魔の啼く城へ(8)
敵意の赤い瞬きに反応してルージベルニを横滑りさせる。その灯りに向けてボールフランカーの一射を向けるがジェットシールドで弾かれた。
意表を突く攻撃に警戒して撃破にまで持ち込みたくとも、今度は別の機体が死角へと入り込もうとする。宙返り気味にビームを躱し、転回してビームカノンを放つ。擦過した一撃は火花を散らして装甲を削っただけに終わった。
「数が多過ぎてキリがないし!」
分厚い敵機の層に切り拓くも儘ならない。
「こいつらは後ろの連中から連絡を受けて全戦力を投入してきてるわ。堪えなさい」
「何とかクナリヤがすり抜けるだけの穴を作るの。そうすれば後退戦に持ち込めるから」
「入れ替わりながら攻めてくるから消耗させるのも難しいんだもん!」
マーニとドナは集中を切らさず全体を見ているらしい。
同士討ちを怖れて完全に包囲はしてこない。分艦隊全戦力がアームドスキン百二十機に及ぶといえど、前面で対しているのは半包囲で十機前後というところ。それでも入れ替わりながら攻撃してくるので相手の消耗は少ない。
射線に友軍機を入れて砲撃を躊躇わせようと突っ込んでいっても、合わせて戦列を下げてくる。密な砲撃を浴びせられて下がればまた戦列を上げてくる。巧妙な連携に一進一退を繰り返す。
(一機も削られていないんだからすごい)
フォーメーションで対応しているとはいえ、ルージベルニに比べれば火力の劣るサナルフィで持ち堪えている。普通のパイロットならひと溜まりもなく蹂躙されるだけで終わるだろう。
(それでも、この集中力がいつまでも維持できるわけないし!)
いつか崩壊の時がやってくる。
「後方、来てるぜ。あと三分ってとこだ」
タルコットが死の宣告をする。真っ先に沈むのはクナリヤだろう。
「気にせずそのまま回り込め。限界まで逃げ回ってやるから」
「でも、クラフターの回避能力じゃ……!」
「もしもの時は自分が生き延びる事だけ考えろ。案外何とかなるもんだ」
マーニたちが左回りに回り込もうとしているが、敵部隊もそちらを厚くして阻止しようと動いている。ニーチェが正面で気を惹き、どれだけ踏ん張ろうとも相手には余力が残っている。
(こんなところで終わってやらない!)
集中力が高まってボールフランカーが青いリングを生み出した。
その瞬間、集中の色がフッと途絶えた。仲間の緊張の糸が切れた訳ではない。敵の部隊に動揺の色が走り、焦燥の色へと変わる。これまでは回避されていたニーチェのビームが直撃し、三機が爆炎を放って更に味方を動揺させている。
「好き勝手やってんじゃないよ!」
「ふざけんな! 大事な仲間をやらせるもんかよ!」
共有回線に初めて聞く男女の声。
「ちょっと待て! しかも閃影と弥猛じゃないかよ!」
「観測員、何やってたのよ!」
「急速接近なんてもんじゃないだろっ!」
相手が浮足立ったのは、この敵の急接近が部隊回線で知らされたかららしい。
「急に現れたとか馬鹿なこと言ってんぞ!」
「楽勝だって昼寝でもしてたわけ!?」
「いや、お前らの観測員は一応仕事してたぜ。俺らが反重力端子を18%まで上げてすっ飛んできたんだからな」
通常であれば宇宙空間での艦艇船舶は80%ほどの反重力端子出力で航行する。質量が80%まで下がる出力が人体に一番負担がかからず、質量も抑えられて推進剤ロッドの消耗も少なく済む。最もコストパフォーマンスの良い出力だ。
戦闘速度でも質量60~70%までしか上げない。ここまで上げると加速度はダイレクトに人体に掛かってくる。シートとベルトの使用が必須になる出力。
アームドスキンでも出力は50~70%で機動する。これ以上に上げれば、俊敏な機動が可能になっても人体への負担が大きくなって最悪失神する。加減速が容易な宇宙空間ではG負荷との戦いが機動性を左右するのだ。
これが探知となれば話は別になる。
ターナ霧を使用したりミラーチャフを使えば隠密航行が可能になるが、重力場レーダーだけは誤魔化せない。金属性の重量物は検知されてしまう。
ところが質量飽和点というものが存在する。
反重力端子出力を50%まで上げても質量として検出されるし、逆に地上出力同様に質量0%まで上げ切ってしまえばマイナス方向の棘としてレーダーに表れる。
これを質量飽和点である18%にした時、重力場レーダー検出面上でプラスにもマイナスにも振れない状態になる。隠密航行状態で質量飽和点を利用すれば事実上検出不能。
しかし、前述のように出力18%での加速は正気の沙汰ではない。不用意に加速すれば肉体は潰れる。加減したところでG負荷は人体、それも血液などの体液に大きく影響。三半規管は異常を訴え、脳への血流が足りなくなって失神に至る。そこまではニーチェも学んでいた。
救援に来た旗艦ロドシークを含めた地獄艦隊は、ゼムナ軍第十六分艦隊を刺激しないよう、重力場レーダー圏の六千kmのうち五千kmをその状態で突っ走ってきたのだという。
(いかれてるし)
これで全員で生き延びる目が出てきた。彼女は感謝の思いで心強い味方の暴挙をけなす。
(そんなまでされたら、あたしはここで勝って魔啼城まで無事に辿り着いてみせるしかない!)
ボールフランカーが唸りを上げて回転する。
「あたしも無茶するし。反重力端子出力40%」
『ほっほっほ、やれるところまでやってみるのもよいじゃろう』
姿を見せたドゥカルが愉快そうに笑った。
次回 「早く言って……。でも、もうやめられないし!」




