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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第八話

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魔の啼く城へ(2)

 いかつい顔の壮年男は司令官席らしいシートのひじ掛けに頬杖を突いている。美人の視線を受けると苦笑いし、反対の手で頭を掻いた。

 彼は地獄(エイグニル)の副長でヴィス・ハーテンという人物だそうだ。組織のナンバー2である。ニーチェはドナにそう教えてもらった。


「旗艦ロドシークを回すくらい重要な任務だってことさ」

 それを聞いたマーニは片眉を跳ねさせている。

「どうせ後任の支部要員を連れてきたついででしょう?」

「いや、もうポレオンに支部は置かんと言ってるぜ。魔啼城(バモスフラ)で育った世代がもう実戦に出てくるようになってるからな」

「もう八年だものね」


 地獄(エイグニル)の発足初期に参入した家族の子供が現場で働き始めているのだという。危険を冒してまでスカウトを続けなくとも現状維持は可能なのだそうだ。ベリゴール操縦士のナジーもその一人らしい。


「まさか閣下まで来ていらっしゃるの?」

 マーニは訝しげに訊く。

「ケイオスランデルなら陽動作戦の指揮をしてる。こっちに回したのは四隻だけだ」

「まあ、そうよね」

「でもな、閃影(せんえい)弥猛(やたけ)も連れてきてるぜ。そんだけ本気だって意味さ」

 美人の表情が和む。

「そっちはどうしてる?」

「今は電離層高度で調査中。ここならターナ(ミスト)を磁場圏で保持するのも難しくないし、重力場レーダーのノイズに潜めるから」


 惑星質量の近傍ならクラフター程度を浮かせる反重力端子(グラビノッツ)出力もノイズに紛れて検出されずに済む。ベリゴールとクナリヤはミラーチャフを展開して隠密状態を維持している。


「そこから見てりゃ分かると思うが、第一打撃艦隊も分艦隊運用が板に付いてきてる。たった四隻じゃ迎えに行くのは無理だから、何とか惑星軌道は抜けてきてくれ。俺には魔王みたいな戦術の魔法は使えないからな」

 彼は肩を竦める。

「来てくれないと困るわ……、と言いたかったところだけど、目算がつきそうよ。心強い戦力が増えたもの」

「あれか、ルージベルニ。機体登録データが更新されて俺も目を剥いたぞ。あの野郎、こんな隠し玉を用意してやがったのか」

「どこまでが閣下の意図したところなのか読めないわ。でも、戦力がかなり上乗せされたのは確実でしょ?」

 マーニの言にヴィスも「間違いないな」と同意する。


 数年前までは本来の軌道防備艦隊百二十隻は四隻単位で三十の分艦隊運用されていた。それが主に血の誓い(ブラッドバウ)の攻勢によって八十まで減らされて二十の分艦隊しか維持できなくなり、地獄(エイグニル)討滅作戦の大敗北により十以下にまで減少。機能不全に陥った。

 軌道防備に転用される事になった第一打撃艦隊も残存艦隊を吸収して運用される手筈だったが、大規模戦闘を旨として編成されていた打撃艦隊は分艦隊運用がなかなか軌道に乗らなかったとされている。内実は、エリート意識の高い打撃艦隊所属兵士が商船団警備任務などの雑多な任務に難色を示したからであった。


「今の第一打撃艦隊は意識改革が進んでいくらかマシな運用ができてるみたいだがな、それでも穴はある。クラフターで抜けるくらいは何とかなるだろう」

 副長はそう分析したようだ。

「ゼムナ軍は縁故採用のツケを払うのに一年以上掛けているわけ。外側から見てるヴィスにはくだらなく思えるでしょうけど現実はもっと深刻よ。おそらく、まともには機能していない筈だから付け入る隙はあると思っているわ」

「マーニが送ってくれたポレオンの現状は参考になってる。一番身近に接してきたあんたがそう判断するなら大丈夫だろう」

「五機しかいないから隙間を一気に抜けるだけ。上手に拾ってくださる?」

 美女の流し目にヴィスは「分かった分かった」と手を振る。


 ひと通りの打ち合わせが終わったところで副長の視線が動く。ドナを始めとした顔見知りのメンバーの調子を確認した後でニーチェの番がくる。推し量るような視線に彼女は挑戦的な瞳で応じた。


「お嬢ちゃんがイレギュラーの新入りって訳か。経歴にはざっくり目を通したが、とりわけ珍しい点は無い」

 一度瞳を閉じたヴィスは自分の額を指でトントンと叩く。

「だが、或る意味不審点だらけだ。お前さんが言うにはあの『横紙破りのジェイル』の娘らしいが、普通に閲覧できる個人情報じゃ養育者は空欄になってる。そこへ今回の専用機騒動ときた。何者(なにもん)だ?」

「こっちが聞きたいし」

「あー、似たような立場って事か」


 身を乗り出していた壮年は、一つ溜息を吐くと背凭れに身を預けて頭を掻く。驚くほど察しの良い男にニーチェも舌を巻く。つまりは彼ほどの立場に在っても、組織内で得られる情報には限りがあるという意味。


(これくらい頭が回る人じゃないと上には居られないんだ。それでも渡り合っていかなきゃだし)

 彼女も腰に手を当て虚勢を張る。


「しゃあないな。まあ、積もる話は逃げ延びてからにすっか」

 一転して見せた笑顔は人懐っこさを感じさせる。

「よろしく頼むぜ、『(くれない)の堕天使』」

「ふぇ?」

「ゼムナ軍内にはルージベルニの戦闘映像資料と一緒にお前さんの二つ名が急速に拡散中だぜ? そっちは個人的なメッセージを介してだがな」

 軍内部の個人的な繋がりでプライベートメッセージが飛び交っているらしい。

「印象が強過ぎるとそうなっちゃうわよね」

「いきなり出世したじゃんか」

「これで一躍ニーチェも有名人なのん」


 唖然とするニーチェをパイロット仲間は失笑混じりに囃し立てた。

次回 「マーニの位置を意識しておく、よし!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……まぁ、急な二つ名ですしね?
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