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ゼムナ戦記 鋼の魔王  作者: 八波草三郎
第四話

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紅の歌姫(1)

『これが何を意味するか。驕奢(きょうしゃ)に溺れた人の末路である』

 艶消し(マット)のガンメタルのヘッドギアで容貌を覆い隠した人物は明言する。

『惑星国家ゼムナが魔窟と化した故に私、魔王ケイオスランデルが顕現した。我が爪により滅びの序章が紡がれ始めている。警備部隊を中心とした軌道艦隊四十隻の乗員は魔域へと誘われたのだ。市民よ、知れ。真の滅びを』


 主にゴシップ等を扱うチャンネルにニーチェは見入っている。このような動画はキーチャンネルでは決して扱われない。経営陣も破滅はしたくないのでライナックへの批判的な意見が含まれる内容は控えるからだ。


「何を見ているんだい?」

 帰宅してシャワーを浴びていたジェイルに問われた。

地獄(エイグニル)が公表したばかりの動画。軌道艦隊の半数、四十隻を戦闘で全滅させたんだって。むちゃくちゃ強いし」

「怖ろしいかい?」

「んー、微妙。ここは都市部で無差別テロはしない組織だもん。あたしには関係してこないから別にいいし」

 彼女の過去がどうあれ、反政府組織と関わるつもりはない。

「四十隻か。通常の戦闘空母でも乗員は百五十から二百名ほど。最低でも六千人の命が一遍に失われたことになるね。それでも?」

「別世界の出来事みたいにしか感じないし。ライナックが歯軋りしてるんだったら、ちょっといい気味くらいかな」

「一般から見ればそんなものだろう。ただね、軌道艦隊が手薄になると三課は惑星軌道までの出動が増える可能性がある。帰れない日が増えるかもね」

 予想外のところから影響があると言われた。

「それは困る。頑張れ、ゼムナ軍!」

「君は現金だね」

 くすくすと笑われた。


 父が髪を乾かすのを待ってテーブルに誘う。立ち上がったニーチェは食卓の準備をしていた。


「憶えてる? ホアジェンの発表会、二週間後だからね?」

 食事を始めたジェイルに念押しする。

「憶えてるさ。今のところ捜査五課との共同捜査案件はないよ。ずっと拘束されたりはしないだろうね。他の課からの出動要請は急だから何とも言えないけど」

「五課の人に大人しくしてって言っといて」

「無茶を言うね」


 捜査五課が兵器や薬物を取り扱っているというのは彼から聞いて初めて知った。

 立体(ソリッド)TVのドラマなどで登場するのは主に殺人事件を取り扱う捜査一課。他は知能犯の二課か、組織犯罪捜査の四課くらいが精々。五課が有るのさえ普通は知らないだろう。


 都市部での強行機動犯罪に対処する機動一課や、交通機動犯罪を取り締まる機動二課と違い、ジェイルの機動三課が管轄するのは地上から惑星軌道までの機動力を有する犯罪者の捕縛である。主に絡むのは密輸関連の案件で、品目として挙がりやすい兵器や薬物を扱う捜査五課と繋がりが強いのだ。


「もー、パパが一課か二課所属だったら宇宙まで上がったりしなくて済むし!」

 それならば地上での休暇は取得しやすい。

「仕方ないさ。普段から宇宙機動訓練をしているのは三課の捜査官だけ。もしかしたら他の課の捜査官は任務でビームカノンさえ握ったことがない人がほとんどかもしれない」

「銃器は使わないの?」

「バルカンファランクスくらいだね。それ以上の火力は必要ないと思ってるんじゃないかな?」

 そういうものらしい。

「その代わり、重力下での機動戦闘は彼らがエキスパートさ」

「それでも、きっとパパには敵わないんじゃない」


 時々漏れ聞こえてくるジェイルが関与した案件では活躍が目立つ。全部聞いている訳ではないが、おそらくは相当な操縦技能を持っているはずだ。そうでなければとうに地方に配置換えされているだろう。昇進が望めないほどライナック案件に手を出しているのだから。


「宙士だってパパに勝てないかもしれないし」

 専業のパイロットより上だと彼女は思っている。

「競い合うような類の技能ではないよ。軍のパイロットにはそれに適した戦闘技能がある。僕たち捜査官にも捕縛を旨とした戦闘技能があるようにね」

「そっかぁ。分かんないし」

 それこそ住む世界が違い過ぎる。

「一緒に見えるけど違うものなんだ。あたしたちから見ると、パイロット用σ(シグマ)・ルーンを着けている人って同じフィールドに居る人だと思えちゃう」

「それぞれに自分の職務の為に努力を重ねているものだよ」

「でも、3Dアバターを飛ばしているのは同じだし」


 今もジェイルの頭の横で3Dアバターがふわふわと浮いている。頬に手を当てて笑顔なところを見れば食事の味に満足してくれているのだと分かる。そういう意味でパイロット用σ・ルーンを常用している人は分かり易い。


「便利だし可愛いし。一般に普及してもいいのに」

 人気が出そうだと思う。

「厳しいかな。それなりに高価なものだ。ただ学習させればいいというものでもないしね。定期的に専門のエンジニアのメンテナンスが必要なのさ」

「パパも受けてるの?」

「ああ、動作パターンの取捨選択をしておかないとすぐにメモリーが溢れてしまう」


 玩具として出回っているマスコットアバターとは違うらしい。そちらも動作パターンを学習して進化するが、持ち主の感情や思考まで読み込んだりできる物ではない。


「名前付けないの? あたしが付けたいし」

「それは遠慮してもらってもいいかい?」


 女性パイロットは名前を付けるのが多数派。しかし、男性は過半数が名前は付けないと聞く。ただ「アバター」と呼ぶのだそうだ。


(恥ずかしいんだ。パパも可愛いとこあるし)


 ちょっと楽しくなったニーチェだった。

次回 「賢い選択です」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……ふと、想像した……。 魔王がアバターを(かわいい?)愛称で呼んでるシーン。
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