からの使節団が、枢機卿猊下に謁見している、と。そんな噂話が、ひそひそと、交わされておった。


 その時だった。


 何の予兆もなく、大聖堂の分厚い石の床が、まるで生きているかのように激しく揺れたのだ。


 そして、教会の最も奥深く、我ら平信徒は、決して、足を踏み入れることのできない「至聖所」の方角から、おぞましいこの世のものとは思えぬ、獣の咆哮のようなものが響き渡ってきた。


 悲鳴と、混乱。


 だが、次の瞬間。わしは、見た。


 至聖所の、その、固く閉ざされた扉の隙間から、黄金の、あまりにも清浄で、そして、あまりにも力強い光が迸ったのを。


 それは、太陽の光ではなかった。  


 もっと、温かい、魂そのものを、優しく包み込むような、慈愛に満ちた光だった。


 その光を感じた瞬間、わしの心にあった恐怖は、すっと、消え失せていた。


 その、黄金の光と、競い合うかのように、おぞままじ力が何度もぶつかり合い、やがて、世界から、音が消えるかのような、大爆発が起こったのだ。


 ……わしらが、後で聞いた話は、こうだ。


 ヴァレリウス枢機卿は、悪魔に魂を売り渡し、禁じられた儀式を行っていた、と。


 そして、それを、阻止したのが、ロムグール王国の、聖勇者様と、その仲間たちであった、と。


 聖職者様たちは、それを「神罰が下ったのだ」と、そう、説明しておった。


 だが、わしには、そして、あの場にいた、多くの巡礼者たちには分かっておった。


 あの黄金の光は、神罰などではない。


 あれは、誰かを、何かを、必死に「守ろう」としていた、あまりにも切実な光だった。 


 あの、ロムグールの、まだ、あどけなさの残る勇者様が、その身を、盾として、我らをこの聖都を大いなる闇から守ってくださったのだ、と。


 わしは、ゆっくりと立ち上がり、この小さな村の教会の、質素な、しかし、美しい、女神ルミナリア様の像の前に、立った。


「アベルさん……?」


「わしは、これからも、女神様への祈りは、続けるつもりだ」

 わしは、若い司祭にそう言った。


「だがな、司祭様。わしらの、この、地上での救いを、もはや、聖都の、豪奢な宮殿におわす、教皇聖下に、求めることは、もうできんよ」


 わしは、教会の小さな窓から、遠い北の空を見上げた。


 ロムグール王国が、あるという、その方角を。


「わしらの祈りは、今、あの、若き王と、そして、愚かで、勇敢で、そして、疑いようもなく、聖なる、あの少年にこそ、届くべきなのかもしれんな」


 その日を境に、大陸中の、多くの民の、祈りの矛先が、少しずつ、しかし、確実に、その方角を変え始めたことを、聖都の、誰もいなくなった玉座は、まだ、知る由もなかった。




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