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第八十八話:黄金の槍

 

「―――俺に、力を貸してくれ!」


 田中樹の、魂からの叫び。

 それは、混沌の戦場に、反撃の狼煙を上げる合図だった。


「言われるまでもない!」


 ライアスが、その言葉に、雷鳴のような声で応えた。


「全軍、勇者殿に続け! 彼が力を溜めるための時間を、我らが命を賭して稼ぐのだ! 敵は、ただ一体! あの紛い物の神を、引きずりおろすぞ!」


 仲間たちが、一斉に動き出す。


 それはもはや、個々の戦いではない。


 樹が放つであろう最後の一撃のための、ただ一点の好機を作り出すための、完璧に連携された、一つの巨大な刃だった。


「小賢しい虫けらどもが! 束になってかかってこようと、神たるこの私には、届かぬわ!」

 怪物と化したヴァレリウスが咆哮し、その巨体から、砕け散った祭壇の破片を無数に浮遊させ、黒曜石の刃の嵐となって放った。


「行かせん!」

 その攻撃の前に、ライアスとサー・レオンが、その身を盾にして立ちはだかった。


 二人の盾が、凄まじい衝撃に、悲鳴のような音を立てて軋む。


 足元の床に亀裂が走り、一歩、また一歩と後退を余儀なくされるが、彼らは決して、その戦列を崩さない。


「へっ、がら空きだぜ、デクノボウ!」

 その、ほんの一瞬の隙。ファムが、ヴァレリウスの足元へと、矢のように潜り込み、そのアキレス腱に、神経を麻痺させる毒を塗った短剣を深々と突き立てた。


「ぐっ……!?」

 ヴァレリウスの巨体が、わずかに、しかし、確かに、よろめいた。


「ナシル!」


「奴の魔力の流れが、乱れた! 今、再生のために、力が左足に集中している!」


 ナシルの『真実の鏡』が、敵の、微細なエネルギーの変化を看破する。


「ならば、次は、右上だ!」

 ハヤテとシズマの霊刃が、閃光のように、怪物の右肩を、同時に、そして、深く斬り裂いた。


 霊力を込めた一撃は、黒曜石の鎧を貫き、確かな手応えを残す。


 闇滅隊の連携による攻撃。


 それが、巨大な怪物の動きを、確実に、翻弄していた。


「―――見苦しいな、紛い物」

 その好機を、帝国の将軍ヴァレンティンが見逃すはずもなかった。


 彼は、これまで温存していた、自らの切り札を、解き放つ。


「我が帝国の力、その目に焼き付けるがいい。―――『黒き太陽ノワール・ソレイユ』!」


 ヴァレンティンの魔剣の切っ先から、凝縮された、重力球とも言うべき、漆黒の闇が放たれた。


 それは、怪物の胸元へと吸い込まれるように、直撃した。


「ぐおおおおおおおおっっ!?」

 ヴァレリウスが、これまでにない、苦悶の絶叫を上げる。


 その胸には、黒い太陽が穿った大きな風穴が空いていた。


 その風穴の奥で、彼の心臓があった場所に、埋め込まれた『黒い石』が、禍々しい光を放って、脈打っていた。


 仲間たちが、命を賭して、作り出した、たった一度の、完璧な好機。


「イトゥキ様!」

 リリアナの、最後の力を振り絞った声が、響き渡る。


「今、です!」


 樹は、その後方で、ただ、見つめていた。


 リリアナが、その背中に、そっと手を置く。


 彼女の、ほとんど残っていない魔力が、温かい、しかし確かな光となって、樹の折れかけていた心を、再び奮い立たせた。


(……そうだ。俺は、一人じゃ、ない。レオの死も、みんなの傷も、もう、無駄にはしねえ)


 樹は、その両の掌に、自らの魂の全てを、仲間たちの想いの全てを、注ぎ込んだ。


 守るための、黄金の光ではない。


 仲間を脅かす、全ての悪意を、打ち破るための、貫くための、一本の、巨大な『槍』へと。


 その光は、彼の怒りと、悲しみと、そして、生まれたばかりの、仲間への感謝を燃料として、凄まじい密度にまで高まっていく。


「―――喰らええええええええええええっっ!!」


 樹の身体から、凝縮された、黄金の聖なる力が、一本の、巨大な光の槍となって、放たれた。


 それは、もはや、ただの魔術ではない。


 一人の少年の、仲間を想う、全ての意志が、形となった、奇跡の一撃だった。


 光の槍は、戦場の全てを、黄金色に染め上げながら、寸分の狂いもなく、異形の怪物の、その胸に空いた、黒い風穴へと、そして、その奥で脈打つ、禍々しい『黒い石』の中心へと、吸い込まれていった。

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