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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第六話

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目覚める娘(15)

 急にサナルフィを振り返らせると遠心力で機体がたたらを踏む。オートバランサーが働いたようだが、踏み出した足が横の車体を蹴って派手に破片を振り撒く。


「何やってるの。金属性の機体なのを忘れない!」

 ドナの指導は厳しい。

「イメージしただけで人と同じ動作をしてしまうのを意識なさい。それと、もう少し反重力端子(グラビノッツ)の出力を上げる!」

「ひゃい!」

 変な声が出た。

「グラビノッツ、30%!」

反重力端子(グラビノッツ)出力を重量30%まで上昇させます』

 合成音声がナビゲートしてくれる。

「あと、声に出さずに思考スイッチで操作できるようにしなさい!」

「ドナ、怖いし!」

「あなたの命が懸かってるの!」


 意識が操作に向くと動きがちぐはぐになる。むしろ勢い任せ感情任せにしていた時のほうがスムーズに動いてくれていたように思う。


(そういう機械なんだ。操作しようとせずに、腕の延長、足の延長みたいに思わないと思うように動いてくんないし)

 確かに適性に左右されると感じる。見た目が機械な印象や、操縦するという意識が強過ぎれば上手くいかない。一体化を意識し、それを持続できるような人間でないとまともには動かせないだろう。


「ふわわ」

 思ったより俊敏な動作に身体を持っていかれる。

「ベルトしてるの? しないと放り出されるわよ」

「するからぁ! あ、警報出てるし」

 2D投映コンソールにベルト装着を促す警報が出ていた。


 いそいそとシリコン製のベルトを締め、膝上でバランスを取っていた子猫をシャツの胸元に押し込む。「ここね、ルーゴ」と呼び掛けると「みゃお」と機嫌良さげな鳴き声が返ってきた。


「マーニ、目標捕捉できません」

 ドナが報告している。ホビオはどこに逃げ込んだか分からない。

「もう十分よ。離脱準備しなさい」

「了解。警察機を牽制して離脱するわよ、ニーチェ」

「えーっと、どのくらい?」

 パイロット同士なら通じるのだろうが、彼女には程度が理解できない。


 テロ対応で出動してきているのは機動二課のアームドスキンだろう。この地区なら第三警察の管轄でもないし、マクナガルやグレッグの属する機動三課が出動してくる心配はなさそうだ。

 向こうは撃破を狙ってきている。裏事情を暴かれた警察からは、あからさまに敵意のようなものを灯りで感じる。手加減などしていられない。


「頭か手足を狙いなさい。こんな場所で対消滅炉を誘爆させたらとんでもない事になるわ」

 何気ない忠告なのだろうが脅された気分だ。

「とんでもない事ってー!」

「鳩尾周辺はヤバいから」

「勘弁してほしいし!」

 狙って当てられる気がせず冷や汗が出る。


 ビームカノンを向けるとさすがにメディアのクラフターは退いていく。入れ替わりに警察のムスタークが出てきた。多数の砲口が集中し、背筋を悪寒が走る。バルカンファランクスなのだがニーチェにはそれが判別できていない。


「ベリゴール、先行するわよ。付いてきなさい」

 車列を背にする状況が解消されれば撃ってくるだろう。

「どうぞ。援護します」

「あ、あたしも……。飛ぶってぇー!」

 ペダルを踏み込み過ぎて機体が跳ねる。

「その調子で行きなさい。私が殿(しんがり)を務めるから」

「笑うなーしー!」

 苦笑交じりのドナの声。


 ふらつきながらもベリゴールに追随し、サナルフィを制御しようと試みる。覚束ないながらも少しずつ把握できてきた。


「結構馴染むの早いわね」

 マーニは後方を窺う余裕もあるようだ。

「何とかするしー……、ドナ、右にっ!」

「え!?」

 戸惑いつつも反応したドナは右に機体を滑らせる。


 彼女の灯りと重なるように見えていた灯りが視界に入る。そこに照準してトリガースイッチを絞る。続いて、視界の隅で路面を這うように追撃してきているムスタークへも一射。

 先の相手はコクピットから背部の制御系を貫かれて墜落する。下の機体への狙いがずれるも、背中の推進機(ラウンダーテール)を破壊して誘爆させると転倒して脱落した。


「やるじゃないの」

 マーニに褒められた。

「意外だわ。ほら、相手も動揺して下がっていく」

「役に立った?」

「あれほど正確な狙撃を見せられるとね。本当に初めて?」

 そうでなければあんな無様はしないと反論しておく。


 ギルデが復帰して戦力が増えると警察機は追撃を断念する。ニーチェたちはポレオン郊外へと離脱に成功した。


   ◇      ◇      ◇


「件のニーチェ・オクトラスレインという少女は非凡なパイロット適性を示したようです」

 魔啼城(バモスフラ)の施設長、ニコール・エデシは腰掛ける総帥に報告する。


 あまり姿を現さなかったケイオスランデルも、ここ半年ほどは常駐するようになっていた。その分、彼女ら首脳部の負担は減っている。


「逃げ出さなかったか……」

 呟きに近い声は変調されてよく聞き取れなかった。

「何かおっしゃいましたか?」

「いや、何でもない」

「続けます。マーニ・フレニーより支援要請が来ております。人員よりは機材を求めているようですので、予定通り彼女にクラウゼンを送りますか?」

 離脱支援は当初より予定されていた。

「それで構わない」

「マーニはもう一機サナルフィを求めているようですが?」

「要望通り送れ。彼らは今後も有望な戦力として働いてもらわねばならん」

 ニコールは「了解いたしました」と返す。


 スライドドアが作動して、見事な金髪が筋を引く。報告にあったニーチェと同年代の少女が司令室へと入ってきた。


「魔王様! わたしにやってほしい事ない?」

「今は無い。が、しばらくしたら働いてもらう。休んでいなさい」

 飛びつくヴァイオラ・アイドホルンを押し留めると慈しむように頭を撫でる。


 ニコールは彼が少し柔らかくなったように感じていた。

次は第七話「紅の堕天使」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……やはり、非凡な才能が!?
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