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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第七話

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紅の堕天使(11)

 ニーチェの中で剥き出しの敵意が首をもたげる。四機を従えた紫のメクメランはギルデのサナルフィを追い込むのに躍起になっている。そこへ左のビームカノンを照準する。

 砲口が吐き出した光に反応した一機が咄嗟に上に跳ねる。反射的にやりがちな横滑りを避けたのがこれまで生き延びてきた秘訣だろう。

 ただし、彼女には通用しない。侮る感情の色まで読んだニーチェは瞬時に普通の選択肢ではないと判断。右の照準を敵機の上の予測位置へと向けており、ビームは腹部を貫く。


「こっちを向けぇー!」

 爆炎に押されて散った残り四機のうち、メクメランをターゲットにボールフランカーを一射。

「潰すし、ライナックぅー!」

「はぁ……? 赤だと?」

 相手はルージベルニの機体色に目を奪われる。

「大言壮語を吐くな!」

「そうとは限らないし!」

 フランカーショットは虚空を貫いただけ。


 左右のボールフランカーの連射で編隊から切り離すとビームカノンも交える。全てが器用に躱された。灯りの色にも驚きが消えて冷静さが窺える。その一事が確かに手練れだとニーチェに思わせた。


「弱い者いじめをするような奴だし!」

「誰が弱い者だ!」

「ギルデなのん。そんなにやられてるもん」

 トリスが彼のフォローに入る。

「この紫は尋常じゃないんだって。攻撃が通用しない」

「弱いからなのん」

「だーかーらー!」

 仲間の合流にギルデにも少し余裕ができている。


 オルドバン三機は二人に任せて視線は紫のメクメランに集中する。灯りの視覚を周囲に張り巡らせ狙撃だけを警戒した。敵意の色にのみ意識を置いて戦闘空域に広げる。


(俯瞰で視たら落ち着いたし)

 逆に負荷の大きい集中状態に入ったのにニーチェは気付いていない。


『凄まじい情報量じゃのう』

「お爺ちゃんも視てるの?」

σ(シグマ)・ルーン越しに視えるのは一端に過ぎぬじゃろう。これがそなたの戦い方か』

 ドゥカルの愉快そうな笑い声まで聞こえてくる。


 彼女の攻撃にさらされてもメクメランの挙動は鋭く、不意にビームが襲い掛かる。敵意の閃きに反応しなければ躱すのが限界だろう。ルージベルニの全身に配された姿勢制御用パルスジェットが短く咆哮し、ニーチェの思うがままに軽快な機動を見せる。


「そういう相手はビームだけじゃ墜とせないぞ。ブレードも使って接近戦もやれ」

 一進一退の撃ち合いにギルデの忠告が飛んできた。

「へー、時々いい事言うし」

「オレはいい事しか言ってねー!」

「信用されてないのねん」

 左のビームカノンを腰のラッチに戻しブレードグリップを握らせる。

「まったく! たまに黙りこくるからビビってるのかと思ったら!」

「黙る?」

 身に覚えがない。


『儂との会話は無線(そと)には出しておらんからの』

「あ、にゃるほど」

 この会話も無線には乗ってないらしい。それが誤解のもと。


 仲間の不安を払拭すべく、黄色いジェットの尾を引く紫の機体にビームカノンを向ける。トリガースイッチを絞った頃にはカーソル内に紫は見えない。


(こいつ、何なの?)

 明らかにこれまでの敵とは動きが違う。


 警告の出たカノンから手動で弾体ロッドガイドを排出し、ヒップガードの装填口に突き出た新しいロッドを噛ませる。2D投映コンソールの装填率で正常装填を確認すると視界からメクメランの姿が消えている。斜め後ろに敵意を感じると同時に機体をロールさせて落とし、薄紫の光芒が通り過ぎるのを見送った。


「その動き、まさかお前も戦気眼(せんきがん)持ちか? いや、あり得ん」

「せんきがん?」

 ニーチェにはその意味が分からない。

「訳分からないこと言って騙そうとするし! 汚い!」

「汚いだと? 愚かしいにもほどがあるぞ、女! 誇りあるライナックの力の前に散って、その罪を購え!」

「女とか言ってうるさい! そんなの今時通用しないし! どうせ、あんたみたいなのはどこかの女に馬鹿にされてストレス溜めてるから言い返したいだけだもんね」

 図星だったらしく怒りの感情がフラッシュのように膨れ上がる。

「貴様ぁー! このエルネド・ライナックを愚弄してただで済むと思うなぁー! 地獄で後悔するがいい!」

「残念でしたー。あたしはもう地獄(エイグニル)の住人だし」

「きゃははは、もっと言ってやるといいのん」

 トリスの茶々まで入る。


 下がりつつ反転し、右腕を怒りに燃える灯りへと差し向ける。ルージベルニの細身の機体がまるで舞踊のようにひるがえる。エルネドと名乗った男の乗る機体は照準カーソルからは逃れているが、彼女の視覚からは逃れられない。回転したボールフランカーの狙いがメクメランを捉える。


「怪しいぞ、女。今のは戦気を発していないから反応できないはず」

 エルネドの灯りは戸惑いに染まる。

「あたしには視えてるもん。あんたの丸出しの恥ずかしい感情が。ライナックってその程度なんだ」

「許さん! 許さんぞー、女ぁー!」

「みっともないし」


 今やエルネドの怒りは真紅を通り越してオレンジに近くなっている。直情径行の強さが相手の動きを一辺倒にさせていた。突っ掛かるエルネドに対し、ニーチェはひらりふわりと躱すだけでよくなっている。


(くみ)しやすくなっちゃった。わざと怒らせるとか、あたしって悪い女だし)

 舞台度胸が冷静な分析に繋がる。


 ニーチェは自分のあざとさに苦笑した。

次回 「赤く染まっているのは貴様のほうだ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……口喧嘩で先ずは先勝。
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